強制結婚 ユーリ編
「ユーリ、ほら、覚悟を決めてっ」
「そうだよっ、僕だって着たんだからっ」
立派な白いドレスを持って、エステルとカロルがにっこり笑っている。
「い、いや。やっぱり俺には似合わねぇって」
言ってみたが。
「大丈夫っ!!(ですっ)」
無駄のようだ。
だいたい、どうして俺がこんな目に合わなきゃならないんだ。
そう、そもそも、フレンが悪い。
※※※
たまたま俺達が、オルニオンに立ち寄った時
。
『フレン隊長っ!!』
猫目の姉ちゃんがフレンを呼びに来た。
二言三言話すと、焦ったようにフレンは俺達に一言いって騎士団の方に走っていった。
まー、いつもの事だろ。
こうなると長い事も知っていたし、今日はここで一泊だな。
そう思って、宿屋に皆で向かっていると、
『ユーリっ!!』
いきなり走って行ったはずのフレンに呼びとめられた。
『なんだ?どうした?』
なんか、微妙に嬉しそうだ。
こんな時、こいつとの付き合いも長いな、とか思ってしまうが。
『僕と結婚してくれっ!!』
…は?
これは予想外だった。
『大丈夫。指輪もあるし、ドレスもあるっ!!』
『あ、あぁ。そう…じゃねぇよっ。お前いきなり何言ってるわけ?』
あまりの事に若干引く。
それが無意識に足に伝わり数歩後ろに下がった。
が、その分だけフレンが近づく。
『駄目かな?』
『普通駄目だろ。俺は男だっての』
『それは勿論知っているよ。いつも一緒にお風呂に入ってたし、入ってるだろ?』
…なんでそう誤解されるような言い方を…。
『だいたい、何で俺なんだ。女ならいっぱいいるだろ』
『それは、そうなんだけど…エステリーゼ様とは結婚なんて出来ないし、ジュディスはこうゆうの嫌いだろうし、パティは犯罪だろ?リタは…さっきから何でか僕を睨んでるし』
『なんでそこにいる姉ちゃんを入れないんだ?』
『ソディアには次の任務があるんだ』
…?
なんか、さっきから話がおかしい。
それに、それこそさっきから俺を睨んでるんだがな。
あの猫目の姉ちゃんが。
『お願いだよ、ユーリ。教会からの頼みで』
『ん?教会からの頼み…?』
『あぁ、そうなんだ。ここに新しく協会が建つんだけど、そこで教会の宣伝?もかねて、結婚式をやろうと言う話になって。新郎役は僕で決まっていたらしいんだけど。新婦役の娘が僕の顔を見た途端倒れちゃって』
開いた口が塞がらない。
『あー、なんだ。とにかく結婚するフリをしろって事か?なら』
くるっと後ろを向くと、エステルとジュディス、パティはニコニコ笑っており、レイヴンとカロルは遠ーくに。
リタは座ってラピードを背に本を読んでいた。
何か嫌な予感がしやがる。
『ユーリ、ね?結婚しよう?』
『はぁっ?新婦役だろっ!?俺は関係ないっ!適当に女見繕ってくればいいだろっ!大丈夫だっ!お前なら選び放題だろっ』
ここは…逃げるに限るっ!!
踵を返した、その時。
―――ガシッ。
腰に腕が巻きつく。
小さい手の何処にこんな力があるのか。
『ユーリはきっとドレスが似合うのじゃ』
『パティ、お前っ』
―――ギュッ。
背中に何か柔らかい物があたる。
後ろから首に回された腕が、普段なら嬉しいかもしれない、だが、今はまるで鎖のように感じる。
『安心して、誰もが見惚れる程綺麗にしてあげるわ』
『ジュディ…』
―――キュッ。
右手を握られる。
逃げるのは許さない。
目がそう言っている。確実に。
『早速ドレスを見に行きましょうっ』
『エステル…』
―――キュウッ。
左手が握られる。
照れてるのが、可愛い。
とかそんな問題ではない。これで四方囲まれてしまった。
『エステルがやるんなら、アタシも協力してあげるわ』
『リタ、お前もか…』
ヤバイ。
逃げられない。
こうなったら助けを呼ぶしかっ!
ラピードに視線を送る。
だが、相手がフレンの所為か、こっちを一瞬みただけでまたすぐ寝入ってしまった。
あぁっ、お前見捨てやがったなっ!!
ならっ。
『レイヴンっ!!』
『あー、仕方ないわね』
おっさんっ!
信じてたぜっ!
『シュバーン隊長…?』
後ろからフレンの低い声が聞こえる。
フレンのこんな声を聞くのは久しぶりだ。
どんな顔をして出してるのか、見たくても鉄壁の4防御が強くて振り向けない。
そんなフレンを見て、一瞬凍りつきレイヴンが次にとった行動は。
『あ、おっさんの心臓魔導器がっ!?』
『おいっ!!いきなり胸押さえて苦しがるなっ!!ってか、助けろよっ!!』
『青年、後の事は頼んだ・・・ガクッ』
おっさんを信じた俺が馬鹿だった。
そうだっ!
カロルはっ!?
