輝鏡花、暗鏡花
【9】
※※※
あの時にハルとルリが出来たんだっけ…?
ふと、意識が現実に戻る。
目の前にはカロル達が運んでくれたユーリの作った料理が並んで行く。
「…フレン、どうした?」
「ん?あ、いや…。ハルもルリも大きくなったなって」
「だなぁ…」
しみじみとパタパタとキッチンとリビングを行き交う二人を見て思う。
漸くユーリ手製の料理が全て並び終わると、カロル達も席に着き、皆で仲良く食事が始まった。
今日のメニューはユーリの得意料理のコロッケだ。
でも中身はひき肉やじゃがいもではなく、ビーフをトマトソースで煮込んだものとグラタンが入っている物の二種類。
日に日に料理の腕が上がるそのコロッケは絶品で、皆その腕を絶賛した。
食事が終わり、ハルとルリの用意したお茶を一口飲んでユーリは口を開いた。
「所でカロル」
「なに?ユーリ」
「お前、エステルと恋人になったんだって?」
ぶぅーっ!!
「あっつっ!?ちょ、おっさんに向かってお茶噴かないでちょうだいっ」
咄嗟に顔を横に向けたのは流石と言うか何と言うか。ぼたぼたと口からお茶を零したまま、カロルが僕に何かを訴える様な眼で見た。
けれど、それにどうする事も出来なくて、ごめんと目だけで謝罪する。
「貴族とギルド間の問題、ねぇ…。ってか、お前、それでエステル泣かせたのか?」
「…う、うん…」
「ふぅ〜ん…。カロル先生は度胸があるなぁ。…凛々の明星の女達の事分かってねぇよなぁ…。ま、頑張れ」
「えっ?」
バァンっ!!
カロルが驚いた声と玄関と思われる戸が破る勢いで開けられた音が鳴り響く。
ドタバタと音がしたかと思うと、同じ音を立て今度はリビングのドアが開けられた。
「がーきーんーちょー…?」
「えっ!?リタっ!?」
カロルが完全に脅えている。
それもその筈。何せ何時ものリタの顔が、更にバージョンアップしており、目が妖しく光っている。
これは…間違いなく怒っている。背中には見える筈のない黒いオーラが漂って渦を巻いている。
「よくもエステルを泣かせたわねぇ。覚悟は出来てんでしょうねぇ…?」
「だ、だってっ!!」
「五月蠅いっ!!いいから来なさいっ!!」
「うわっ!?」
室内での追いかけっこが始まってしまった。
二人とももう成人も近いと言うのに、やっていることは相変わらずだ。
しかも、それをみて遊びだと思ったハルとルリまで参加してしまった。
今、僕達が座っているソファを中心にその周りをカロル、リタ、ハル、ルリの順でグルグルと回っている。
「ガーキーんちょっ!!逃がさないわよっ!!」
「うわぁんっ!!ユーリ助けてぇっ!!」
「やだよ。めんどくさい。…ってか、オレ言ったろ?頑張れって」
「それって今の事だったのぉっ!?」
「ハル、ルリ、あんた達先回りして挟み打ちするわよっ!!」
楽しげに返事を返す愛娘達。多分ただの追いかけっこと思っているのだろう。逆回りをしてはしっとカロルの片足ずつに二人が抱き付いた。
「うわっ!?ハル、ルリっ、離してっ!!」
必死に訴えるカロルだが、そこはリタに味方した二人はぶんぶんと顔をふるだけ。
そしてカロルの後ろには腕を組んでカロルを睨みつけるリタの姿があった。
それでも逃げようとするカロルを物凄い素早さで捕まえ、ギラリとレイヴンさんを睨みつけた。
「え?おっさん、関係ないよねっ!?」
「…メンテ来いって言ってたわよね?アタシ」
「あ、あー、それはー…」
「そんなに死にたいのならアタシが殺してあげるわ」
何故かレイヴンさんの襟首を一緒に掴み、ズリズリと家から引き摺り出されて行く。
僕達家族はその後ろ姿を見送り、無言でしばらく様子をうかがっていると。
『インディグネィション!!』
バリバリバリっ!!
地面が割れる様な音が響き渡り、その後二人の叫び声が辺りに響き渡った。
「……秘奥義はちょっとやり過ぎなんじゃ…」
「だから、分かってねぇって言ったろ?」
そんな勝ち誇った風に言われても…。
って言うか、そう言われれば、僕もジュディスに何回も殴られてるし…。
ユーリを含め彼女たちの友情は侮れない。…と言うか敵に回したらいけない。
僕は改めて思い、ふときゃっきゃっと騒いでいる二人の愛娘をみる。
…血は争えないと言う言葉がクルクルと回る。
それに彼女たちも良く二人の面倒を見に来てくれる。
育ての親が彼女たちなら仕方ないんだろうか…。
ちょっとの時間、再び無言の時間が過ぎると、先程と同じ足音が聞こえる。
そしてそのままリタがリビングへと顔を出した。
幾らかすっきりしたようだが、その後ろでに掴んでいるのは…?
