『フレン』のユーリ○○日記  





【陸】



【○月▲日 金曜日】



「…意味がわかんねぇ…」

オレはぼそりと呟いた。
最近、オレの頭の中は出口の無い迷路だった。
問題が次から次へと出て来るし、それが何一つ解決していない。
これで頭を抱えるなって方が無理な話だ。
おかげで、補習授業の内容なんて全く頭に入って来ない。
そもそも、だ。
そもそも…。


フレンっ!!お前双子だったなんて聞いてねーぞっ!!


…これだろ。
大体、この前アイツん家に泊まりに行ったら、フレンがもう一人いた。
正直、滅茶苦茶驚いた。
驚いたが、実は何処か納得できる所もあった。
携帯のアドが二つある事とか、たまーに話が噛み合わなくなったりだとか、色々。
けど、何で気付かなかった、オレ…。
知らず、大きなため息が出る。
アイツが双子だったおかげで、オレは今追い詰められている。

『どっちが好き?』

どっち何て言われても困る。
だって、そうだろ?
学校でいっつも一緒にいたフレンは、一緒に受験乗り越えて一緒に学校で喧嘩とか色々乗り越えて来た親友で。
休日に会っていたフレンは、オレの悩みを真剣に聞いて、間違った事を言ったり横道にそれてたりすると全力でぶつかって来た親友で。
どっちも、オレに取って大切な親友で、愛おしい存在なんだ。
それを選べって?
無理を言うなっ!!

オレの脳みそは混乱しっぱなしだ。

オレの頭が悪いってのは知ってるけど、こうも判断出来ないもんか?
オレってそういう奴だったか?
決める時はすぱっと決める判断力は持っていた筈だよな?
首を傾げる。

でも…そうだ。
考えがまとまらない原因はもう一つある。

昨日からやたら体が暑い。
こう、火照ってると言うか、体の中で何かが燻っているって言うか…。
一昨日まではこんな事無くて、寧ろ調子が良い位だったってのに。
でも、オレだって男だ。
この感覚は分からない訳じゃない。
要するに『欲求不満』って奴で…。
それを解消するには、自慰が必要ってのも知ってる。
女には手を出す気も、つもりもない。フレンがいるのにそれは違うと理解している。
かと言って、フレンを襲う訳にも、な。
と色々考えた結果、昨日、部屋で一人でした。左手に世話になろうとしたんだが…。


どうしてか、……イけない。


痛い位、大きくなるのに刺激が足りなくて、もどかしくて、全然イけない。出せない。
何でか分からなくて、ただ苦しくて涙が出た。
擦っても、弄っても達せないなら、いっそと。
バスルームへ行って、水のシャワーを浴びた。
体の熱がなんとか引けるまで…。
あんな事初めてだ…。
そして、それを引き摺って今もまた溜息が出る。

「…はぁ」

邪魔な前髪を掻きあげ、黒板を見ると…あれ?誰もいない?
慌てて周りを見回すと、さっきまで横に座っていたクラスメートもいない。
廊下を見ると、窓ガラス越しに何人かがこっちをみていた。
何でだ?
そっちをずっと見ると、何かを話している。
耳をすましてみると。

「ちょっと、おい。あれ、まずいだろ」
「あぁ。俺もう少しで、フラフラと吸い寄せられる所だったっ」
「マジ、やべぇっ」
「知ってるか?ユーリのあの項。マジ、真っ白」
「それ言ったら、あの目っ!!何であんな潤んでんだっ!?」
「早まるな、俺。あいつは男、男なんだ…ぶつぶつぶつ」

「いや〜んっ!!ユーリ、超かっこいいっ!!」
「だよねっ!!すっごい色気あるしっ!!」
「私ユーリなら遊びでもいいなっ!」
「あ、私もっ!!」
「でも、あれだけ色気を振り撒かれると、近づけないのよね〜」

何言ってんだ、あいつ等…?
言っている意味が理解出来ずに、寧ろそれを問いただそうと、立ちあがったその時。

―――バンっ!!

