強制結婚 フレン編
折角、ユーリと旅をしていると言うのにこうも呼び出されては…。
一緒にいられないじゃないかっ!!
と、つい怒鳴りたい気持ちを押さえ込み、ソディアの呼び出しに応じた。
急いで呼びに来たので、ユーリ達と離れ騎士団本部に走ったのだが…。
「至急返事をお願いしたいのですが…」
渡された書類は、確かに僕でなければいけない書類だった。
ヨーデル殿下直々の命令書。
だが、これは既に完了させた命令だ。
報告書も出来上がっている。
ここ、オルニオンにまだいるはずの殿下へ届けようと思っていた。
正直こんな物の為に僕はユーリとの貴重な時間を、と思うと肩が落ちる。
「返事は今すぐ必要かい?」
「はっ。殿下が出来る限り急いで欲しいと…」
「成る程。報告書は出来ているから、じゃあ、これを届けて貰えるかい?ソディア」
「はいっ、お任せ下さいっ。それと、隊長」
「うん?どうかしたのかい?」
「殿下の伝言ですっ」
そう言って、差し出された書状。
なんだろう?
何か事件でも起こったのだろうか?
受け取り紐を解き、文字に目を走らせる。
…これはっ?
心から喜んでしまう一言が書いていた。
これは、もう行くしかないっ!
ユーリっ、今行くから待っていてくれっ!!
走って戻ると、僕の求めている美し過ぎる黒髪が目に映る。
「ユーリっ!!」
振り返るユーリの表情が可愛い。
だけど、僕が走って戻ってきた所為か少し表情が焦ってる。
「なんだ?どうした?」
目が心配と言っている。
こうゆう小さい事が分かる幼馴染が僕でよかった。
だが、今はそれ所ではない。
伝えなければっ。
「僕と結婚してくれっ!!」
あぁ、キョトンとしてるユーリが可愛すぎる。
「大丈夫っ!指輪もドレスも(いつかユーリに着せようと思って用意して)あるっ!!」
「あ、あぁ。そう…じゃねぇよっ。お前いきなり何言ってるわけ?」
ユーリが数歩後ろに引く。
そんなの気にもなんない。
ユーリが下がる分だけ近づく。
「駄目かな?」
「普通駄目だろ。俺は男だっての」
「それは勿論知っているよ。いつも一緒にお風呂入ってたし、入ってるだろ?」
いつも理性を保つのにどれだけの労力を消費しているか…。
「だいたい何で俺なんだ。女なら一杯いるだろ」
確かに女性は一杯いるが、僕はユーリがいいんだ。
「それは、そうなんだけど…(ユーリの魅力には皆敵わないんだ)。
エステリーゼ様とは結婚なんて出来ないし(する気もないし)、ジュディスはこうゆうの嫌いだろうし(僕が好きな人を既に知ってるから結婚なんてありえない)、パティは犯罪だろ?(僕のユーリを奪おうとするから)、リタは…さっきから何でか僕を睨んでるし(もしや、リタもユーリを狙っている?)」
「何でそこにいる姉ちゃんを入れないんだ?」
「ソディアには次の任務があるんだ(僕とユーリの結婚を許可してもらう為、殿下に陳情する任務が)」
あれ?何だろう?
ユーリの目が疑問を帯びている。
何で?もしかして、僕の気持ちが嫌っ!?
どうしよう、このままじゃ僕とユーリのラブラブな人生がっ!!
何か良い手段は…。
…そうだっ!!
そういえば、前ここで新しく建つ予定の教会の神父さんがこの前っ。
『どこかに結婚式を挙げたいカップルいませんかねぇ?あぁ、そうだ。騎士様に恋人とかいませんか?
この街を作り上げた騎士様が一番に結婚式を挙げる。あぁ、いいですねぇ。いかがですか?騎士様。これを気に結婚など…』
って言っていた…。
じゃあ、あそこの神父さんに協力して貰おうっ!!
半強制的に。
「お願いだよ、ユーリ。教会からの頼みで(恋人を連れて来いって)」
「ん?教会からの頼み?」
ユーリの表情が緩んだ。
ここを押して行けば、いけるっ!!
