拍手御礼 〜フレユリ現パロ〜
ユーリと喧嘩をした。
…仕事ばっかりしていたツケが溜まって押し寄せて来たんだろうか。
高校の時も喧嘩はした。
それこそ数え切れないほどした。
けれど、あんな風に今にも泣き出しそうな、目をするなんて事は一度も無かった。
自己嫌悪に陥る。
言ってはいけない事を言った事は自覚している。
知っている…。
知ってるんだよ。
なのに、どうしてこの口はそれを言ってしまったのか?
後悔は先にする事は無いとしても…。
溜息ばっかり付いて、犯人を取り逃がし(捕まえたけど)、報告書は20枚しかかけず(通常50枚)全然仕事が手に付かなかった。
仕事場の警察署を出て、とぼとぼと帰途に着く。
どうしよう…。
どうやって謝ろう…?
全然思いつかなくて、ジュディスに相談してみたけれど、最後には呆れた顔をしていなくなってしまった。
しかも、仕事に手がつかないなら帰れとシュヴァーン先輩に言われ仕事場を追い出されて。
やっぱり、それだけの事を言ってしまったんだろう。
肩を落とし、つい足を止めると、ふと、可愛いケーキが並んでいるウィンドウが目に入った。
甘い物を買って行けば少し怒りも和らいでくれるだろうか?
少しの期待を持って、店の中に入るとふんわりと甘い香りに包まれる。
ユーリの匂いだ。
ふと、思う。
これで少しはユーリは笑ってくれるだろうか。
一番美味しそうな、そして代表的な苺のショートケーキを二個買って、家へと帰った。
ユーリと二人で選んだマンションの一室。僕達の家に帰り着き、ドアを開けるとそこにはユーリが壁に凭れて立っていた。
「た、だいま。ユーリ」
「おう。お帰り」
「あの、ね。ユーリ。ごめ」
「…だいぶ、顔色良くなったな」
「え?」
「ほら、今日は早く帰れたんだろ。ゆっくり休もうぜ」
「え?え?ユーリ?」
僕の手を引き歩き出すユーリに引き摺られるまま、慌てて靴を脱ぎリビングの中に入るとふんわりと良い匂いがした。
「ハンバーグ…?」
「どうせ、仕事休めって言ったってお前は休まないだろ?だったらせめて飯だけでもきちっと食え」
そう言って僕の仕事鞄を奪い取り、中に何が入ってるか考えたりせずそのままソファに投げつけ、僕のネクタイを緩めた。
優しいユーリ。
昨日あんなに酷い事を言ったのに、それを許す所か僕の大好きなハンバーグを作ってくれて、玄関まで迎えに来てくれて優しく癒してくれる。
それが……堪らなく嬉しくて、力一杯抱き締めた。
「ユーリ…。昨日はごめんね」
「別に謝る様な事じゃないだろ」
「でも、昨日、心配してくれたユーリに…」
「…言うな。思い出すな。恥ぃ…」
よっぽど恥ずかしいのか、僕の肩に顔をうずめた。
その顔が見たくて、ちょっと動いてみるけれど、逆に抱きつかれて塞がれてしまった。
ユーリが可愛くて、その温かさをもっと感じていたくて、黒くて艶やかな髪をそっと撫でる。
しばらく、その感触を味わっていたくて、ふと昨日ユーリが言った言葉を思い出す。
『お前、仕事、仕事、仕事って仕事とお前の体、どっちが大事なんだよっ』
『今は仕事に決まってるだろ』
『馬鹿言ってるんじゃねぇよっ。んな、目の下に隈だらけで、倒れたらどうする気だっ!?』
『例え倒れたとしても、ユーリに迷惑かけないよ』
『お前…っ。なら、勝手にしろっ!!』
結局、ユーリは僕を心配してくれただけだった。
僕が倒れたりしたら、ユーリ(恋人)に迷惑かけるに決まってる。
……そう考えると、あれ?
「どうした?フレン?」
「ん?う、ううん。なんでもない。ユーリ、ほんっとにごめんね?」
「もー、いいって」
ユーリがそっと目を閉じて、僕はユーリの唇にそっと唇を重ねた。
そして、―――願った。
ジュディスにした相談と言う名の惚気話がユーリの耳に入らないように、と。