※ 二人は大学生です。でもほとんどが過去話です。
※ ユーリ女体化です。
※ 女装ネタもあります。
※ それでもよろしければ、どうぞ(^◇^)



未来の欠片






「ユーリっ!!」

遠くから名前を呼ばれて、思わず振り返ると、そこには最近知り合った桃色の髪をふわりと揺らす大学一のアイドルで世界トップクラスの企業社長のご令嬢、エステリーゼがいた。

「エステル?どうした?今日のこの時間は講義じゃなかったか?」

昨日会った時そう言っていた筈だ。
だが、息を切らし走って来たエステルは少し呼吸を整えると、オレの顔を見てにっこりと笑った。

「教授が風邪を引かれたあったらしくて、急遽休講になったんです」
「へぇ。そいつはラッキーだったな」
「それで、時間が空いてしまって…」
「どうしようか悩んでいたらオレが歩いてた、と?」
「はいっ!」

嬉しそうに笑う、エステリーゼのその表情にオレも肩の力を脱した。
そのほわほわの髪をぽんぽんと撫で、オレも笑う。

「オレもこれから飯にしようと思ってたんだ。ちょっと早ぇけどな。一緒に来るか?」
「いいんですっ?」
「いいから言ってる。今日は天気もいいし、外で食うか?ほら、中庭の桜の木の下とかで」
「素敵ですっ!行きましょう、ユーリっ」

オレとエステルは二人並んで中庭に向かって歩き出した。
他愛も無い話をしながら歩く。
そもそもオレとエステルは本来話なんて合う様な人間じゃない。
エステルは、それこそ正真正銘のお嬢様だ。
それに引き換え、オレは親もいないオレ自身は金も無い。一般庶民の下の下にあたる。
更に言えば、学年だって違うのだ。
本当なら知りあえる筈も無い。
けど、エステルと知り合った理由。
それは…。

「ユーリ」

声をかけられて足を止める。
ふと後ろを振り返ると、そこには幼馴染で、親友で、恋人でもある男、フレンが目立つ金髪に日の光を反射させて立っていた。

「フレン。お前、何してんだ?こんなとこで」
「お昼一緒に食べようかと思って」
「へ?お前講義は?」
「今は空きなんだ。次のは14時から」
「そうか。んじゃ、皆で食いますか」
「そうね。そうしましょう」
『っ!?』

予想しなかった声が聞こえ、オレ達三人は一斉に声がした方を向く。
そこには大学一ナイスバディで有名な青髪が魅惑的なジュディスがにこやかに立っていた。

「ジュディ、何時の間に…」
「たった今、かしら」
「相変わらずだなぁ…。ジュディも」
「ふふっ、褒め言葉と受け取っておくわ」

四人誰が何か言う事も無く、勝手に足は中庭に向かっていた。
中庭の桜の木の下に、陣をとり芝の上に座ると、そこでそれぞれが鞄からお弁当をとりだす。
オレも当然鞄から弁当を取りだす。
大きめなのと小さいのと。
小さいのはオレので、大きいのは。

「ほい、フレン」
「ありがとう」

受け取ったフレンが嬉しそうに微笑み、お弁当の包みを解き、弁当箱の蓋をあけるとその表情は更に輝いた。
自分の作った弁当をみてこんな嬉しそうな顔をされると、恋人冥利に尽きると言うか、作り手冥利に尽きると言うか。
何と言うか…まぁ、嬉しい、って奴だな。

