ひだまりの下で…。  





【6】



全然、手掛かりが見つからない。
僕は必死にユーリを攫った奴らの姿を追ったが手掛かりが何もなく、仕方なく城に戻った。
せめて、襲撃跡から何かヒントを得られないだろうか?と考えてだ。
城に戻り、襲撃された僕の部屋の隣へ入ると、そこには今日集まる筈の凛々の明星の皆が集まっていた。

「フレンっ!!無事だったんですっ!?」
「エステリーゼ様…。はい。僕は。けれど、ユーリが…」

攫われたと口に出せずに僕は俯いた。
しかし、それだけで事情を察したのか、皆は何も聞かなかった。

「…マリアもいなくなってる。って事はマリアが狙いだったって事?」
「それだと、ユーリを攫う意味がないじゃない」
「リタっちの言う通りね。だから最初から二人を狙った、が正しいんじゃなーい?」

最初からユーリとマリアを狙っていた?
何故…?

「のじゃ。思うにマリアとか言う赤ん坊はユーリが抱くと泣きやんだと聞く。なら、きっとそこに何かあるのじゃ」
「ユーリは、親がユーリに似ていたんじゃないかって言ってたよ?」
「むう。…ホントにそれだけかの?」
「それはどういう事かしら?」
「何か…もっと違う何かが。そう。例えば、ユーリが親とか兄妹に似てたんではなく、【犯人】に似てたとかの」

犯人に?
…貴族街に黒髪の女性なんて腐るほどいる。
ましてやこの全世界なんて言ったら、頭を抱えたくなる程だ。

「…そうね。そうだわ。パティが言う通りよ」
「リタ?」
「考えてみて。ユーリは【黒い】髪で【長髪】。そして、【ギルド】と【騎士】、両方に係る人間。これがヒントだったの。赤ん坊は自分の親を殺した犯人を教えたかったのよ。【黒い】服の連中を取りまとめている【長髪】の【ギルド】と【騎士】にかかわりのある人間だってね。赤ん坊はしゃべれないから、一番それに似合った人間を選んだんだわ」
「でも赤ん坊だとこれが限度よね。そっからどうやって導き出すか、だな」

…貴族街。
とりあえず、そこに行けば分かるっ!!
だって、こっちには。

「わんっ!!」
「行こうっ!!」

ラピードがいる。
僕はラピードと二人駈け出していた。
迷わず貴族街の方へ駆け下り、ラピードの鼻を頼りに、探す。
ある程度貴族街を歩いていると、ガサリと何かが横から飛び出してきた。

「フレンっ!?」
「えっ!?」
「金髪の騎士のフレンっ!?」
「そうだけど、君たちは…?」
「助けてっ!!」

三人の子供が一斉に草むらを掻き分け、ある屋敷の前から飛び出してきた。
僕にしがみ付き助けを求める。
この子たちは一体…?

「黒髪のお姉ちゃんに金髪のフレンって騎士が来たら助けを求めろって」
「黒髪の…ユーリかっ!?」

居ても立ってもいられず、僕は目の前の屋敷に飛び込んだ。
警備の奴らはユーリが倒したのか、既に倒れていた。
豪華な扉を剣で破壊し、中を進む。

『マリアっ!!』

叫ぶ声が聞こえる。
この声は、間違いなくユーリだっ!!
階段を駆け上がり、「ユーリっ!!」と名を呼ぶと、そこのはマリアを腕に抱え微笑むユーリの姿があった。

「遅せーよ、フレン」
「ごめんっ…。ユーリ」

抱えたマリアごとユーリを抱きしめると、ユーリは僕の肩に頭を預けた。
暖かい…。間に合って良かった。
安堵の意味も込めて、そっとユーリの頭を慈しみ撫でていると。

「あ、あの〜…」
「あ、馬鹿っ。嬢ちゃんったら。これからが良いシーンなのにっ!」
「うあっ!?」

ドアの向こうからこっそり覗いているエステリーゼ様を始めとしたメンバーにユーリは真っ赤になりながら、僕の腕から逃れ距離をとった。

「そ、そうだ。あんた、大丈夫だったか?」
「え、えぇ…」

あ、奥に人がいたんだ。
慌ててユーリが走り寄ると、それに気付いたエステリーゼ様やジュディスと女性陣が近寄った。
ユーリの服を着ているが、その下はどうやら裸で…。
その側で倒れている男をみると、やっぱり裸で…それで僕は全てを理解した。
ユーリを攫った理由は、コレか?
もしかしなくても、ユーリに自分の子を産ませようとしていた、と?

