君を恋い慕う





【7】



荒い息で互いに呼吸を整える。
汗で張り付く前髪がうざったくかきあげると、ユーリも同じ状況だろうと気付き、ベットに投げ出された状態のユーリの前髪も手でかき上げ、そのまま、唇に軽くキスをすると、ユーリの頬に涙が伝った。

「…大丈夫、かい?」

ぶんぶんと思い切り頭を振る。

「…そんなに元気があるなら、大丈夫かな」

流れた涙を拭うかわりにそこを舌でなぞる。

「…んで、オレ、…ばっかり、…」
「え?」

小さい声でユーリが何かを呟いた。
それを聞きとる事が出来ずに聞き返すと、ユーリは深く呼吸を整えてから、もう一度震える声で呟いた。

「なんで、オレばっかりこんな目に、合うんだ…。お前は、嫌じゃねぇ、のかよ」
「嫌って何が?」
「男の、オレ抱いて嫌じゃないのかって言ってんだ」
「全然」
「ぜっ!?」

僕の即答を聞いて、ぽかんと口を開いて絶句してしまった。
でも実際、ユーリを抱く事に何の嫌悪も感じない。
寧ろ、嬉しい位だ。

「…だって、僕はユーリの事が好きだから」

…ユーリの動きが完全に停止した。
どうしたものか…。
でも…。

「君だって、僕の事が好きだろう?」
「はいっ!?」

驚きも既にマックス状態のユーリは、完全に思考までも停止させていた。
けど、僕だって。

「流石に気持ちが通じ合っていない人と、しかも男とこんな事はしないよ?」
「い、いやいやいや。ちょっと待て。いろいろ待て。兎に角待てっ!…うぁっ!?」
「くっ…。まだ、入ったままなんだから、そんなに締められると困る」
「じゃあ、抜けよっ!ってか、オレがお前を好きっ!?何でそうなるんだっ!?」

だから、叫ぶと中が締まって…。
ビクンとユーリの体が震え、僕を信じられない者をみる様な目でこっちをみる。
…仕方ないじゃないか。君の中がありえない位気持ちいいんだから。

「…フレズがね。言っていたんだ。彼らが取り憑く事が出来る人間の第一条件」
「条件…?」
「それはね。『相思相愛なのに、気持ちが互いに伝わっていない人間』だったんだよ」
「相思相愛…。だってユウリは『波長が合う人間』って」
「勿論それも重要だった。自分の体に少しでも似てないと取り憑く事が出来ないそうだからね」

そして、その細かい全ての条件に僕達はピタリとあってしまった。
だから取り憑かれた。
でも、僕としては嬉しかったんだ。
相思相愛の相手がいないと、取り憑く事が出来ないと。
そうフレズに言われた時。
僕とユーリが相思相愛だと言われたのと同じことだったから。
じっとユーリをみていると、ユーリの顔は真っ赤に染まっていた。

「オレが、お前を、好き…?」
「ユーリ?」
「う、嘘だ…。そ、そんな訳…」
「…もしかして、無自覚だった?」

真っ赤なユーリが珍しくて、しかもそれが破壊的な可愛さで、その頬にキスをして聞くとユーリは耳まで赤くなってしまった。

「…ユーリは僕が嫌いか?」
「き、らいじゃない…」
「なら、好き?」
「………」

あ、黙っちゃった。
じゃあ。

「聞き方を変えるよ。僕に抱かれて気持ち悪かった?」
「……痛かった、けど、気持ち悪くは…」

その答えだけで十分だった。
ちゅっと頬にキスをする。

「…ねぇ?ユーリ?」
「…んだよ」
「もう一度、してもいい?」
「………は?」

ジッと見つめるその瞳に笑顔で答えて、頬に瞼に、その唇にキスを落とす。
何度も…。
ユーリにこの気持ちが伝わる様に。
何度も好きだと囁く。

「…オレ、は…」

ユーリが口籠る。
その瞳を覗き見ると、色々な感情でユーリの瞳は揺らいでいた。
何か…迷っている?

『…後悔、なさいますよ』

突然声だけが聞こえた。
ユウリの声だと、気付くのにしばらくかかる。
だが、そうだ。
ここにいるのは僕達だけじゃない。
けれど、ユーリはその声に驚いた訳じゃ無い様だ。
今の言葉に、何か衝撃を受けたんだろう。
じっと、姿を消している、ユウリの声がする方へと視線を傾ける。

「…後悔?」
『…はい。自分の感情を無意識にそうして隠して、…貴方は人の命の重さを誰よりも知っている筈。そして、その失う事の早さを』
「……」
『いいのですか?…例えどのような罪を持っていたとしても、伝える事を諦める理由にはならない。本当に伝えずに、その気持ちを心に深くしまいこみ、貴方を今抱いているその暖かい腕を失っても、…いいのですか?』

ユーリの視線が僕の方へとゆっくりと戻ってくる。
ユウリはきっと後悔したのだ。
待っていると言った事を。
ついて行けば良かったと。
だから、ユーリに同じ後悔をさせない様に。
そう…助言してくれた。

「……ユーリ、好きだよ」

ゆっくりともう一度、この気持ちをユーリに伝え、抱き締める。
すると、ユーリの腕はゆっくりと僕の背に回り…。

「…オ、レも、好きだ…」

小さく小さく呟き、僕の肩に頬を擦りよせる。
嬉しかった。
物凄く。
心の底から。

「うぁっ!?」

そして、相思相愛になったのだから、もう遠慮しなくてもいいよね?
そのまま、ユーリを揺さ振る。

「ちょ、まっ、ぁっ、あっ……んーっ」

ユーリが僕を好きだと言う感情を解き放してくれた時から、僕は何度も何度もユーリの中に放った。
もう許してくれと、ユーリが泣く姿もまた可愛くて、止まるに止まれない。
そして、窓の外がぼんやりと明かりが差し込み始めた時。