「凄い…。相変わらず、ユーリのお弁当は美味しそうだ」
「美味しそうだって何だ?ちゃんと旨いぞ」
「知ってるよ」

そう言って微笑むと箸を持ち、両手をきっちりと合わせ頂きますと言うと、早速と言うか、好物の唐揚げに手をつけた。
じっとフレンの動きをみる。
唐揚げを口に含み、もぐもぐと咀嚼しながらもしっかり幸せそうなフレンの顔を見て、満足したオレは自分の弁当箱の包みを解き箱を開ける。
フレンのはお握りとおかず。オレのはサンドイッチだ。
フルーツサンド。最近のマイブームだった。
沢山果物を入れて、それをカスタードで和えてパンで挟む。
一個持ち口に含む。
もぐもぐ…。
うん。上手い。けど、ちょっと甘さが足りない様な…?
首を捻っていると、ひょいっと伸びてきた手がオレのサンドイッチを一つ持って行き、代わりにその隙間にツナサンドが置かれた。
こんなことするのは、当然ジュディスのみだ。

「ジュディ?」
「美味しそうだったから、交換」
「あ、ずるいですっ!ユーリ。私とも交換しましょうっ」

返事を待つ事無く、エステルが卵サンドとオレのフルーツサンドを交換する。

「じゃあ、私もエステルと交換しようかしら」
「はいっ」

毎度の事ながら、こいつらには遠慮が無い。
まぁ、それをオレが必要と思っていないから別に構わないけど。

「そう言えば、忘れる所だったわ」

突然ジュディスがパンと手を叩く。
鞄を開け、直ぐに封筒を取り出す。
そして、その封筒をオレに向かって差し出した。

「オレに?」
「えぇ。おじさまから貴方に」
「おっさんから?」

封筒を受け取り、裏を見ると確かにレイヴンと名が書かれている。
高校の時の担任だったレイヴンから、しかも封筒で?
一体何なんだ?
視線だけで、横に座るフレンに疑問をなぎかけてみるが、フレンもコロッケをもぐもぐと口に含みつつ首を傾げた。
だよなぁ。
全然記憶にねぇし…。
取りあえず、開けてみるか。
封筒を手で雑に切り、中を覗くとそこには写真が入っていた。
一枚取りだし、見てみると。

「あ?これ卒業の時の写真じゃねぇか」

何で今更?

「ユーリの高校の時の写真ですっ!?見たいですっ!」
「まぁ、見られて減るもんじゃねぇし、いいか。ほらよ」

丸ごとエステルの手に渡す。
ぱぁっと顔を綻ばせ、エステルはそれを受け取り、慎重に写真を見て行く。

「しかし、卒業して三年経ってんだぞ?何で今更?」
「さぁ?レイヴン先生が忘れてたとかかな?」
「だったら、逆にずっと忘れたままだと思うけどな」
「それは、まぁ、確かに」

食べる手を止め、用意していた水筒に入れてあるお茶を紙コップに注ぎフレンに渡しながら話していると、目の前でエステルが首を捻った。
捻る様な何かがあったか?
でも、ただの卒業式の写真じゃ?

「ユーリ、聞いてもいいです?」
「ん?」
「この隣に映ってるのって、クラスメートですよね?」
「ちゃんとした事はもうほとんど覚えてねぇけど、多分な」
「じゃあ、この物陰で隠れて映ってる、金髪の女の子誰です?」

ぶぅーーーーーっ!!!!

「…げほっ、ごほっ」

オレが何か言う前に、フレンが盛大にお茶を吹き出した。
しかも気管に入ったのか、涙目になりながら咳をしている。

「金髪の女の子、ねぇ…」

ちらりとフレンを盗み見れば、フレンもこっちを見ており必死に首を左右に振って、その蒼い瞳は、『絶対に言うな』と『言わないでくれ』と懇願している。
そっか。あれからもう、三年経つのか。
…フレンが告白してくれてから、もう三年も…。



