ユーリだから好き





薄暗い森の中。今、『凛々の明星』のユーリ・ローウェルと『帝国騎士』のフレン・シーフォは花の街ハルルで用事で別れた仲間達と合流する為にクオイの森を歩いていた。森の中は星喰みの影響かモンスターだらけだったが二人の敵では無かった。森の中でモンスターと遭遇しては二人で戦っていたのだが、しばらく進むと一匹だけ様子の違ったモンスターと遭遇した。普通こうゆう森の中にいる敵は花の形をしていたり、虫の形をしていたり、獣の形をしていたりと何かしら生き物の形をしているのだが、そのモンスターだけは森のモンスターにあるまじきプリン状の敵だった。二人は油断をしていた訳ではないが、見た事のない敵がどんな攻撃をしてくるか分からず攻撃を防ぐだけで精一杯で、何とか敵を追い詰め、とどめの一撃を喰らわせようと剣を振りかざしたその時、突然の光と突風が二人を吹き飛ばした。二人は森の中の木へ体を強打し意識を失った。

―――そして、事件は起きた。

先に目を覚ましたユーリは、起き上がり頭を軽く振った。まだ、頭が覚醒しきらずもう一度瞳を閉じ頭を落ち着かせ、目を開いた。

「…ってぇ。一体何だったんだ?あれ」

ぼそっと呟く。あたりを見回すとどうやら先程の敵はいないようでホッとする。

「そういえば、フレンは?」
「…僕ならここだよ」
「えっ!?」

声がした方を見て、ユーリは凍りついた。何故ならそこにいたのは…。

「ちょ、何だ?それっ?」
「…どうやら、さっきの敵に『僕』と『ユーリ』を入れ替えられてしまったらしい」

何処からどう見ても、目の前にいたのは鏡を見る事でしか見る事のない自分の姿だった。どうにも信じがたくて自分の手を見るとグローブではなく鎧のような…。

「こりゃまた、なんでこんな事に…?」
「僕だって分からない」
「だよな…。とにかくハルルに行ってあいつ等に聞いてみっか。オレ達には分からなくてもカロル先生とか知ってるかも知れねぇし」
「そうだね。…折角ユーリと二人きりなのに…」
「?何か言ったか?」
「中身がユーリなのに、外見が僕…。今、僕とユーリが正真正銘一つになってると言うのに…はぁ」
「フレン?」
「ユーリ…。ううん。なんでもないよ。落ち着いてからゆっくり考えるから」
「?何をだ?」

フレンに手を借り立ち上がると、何時もとは違い体が甲冑の所為で重い。体に違和感を覚えているのはユーリだけではなく、『ユーリ』の体になってしまった『フレン』も同じでどうにも身軽な感じが不思議なようだ。それでも、とにかく足を動かし、ハルルへ向かう。

「…お前、いっつもこんなに着込んで動き辛くねぇ?」
「別に辛くはないよ?それを言うなら君だって、こんなに薄着で戦う時心許無くないのか?」
「それこそ、何でもねぇよ。動きやすくていいだろうが」
「うーん。そうだろうか…?」

肩に触れている髪が無い代わりにアーマーがあり、これがまた邪魔で堪らない。しかし、フレンに言わせれば長い髪が手にかかり動きづらい。

「…なぁ、フレン?」
「なんだい?」
「何か、敵の気配がするんだが…」
「そのようだね」

二人は武器を構えようとして、はっとした。

(…何時もの所に武器が無い…)

フレンの剣は何時も腰に、ユーリの武器は常に紐でつながり手に巻きついている。しかし、今日は違う。とりあえずと武器を取り、ユーリは肩に、フレンは手に持ち構える。のだが、やはり何時もと違う武器を持つと違和感がある。かといって、今のこの状況だと逃げる事も出来ない。