「……リタ、っち、酷い……」
消し炭になったレイヴンだった。
……どうやら直撃だったらしい。
「おっさん。だからメンテ行っとけってオレ言ったよな?」
「…うん。……素直にユーリちゃんの言う事聞いとけばよかった…」
言ってぐしゃっと床に潰れ落ちた。
それをリタは、はんっと鼻を鳴らして侮蔑すると、先程までレイヴンさんが座っていた所に腰をかけた。
「流石に、酷くないか?リタ」
つい口に出さずにいられずに言うと、リタは「全然」とあっさり答え、驚く事に横にいたユーリも「だな」とそれに同意した。
「だ、だが。……レイヴンさん、真黒だけど…」
「女からのプロポーズの返事をすっぽかす奴には当然の洗礼だろ」
「プロポーズ?」
「おう。な、リタ?」
「あ、アタシは別にプロポーズなんてしてないわよっ!!た、ただ…あいつの魔導器の面倒を見れるのはアタシだけだから、その…」
顔を真っ赤にして逸らしてしまったリタの言葉に納得がいった。
成程。それは立派にプロポーズだろう。そして、その返事が聞けると思ったら、アスピオにメンテナンスに来ない所か、こんな所に来ていたと。
それは怒っても仕方ないな。
「…もう少し、やっとかなくていいのかい?」
「おいおい。フレン。男のお前くらいおっさんに味方してやれよ」
ユーリの突っ込みに皆が笑っていたそこへ。
「ひ、ひどいよ〜…。リタぁ…」
同じく丸焦げ状態のカロルの声が聞こえた。
「ごめんなさい。カロル。話をしたらリタが飛び出してしまって間に合いませんでした」
「えっ!?いや、エステルは悪くないよっ!!それに、こうなったのは全部僕が悪いんだ。……ごめん」
「カロル…」
廊下からエステリーゼ様の声が聞こえる。二人一緒にいるのかな?
「……でも、僕決めたっ」
「カロル?」
「時間、かかるかもしれないけど。エステルっ!!」
「はい」
「ギルドと帝国の関係、必ず良くして見せるから、だからっ」
「…はい」
「僕と結婚して下さいっ!!」
……。
………。
……け、
『結婚ーっ!?』
僕達みんな一斉に立ち上がり、廊下へと飛び出した。
そこには顔を真っ赤にしたカロルと、それに向き合う様に立つエステリーゼ様の姿があった。
「カロル…。凄く、凄く嬉しいですっ!!はいっ!!私もカロルと結婚したいっ」
「エステル…。うんっ!!待っててっ!!直ぐに絶対迎えに行くからっ!!」
カロルがエステリーゼ様を抱きしめ、エステリーゼ様もそれに嬉し涙を瞳から溢れさせながらもその抱擁に体を預けた。
何時の間にカロルはエステリーゼ様の身長を越していたんだろう。
「…まとまったみたいね」
「のじゃ」
「わんっ!」
「うわっ!?」
何時の間にか真後ろにジュディスとパティが立っており、流石に驚く。
気付けばラピードもいる。
知らぬ内にここに旅の仲間が皆集まった。
全員が集まった事を隣にいるユーリが確認している。
…何で?
それを聞く前にユーリは腰に手を当てて笑った。
「よし。んじゃ、オレちょっと出かけて来るから。フレン、後よろしくな」
「え?ちょっと待ってくれ。こんな夜中に何処に行くんだい?危ないよ」
「あー、うん。大丈夫だろ」
「そうは言っても…。せめて何処に行くか教えてくれ」
聞くとケロッとユーリはとんでもないことを口にした。
「病院に」
「あぁ。なんだ。病院か……。って病院っ!?ユーリ何処か怪我でもしたのかいっ!?あ、それとも病気っ!?と、とにかく行くなら急がないとっ!!」
「大丈夫だって。ただちょっと陣痛が来たから子供産みに行くだけだから」
「…あぁ。なんだ。そっか。陣痛が来たのか。じゃあもう子供が産まれるだけだね。……って、尚悪いっ!!」
「お前、ノリ突っ込みだらけだな」
「そんな事はどうでもいいっ!!僕が病院に連れて行くっ!!」
ユーリを抱き上げ僕は光のごとく病院へと走って行った。
……その後。出産に立ち会おうとしたのに、下町の女将さんに男子立ち入り禁止令を出されたのはまた別の話…。


アトガキ?
MO様のリクエストでした(^◇^)
前に書いた『最優先事項だろ』の過去編でした(*^_^*)
内容は考えていたのですが、予想外に長くなってしまった申し訳御座いませんでしたorz
しかも、こんなに待たせてしまって重ね重ね申し訳ございません |壁|’Д’lll)ァ゛。。ゴメンナサィ・・。
でも楽しく書かせて頂きました(>_<)
何時も読んで頂いて有難うございます゚.+:。(´∀`)゚.+:。
こんな感じになりましたが楽しんで頂けると嬉しいです(^◇^)
それではリクエスト有難うございましたっ(*^_^*)