※※※



高校時代。
毎朝、顔を合わす奴がいた。
電車で通っていると、必ず同じ場所で降り、同じ方向に向かう男。
太陽の下を歩いているとその太陽の光を全て吸収して歩いているような、そんな奴だった。
知らず、オレはそいつを目で追うのが日課になっていた。
たまに隣に座ったり、向かい合って立ったり。
でも相手は違う学校の学生。しかも自分が通っていた女子高の近くの男子校の生徒。
話しかける事はなかった。
だって朝だけ時間が合っていただけで帰りは、全く時間が違ったんだ。
本当に朝だけの、それこそ言葉のごとく、日課みたいな感じだった。
けど、ある日珍しく、帰りの電車が一緒になった事があった。
そいつは男友達と一緒におり、オレも偶然下校時に居合わせたジュディスと一緒で、電車のスペース上、たまたま近くに乗る事になった。
じっとその男を見ていると、ジュディスも何故か同じ方向に視線を向けて言った。

「あら?あの人」
「?、知ってるのか?」
「えぇ。確か、明星学園の剣道部主将で、名前は確か…そう。フレン・シ―フォだったかしら」
「へぇ。主将なのか…、ってちょっと待て。明星学園の剣道部主将って、あれか?大会でトップを独走中の『金獅子』か?」
「そう。ヴェスぺリア女子高の剣道部主将で負けなしで有名な『黒獅子』と呼ばれている貴女とツートップって言われてる、あの『金獅子』よ」

自分の呼び名などどうでもいいけれど、金の獅子と言われてオレはまじまじとそいつを、フレンを見つめた。
ふと、オレの視線に気付いたのか。
フレンがオレの方を向いて、にっこりとほほ笑んだ。
……胡散臭い。
その時のオレにはその言葉以外出て来なかった。
だが、確実にオレのフレンへの興味が増した、その次の日。

「おはようございます」
「へっ?」

電車に乗り込んだ時、何時もの様に降り口の所に立っていると、突然声をかけられた。
ぱっと声がした方を向くと、そこには『フレン』がいた。

「…はよ?」

何て答えていいか分からず、それだけを言うと、フレンはニッコリ笑って、何時もの定位置。
オレの反対に立って、本を開いた。
それから何を話す訳でもなく、ただ駅につくのを待ち、オレとフレンは電車を降りる。
駅についたらスタスタと歩いて行ってしまうフレンの背を見ながら一体何だったんだと首を捻る事になった。

朝の挨拶をされた日から一週間。
オレとフレンは再び話す事が無かった。
けれどそこから更に数か月が経ち、衣替えで夏服になった時の事。
自主練しようと、オレは何時もより早い時間の電車に乗った。
今日はフレンはいねぇよな。流石に。
何時もの時間じゃねぇし。
何処か残念に思っている自分がいる事に苦笑いを浮かべ、何時もの様に降り口に立っていると。

「おはようございます」
「っ!?」

驚いた。
まさかいるとは思わなかったから。
でも、驚きはしたけれど、会えないと思っていたから嬉しくもあって…。

「おう。はよ。アンタも自主練か何かか?」
「あぁ。大会が近いからね」
「…だな。連覇もかかっている事だし?」

にやりと挑発ぎみに尋ねると、一瞬きょとんとしたけれどフレンは嬉しそうに笑った。

「僕の事知っててくれてるんだ?」
「そりゃ有名だし?『金獅子』さん」
「ふふっ。だったらそれはお互い様だね。『黒獅子』さん?」

互いが互いのセリフにむず痒く感じて、笑いだしていた。
少し距離が縮まった気がする。
それが嬉しいのはどうやらオレだけではないらしく、フレンもまた微笑んでいた。
互いに剣道と言う共通の特技がある所為か、話は当然の様に剣道の話になっていたがそれすらも楽しかった。
駅についてしまったのが、残念な位に。
この調子で、一緒に駅の中歩けるかな?
とそうなればいいと思って駅について、電車から降りた時も話を続行しようと思い、口を開いたのはどうやら相手も一緒だったらしく。