突然の音に声が一斉に止まり、オレの動きも停止した。
立ち上がる為、机に手を置いた姿で音がした方を見ると、そこにはニッコリと爽やかに笑うフレンの姿があった。
…ってか、アイツ何であんなに怒ってんだ?
ゆっくりと歩いて近付いてくるフレンに知らずに足が退け、後ろに下がろうとして、椅子に膝がぶつかり折れてそのまま座りこむ。
すると、一気に距離が詰められて、目の前にフレンが立った。

「…全く。君は少し目を離すとこれだ」
「な、なんだよ。オレは何もしてねーよ」
「無自覚だから尚更性質が悪いんだ」
「はっ!?、って、んっ!?」

反論してやると意気込んだのを遮る様に、急にフレンの手が顎にかかり、上を向かされると唇で言葉を塞がれた。
一瞬何が起こったのか分からなく、目を見開く。すると、フレンの蒼い目とかち合い、その何時もは澄んでいる筈の瞳は何か意図を含み揺らいでいる。
その意図が分からずじっとフレンの瞳を見ていると、唐突に外から『きゃーっ!!』と叫ぶ黄色い声と『あぁーっ!!』と叫ぶ何か残念そうな、屈辱そうな声がブレンドされ発せられた。
何で…悲鳴…?
……って、ここ学校っ!?しかも、人が見てるっ!?

「んっ、んむっ!…ゃめっ…、ん、ふれ…んんーっ!!」

状況を思い出したオレが抵抗をするのは予想済みだったフレンが先手を打ちオレの両手を先に奪い取る。
舌がゆっくりと唇を舐めて、オレの唇の隙間を狙って侵入し舌と舌が絡む。
ずくんと下腹部が疼き、体中を支配していた燻りがそこへ集まる様な感覚にオレは慌てた。
やばい、やばい、やばいっ!!
こんな場所でそんな反応させるなんて、ありえねぇっ!!

「んっ!!んんっ!!んんーんっ!!」

手を取られたら違う手段を使う。
今、この状況を回避できるなら、最悪な結果を出す前に回避できるならっ!
オレは必死に首を振り、フレンの唇から脱出した。
幸い、顎を掴んでいた手はオレの腕の抵抗を抑える為外れていたから。
荒れる息。そんな中で呼吸を整えつつも精一杯目を吊り上げ、フレンを睨んだ。

「お、お前馬鹿かっ!?ここ、何処だと思ってんだっ!?」
「何処って、教室だね?」
「そう、教室…って違うっ!!こう言う事は人がいない場所でっ」
「そしたら牽制ならないだろう?」
「お、まえ…。っつーか、生徒会長の言うセリフか、それ」
「生徒会長である前に、僕は君を恋い慕う一人の男だからね」

あー言ったらこー言う。それはオレの専売特許だった筈だ。
何て奴だ…。がっくりと肩を落としていると。
フレンがオレの手を掴み引っ張り上げた。
その勢いで、椅子から立ち上がるとフレンはオレをぎゅっと抱きしめた。
ふわっと香るフレンの香り。
それが、さっき押さえた筈の欲の首をまた擡げ始める。
離れようと頑張るが、しかしそれは敵わなかった。どころか、耳元で耳に息を吹き込む様に囁いた。

「…感じた?」
「―――っ!?」

フレンの声。
なのに、まるで知らない男の声の様で、ぺろりと耳たぶを舐められて。
ぞわりと何かが背筋を駆け抜け、何か分からない感覚に膝が震え、かくんと折れフレンへとしな垂れかかってしまった。
何でっ!?
ただ、フレンの声を聞いただけなのにっ!?

「大丈夫、ユーリ?」

フレンが今度は聞こえる様な声で、普通の声で言う。
こいつ、確信犯だっ!
分かった瞬間、むかっと腹が立ち、それをフレンに素直に伝えると、フレンは笑った。それにまた苛立つ。

「くそっ。生徒会長のくせに。あんな人がいる前で、一生徒にこんなことしていいのかよ」
「大丈夫だよ。だって、皆同じ目で君を見てたんだからね。誰も陰口なんて叩けないよ」
「?」

ぐっと、フレンがオレを胸に閉じ込める。
視界にはフレンしか映らなくなるが、フレンは首を横向け廊下を見ていた。
その顔が見えなくて、じっとフレンの顔を見つめていると、首を戻したフレンがオレを見て微笑んだ。
一体何なんだ?
何とか膝に力を込め、気合いで真っ直ぐ立ちフレンを押しのけるとそこには誰の姿も無かった。

「……?」
「さて、と。ユーリ、帰ろうか」
「ん?あー、そうだな。何時の間にか補習も終わってたし」
「…ユーリ、また君はまともに補習を聞かなかったなっ!?だいたい君は…」

小言を向け始めるフレンをはいはいと流して、オレは帰宅した。



でも、本当の混乱は――――この後訪れる事をオレはまだ知らない…。