「…そうか、交換すればいいんだな」
「そういえば、そうだね。悩む必要はないね」

お互い手に持っていた剣を交換し、改め敵と向かい合う。草むらから唸り声を上げ飛び出してきたのは、前にカロルが一人で倒そうと頑張っていたエッグベア。

「へっ、この程度なら楽勝だな」
「油断は禁物だよっ、ユーリっ!!」

走り敵の攻撃を避け、後ろに回りこみ斬り付ける。その隙にフレンが呪文を唱える。

「って、お前っ、それオレの体だぞっ!!」
「えっ!?あ、そうかっ!?」

ユーリは魔術を使えない。ならば、ユーリの体も勿論それに対応していない。慌てて、フレンが剣で攻撃をしかける。

「となると、技も駄目かっ!?」
「やってやれなくは無いと思うが、しない方がいいと思うっ!!」

仕方なく二人はエッグベアを物理攻撃のみで撃破した。

「…やべぇな、コレ」
「だね。急ごう」

二人は先程の倍の速さで歩き、森を脱け出した。

必死に走り続け、ようやくハルルに到着した。結界は無いにしても騎士団やギルドがキチンと警備している街はやはりホッとする。

「やっと、着いたね」
「あぁ」

二人が一息ついていると、街の奥から「ユーリーっ!!」とカロルとラピードが仲良く走ってきた。

「相変わらず元気だな。カロル」
「そうだね。ラピードもね」

つい笑みがこぼれるのはやはりカロル効果だろうか。カロルとラピードが走って来た後ろをエステルが歩いてきた。

「わんっ。わんわんわぉんっ!!」
「ラピード、お前はやっぱり気付いたか」
「流石だね。ラピード」
「わおぉぉぉんっ!!」
「ユーリ、お疲れっ」
「あぁ、カロル。やっと追い着いたぜ」
「え?あ、うん。フレンもお疲れ」
「あぁ、ありがとう」
「?ユーリがどうしてお礼言うの?…?二人共何時もと何か違うくない?」

…つい何時もの様に返事をしてしまった。二人はすっかり入れ替わった事を仲間に会えた安心感からか忘れていたのだ。

「ユーリ、フレンも。お疲れ様です」
「エステル…」
「エステリーゼ様…」
「ん?あれ?二人共お互いのマネでもしてるんです?」
「…いや、そうじゃねぇんだ」

ユーリはこうなった経緯を二人に話した。嘘かと思い、フレンを見るとフレンもしっかりと頷いている。

「…そんな事あるんです?」
「あるみたいなんです。エステリーゼ様」
「…『ユーリ』の姿でエステリーゼ様って呼ばれるの違和感があります」
「仕方ねぇだろ。な、カロル」
「…僕も『フレン』の姿で楽に話されると違和感が…」
「しかし、どうすれば戻るのか分からなくて…」
「そっかぁ…。レイヴンかリタなら分かるんじゃない?今、皆宿屋で待ってるよ。僕達買出しに出て来ただけだから」
「そうか。んじゃ、行くか」

二人と別れ、真っ直ぐ宿屋へ向かう。宿屋の店主に部屋を聞き中へ入る。そこには何時ものメンバーがいた。

「青年お帰りーっ!!」
「っ!?」

ぎゅっとレイヴンが『ユーリ』の姿をしたフレンに抱きついた。

「もう、聞いてよぉー。この子達ったら酷いのよぉーっ。皆しておっさんを苛めてぇ。ねぇねぇ、青年。おっさんを慰めてー」

冗談めかして、レイヴンがフレンの首筋にキスを落とす。すると、フレンの目がすーっと細められた。

(あぁ、これか。レイヴンがよく言う仕事人の目って奴は)

自分の体を冷静に観察して、普段気付く事のない一面に気付いてしまった。

「……シュヴァーン隊長…?いつも、ユーリにこんな事をしているのですか?」
「…へ?」
「僕のユーリにいつもいつもキスマークをつけているのは貴方だったんですね?」
「な、なになに?何の話っ!?」
「フレン、落ち着けって。とりあえず、おっさんもフレンから離れろ」