「ねぇ」
「なぁ」
『おーい、フレーンっ!!』

互いの問い掛ける声を多分フレンの友達であろう声がうち消した。

「………」
「………」

一瞬の間に、オレは耐え切れなくて。

「友達、か?」
「え?あ、うん」
「そか。んじゃオレ行くな」
「えっ!?…あ…」

何か言いたげだったが、オレはフレンを置いて、先に進んだ。
後ろから、『ふ、フレンっ!俺が悪かった、悪かったってっ!!ぎゃあああああああああっ!!!!』と言う声は全く聞こえなかった。

そっからまた数カ月。
フレンと会話した日から、フレンと何故か会う事が無く、そのまま夏休みに突入してしまった。
こんなもんか…。
と少し残念に思いながら、でも嫌われたかなと思う自分もいて。
そんな女々しい自分が嫌でオレは剣に没頭した。
そして、いざ全国大会。
オレは勿論勝ち進んでいたが、ふとフレンの事を思い出した。
自分がここにいるんだ。
フレンだっているんじゃないだろうか?
そう思って。
オレは男子の試合が行われている会場に向かってみた。
すると、最高のタイミングでオレはフレンの試合を見る事が出来た。

(……すげぇ…。隙が全くねぇし…。相手との実力が歴然としてる)

あっという間に一本をとり終了した試合。
その動きも何もかもに目が奪われた。
『金獅子』
そう言われる理由が分かる気がした。
一度、こんなもんかと思っていた自分の気持ちが再びあいつと話してみたいと変わった瞬間で。
何とか近づけないものかと、考えて…思いついた。
フレンは明日も試合がある筈。
そしてオレは明後日に試合がある。
だったら、話すのは明日がチャンスかもしれない。
浮き足だつまま、帰宅して次の日を迎えた。
朝起きて、昨日計画したままフレンと話に行こうと思ったものの。
手ぶらで?
しかも余所の学校に?
堂々と?
…流石にそれは駄目だよな…。
考えて、ふと台所に目が行った。
…弁当、作ったら食ってくれっかな?
以外にいい考えが浮かんだと思った。
急ぎ弁当を作り、オレは試合会場へと向かった。
予想通り、試合は行われていて、オレはそっと観客席からその試合を観戦した。
昨日見たまま、やっぱりフレンの強さは圧倒的で、まるで教本を見ている様な剣さばきで…オレはその試合に魅入っていた。
試合が終わり次の試合に移行した時、オレはチャンスと思い席を立って、控室の方へと走って行く。
…んー…、普通に行くとバレるか?
控室の方って立ち入り禁止なんだよな…。
そうだ、裏から窓を叩いて…いや、でもな…。

「見つけた、黒獅子さん」
「えっ?」

呼ばれて振り返ると何故か後ろに立っていたのは、フレン。
なんでここに?

「探してたんだ。僕の試合、見てくれていただろう?」
「なんで、分かった?」

見ていた事が分かられたのが恥ずかしくて顔を逸らすと、フレンは笑った。

「見に来てくれたら嬉しいなって思ってたから」

直球ストレート。
何か言い返そうとしても、何言っても恥ずかしい気がしてオレはその言葉を飲みこんで、決勝おめでとうと伝えると、フレンは柔らかく微笑み「君も」と答えて。
なんで?オレが勝ち進んでいる事知って…?
疑問が顔に出てたんだろう。
フレンは、くすくすと笑うと、その答えを明かしてくれた。

「僕も君の試合を見てたから」
「オレの試合?」
「うん。凄く、綺麗だった」
「きっ!?ん、んな訳あるかっ!」

今度こそ顔に熱が集まった。
勘弁してくれよ。
顔に触れてみると、完全に火照ってる。
何とか顔を隠そうと手を持ち上げ、カチャンと鞄の中から音が鳴って、弁当の存在を思い出す。