「…へぇ…。成程、ね」

自分の纏う空気が一気に冷えたのを感じた。
一発殴ってやろうと思ったのだが、…なんだ、これは?
ミイラ寸前みたいな…辛うじて息はしているけれど。
膝をついてその男を覗きこんでいると、ユーリが隣に膝をついた。

「これな、コイツの所為」
「マリアの?」
「あぁ。マリアの能力だ。どうにも人の精気?みたいなのを吸収できるみたいでな」
「あぁ…それで」
「外の連中もそれだ。オレもマリアに少しずつ吸われてたみたいで、でもリキュールボトルで大分回避したみたいだ」

いやー、何が役に立つかわからないもんだな、とけろりと笑う。
…今だから笑い話で済むけど、気付かなかったら危なかったんでは…?

「それからな、フレン。地下に、マリアの兄妹がいる。他のガキ共もいる…。頼めるか?」

ユーリのこの言い方で、その子供達が死んでいる事が分かる。
分かったと頷いてやると、ユーリはほっとしたように微笑んだ。

「あとな?」
「まだ、何かあるのかい?」
「…下で三人にあったろ?」
「あぁ、うん。今ラピードに任せてるけど」
「あれ、追加で宜しく」
「うん。分かった…って、えっ!?」

追加って、追加?
…どうやら、面倒を見る人数が倍に増えてしまったらしい。
ユーリは舌をだしておどける。
…この可愛さに負けてしまう僕は…。
と何だか落ち込んでしまったのであった…。


※※※



人身売買の犯人が捕まり、それに関与していた人間をギルドと騎士で総力を挙げ、取り締まり全て片がついたのが、一ヶ月後の事だった。
今日も何時もの様に、子供達とユーリの様子を見に隣室のドアを開けると、そこにはユーリはおらず代わりに、エステリーゼ様とジュディス、パティにリタ。更にはソディア迄も僕を待ちかまえていた。

「フレンっ!!お話がありますっ!!」
「えっ!?あ、はいっ!?」
「フレンはユーリの事、どー思ってるのじゃっ!?」

行き成り直球ストレート。
しかも、剛速球に僕は一瞬何を言われたのか理解出来なかった。
えっと、僕はユーリの事を…?
そんなの答えは決まっている。

「…異性として、一人の女性として、好いています」

正直に答えると、ジュディスとパティの眉がぴくりと動いた。

「それをユーリには告げたのかしら?」
「…いいえ。告げようとした矢先にこの事件で…」
「そう。じゃあ、これから告げるのね?」
「そ、それは…」

タイミングを逃した所為か、それともユーリが何かを察知してるのか、兎に角言う機会がない。
二人きりになるタイミングが全くないのだ。
僕が、返答に困っていると、焦れたリタが僕の頭を本で叩いた。

「ああーっ!!もうっ!!じれったいわねっ!!何で悩んでるのよっ!!」
「…僕が、ユーリを好きだと言う気持ちがユーリに取って迷惑じゃないか、ってね。僕はあれからユーリに避けられてるみたいなんだ」

実際、ユーリに話しかけようとすると、子供達をだしに逃げられる。

「それは、フレンが悪いのじゃっ!」
「そうね。貴方だって知っているでしょう?ユーリが貴方の側を離れようとしている事を」
「【あんたの所から離れる】=【アタシらの側からもいなくなる】になるのよっ」
「ユーリは未だに人を手にかけた罪を心に抱えています。本当なら、世界を救い、こうやって人命を救い胸を張って生きていいのに日の当たる場所から避けようとする。人を殺めた事を、その手でフレンに触れる事を恐れている」
「だったら尚の事、……今、僕がユーリにこの気持ちを告げても、意味が無い」

だって、そうだろう?
ユーリの罪がユーリを苦しめてる。
だったら、それを突き付け続ける僕の、騎士団長という役職はユーリにとって回復の手立ての無い毒に過ぎない。
ぐっと口から溢れ出そうな愚痴を飲み込んだ、その時。

パンッ。

何かが叩く音と、頬への痛みを感じた。
そして、それが、ソディアの平手だと直ぐに気付く。

「そ、でぃあ…?」
「…私が憧れ、付いて行こうとした団長はこんな情けない方だったでしょうか?」

ソディアの瞳が燃えている。
…怒っている…?

「あの方が、…ユーリ殿がどれだけ自分を抑えていらっしゃるか、団長には分からないのですか?」
「ユーリが…?」
「ユーリ殿は私が貴方とくっついてくれるといいと、悲しそうに笑って仰っていられました。その一言を出すのにどれだけ苦しんでいるか。いくつの事を諦めたか。【代役】だと自分に言い聞かす事がどれほど辛い事か。それが分からない方となど私は一緒になりたくはないっ」
「ソディア…」
「行って下さい。貴方は、あの人を幸せにしなければならない。そうでしょう?だって、貴方はも4人の子供の父親なんですから」