大惨事が起きる前にフレンとレイヴンを引き離し、事の経緯を再び説明する。すると、答えはアッサリ返ってきた。

「あぁ、それね。それならパナシーアボトルで治るわよー」
「マジか、おっさんっ!?」
「…うぅ。その姿でおっさんって言われると凹むわぁ…」
「それは本当ですか?シュヴァーン隊長」
「『ユーリ』の姿でその敬語は結構くるわぁ」
「…シュヴァーン隊長…?」
「い、いいじゃないっ!!別にっ!!」
「別に…?別に何ですか?」

剣に手がかかりジリジリとレイヴンを追い詰めていく。

「とにかく、パナシーアボトルで戻るんだろ。確か残ってたよな?」
「うんにゃ。さっきおっさんが転んで割ったのが最後なのじゃ」
「…おっさん…?」
「ま、待った待ったっ!!大丈夫よっ、今嬢ちゃんと少年が買いに行ったからっ!!」
「あー、成る程。それで買いだしなわけか」

納得して二人の帰宅を待つ事にする。レイヴンはフレンから少し距離をとって座り、リタはこれ幸いとデータを採取し、ジュディスとパティに到っては二人をおもちゃに遊んでいた。ようやくお使い組が帰ってきた時にはぐったりと体力が消えていた。

「で?パナシーアボトル、あったのか?」
「それが、品切れだそうです」
「一応全部の店回ってみたんだけど、無かったんだ」
「…マジかよ」
「わぉん…」
「…じゃあ、おっさんに責任持って合成してきて貰おうぜ」
「えっ!?」
「あら、それはいいわね」
「幸い、魔導樹脂はあるし」
「エッグベアの爪なら俺達が倒した奴から取ってきたぜ」
「後はニアの実じゃの」

じーっと視線がレイヴン一人に集まる。

「本当におっさん一人で行くのぉーっ!?」
「はい。おじさまの武器」
「拒否権ないのねー…とほほー…」
「仕方ないなぁ。僕も行くよ。レイヴン」
「少年ーっ!!」
「じゃあ、私も行きます」
「エステルが行くならアタシも行く」

感動したレイヴンが皆に抱き付こうとするがリタのジャブが見事に決まり、ぶっ倒れた所をカロルに引きづられ、部屋を出て行った。

「面白そうだから、私もついて行こうかしら。バウルで」
「ならばウチも一緒に行くのじゃ。ラピードも一緒に行くか?」
「わんっ」

先行チームが行ったのを見送った後、二人と一匹がこっそりと後を追いかけて行き、残された問題の二人。

「…所でユーリ」
「ん?」
「僕、入れ替わって思ったんだけど」
「何だよ」
「僕は君が君であれば、好きなんだって気付いたよ」
「どういう意味だ?」
「ユーリ、愛してる」

ぎゅっとフレンに抱き締められた。見た目が自分の所為かなんとも微妙だ。しかも、自分に告白されたようで反応に困ってしまう。けれど、フレンの言いたい事は分かる。どんな姿でも…フレンはフレンだ。

「あぁ。オレも愛してるよ」
「ユーリ…」

想いが伝わるように背に腕を回し抱き締める。

「僕覚悟を決めたよ」
「は?なんの?」
「自分の姿だし、元に戻った時腰が痛くなるかもしれないけれど、こんな機会もないし」
「だから、何言ってんだ?お前」
「君を抱こうかなーって」
「はぁっ!?」
「ね、ユーリ。いいよねっ!?」
「い、いいわけあるかっ、バカっ!!」

身の危険を感じ、部屋を飛び出る。ユーリは仲間達が戻ってくるまでフレンから何とか逃げ切る事ができ、心底ホッとしたのだが結局元の姿に戻った途端に捕まり美味しく頂かれてしまった…。