「そうだ。忘れてた、これ」
「え?」
「いらなかったら捨ててくれ」

フレンはオレが差し出した鞄を受け取り、その鞄とオレとを交互に見やる。
…駄目だ、耐え切れそうにない。

「…んじゃ、オレはこれで」

くるっと踵を返す。

「あ、ユー…」
『フレンーーーっ!!決勝進出やったなあああああああっ!!』

お、お仲間が来たか。
オレはフレンの部活仲間に見つかる前に走り出した。
『え?なに?俺またやった?ちょ、やめ、フレン、あれだけは許しくれえええええええっ!!』
…??
良く分からない事は耳に入れるのはやめにした。

フレンと自分から会いに行ったあの日以来。
オレ達はずっと会う事が出来なかった。
夏休み明けてから、オレも電車の時間をずらしたし、フレンもきっと時間が変わったんだろう。
何故ならオレも、多分フレンも部活を引退したから早く起きる必要が無くなったんだ。
高校の青春の思い出って奴になんのかねぇ?
オレらしくもない。
自嘲気味の笑みを浮かべ、オレはその日。
高校最後の登校をしていた。
オレが通っている学校は女子高で、小学校から大学までエスカレート式になっている―――大学だけは共学で外から人も入れるようになっている―――が、しかしエスカレート式な所為で、卒業式が入学式の前日。
つまり四月四日の今日な訳で。
冬もすっかり終わり、もう春だ。
きっとフレンも大学に行くだろうし、もう二度と会う事も無いかもな。
そのまま登校して卒業式が終わり、玄関で皆が皆別れを惜しんでいる。
オレもなんだかんだで、部活の後輩たちに囲まれている中、ふと視線を感じて視線の方を向くと。

「!?!?!」

校舎の裏から顔だけ出している、金髪碧眼のツインテールの後輩。

「…なんて、だまされるかっ!!」
「ユーリ?」
「悪い、ジュディ。後頼んだっ!」

後輩たちをジュディスに頼み走り出す。
急いで、その視線の下に走り、その視線をくれた人物の手を引くと校舎裏にある部室へと連れ込んだ。

「お、おまっ、何考えてんだ、フレンっ!!」
「ぼ、僕だってこんな恰好したくなかったよっ!けど、どうしても君に会いたくて…」
「だからってウチの学校の制服着なくても、外で出待ちしときゃいいだろうがっ!」
「い、言われてみればそうだっ」
「言われなきゃわかんねぇのかよ」

まさか、こんなチャレンジャーな事する奴だったとは…。
でも、真面目に驚くフレンが面白くて、オレはついつい噴き出してしまった。
一度笑い出すと面白すぎて、腹を抱えて笑ってしまう。
ひとしきり笑い、溢れた涙を手でこすり、大きく深呼吸をしてフレンを見ると、フレンはかつらを外しオレを見ていた。

「んで?そんな姿してまでオレに会って何言いたかったわけ?」
「…その…」
「うん?」
「言いたい事は一杯あるんだ。あるんだけど…一番は…」

真正面にオレと向かい合い、フレンは口を開いた。

「ユーリ、僕と付き合ってくれないか?」
「えっ!?」
「君がずっと好きだったんだ。…でも、電車でも会えなくなって、このまま伝える機会が無くなるなんて嫌で…だから、伝えに来た」

夕暮れの部室に、茜色の光が差し込んで、女装姿のフレンを照らした。
…再び笑いが込み上げそうになって。
でも、オレの答えは決まっていた。



※※※



「ねぇねぇ、ユーリ、コレ誰なんですっ!?」

エステルの顔が間近に迫ってはっと我に帰る。
ずいずいと興味深々で問い掛けるエステルから視線だけ外しフレンを見ると、必死に首を振っていた。

「ユーリ?」
「んー?誰だったかな〜?女子高だったから、女なんて沢山いたしな。な、ジュディ」
「そうね。金髪の子も結構いたし、私もちょっと分からないわね」
「そうなんです?」

