EngageRing
後編
皆、聞いてくれ。
何度も言っているかもしれない。
言っているかもしれないけれど、それでも言わせてほしい。
どうして、こんなに可愛いんだ、ユーリはっ!
只今と玄関を開け家の中に入ると、美味しそうな味噌汁の香りがして、靴を脱いでリビングに入ると、キッチンから顔を出したユーリがお帰りと微笑む。
ケーキを買って来たと言えば、物凄く嬉しそうな顔をして目を輝かせ、一緒のベットで寝ている時に見せる彼女の寝顔はずっと眺めていたい程だ。
そして朝になると僕の大好きなおかずばかりが詰められたお弁当が用意されていて、朝ごはんを一緒に食べるとそのお弁当を持たせて優しく送り出してくれる。
普通、女性と暮らしてこんな感じになるだろうか?
いや。そもそも恋仲でも無い男女が同じ家には住まないとは思うけれど。
でも、例えば同居ならこんな風には…。
僕は自分では恋愛に関しては淡白な方だと思っていたから、尚更…。
そろそろ諦めよう。
素直に言おう。
どうやら、僕は…。
「僕は、ユーリに惚れてるらしい…」
「あら。そうだったの?」
「―――ッ!?!?!?」
心臓が口から飛び出そうになる。
慌てて振り向いたそこにいたのは同僚のジュディスだった。
彼女は何時ものごとく、何事も無かった顔で微笑んでいる。
けど、それがまた色々怖い。
「部長。この書類に判子頂けるかしら?」
「あ、あぁ」
デスクから判子を取り出し、ジュディスが差し出した書類を確認して判子を押す。
これで、大丈夫。
彼女はきっと机に帰ってくれる筈…。
「ありがとう。それとフレン」
「?、他にも何か?」
「告白は本人にしないと意味がないわよ」
「―――ッ!?!?!?!?」
あぁ…、穴があったら入りたい…。
でも、まぁ、ジュディスの言う事はもっともだ。
好きだと認めてしまった訳だし、だったら早く言って振られるなりなんなりした方が…。
しかし、ユーリもまだ独り立ち出来る程お金もちゃんと貯まってないだろうし。
だとしたら、もう少し時期を待ってからの方が?
だが、そうすると、僕はユーリを好きだと自覚しながら、ずっと同じベットで寝なければならないのか?
…拷問だろう、それは。
でも…しかし…。
「所で、フレン部長?」
「うわあああああっ!?」
今度こそ心臓が放たれたかと。
いや、そもそも、ジュディスまだいたのかっ!?
「あらあら。物凄い驚き様ね。私、驚いてしまったわ」
「……全く、そうは見えないよ」
バクバクバク。
ありえない心拍音が聞こえる。
「もう、終業時間よ?そろそろ帰った方が良くなくて?」
「えっ!?」
言われて腕の時計を見ると、確かに時計の針は午後7時を指していた。
何て事だ。
僕と言う事が、仕事に全く集中出来なかったって事か?
がっくりと肩が首ごと落ちる。
取りあえず帰る準備をしよう。
鞄に、必要な書類だけ詰めて、かけてあるコートを羽織る。
そこで漸くジュディス以外皆帰宅した事に気付く。
あぁ、ホント僕は今日全然集中出来ていなかったんだな。
一応、戸締りを確認して、僕はジュディスを見た。
すると、ジュディスはニコニコと微笑むだけ。
「よし。帰ろうか」
「えぇ。帰りましょう。部長の惚れた相手ってのも気になるし、ね」
「ジュディス…。僕で遊んでるだろう?」
「あら?心外だわ。私、こんなに心配しているのに」
「全く…」
とは言え、彼女のこの言動にきっと嘘はないんだろう。
分かり辛いが彼女はそうゆう女性だ。
ジュディスと会社の廊下を並んで歩く。
「ジュディス、ちょっと聞いても良いかな?」
「何かしら?」
「女性は嫌いな男と一緒に暮らせるものかな?」
聞くと、ジュディスは一瞬考えて、そして。
「人によるとは思うけれど、私なら無理ね」
「そう、か」
玄関に辿り着き、一歩外に出ると雨が降っており、僕は置き傘をとりさす。
その横で彼女が折りたたみ傘を出そうとするのを待ち、同時に外に出る。
「一緒に暮らしてるの?」
「あぁ。ちょっと事情があってね」
「で、その子に惚れた訳ね?」
「あぁ…可愛い子なんだ」
「そう」
ジュディスはニッコリと微笑んだ。
彼女のこの笑顔に虜になる男は多い。
と言うかこの会社の男は皆揃って彼女の虜だったりする。
「残念だわ。私、気に入っていたのに」
「え?」
「好きだったのよ、とても」
「……嬉しいよ、ジュディス」
まさか、彼女にこう言って貰えるとは思えなかった。
すると、雨音にまぎれて、バシャバシャと足音が聞こえた気がした。
気になって振り返ると、そこには誰もいなくて。
気のせいかな?