「あぁ、そうなんだ。ここに新しく協会が建つんだけど、そこで教会の宣伝?もかねて、結婚式をやろうと言う話になって。新郎役は僕で決まっていたらしいんだけど。新婦役の娘が僕の顔を見た途端倒れちゃって」
新婦役なんていないけど。
というか、ほとんど嘘だけど。
ばれなければ、真実になるって、ユーリが昔言っていたよね?
手段なんて、選んでいられない。
ユーリの顔を見ると、呆れ顔だ。
「あー、なんだ。とにかく結婚するフリをしろって事か?なら」
ん?
納得してくれた?
いや、違うか。
何となく微妙な気がする。
これは僕のプロポーズを受けたとは言えないよね?
ユーリを見つめると、視線を外し、くるっと後ろを振り返った。
だけど、助けを求めようとした仲間達は遠くでニコニコ微笑んでいる。
リタにいたっては、ラピードを背に本を読んでいた。
エステリーゼ様達は僕の味方のようだ。
ならば、ユーリの説得を続けよう。
「ユーリ、ね?結婚しよう?」
ねぇ、ユーリ。うん、といってよ。
「はぁっ?新婦役だろっ!?俺は関係ないっ!適当に女見繕ってくればいいだろっ!大丈夫だっ!お前なら選び放題だろっ」
ユーリが踵を返したっ!?
逃がさないよっ!!
女性陣と目線が合った。
そして、その後の動きが早かった。
パティがユーリの細い腰に抱きつき(ズルイ)、ジュディスがユーリの色気漂う背中に胸を押し付けるように抱きつき(ズルイっ!!)、
エステリーゼ様がユーリの細い右手を掴み(羨ましい)、リタがユーリの美しい左手を掴んだ。
ユーリも流石に女性陣には逆らえないのか、フリーズしている。
自分だけでは逃げ切れないと判断したのか、「レイヴンっ!!」とシュヴァーン隊長を呼んだ。
シュヴァーン隊長が小さくため息をついて、「仕方ないわね」と腰をあげユーリを助けるべく近寄ってきた。
何だかんだで、シュヴァーン隊長はユーリを好きと言う事なのかな?
…いくらシュヴァーン隊長と言えど許しませんよ?
「シュヴァーン隊長…?」
僕の顔を見た途端、胸を抑えてしゃがみこんだ。
「あ、おっさんの心臓魔導器がっ!?」
「おいっ!!いきなり胸押さえて苦しがるなっ!!ってか、助けろよっ!!」
「青年、後の事は頼んだ…ガクッ」
いい判断です。シュヴァーン隊長。
ユーリがキョロキョロ誰かを探し、肩を落とした。
カロルを探していたのか。
だが、カロルはウィチルから契約金を貰っていた。
ウィチル、ありがとう。
僕はいい部下をもったよ。
ユーリを引きつれ、教会へ向かって歩き出した。
※※※
神父さんとの裏工作は成功した。
これで、僕はユーリと…。
嬉しいすぎる。
僕の為に、ユーリがドレスを着てくれるなんて…。
どうしようっ!!
早くみたいっ!!
この腕に抱きしめたいっ!!
僕の準備はバッチリだよ、白のタキシード。
完璧だよっ!!
後はユーリの準備を待つだけ…。
…。
………。
……………駄目だっ。
我慢できないっ!!
僕のお嫁さん(ユーリ)を見に行こうっ!!
軽く急ぎ足で、新婦控え室の前につく。
最低限の礼儀として、ドアを叩き、ドアを開けると…。
そこには、女神がいた。
眩い程の光を放っている。
本当に、本当に綺麗だっ。
純白のドレスに、ユーリの黒髪がはえてとにかく綺麗…。
ユーリがこっちを見つめた。
恥ずかしいのか、頬が少し赤くなっている。
それが、可愛くて、つい。
「ユーリっ、凄いっ!見惚れる程綺麗だ」
心の底から出た気持ち。真実なのに。
「やめろ、男に言われても嬉しくねぇ」
と、ふてくされられた。
あぁ、可愛い。
ユーリ、可愛い。
とはいえ、表情には出さないで、必要な連絡事項を伝える。
「準備は出来たみたいだね。あ、皆も親者として参加して貰う事になるんだけど。レイヴンさんはユーリの父親役でお願いしますね」
「えぇー、おっさんでいいのー?」
「はい、勿論です」
ニッコリ笑って答える。
…所で、ユーリ。
ばれないように動いてるつもりなのかも知れないけれど。
バレバレだよ。
「ユーリ」
名を呼ぶと、窓枠から今にも飛び越えようとしていたユーリが固まった。
逃げようなんて甘いよ?
