※ 女体化注意。
※ 最優先事項だろ?の続きです。



君が作るモノ。





ユーリと結婚してしばらく経った。
正直、僕は今、物凄い幸せだ。

「それじゃ、行って来るよ」
「あぁ、気をつけて行って来いよ」
「うんっ」

いつもの騎士団長としての仕事もなんの苦にもならない。
だって、毎日側にユーリがいて、ユーリの手料理を毎日食べれて、もう少しすれば子供も産まれて…。
これを幸せと言わずとして、何を幸せと言えというのだろう。
ユーリと子供の為なら、どんなに辛くても働けるっ!!
そして、いつも歩きなれた道を登って城へと向かった。
すれ違う騎士達の挨拶に挨拶を返し、自室へと入る。
そこには既に、副官のソディアとウィチルが並んで資料を見ていた。

「すまない。遅くなっただろうか?」
「閣下、いえ、大丈夫です」

そう言いながら、僕にたった今彼女等が見ていた資料を手渡された。

「これは…『ハルル周辺の魔物の大量発生の件』だな?」
「はい。今ギルドと共に討伐の案をまとめているのですが」
「何か、問題があるのか?」
「実は、今海上にも魔物が大量発生していて、海を通ってくると時間が…」
「そうか。今回、共闘するギルドはダングレストから派遣されて来るんだったな」
「はい」
「と、なると…」
「…増援を出しますか?」
「いや、正直今そんな余裕、騎士団にはない」
「しかしっ」
「あぁ、分かっている。あそこにはエステリーゼ様もいらっしゃる。死守しなければ…」
「どう、されますか?」
「……部隊を再編成する。ハルルの魔物討伐の指揮は私が執る」
「了解しましたっ」

2人が出て行った事を確認すると、僕はカレンダーに走った。

(ハルルまで最速でも2日はかかるだろっ!?そこから、魔物を全て倒したとして一週間から10日はかかるっ。それから2日かけて戻ってくるとして…約二週間帝都を離れなければならないっ!?って事は、ユーリの出産日予定日は今から三週間後…大丈夫だっ!!いけるっ!!)

とりあえず、ユーリの出産予定日に間に合う事に心底ほっとする。
それからの僕は、ユーリの出産に立ち会う為、鬼の様に仕事に没頭した。

その日の業務が終了し、帰宅するとユーリが出迎えてくれた。

「ただいま、ユーリっ」
「おう、お帰り、フレン」

このユーリの笑顔を見るだけで、疲れなんてあったかな?って気がしてくる。

「どうした?疲れた顔して…?何か、あったのか?」
「え?うぅん。何も無いよっ」

僕の奥さんは本当に鋭い。
いつも隠している事をあっさり見破ってしまう。
でも、これだけは黙っていなければ…。へたにバレて。

『エステルがやべぇんだろっ!?オレも行くっ!!』

なんて言い出されて、ユーリと子供にもしもの事があったら泣く所か、確実に狂う自信があるっ!!

「…本当か?」
「本当だよ。それより、ユーリ僕お腹がすいたよ。今日の晩御飯なんだい?」
「…ったく。今日は、イカと大根の煮物だ」
「えっ!?」
「ははっ、嘘だよ。今日は、ハンバーグだ」
「やったっ、ユーリのハンバーグ大好きっ!!」

何とか誤魔化せた事に安堵して、僕はユーリと2人夕食についたのだった。

翌日、僕はユーリに二週間程城に泊まらなければならなくなったと説明し、ハルルへと向かった。
とにかく早くユーリの元へ帰る為、馬を飛ばしハルルへと駆けた。
途中魔物の群れにあったが、僕にとって敵ではない。
僕は早く帰らねばならないからっ!!
何はともあれ予定通り2日でハルルへと到着した。
そんな僕をエステリーゼ様は笑顔で出迎えてくれた。

「フレンっ。お久しぶりですねっ」
「はいっ。エステリーゼ様もお変わりなく」
「怪我とかしてないです?」
「えぇ。大丈夫です。今の私には怪我などしている暇はありませんからっ」
「そう言えば、もう少しですね。ユーリの出産。男の子でしょうか、女の子でしょうか?どちらにしてもきっと凄く可愛いはずですっ」
「僕とユーリの子ですからっ!!」
「…フレン、のろけ、です?」
「えっ!?いえ、あのっ」

