You that nobody knows  中編





『お前、ユーリの事好きなんじゃねーの?』


…何と言う爆弾を落としてくれたんだ。
がっくりと肩を落とした。
今回もまたクラスメートの一言だった。
ただでさえ、【エロ本】と言う爆弾を昨日、消火したばかりなのに。
今日も今日とて、ユーリは補習で僕の方が先に帰って来た訳だけれども。
生徒会の仕事?そんなもの、当に今日の分は片づけてある。
そんな事より、そんな事よりもっ!!
僕がユーリを好きっ!?
僕は男だ。勿論ユーリも男だ。
何せ、ここは男子校。しかも、更に言うなれば男子寮。兎に角、どう考えても男なんだっ!!
…それで、何だって?僕がユーリを好き?…ありえない。
ありえないのに、何故僕は何処かで納得してるんだっ!?
…わからない。
そもそも、恋愛感情って物が分からない。

と、思って勉強の為に図書館で借りてきた本。タイトルは、


【恋愛100の掟】


それをベットの上で昨日と同じように正座して対峙していた。
この状況二度目である。でも、今日は特に覚悟はいらない。
さっさと、この謎を解いてしまいたい。ペラリとページを捲る。
えーっと、何々?大文字で何か書いてある。


【この本に助けを求めた地点で、もう貴方は恋に落ちているっ!!】



……。
…………。
………………。

……はい?

ちょっと待ってくれ。落ち着け。落ち着くんだっ!いや、誰か僕を落ち着かせてくれっ!?
って事は何かっ!?僕はもうユーリを好きになっているって、そう言う事かっ!?そう言う事なのかっ!?
ああぁ……。また心臓が早鐘を打っている。連打みたいな速さで。
でも…そっか。そうなのか。僕はユーリの事が…。

「ただいまーっ」
「うわぁっ!?」

デジャヴ。
ユーリが気付く前に、本を毛布の下に突っ込む。
すると、ゆっくりとテステスと足音が聞こえ、ユーリがぺしっと僕の頭を叩いた。

「昨日に引き続きなんなんだよ。お前」
「ご、ごめん」

素直に僕が悪いことだから謝る。
むうっとしながら、ユーリは鞄を机の上に置き、珍しく鞄を開けたかと思うと教科書を取り出した。
珍しい…。気になって行動を見守っていると、ユーリはそのままベットに腰をかけて座っていた僕の横に座りパラパラとページをめくり。

「ここ、教えてくれ」
「え?」

…明日は雨だろうか。

「だから、ここ。教えてくれ。今日の補習で教わったんだけど、今一理解出来ねぇ」

…明日はきっと雪だ。こんな真夏に雪が降る様な事するのはやめてくれ。

「…駄目か?」

小首を傾げるとか…。さらりとユーリの髪が肩から滑り落ちて、ふわりとユーリの香りが僕の鼻腔を擽る。
ブルブルと頭を振り、目の前のキラキラと光るユーリを脳内から弾き飛ばし、ニッコリ笑った。

「ユーリが勉強する気になったのなら、勿論協力するよ。で、どこだい?」

取りあえず、ユーリと距離をとってから、教科書を覗きこむ。
そこからは普通の授業だった。何とか今回も乗り切った気がした。
…そうだ。ユーリと少し距離をとれば、平気なんじゃないかっ!?
何とか色々解決出来そうな案が出て、僕は素直に喜んだ。


……のは、その日だけだった。



正直、耐え切れない。
今まで、どれだけくっ付いて生活していたんだろうって事である。
学校では、登校も一緒。靴箱も隣接し、席も隣。昼食は勿論一緒に食べるし、出席番号は遠くても、掃除当番は何時も一緒。寮は寮で同室。

これで一体どうやって距離を取れと言うんだっ!!

いや、自業自得と言えばそうなんだが…。
だって、ユーリが他の人と話しているだけで嫌だったんだ。
僕以上に親しい人がいるとか考えると……イラッ。

でも、ちょっと、それ以外にも最近のユーリはやけに僕にくっついてくる。
学校内でも前以上にやたらと触ってくる気がする。クラスメートとジャレている時も肩組んできたり、抱きついてきたり…。
その度に僕の心臓は、ドラムロール並みにドキドキがフルスピードになっている。
寮の部屋に帰る頃には、もう、げっそり…である。

恋愛本を読んでから、二週間。
もう一度言う。
正直に言って、耐えられないっ!!

ユーリの顔が口が近付く度ユーリの唇にくぎ付けになるし、腕の中に入る度抱きしめ返したくなるし、首筋が見えると舐めたくなるし、お風呂上がりにタオルだけ腰に巻いて出て来ると押し倒したくなるしっ、……とにかく駄目だっ!!