カロルを見ると、リンゴ頭からしっかりと契約金を貰っていた。
あー…終わった。
※※※
「きゃあっ、ユーリ。とても綺麗ですよっ!」
「全く嬉しくない」
「あらユーリ、駄目よ?綺麗は女にとって最高の褒め言葉なのだから」
「俺は男だ」
「リタ姐、髪はおろすのか?」
「あー、ユーリならアップでもいいんじゃない?」
「…俺はおもちゃか」
フリルのふんだんについた純白のドレス。
履き慣れない踵の高い靴。
髪はあげられ、顔はバッチリ化粧をされ…。
「うわあ…ユーリ美人だね」
「これは、予想以上に化けたわね」
「てめぇら、他人事だと思って」
こいつら、どうしてくれよう…。
苛立ちがつのり、レイヴンだけでも殴ろうと立ち上がると。
「ユーリ、動いたら駄目なのじゃ」
パティに怒られる。
くそぉ…後で覚えてろよ。お前らっ。
―――コンコンッ。
ガチャリとドアが開き、フレンが顔を出した。
金髪の髪が映える白のタキシードだ。
「ユーリっ、凄いっ!見惚れる程綺麗だ」
「やめろ、男に言われても嬉しくねぇ」
「準備は出来たみたいだね。あ、皆も親者として参加して貰う事になるんだけど。レイヴンさんはユーリの父親役でお願いしますね」
「えぇー、おっさんでいいのー?」
「はい、勿論です」
…地獄だ。
何で、男(レイヴン)のエスコートで男(フレン)の所に嫁がなきゃならないんだ。
そーっと、そーっとフレンの視界から外れるようにして窓の方に近寄る。
フレンは、他の皆と話していて気付いてない。
今がチャンスだ。
窓を飛び越えようと、窓枠に捕まった瞬間。
「ユーリ」
ギクッ!!
「何処へ行くんだい?」
「ちょ、ちょっと便所にでも行こうかなーって…?」
「なら、外に出なくてもこの建物の中にあるよ。僕が案内してあげる」
「い、いや、いい。遠慮する」
「僕と君の仲だろ?遠慮なんかしなくていいよ」
腰をつかまれ、ズルズルと引きづられる。
「だあああっ!!放せっ!!」
「あぁ、ドレスがしわになるね。じゃあ、こうして」
腰に回っていた手に力が入り、ぐっと持ち上げられ体が軽く浮く。
そのまま、膝の裏に腕が入り込み、気付けばお姫様抱っこ。
屈辱だ…。
「さ、トイレに行こうか」
!?
嘘だろっ!?
「いいっ!!行かないっ!!やっぱり行かなくていいっ!!」
「そう?我慢してない?」
「してないっ!!」
「なら、ここにいるよね?」
フレンの腕からおり、ホッとするが腹も立つ。
なんであんな軽がる…。
こうなったら意地でも隙を見つけて逃げてやるからなっ。
そう決意したものの、フレンがずーっと見張っていた所為で、逃げるに逃げれなかった。
そして、とうとう恐れていた挙式の準備が終わってしまった。
俺は買収されたレイヴンに連れられ、教会の外で待つ。
「もう、逃げるの諦めたら?青年」
「そうは言うけどなー。結婚式なんて言ったらアレがつき物だろ」
「アレ?」
「そう、だから、俺は逃げるっ!」
今度こそ、と思い逃げ出そうとするが。
その前にドアが開いてしまった。
レイヴンの腕に捕まり…つかまりヴァージンロードを歩く。
死ぬほど恥ずかしい。
顔がヴェールで隠れているのがせめてもの救いだ。
ヴァージンロードの先にフレンが笑って立っている。
フレンの前に立つと、レイヴンからフレンへと俺が進呈される。
式は何故か滞りなく進む。
何でだ?
どこからどう見ても俺は男だろっ!
イライラしていると。
「〜誓いますか?」
いつの間にか結婚の誓いまで式が進んでいた。
フレンはじっと俺の顔を見つめる。
…仕方ねぇか。
ここまできたら。
「…誓います」
これは一種のイベントのようなもの…のはず。
「では誓いのキスを」
フレンと向かい合う。
そっとヴェールがあげられる。
まー、フレンの事だから上手いことホッペにでもするだろ。
そう思い込み、自分を騙し目を閉じた自分が馬鹿だった。
そっと手が肩を掴み、フレンの唇が―――唇に触れた。
「んんっ!?」
ちょっと、待て待て待てえええっ!!
何で口っ!?
振り解こうにも肩をつかむ力が半端ない。
殴るっ!
絶対に殴るっ!!
キスの1つや2つ、どうって事無いがそれでも、腹が立つのは別だっ!!
ぐっと手に力を込め握り締めた時、フレンの唇がはなれ、耳に息がかかるくらい近寄り、
「ユーリ、騎士団長の僕と争って、ギルド潰したくないよね?」
ささやいた。
柔らかい声に容赦のない脅迫。
ちっくしょうっ…卑怯だぞ。フレン
。
怒りで憤死しそうな中何とか、結婚式を乗り切った。
次の日。
フレンは嬉しそうに俺の前で紙を広げた。
「なんだ?これ」
「これで、ユーリは僕のものだね。ユーリ」
その紙には婚姻届と書いて…おい?
「これって偽物だよな?」
「え?何言ってるんだい?本物だよ?昨日式挙げたろ?」
もしかして、昨日の書いた婚姻届は本物だったのか…?
「嘘だろ?」
「だから、本物だってば。ユーリ、幸せにするからね」
そう言って俺を抱き寄せ、唇が重なる。
俺は、今までの恨みつらみを込め、渾身の力でフレンを殴り飛ばした。