僕の焦る様を見て、エステリーゼ様はまた微笑んだ。
そして、その日から魔物討伐の日々が始まった。
騎士団のハルル支部を拠点とし、朝目覚めたら書類を確認しながら朝食を食べたら、外へ行き魔物を倒し、昼休憩をして魔物を倒し、夜が更けた頃街に戻り眠りにつく。
そうして数日が過ぎ、流石に5日目にもなると、隊にも勿論、僕にも疲れが出始めた。
けれど、その姿を僕は見せてはならないのだ。部下の指揮にかかわる。
ノロノロとベットから起き上がり、何とか準備を済ませると目を通していない書類を持ち、朝食を食べる為、食堂へと向かった。
食堂へ入る前に、気分を入れ替え、ピンと背を伸ばす。
改めて食堂の戸を開けると、中はいつもと違い少しざわついていた。
しかし、その理由が分からない。
席につき、書類を広げ確認していると、コトリと皿が置かれた。
そこにはカツサンドがのっており、誰が置いたのだろう?
礼を言おうと顔を上げるがそこには誰もいなかった。
辺りを見回しても食事をしている騎士しかいない。
とりあえず、出された物を食べようと、そっと手を伸ばし一口かじる。
それは…すごく美味しかった。
どう、美味しいのかと聞かれると困る。
だけど、いつも食べている慣れ親しんだ…そう、ユーリの作る料理の味だ。

「…でも、ちょっと、違うんだよな…」

多分食堂のコックさんが変わったんだろう。
僕はそう納得すると気にせずカツサンドを口に頬張り、書類を見ながらそれを食べ尽くし、魔物討伐に向かった。
そして、食堂の料理の味が変わって5日が過ぎた。
本当ならば今日で全て討伐が終わるはずだった。
しかし、本来来るはずのギルドが到着せず、その為、討伐は難攻していた。
ユーリが待っているのに…。
焦りがうまれ、少しでも敵を倒そうと夜通しで魔物を討伐した。勿論、僕の個人的な感情に付き合せる訳にもいかず、僕一人で戦っていたのだが。
朝になり、流石に体力の限界を感じ、部屋へ戻り軽く仮眠をとり、ここ数日で日課となってしまった食堂で書類と睨めっこしていた。
また、コトリと皿が置かれていく。
その皿の中には、ビーフシチューがホカホカと湯気を立てていた。
食欲をそそられるその香りに僕は、書類を片付け皿を手元に引き寄せるとスプーンで一口掬いあげ口の中へと入れた。
ほんのりとシチューの味が口の中に広がる。
…美味しい…。
本当に誰が作ってるんだろう…?
確かめてみよう。そう思い席を立ち厨房を覗くとそこには誰もいなかった。
買出しにでも行ったのだろうか?
だとしたら、仕方ない。後でまた覗いてみよう。
僕は席へと戻り、シチューを平らげ再び討伐へと向かったのだった。

街の外で魔物と戦い、予想外の事が一つ起きた。
それは、今日挑んだ魔物の群が予想以上に多かったのだ。
朝から戦っているものの、魔物の量が全然減らない。
それどころか増える一方で…。

「前衛っ、余り離れるなっ!!今の態勢を崩さず、街を死守するんだっ!!」

魔物の突撃をかわし、斬りつけ、味方を援護しつつ、また魔物を斬りつける。
斬っても斬っても終わりが来ない。
朝から戦って今は真夜中。
疲れもピークに達している。
騎士団の団員達も限界に達し腕の上がらない騎士もいた。
もう、無理か…?
撤退を指示しようとした…その時だった。

「てぇぇーいっ!!」

大きな斧が魔物を斬りつけた。
それに続くように多くの矢が空を飛んでいた魔物を落とし、その敵を焼き払う火の玉が次から次へと飛んでくる。

「こ、れは…?」

槍が目に止まらぬ速さで魔物を弾き飛ばし、銃弾が弾き飛ばされた魔物を一撃で倒していく。
そして、大きな魔方陣が僕達の下に現れ怪我を一瞬のうちに癒した。

「フレンっ、『凛々の明星』依頼を受けて来たよっ!!」
「カロルっ、皆っ!?」

リタの魔術とパティの銃撃があたりにいた魔物を一瞬にして消し去り、皆が僕に走り寄ってきた。

「大丈夫っ!?」
「あ、あぁ。しかし、どうして…?」
「依頼を受けたギルドの人達が、海上で立往生しちゃって僕達がバウルに頼んで先回りしてきたんだ」
「もう少しで、他のギルドの連中も来るはずよ」

レイヴンさんが、傷ついた団員の怪我の手当てをしながら、教えてくれた。

「ま、最初からこっちに来る用事もあったからの」
「そうね。ギリギリで間に合ったんじゃない?」

パティだけではなくリタまでも心なしか嬉しそうに話す。
一体何の話なのか?
その疑問が顔に出ていたのか、ジュディスが僕の顔を見て首を捻った。

「どうかしたのかしら?」
「え?あ、いえ。何の話をしているのかと思って」
「何ってフレン、知らないんです?」
「はい?」

エステリーゼ様まで不思議そうな顔でこっちを見た。

「ユーリ、今産まれそうだって」
「えぇっ!?」

産まれそう…?
え?え?ちょ、ちょっと待ってくれっ!!
って事は…予定日より早いっ!?