人通りも多い場所だしな。
そう、納得する事にして、ジュディスと改めて向き合う。
「貴方も卒業しちゃうのね。飲み会から」
「さぁ、それは分からないよ。恋人になれるかも分からないからね」
「本当に残念だわ。貴方と仕事後にお酒呑むの大好きだったのに」
「あははっ。僕が振られたらまた付き合ってくれ」
「あら?じゃあ、私は貴方の不幸を祈らなくては」
「それは勘弁してくれないか」
互いに笑いが込み上げ、それぞれの家路についた。
家の前に着くと、不思議な事に何時もついている筈の電気がついていなかった。
え?あれ?なんで?
ユーリ、いないのかな?
玄関前について、ドアノブを回すと鍵がかかっており開かない。
仕方なく鍵を取り出して開けると、中からは人の気配が一切しなかった。
もしかして…っ!?
嫌な予感が胸をよぎり、慌てて靴を脱ぎ電気をつけて中へと入ると、リビングの机の上に一枚の紙が置かれていた。
「これ…『出て行く ユーリ』って、ちょっと待ってくれっ!いきなり、こんな…こんな事聞いてないっ!!」
一体何で…?
そもそも、この紙、少し濡れて……ま、さか…?
さっきは全然気にならなかった、あの足音が気になった。
あの足音まさか、ユーリ、か?
居ても立ってもいられず、僕は外へかけだした。
ユーリは一体何処へっ!?
雨に濡れる事など構わず、走り続ける。
でも、僕はユーリが良く居る場所とかそんなもの知らない。
僕はユーリの事、本当に何も知らないんだ。
気付いた事実に愕然とする。
けれど、足は止まる事無く、ユーリを探す。
雨に濡れて、スーツが水分を含み重くなる。
その重みすら、ユーリを探す僕には邪魔でしかなかった。
探しに探して、でも、ユーリは見つからない。
それでも、諦めきれなくて、僕はふと引かれる様に公園へと足を踏み入れた。
こんなに雨が降っているし、いる訳がない。
流石にこんな時に野宿しようなんて思わないだろう。
けど何故か僕は公園を探していた。
すると、
「ユーリっ!!」
見つけた。
象を模した滑り台の下にある空間に、ユーリは雨から身を守る様に小さくなっていた。
僕の声に気付いたユーリは、一瞬驚いた顔をして直ぐ様その表情を隠して、皮肉気に笑った。
「何してんだよ、こんなとこで」
「それはこっちのセリフだっ!どうして、いきなり出て行くなんてっ」
「いきなりでもねぇだろ。そもそも長く居過ぎた位だ」
もともと一週間位の予定だったろ?
そう言われてしまっては、確かにそうなんだろうけど、でも…どうしても納得出来なかった。
僕はユーリの腕を掴み、穴から引き摺り出すと、そのまま問答無用で、マンションへと向かう。
「ちょ、おいっ」
ユーリが抗議するが、聞く気はなかった。
ただ、黙って雨の中、急ぎ足でマンションへと帰る。
暫く抵抗をしていたユーリだったけれど、諦めたのかそのまま黙ってついて来た。
家のドアを開けて、ユーリを先に中へと入れると、そのまま僕も入り後手で鍵を閉めた。
「……いいのかよ」
ユーリが俯きながら小さく呟いた。
何を言っているか分からなくて、聞き返すと、覚悟を決めた様に顔を上げ、今まで見た事も無い様な眼つきで僕を睨みつける。
「彼女、出来たんだろっ?オレが家にいたら呼び込めないだろうに」
「…?、言っている事が良く分からない。僕は彼女なんかいないよ?」
「嘘言うなよ。さっき出来たみたいじゃねぇか」
「??、嘘なんか言ってない。僕は彼女はいないよっ?」
「嘘だっ!」
「嘘じゃないっ!」
互いが互いを睨みあう。
ユーリは僕を睨みつけていながらも、何かに傷付いてるような、泣きそうな顔をしていた。
駄目だ。
このままじゃ、ユーリは聞き入れてくれない。
ユーリが言っていた事をもう一度思い出そう。
『彼女が出来たんだろっ?』って言ってたな。
出来たんだろう?