「もっ、むり、むりぃっ」
「ごめん、まだ、たりないっ」
「う、……あっ、そ、こ…も、やめっ、…んンッ」

全然ユーリが足りなくて。
まるで今まで抑えてた感情が爆発した感じで、ユーリをただただ求めていたら。
突然、何かに縛られているみたいに、体の動きが止められた。

『…団長代理…。流石に私も限界です』
「え?」
『もう、出ない…』
「あっ…」

すっかり忘れていた。
ユーリの可愛さに、我を忘れて、がっつき過ぎていたらしい。
フレズとユウリの為に、こうしていた事を。
僕達がし続ける限り、幽霊な二人もし続けてなければならない。
そして、それが限界になり、最終手段で僕の動きを止めたと。
そう言う事らしい。
フレズの腕にはユウリがぐったりともたれかかっていた。
ふと、自分の下をみると。
必死に呼吸をするユーリの姿が。
ユーリの睨みつける目が、「いい加減にしろ、馬鹿」と言っている。
…もう一回したかったけど…。
仕方ないか。
僕はユーリの中からゆっくりと引き抜き、体力の限界に来ているユーリを抱き締めた。
もう腕を上げるのも辛いくせに、ユーリは僕に抱きついてくれる。

「………」
『駄目です』
「……でも、ユーリ男だし、もう一回くらい」
『駄目です』
「……どうしても?」
『駄目です』

断固拒否された。
泣く泣く、疲れきって先に眠ってしまった可愛くて堪らないユーリを腕の中に抱いて眠りにつくことにした。
翌日。
ユーリは熱を出して寝込んでしまった。
誰の所為って、…まぁ、僕のせいなんだろう。
でも、僕は一切後悔していなかった。

ユーリの本当の気持ちが聞けた。きっとずっと心の中で押し込めていて、自分ですら気付かなかった感情を聞く事が出来た。
ユーリの凄い可愛い顔をみる事が出来た。腕の中でずっとすすり泣くみたいに鳴き続けるユーリが堪らなく可愛くて。
そして、ユウリとフレズを成仏させる事が出来た。

朝になったら、彼らの気配は無くて、体に違和感も無い。
満足して、成仏してくれたんだろう。

全ての問題は解決した。
あとはユーリの体が回復して、全ての準備を整えてデュークのいるタルカロンに挑むだけだ。


―――と意気込めたのは、その日だけだった。


その翌々日。
僕は夜。
皆の前で正座をしていた。

「ねむい」
「……すまない」
「頭痛い」
「……すまない」
「だるいのじゃ」
「……うぅ」

リタとパティが怒り、基本的に平和主義者のカロルさえ目がつり上がっていた。

「…え、っと、その…。でも、これはお二人に任せきった私達も悪いんですし」
「わんっ」

エステリーゼ様とラピードの優しさが、ますます僕を居た堪れなくする。

「まー、何はともあれ、フレンちゃん。おっさんも同じ男だし。好きな人に触りたいって気持ちも抱きたいって気持ちも分かる。でもねー。ユーリの体が治るまでは自重させてくれって、あの迷惑な幽霊たちが成仏する寸前に、おっさん達にお願いして行った訳よ。フレンちゃんがユーリにそう言う意味で触れる度に全員の頭に激痛が走って眠ってる所を起こされる。もう一種の呪いよね。お陰でおっさん達寝不足なの」

レイヴンさんが正論を言う。
…そう。
ユウリとフレズは成仏した。
したんだが。
ユウリはとても優しい人だったようで。どうやら、ユーリの事が余程心配だったらしく僕がユーリを抱こうとすると他の人がストップをかけれる様に仲間達に呪いをかけて行ったらしい。
ユーリが自分から求めてくれる時以外は出来ないなんて…。
じっとユーリを見るが、ユーリは自分にとっては何の苦でもないからと素知らぬ顔をしている。

「…フレン」

呼ばれ、ジュディスをじっと見る。
その美しい笑顔とは間逆の黒い怒りのオーラがジュディスを纏っていて……恐い。

「暫く、自重。……いいわね?」
「は…はいっ」

有無を言わさず。
とはこういう事なんだろうか。
必死に大きく頷く。
僕の所為で、寝不足になった皆は、睡眠をとりに自室へと戻って行った。
皆がいなくなった後でも、なんか申し訳ないのと、幽霊たちの置き土産への怒りとで、僕はただ俯いて座っていた。

「フレン」

ぽんっと肩に手を置かれ、ふと見上げると目の前にユーリの顔があり、ちゅっと唇に何か触れる。
それがユーリの唇でキスだと気がつくのに、数秒を要した。
その間にユーリがぎゅっと僕に抱きつく。

「…触れるなって言われた訳じゃねぇんだ。そう落ち込むなって。ほら、オレ達も寝ようぜ」
「ユーリ…」

そう言って、ベットに連れて行かれ一緒に布団にもぐりこみ、僕はユーリに抱き締められながら眠りに……つけるわけがない。
ユーリは、寝てるけど、僕はユーリが抱きたくて仕方ない。
でも、皆に自重しろって言われちゃったし…。
……少し、位なら…。
心に悪魔の尻尾が生えた気がして、そっとユーリの首に触れ様とした瞬間。

『自重っ!!』

そう、ユウリとフレズの叱咤が飛んできた気がして、僕は泣く泣く眠りにつく。

結局、ユーリとセックス出来たのは、ユウリとフレズの呪いの効力が切れた後。
デュークを倒し、全ての戦いが終えて、僕が騎士団長となった1年後の事だった。





―――何故か、僕が一番酷い目にあっている気がするのは、気の所為…だろうか?




end