※ フレンが人間から逸脱した能力を発揮します。
※ ユーリが子供化します。
僕のユーリ(小)
「ちょいと、お客さん。寄ってかない?」
いかにもな店員が怪しい顔をして呼び込みしている。
確かにここ『カプワノール』は、活気のある港町だ。
色んな商店もあり、それこそ不法の商店もある。
そんな不法な商店が立ち並ぶ街道をギルドの依頼でギルド『凛々の明星』は歩いていた。
今日のメンバーは、ユーリ、エステル、カロル、ラピード。
下町で慣れ親しんでしまったユーリとラピードは別として、エステルとカロルはこんな雰囲気初めてなのか、ユーリとラピードにピッタリとくっついていた。
「お兄さん、いい商品あるよ〜」
「悪い、後でな」
「お嬢さん、この指輪安くしとくよ〜」
「おいおい、こいつにはそんなでっかい宝石似合わねぇよ」
行く先々で声を掛けられては、あっさりとあしらい目的の店へ向かって行く。
「あ、ここだよっ。ユーリっ」
「ん?」
店の看板には『魔法薬の店 きゃんでぃ』と書いてある。
「…うーわー…。カロル、マジで入るのか?看板の文字を素直に見れないんだが」
「え?だって、間違いなくここだよ?」
「看板、とっても可愛いです♪」
今、ユーリは素直に。
(おっさんかジュディを連れてくれば良かった…)
と後悔していたが、もう遅い。何故なら。
「ごめんくださーいっ」
カロルが元気良く、店の中に入って行った為だった。
この変わり様に肩が落ちる。
仕方なく後を続いて入ると、一瞬ユーリは回れ右をしたくなる衝動に駆られた。
何せ、店の中は見渡す限り『女性』だけ。『やっぱり』って言葉が頭の中をくるくる回る。
その点、カロルは遠慮も何も無く入って、一番奥のカウンターに真っ直ぐ向かっていく。
一人行かせるのもと思い付いて行くとヒソヒソと囁き声が聞こえる。
男が入る場所じゃないのは、ユーリ自身が重々承知しているが、依頼でしかもカロルとエステルだけには出来ない。
何とも出来ないこの悪循環から脱却するには、さっさと依頼をこなすに限るっ。
と言う訳で、周りの声をシャットアウトし、店長と思わしき女性(ジュディス並みのプロポーションをしているのがマント越しにもよく分かる)にカウンター越しにカロルが声をかけた。
「あらあら?僕ちゃん?どうしたのかしら?」
「貴女が店長さんですか?僕、カロルって言います。カルタって女性からの依頼で『ある薬』を貰って来て欲しいって言われて来ました」
「カルタ…?あぁ、あの人ね。はいはい。ちょっと待っててね」
そう言ってカウンターの奥に行って直ぐに小さな小瓶を持って戻ってきた。
「はい。これね」
「ありがとうございます。えっと、確かにお受け取りしました」
ぺこりと頭を下げると、女性はニッコリ笑ってカロルの頭を優しく撫でた。
「可愛いわねぇ。私、彼方みたいな子大好きなの。そっちのお兄さんもいい感じだわ」
「そいつぁ、どうも」
褒められて悪い気はしない。
「そうだわ。これ、おまけであげるわ」
そう言って渡されたのは桃色の小さな瓶。蓋にはガラスで出来たハートがついている。カロルの手の上にコロンと転がる位小さな瓶だ。
「これは?」
「使ってみてのお楽しみ♪」
「どうやって使うのでしょう?」
「簡単よ。体にかけるだけ」
「…大丈夫なのか?体に副作用とか…」
「大丈夫よ。私が保証してあ・げ・るっ♪」
はっきり言って何の説得力も無い。
何時までも居続けるのも苦痛なのでさっさと店を出て、何時もの大街道に戻る事にした。
依頼人はザーフィアスの市街地にいる。
今度はそこまで届けに行かなくては、と他のメンバーの待つ。
港のベンチに座って待っていると、暇なのか先程店で貰った小瓶を取り出した。
「これ、何だろう?」
「使ってからのお楽しみとか言ってたな」
「はい。『体にかければいい』とも言ってました」
「ワフゥ?」
3人と1匹で頭を捻る。
「瓶に何か書いてないのか?」
「え?うーん?ちょっと待って」
手のひらでコロコロと転がし、
「あっ。えーっとねー。『このお薬は2回分入っております』だって」
「2回分?ますます胡散臭ぇな」
「でも、面白そうですっ♪」
「マジか?オレはちょっと遠慮してぇな」