うぅぅ…。これが、あれなのか?悶々としている…って奴なんだろうか…?
今日なんて、朝からべったりと一緒で、体育の着替えまで一緒に行こうってなって…。
ユーリを好きだと自覚してしまってからは、ユーリの着替えすら直視できない。…しかも、昼休みの今現在に至っては…。

「フレン。飯食おうぜ」
「う、うん。じゃ、食堂行こうか」
「いや、大丈夫。オレ作って来た」
「え?あ、そうなんだ。じゃ、机くっつけようか」

べったり密着度二割増し。

(……何故?)

分からない。何でこんな近くにいるんだっ!?
男を好きな自分が嫌だろうから、泣く泣く自分から距離をとってるのに、ユーリはその距離をあっという間に縮めて来る。
…でも、もしかして…ユーリも僕が気になるって事かな…?
だとしたら、これ以上ない位嬉しいんだけど…。
思考はグルグルと回りつつも、隣にあるユーリの机に自分の机をくっつけて、ユーリはその上に弁当箱を広げる。それは、どれも僕の好物だらけだった。鳥のから揚げ、ハンバーグ、カツサンド…。勿論野菜も入っているけれど、それだって肉じゃがみたいに色々味がついている。凄く美味しそうだ。
美味しそうなんだけど…。

「結構、自信作だぜ〜。ほら、フレン、口開けろよ」
「う、うん。あ〜…ん」

箸で挟まれた一口煮込みハンバーグを口の前に差し出され、断る理由も無く素直に口に含む。
むぐむぐと咀嚼する。ハンバーグ。肉汁が口の中に広がり凄く美味しい。
美味しいんだけど…。

「美味しい…」

呟いて、嬉しそうににっこり笑うユーリの方が、美味しそうなんだけど…。

「ほら、これも…」

カツサンドを渡してくる。…そんなユーリの方が可愛いし、美味しそうなんだけどっ!!
僕は、必死に我慢して、色々我慢して、その日を乗り切るはずだったのに…。


―――放課後。


『一緒に帰ろうぜ』

ユーリの一言により、一緒に帰る事になった。
そもそも、今日はユーリは補習が無く、僕は生徒会での仕事があるから一緒に帰れないはずなのに、待ってるの返事。
ううぅっ!!可愛い可愛い可愛い……。
生徒会の仕事が終わって夕日の光でオレンジ色になっている教室に戻ると、ユーリは机に突っ伏して眠っていた。
やっぱり可愛い…etc。
…駄目だ。もう、何か色々駄目だ。ここに机とか人の目がなければ、きっと膝から崩れ落ちていた所だろう。
そんな感情をぐっと飲み込み、ゆっくりとユーリに近づき、寝ているユーリを揺らす。

「ユーリ、起きて…。帰ろう?」
「……ん、……フレ、ン…?」

…ふにゃんと笑うユーリが可愛くて、そっと頭を撫でるとその手を取って、頬をすりよせて…うぅ。
もう、色々試されている気がしてならない。我慢の限界が…。
兎に角手を離し、ユーリの頭をペシっと叩き、鞄を掴みユーリと距離をとる。
すると、ユーリは若干寂しそうに目を揺らすと、直ぐに何時もの顔に戻り、ゆっくりと歩き出す僕に早足で追いついて来た。
学校から寮なんてそんな距離は無い。何せ同じ敷地内なのだから。
特に何を話す訳でもなく当たり障りのない下らない話をしながら、寮に戻り真っ直ぐ食堂に向かいご飯を食べて、部屋へと戻って来た。

ユーリが汗を流しにシャワールームへ行ったのを確認し、煩悩を追っ払う様に一心不乱に机に向かって教科書を開きながら唸っていると。

「なぁー、フレン」
「なんだい?ってっ!?ユーリ、何て恰好してるんだっ!?」

名前を呼ばれたから振り返ると、そこには腰にタオルを巻いたまま体中美味しそうに…いやいや。水を滴らせているユーリがいた。

「オレのシャンプー切れちまったんだけど、お前の貰って良い?」
「す、好きに使ってくれて構わないから、早く戻ってくれっ!!」
「へいへい」

目…、目に『毒』だった。
シャワーでほんのりと赤くなったユーリの体が脳裏をチラつく。
だ、駄目だっ!!勉強に集中っ!!…出来る訳がないけれど…。
机に向かってはぁと溜息をつくと、後ろからぎゅっと首に腕を回され抱きしめられた。

「フレン、お前まだ勉強してるのか?もう、22時過ぎてるってのによ」
「……ユーリ、邪魔をしないでくれないか」

頼むから、本気でそう思う。なんとか首に絡まっている手をどかそうとするが、全く動かない。
本気で力を入れればいいんだろうけど…。
振り返って、ユーリの顔をみると、……あれ?
ユーリと言えば、何時も自信満々で、どんなことでも鼻で笑い飛ばす様な…なのに、今は悲しげに僕を見ている。
何で…?