オレとジュディスが頷くと、そういうものなのだと頷いて、再び写真を見る事に戻る。
…またフレンが映ってたら面倒だな。

「おい、エステル。そろそろ飯食べきらねぇと、次の講義に間にあわねぇぞ?」
「え?あ、ホントですっ。はい、ユーリ。写真お返ししますね」
「おう」

写真を受け取り封筒にしまいながら写真を改めて見ていると、確かにフレンが映っていた。

「…この後、君に告白したんだっけ」
「そうそう。あの後こっそり学校抜け出して、フレンから弁当箱返して貰って。けどこん時はほんっとびっくりしたよなぁ」
「必死だったんだよ。君と電車で会えないし、ユーリの進路も知らないし、でも会えないのは絶対に嫌だし」
「って言っても、お前オレと同じ大学受けてたじゃん」
「それはそれだよ。もしかしたらユーリが違う大学に行ってたかもしれないだろう?」
「それもありえねぇよ。オレの後見人のアレクセイがこのヴェスぺリア女子高の理事なんだから」
「それだって、聞いたのは付き合い始めてからだよ」

それもそうか。
…互いに情報が足りなかったんだよな。あの時は。
そうそう。情報がホント足りなかったんだよ。
その証拠に。
あの時。

オレ達は初めて互いの名前を呼んだんだ。

帰り道がてら、初めて自己紹介して。
話は尽き無くて。
公園で桜の木の下で、桜吹雪の中ずっと話をしていた。
…まぁ、フレンは女装したまんまだったけど。
思い出して、笑うと何の事か分からないフレンは首を捻る。
何でもないと首を振ると、そう?ともう一度首を傾げて、それにもう一度首を振ると頷いて食事に戻った。
暫く雑談しつつ、食事を終えたジュディスとエステルが次の講義の為に先に戻り、時間のあるオレ達は食休みを堪能していた。
桜の木に背を預けたフレンの胸に背を預け肩に頭をこてんと乗せる。

「…あれから、三年、か。色々あったなぁ〜」
「あったね。でも…まだ、三年だよ」
「ははっ、確かに。でもアシェットが聞いたら殴りそうなセリフだな。リア充、爆発しろとか言って」
「…そんな事言ったら昔同様シめるよ」
「ニッコリ笑って言うなよ。こぇえな」
「アシェットにはとことん邪魔されたからね」

笑顔の瞳の奥が怖い。

「ねぇ、ユーリ」
「んー?」
「今、幸せ?」
「なんだよ、いきなり」
「聞いてみたくなったんだ」
「…幸せだよ。ずっと、お前といれて幸せで無い訳がないだろ?」
「…ユーリ」

ちゅっとフレンのキスが額に落ちる。

「それじゃあ、君をもっと幸せにしたいから…、はい」
「?」

手を持たれ渡されたのは、小さな箱。
意味が分からず、オレがフレンとその小箱を交互にみるとフレンは微笑んだ。
おずおずと箱を開けると、そこには紫色の小さな宝石のついたリングが…え?

「やっと、アレクセイ理事とシュヴァーン先生の許可が降りたんだ…。ユーリ、僕とずっと一緒にいて?」
「ふれ、ん…?」
「…結婚しよう」

言葉が出なかった。
嬉しいとか、ありがとうとか…色々ある筈なのに…。
ただボロボロと涙が溢れだす。

「ユーリ…愛してるよ」
「…オ、レも…。フレン」

ぎゅっと抱きしめてくれる、フレン。
桜の木の下で、プロポーズ。
フレンは相変わらず、悩んだら体当たりで…。
何時も驚かされる。
……でも。
それが嬉しいとか、幸せだって感じるんだからオレも相当かもしれない。
付き合い始めて三年。
今日が調度三年目の四月四日。
この日はそもそもオレの中でひっそりと記念日だった。
フレンがオレに告白してくれた、オレがフレンの名を呼べた記念日。
けど、今日からは…。

婚約記念日になる。


オレとフレンだけの記念日が、―――また一つ…。