「じゃ、ジャンケンで決めよっ。負けた人が使う事っ」
ユーリの意見はスルーでジャンケンが実行され、
「ジャーンケーン、ポンっ!」
「っ!!?」
「…勝っちゃいましたぁ…二人ともズルイです」
結果は、ユーリ、カロル共にチョキ。エステルがグーで一人勝ち。
「じゃ、早速使ってみるねっ」
蓋を空けて、カロルが自分にかけてみる。
だが、何の変化もない。
「何か変わったのか?」
「えー?別に何も変わってないよー?ユーリも使ってみてよ」
そう言って、ユーリにカロルが薬をかけた。すると。
「えっ!?」
エステルより上にある筈のユーリの目線がカロルと並んでいる。いや、下手するとカロルより下かもしれない。
「んなっ!?何だ、コレっ!?」
「ユーリが、子供になっちゃいましたっ!?」
「もしかして、カロルに効かなかったのは…」
「カロルが子供だったから、です?」
「…と考えるのが妥当だろうな」
服がブカブカな所為で、ユーリがますます小さく見える。
「と、とりあえず服をどうにかしないと」
カロルが的外れな事を言う。
「あ、そうですっ。フレンに伝えるのはどうですかっ?」
「はっ?何でっ?」
的所か、検討違いの矢をエステルが放つ。
しかも、ユーリにしてみればそれだけは絶対に避けたい選択肢だ。
今、ここでフレンにあったとしたら間違いなく…。
『ユーリ…。そんなに小さくなっちゃって、どうしたの?すっごく可愛いよっ!?』
想像が容易過ぎて、軽く寒くなる。だが、そんな想像も事実となった。
「あれ?カロル?それに、エステリーゼ様も?」
一瞬場が凍りついた。
その後の、ラピードの行動は早かった。
ユーリを銜え、ほいっと背に乗せると全力で走り出した。
残ったのは口を空けてポカンとしているカロルとキョトンとしているエステルとユーリのズボン、それと今現れたフレンだ。
「え?今のは…ラピードと…ユーリ?」
「ち、違うよっ。小さくなったユーリなんかじゃないからっ!!」
「か、カロルっ。それを言ってはっ!!」
「あっ!?」
慌てて口を塞ぐがもう遅い。
フレンの目は、獲物を狙う肉食獣の目になっていた。
気付いた時には目の前にいたフレンの姿はもう無く、遠ぉーくに小さな人影が見えた。
「…ど、どうしよぅ…」
「どうしましょう…。流石にあの速さには付いていけません…」
残された二人は唖然とフレンの消えた方を見つめていた。
一方、逃げたユーリはと言うと。
「捕まえたよっ!!ユーリっ!!」
しっかりと捕まっていた。
「おまっ、犬の本気に追いつくってどんだけの速さっ」
「あぁっ!ユーリ、可愛いっ!!」
「聞いちゃいねぇし…」
抱き上げられ、ぎゅうぎゅうと抱き締められる。
ユーリにしてみれば、見られたくない姿を見られるわ、フレンの着ている甲冑が痛いわで地獄そのもの。
「ちょ、放せってっ。フレンっ」
「嫌だっ!!」
「嫌ってお前なぁ…」
「可愛い…。昔のユーリはこんな感じだったね…。可愛い」
「可愛い可愛い言うなっ!!」
「怒ってる…。可愛いっ!!」
「いい加減にっ!」
力技で放そうにも子供のこの体じゃ無理がある。
ラピードもフレンの体に圧し掛かっているが、ビクともしない。
「ユーリ、キスしていい?」
「は?お前何言って、んんっ!?」
油断していた。
ユーリの小さい唇にフレンの唇が重なる。
小さい口の中に舌を挿し入れるとヒクリと体が震えて、フレンの舌から逃げようともがく。しかしそれすらも許さずにきつく抱き締めた。
(ユーリの舌、小さい…。本当に可愛いよ)
舌を絡め、ユーリが弱い所を集中的に責める。
「んっ…ふっ…」
小さい分だけ、肺活量も少ないユーリはフレンの行為についていく事が出来ない。限界が来ている事を知らせようと肩を叩くが全く動じず結局貪るだけ貪られ、唇が放れた頃にはクテリと全身から力が抜け、フレンの肩に頭をのっけた。
「さ、ユーリ。宿屋(僕の部屋)に行こうっ」
「ちょ、ちょっと待てっ!!放せぇぇぇぇっ!!」
ユーリを抱き上げたまま、宿屋へ向かうフレンの顔はここ近年見た事の無い晴れやかな顔だった。
因みに、翌日ユーリはラピードに付き添われ元の大人の姿で戻ってきた。そのユーリが密かに腰を擦っていた事について触れる物は誰もいなかった。