「ど、どうしてっ!?」
「無理をしたからじゃないかしら?」

ジュディスが何気ない顔をした。

「無理ってどうゆう事だいっ!?」
「ふふっ、自分の胸に聞くことね」

キランとジュディスの目が光り、後ろに立っているリタにパティ、エステリーゼ様の目までも光っていた。

「こーゆー時、男は勝てないのよ、フレンちゃん」
「…レイヴンさん…」
「とにかく、早く魔物を倒してユーリに会いに行こうよっ」
「カロル…あ、あぁっ!!そうだなっ!!」

強力な増援のおかげで、討伐はあっという間に終了した。
急いで帰り準備を整えようと部屋に帰ろうとしたのだが、エステリーゼ様に手を引き摺られ、連れて行かれたのは宿屋だった。
後ろに『凛々の明星』の皆が付いて来ている。
何はともあれ、宿屋のドアを開けると同時に赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

「え…?」
「産まれましたっ!」
「それ、は…もしかしてっ!?」

宿屋の階段を駆け上がり、赤ちゃんの声がする部屋のドアを勢い良く開けると、そこには―――。

「ユー、リ…?」

ユーリが小さな二つの命を大事そうに両手に抱えていた。

「よぉ、フレン。ほら、お前ら…父ちゃんだぞ」

産んだばかりで動けないのか横になったまま、だけど愛おしそうに目を細めて微笑む。
言いたい事は一杯ある。
問いたい事も一杯ある。
それでも、今は…。
ユーリに一歩ずつ近づき、そっと泣き続ける赤ちゃんの頭を撫でた。

「僕とユーリの…」
「そうだ。お前とオレの子『達』だよ」
「うん。…ユーリ…」

嬉しい。
何よりも、どんな事よりも。
今まで生きた中で最高に嬉しいっ。

「ユーリっ」
「はいっ。そこまでなのじゃっ」

パティが僕とユーリの間に入りこんだ。

「出産後とは疲れるものなのじゃ。とにかく今は休ませるのじゃっ」
「え?え?」
「さて、行くわよっ」
「ちょ、リタっ」
「名前、考えましょうね。フレンっ」
「エステリーゼ様っ!?」
「予想外の事もあったのでしょう?じゃあ、その為の準備も必要よね?」
「ジュディスっ」

ズルズルと部屋の外へと追い出されてしまった。
そのまま、女性陣と一緒にベビー用品やら、男性陣と一緒に出産祝いの飲み会やらに連れて行かれ…。
翌日、ようやく僕はユーリの所へ行く事が出来た。
ドアをノックして中に入ると、ユーリは子供達にミルクを与え終わった所だった。

「入って来いよ。フレン」
「あ、ごめんっ」

ドアを閉め中に入り、ベットの側にある椅子を引き寄せ座った。

「ほら、抱いてみろよ」

そう言って、ユーリは僕の手に小さなボク達の子供を渡した。

「小さい…」
「そりゃそうだろ。昨日までオレの腹の中にいたんだしな」
「いや、そうじゃなくて…」

この子達が僕の子供…。僕とユーリの子供。
改めて幸せがじんわりと膨れ上がる。
お腹が膨れて眠いのか、むずがるその子をユーリの横に寝せると、ユーリも自分が抱いていた子を隣に寝せた。

「所でユーリ、聞きたい事があるんだけど」
「いいぜ?何だよ」
「どうして、ここに…ハルルにいるんだい?」
「別に。どこかの誰かさんが、オレに嘘ついて魔物の討伐に行った事を怒ってなんて事ねーから」
「うっ…ごめん。でも、出産予定日までに帰る予定だったんだよっ!?」
「……だったんだよ」
「え?何?」
「…オレは嫌だったんだよ。お前の側にいたかったのっ!!」
「ユーリ…。でも…」
「それに、オレはお前にこいつ等が双子だって事伝えてなかったしな」

そう言ってユーリは優しい眼差しで子供達を見つめた。

「いつ、伝えようかって迷って…迷う位ならいっそと思ってジュディスに頼んでここまで連れて来て貰ったんだよ。5日前に」
「5日前…?あっ、もしかして、あの料理っ!?」
「あぁ、オレだよ。途中エステルにも手伝って貰ったけどな」
「そうかっ。だから…」

少し味が違ったんだ…。

「出産した後、最低でも二週間は満足に動けないだろ?そうしたら、お前に飯作ってやれねぇ。どうせなら、ギリギリまで好きな物食わせてやりたくて…」
「ユーリ…」

ユーリの気持ちが痛いほど伝わってくる。心が温かくなる。
ここまで、思ってくれているユーリに何を言う必要があるんだろう…。
ジュディスの言ったとおり。僕が悪いんだ。だから…。

「ユーリ」
「ん?」
「ありがとう。僕は物凄く幸せ者だね」

心から思った事を伝えると、ユーリは嬉しそうに微笑んでくれた。