僕は彼女を作った覚えはない。
そもそも、僕は今日ユーリが好きだと自覚した位で…。
そう言えば、さっきのジュディスとの会話の最中の足音。
もし、あれがユーリの足音だとすれば。
「……本当に、嘘じゃないんだよ」
「……信じらんねぇよ」
「ユーリ、ジュディスには昔から片思いしてる男性がいるんだ」
「ジュディス?」
「そう。君は僕とジュディスの会話を聞いて、何かを誤解してるんだと思ってね。僕の部下で青い髪をしたスタイルの良い女性がいるんだ。僕は彼女と良く飲みに行っていたんだよ」
「でも、好きなんじゃないのか?男って、そう言う体系の女大好きだろ?」
「それは、人によるだろう?僕は…」
これを言ってもいいんだろうか?
これを言えばまた、ユーリを追い出す事にならないだろうか?
……でも。
「僕は、君の事が好きなんだ」
「…ぇ…?」
「一緒に暮らす内に君に…惚れてたんだよ」
「……」
照れくさくて顔を逸らす。
言ってしまった…。
ユーリは、どんな反応を返してくれるだろう?
気になって、そっとユーリを横目で見ると、驚いて気付けば真っ直ぐ見返していた。
ユーリが、泣いていた…。
「…本当、か?」
「ユーリ…?」
「本当、に?」
拭う事もせず涙を流すその姿に、僕は衝動的にユーリを抱きしめていた。
「あぁ、好きだよ」
「オレ、も…。オレもだ」
僕は、腕の中で泣くユーリにそっと口づけた…。
「ねぇ、ユーリ」
「…?」
「僕と、ずっと一緒に居てくれる?」
「…お前が望む限り…」
嬉しい過ぎて涙が出そうだった。
ずっと一緒にいてくれるってそう、言ってくれるなら…いいよね?
僕はユーリを抱き上げ、そのまま寝室へと向かった。
※※※
次の日。
カーテンの隙間から差し込む、太陽の光で目を覚ました。
横を見ると、隣で寝ていた筈のユーリが居なく、部屋の外から味噌汁の良い匂いが鼻腔を掠める。
体、だるいだろうに。
無理しなくていいのに。
そう、思っていても、僕の為に作ってくれている事が嬉しくて、ベットから降りて僕は部屋を出た。
「お、フレン。起きたかっ」
「っ!?!?!?」
ユーリが机の上に朝食を用意してくれている。
それは、嬉しいし、別にいいとして。
え?
え?
ちょ、えっ!?
「朝飯は出来てるからな」
パタパタとエプロンを取り、鞄を持つと玄関に向かっていく。
思考が追いつかない。
どう言う事だ?
慌てて、ユーリを追いかける。
すると、玄関をドアを開けて、ユーリはくるりと振り返った。
そして、意地悪そうな可愛い笑みを浮かべて、僕の頬へキスをすると。
「んじゃ、高校に行ってくるな。ダーリン」
バタンとドアが閉まる。
僕はキスされた頬にそっと手で触れて…。
「えええええええええっ!?」
ユーリは、元気よく制服を着て登校して行った。
どうやら…僕はまだまだユーリに振り回されるらしい。
けど、きっと許してしまうんだろう。
これが惚れた弱みって奴なんだと思う。
ユーリの作ってくれたご飯食べようかな?
僕は、驚いた自分が何だかおかしくて、小さく笑いながら部屋へと戻った。


アトガキ的なもの。
ミルク様のリクエストでした(^◇^)
フレユリ女体化、社会人×女子高生の同棲生活。
まずは謝罪を…orz
タイトルが全然内容とあっていない…。
本当は、指輪はめるとこまで書きたかったんですが、フレンさんが我慢できないようで、先に頂いてしまったようですw
高校生だと思わずに既成事実を作ってしまったフレンはもうユーリを嫁にするしかないですねw
フレンならきっとそうするw
因みにジュディスの片思いの相手は、やっぱりバウルですw
告白すれば両想いになるのにーwww
こんな内容ですが、気に入って頂けると嬉しいです(>_<)
それではリクエスト有難うございました〜(*^_^*)ノシ