「フレン、お前さ」
「うん…?」
「オレの事、邪魔になったか?」
「えっ!?」
「最近、意図的にオレから距離とってただろ?」

何で、バレてる?そんなにあからさまだっただろうか…?
驚いた顔をしていたんだろう。ユーリは僕の顔をみて苦笑いを浮かべた。

「ったく、邪魔なら邪魔って言えよ。そしたら、オレだってそれなりの対応してやるからさ」

それなりの対応?
…それは、ユーリは僕から離れようと思えば何時でも離れられるって事?
突発的に動いていた。
自分を覗きこんでいるユーリの後ろ頭を掴みぐいっと引き寄せ、唇を重ねた。

「んんっ!?」

首に回っていた手が外れ、肩に手をついて逃げようとするけれど、回した手に力を込め、逃がさない。
…こう言っちゃ駄目なんだろうけど、ずっと触れたいと、キスしたいと思ってた念願のユーリの唇。
―――甘い…。

「んっ、んぅっ」

ユーリの顔、真っ赤だ…。可愛い…。
もっとユーリの反応が見たくて、ぺろりとユーリの唇を舐めて、驚いて文句を言おうとして薄く開かれた唇を割る様に舌を押し入れる。
歯列の裏をゆっくりとなぞる。そして、逃げを打つ舌を絡め取る。
肩にあるユーリの手がぎゅっと僕の服を握った。
どうしよう、止まらない。
ちゅっ、ちゅっと唾液が絡まる水音が響き渡る。ユーリがきつく目を閉じた。耳まで真っ赤だ。
耳、可愛いな…。触りたくなって、頭の後ろに回した手をそのままにもう一方の手で耳の裏を擽る。すると、ユーリの力が一気に抜けおち、唇が外れた。

「はっ……はぁ…。い、いきなり、何しやがる…」

力が抜けて、床にぺたんと座りこんでしまったユーリの前に、椅子から立ち上がりしゃがみこむ。
顔を見たくて覗きこむと、ふいっと顔を逸らす。見たかったユーリの表情が、黒く艶やかな髪に隠されてしまう。
それが何か腹立たしくて、ぐいっと腕を掴みあげ、無理矢理立たせると直ぐ横にあるベットへと、引き摺りこむ様にベットへと押し倒した。

「ちょ、何、フレ、んっ!?」

甘い…。ユーリの唇…。
逃げない様にぐっと抱きしめて、またキスをする。
そう言えば、これ僕のファーストキスだったっけ?
…って事は、ユーリも間違いなくファーストキスだよね?
口の中を舐めつくし、息をも奪い取り、口の中で互いの舌が作り出す唾液をユーリに流しこむ。すると、ユーリの口の端から伝い零れる。

「……はっ、はぁ…」
「ねぇ、ユーリ」

荒い息で、呼吸を整えようとしているユーリの目を覗きこみ問い掛けると、眼だけで何?と聞いてくる。

「これ、ユーリにとってもファーストキスだよね?」

聞くと、かぁっと顔から湯気があがりそうな位赤く染まる。
それが、また堪らなくて、ちゅっと啄む様なキスをして、伝った唾液を舐め取って、ニッコリと笑う。

「お、お前だって始めてだろうがっ!?」
「うん。初めてだよ」

ユーリのファーストキス。それを貰えた喜びの、その感情のままユーリをぎゅっと抱きしめる。
しかし、ユーリにしてみれば行き成り男にファーストキスを奪われて、押し倒されて抱き締められている訳で、当然。

「フレン、いい加減離せってっ!!」

ぐいーっと顔を押しやられる。
…ここは、離してやるべきだろうか。仕方なく、ユーリを離し、起き上がるとユーリも上半身を起こす。
顔が未だに真っ赤で、僕の事を直視出来ないのか、視線を彷徨わせる。
どうしよう…可愛い…。
もう一回、したい…。ユーリの唇に、触れたい。

「フレ、んんぅっ!?」

ユーリの上に覆いかぶさり、顔の両脇に手を置き逃げ道を無くし、再び唇を重ねた。
驚き、目を見開くユーリすら、僕にとっては可愛くて。ユーリの唇を、舌を堪能しながら僕の脳は、どうやったら僕の知らないユーリの顔を見る事が出来るか。
それだけを考えていた…。