「何処へ行くんだい?」
「ちょ、ちょっと便所にでも行こうかなーって…?」
「なら、外に出なくてもこの建物の中にあるよ。僕が案内してあげる」
「い、いや、いい。遠慮する」
「僕と君の仲だろ?遠慮なんかしなくていいよ」
花嫁が逃げるなんて許さないよ。
腰に腕を回し、ユーリを引き摺りながら、トイレへ向かうフリをする。
「だあああっ!!放せっ!!」
「あぁ、ドレスがしわになるね。じゃあ、こうして」
ユーリの膝裏に手を入れて、抱き上げた。
…ユーリ、ちょっと軽すぎるよ。
同じ身長のはずなのに、この体格差。
可愛いすぎる…。
とりあえず。
「さ、トイレに行こうか」
言うと、ユーリの顔が青ざめた。
「いいっ!!行かないっ!!やっぱり行かなくていいっ!!」
「そう?我慢してない?」
「してないっ!!」
「なら、ここにいるよね?」
聞くと、小さく頷いた。
ホントは降ろしたくないけど、ずっと腕の中にいて欲しいけれど…。
ユーリが暴れたら逃げられてしまうから、しぶしぶ降ろした。
時間が来るまで、ユーリの花嫁姿を目に焼き付けようと見つめ続けた。
飽きないのか?とカロルは言うが、飽きるわけがない。
僕の花嫁(ユーリ)…。
そして、とうとう夢にまで見たユーリとの結婚式、挙式が始まった。
中で待っていると、ドアが開きシュヴァーン隊長の腕につかまりヴァージンロードを歩いてくる。
僕のユーリが、僕のもとへ来てくれる。
僕の為に…。
目の前にきて、ユーリの手をそっと握った。
腕が僕の腕にからみ、一緒に歩き出す。
可愛い可愛い可愛い…。
頭の中がユーリ一色で染められていった。
式は滞りなく進む。
結婚式の山場。
僕が誓った後、ユーリに神父が問いかける。
「〜誓いますか?」
ユーリの誓いの言葉っ。
ドキドキして見つめて待っていると…。
「…誓います」
ユーリ…。
嬉しいよっ。
これで、ユーリは僕のお嫁さんなんだねっ!!
心の中はもうハート乱舞だったりするが、今は式の最中。
「では、誓いのキスを」
来た。
来たよ?
ユーリと向き合い、そっとヴェールをあげると綺麗なユーリの顔が…。
しかも、ユーリから瞳を閉じて僕を求めてくれているっ?
ユーリの肩をつかみ、そっと唇を重ねた。
「んんっ!?」
嫌だな、ユーリ。
照れてるのかい?
ぎゅっと肩においた手に力をいれる。
目をそっと開くと、ユーリの拳に力が込められていくのに気付く。
殴られる前に防御策をとる。
「ユーリ、騎士団長の僕と争って、ギルド潰したくないよね?」
耳元でささやくと、ユーリがひたすら苛立ちを押さえ込んでいた。
皆に祝福され、僕はユーリをお嫁に貰う事が出来たのだった。
※※※
次の日。
「なんだ?これ」
ユーリが僕の広げた紙の内容を見て目を点にしていた。
「これで、ユーリは僕のものだね。ユーリ」
その紙には婚姻届と書いている。
そう、昨日式の間に署名した婚姻届だ。
しかも、ヨーデル殿下の署名入りの立派な婚姻届。
「これって偽物だよな?」
「え?何言ってるんだい?本物だよ?昨日式挙げたろ?」
昨日のユーリは可愛かった。
「嘘だろ?」
「だから、本物だってば」
ヨーデル殿下の書状には、今回の任務の褒美に一つだけ願いを叶えてくれると書いていた。
だから、ユーリと結婚したいと思って即行動したんだ。
僕はユーリを見つめ、幸せから頬が緩む。
「ユーリ、幸せにするからね」
ポカン顔のユーリを抱き寄せ、柔らかそうな黒髪を一房手に掴みキスをする。
そのまま手を動かし触り心地の良い頬に触れ唇を重ねた。
こんな時決まってユーリは拳を握り締め、殴りかかってくる。
その手を全力で押さえ込み、ユーリの唇を心ゆくまで味わった。