目が覚めた気がした。
ごめんと一言謝り、部屋を駆けだした。
僕はまたユーリに、罪を背をわせる所だった。
ユーリに4人の子供の命をまかせっきりにする所だったんだ。
そして、他の子供達を助けれなかった事に苦しむユーリを見捨てる所だった。

ユーリは…どこにいるだろうっ!?
城中駆けずり回ったけれど、ユーリの姿は無い。
じゃあ何処に…?
城門の警備に問い掛けると、どうやらちょっとした花畑が近くにあるらしく、子供等とそこへ向かったらしい。
早くユーリに会いたくて一目散に走る。

漸くついた花畑。
そこの中央でユーリは子供達が遊んでいるのを遠くから見守っていた。
柔らかく微笑むその姿が、余りにも綺麗で…切なさがこみ上げる。

どうして、そうやって苦しさを隠すんだろう?
どうして、僕はそれに気付けない…?
どうして、…こんなにも愛おしい存在が離れる事を許せるだろう?

胸の奥から次から次へと湧き出でるこの【愛おしい】と言う感情が、僕の視界を揺るがせた。

「お?あれ?フレンじゃねーか?って、おいおいおいっ!どうしたっ?何泣いてるんだよっ?」

僕に気付いたユーリが僕の側へ走り寄る。
そっとユーリの手が頬へ触れ、僕の頬を伝う涙を拭う。撫でて落ち着かせるように何度も何度も…。
その優しい仕草に。ユーリの優しさに胸がぎゅっと詰まるようだった。僕は…。

「ユーリ…、君が、好きだ」
「…フレン…?」
「どうしようもなく、君が好きなんだっ。……だから、側に、いてくれないか?」
「フレン、お前…」
「君に忘れられない罪があるのは知ってるっ。でも、そんなものにすら僕は君を奪われたくないっ!君と一緒にいたいっ!!」

頬に触れるユーリの手に自分の手を重ねる。
ユーリの手は小さく震えていた。
それを奪う様にきつくその手を握り締める。

「…オレの側にいれば…間違いなくお前は辛い目に会う」
「構わない…」
「評議会の連中に付け込む隙を与える事になる」
「そんなのに、絶対負けない…」
「…オレの手は血に汚れてる。罪人なんだぜ?」
「僕が一緒にその罪を背負うよ」

ユーリのアメジストの瞳を見つめると、その瞳が潤み、その白い頬に涙が伝い零れ落ちた。

「諦めなくて、…いいのか?」
「ユーリ…?」
「他の何を切り捨てても、お前だけは…出来なかった。こんな、依頼まで利用して、意地汚くお前の側にいた…。オレが、罪人だって自分が良く分かってるのに…、お前を汚すと分かってるのに…離れられなかったっ」
「いいよ。もう…苦しまなくていい。ユーリ」
「フレン…」

大粒の涙がユーリの頬を伝う。
そっとその涙をキスで拭い、唇を重ねた。
柔らかい、甘い…ユーリの唇。
何度も触れて存在を確かめる様にキスをして、ぎゅっとユーリを抱きしめた。
ユーリの腕が背に回り、抱きしめ返してくれる。
唇が離れ、互いに顔を見合わせる。
お互いにボロボロになった顔をみて、小さく笑った。

「…愛してる。ユーリ。…僕と一緒にこの子達の親になってくれる?」
「あぁ。ずっと…お前が望む限り側にいる…。好きだぜ、フレン」

遠くで、子供達が僕達の名を呼びながら走ってくるのがわかる。
僕等はその姿を並んで手を振ってこたえると、振らずにいたもう一方の指を絡ませ手をきつく握る。

何時か、ユーリの罪が明るみに出る時があるかもしれない。
でも、それを補うだけの事をユーリはしてきている。
そして、これからもし続ける。
ユーリにだけ、罪を被せる様な事はもうさせない。

「ユーリ…。ずっと、側に…」

キスをユーリの唇に落とす。


僕とユーリは、共に生きると誓いあった…。


この花が咲き誇る、ひだまりの下で…。




















アトガキ?

あーね様からのリクエストでした(^◇^)
『フレ♀ユリで捨て子の面倒をみる二人、それをきっかけにお互い好きだと気付く』
…自分で書いていながら予想外な展開に吹っ飛んじゃいました(^◇^;)
ホントはほのぼのとしたのを書くつもりだったんですが、長くなった上にこんな展開に…マジでごめんなさい…orz
しかも、二人で必死に世話を…って所クリア出来なかった感がバリバリ…。
むしろ、立派に子育てをするユーリを見て、フレンがトキメキまくった話になってしまいましたwww
でもどうしても、彼らが一緒に子育てするのならば、その子は手元に置いておきたかったんです。
二人が完全に捨て子の親になって欲しかったんダー!p(,,`・ω・´,,)q
こんな結果になってしまいましたが(笑)
リクエスト有難うございましたっ!!(*^_^*)