闘技場決戦





―――全てはレイヴンの一言から始まった。

「ただ、闘って勝つだけじゃつまんないじゃない?」

レイヴンが闘技場の入口で言った。ここ闘技場の街『ノードポリカ』へ立ち寄る度、ユーリたち『凛々の明星』のメンバーは闘技場へ寄っていた。その理由は簡単で、ユーリを始め好戦的なメンバーが多いからだ。しかし、今回はレイヴンが何時もと違う事を言ったのだ。皆、闘技場へ入ろうとした足を止めた。

「つまんないじゃない?って何時も賞金貰ってるじゃねぇか」
「それは、そうなんだけどー。たまには、このメンバーの中からご褒美があってもいいんじゃないの?って事」
「……おっさん、ただジュディ姐とデートしたいだけじゃな?」
「ぎくっ!!」
「でも、それも面白そうなのじゃっ」

パティが同意した途端、レイヴンの目が光り輝いた。お子様か…?と思わないでもないが、案外面白い意見だったので皆それに同意した。

「ならば、それに我々も乗らせて貰おう」
「へ?」

後ろから声がして振り返るとそこには『戦士の殿堂(パレストラーレ)』の『統領(ドゥーチェ)代理ナッツ』が部下を引き連れ立っていた。

「乗らせて貰おうって何に?」
「どうせ、お前達はもう全員200人斬りを達成している。ならば、後互角に闘えるのは仲間のみ。身内と闘ってみるがいい」
「…?どう言う事です?」
「一対一でトーナメントを組んで優勝者がメンバーに褒美を貰う、と言うのはどうだ?」
「いいわね。面白そう」
「場所はこちらの闘技場を提供しよう。久しぶりに楽しい試合が見れそうだ」

心なしかウキウキと立ち去って行くナッツが扉の向こうに行くのを見送り、全員が顔を見合わせた。

「じゃあ、ご褒美決めないとね」
「…そうだな。んじゃ、オレが勝ったらおっさんがオレの為に一週間クレープ作ってくれ」
「いいわよ〜。そのかわり、おっさんが勝ったらジュディスちゃん。おっさんとデートしてくれる〜?」
「おじさまが優勝したら喜んで。じゃあ、私はリタと一緒にショッピングでもしようかしら」
「あ、アタシもっ!?うぅ…分かったわよっ!!じゃあ、アタシが勝ったら…え、え、エステルと一緒に買い物したい…」
「えっ!?それだったら何時でも構いませんよっ、リタ。私も一緒に遊びたいです。…あ、そうですっ。私が勝ったら女の子組でお茶会はどうですっ?」
「それじゃ、褒美にならんのじゃ。そうじゃのー。ウチかもしくはエステルが勝ったら『男性陣の準備するお茶とお菓子』でお茶会をするでどうじゃっ?」
「と言う事は、ボクも強制参加なんだね…。じゃ、ボクが勝ったら、ユーリとラピードと一緒に修行しに行きたいな」
「わぉんっ。わんわんわんっ。わぉーんっ」
「いいってよ。んでラピードが勝ち残ったら、皆でランバートの墓参り…か。いいぜ。そうしよう」

話がまとまり、いざ闘技場に入ろうとする。しかし…。

「面白そうだね。僕もそれに入れてくれるかな?」
「ふ、フレンっ!?」
「隊長っ!!我々にそんな時間はっ!?」
「大丈夫だよ。ソディア。なんなら君とウィチルも参加するといい。彼等の闘い方は参考になる」
「…分かりました」

渋々ながら納得したソディアとウィチルを確認すると、今度はユーリと向き合った。

「それで、僕たちもご褒美を言ってもいいのかな?」
「そんな所から聞いてたのかよ。ったく、いいぜ。言えよ」
「本当かい?じゃあ」

嬉しそうに笑いユーリの耳元に近寄り小さく呟く。

「僕はユーリとセ―――(自主規制)―――がしたい」

……。
気のせいだろうか?いやでも待て?
ユーリの目前にある瞳は明らかに本気である。気のせいと思い込む事は不可能だった。

「ソディアは何がいいです?」
「わ、私は…隊長とい、一日過ごしてみたいです。ふ、2人きりで…」
「なるほど。ではウィチルは?」
「僕は、リタと学力勝負がしたいですっ」
「はぁっ!?アタシがあんたなんかに負けるわけないでしょっ」
「それはやって見ないと分かりませんよっ!!」

色々盛り上がり始めたが、ユーリにしてみたら身の危険がすぐ側に迫っていた。そう、すぐ側に…。どうすれば回避できるか。考えて結果が出た。とにかく、勝てばいいのだ。勝てば…。それぞれが、自分の野望を胸に…闘いが始まった。

ナッツが取り決めたトーナメントに則り試合が開始された。

一回戦、エステルvsソディア。
帝国騎士団に所属するものが、次期副皇帝に剣を向ける事叶わず、文句なしのエステルの勝利。
二回戦、ユーリvsウィチル。
ユーリが多少魔術に苦戦したものの持ち前の素早さで魔術を回避しウィチルに接触。近接戦にて勝利。
三回戦、パティvsカロル。
パティが繰り出した『秘奥義』にて、バルバトスが出現。カロル、パティ両名ともほぼ瀕死。最後の気合と根性のジャンケンにてパティ勝利。
四回戦、フレンvsラピード。
フレンの本気を前に降伏。フレン一瞬の勝利。
五回戦、リタvsジュディス。
ジュディスに魔導器の腹いせをするチャンスと意気込むがやはりどこかあるツンデレ効果か、いざとなると仲間と闘えないリタが油断しジュディスの勝利。
シード権、レイヴン。

こうして第一試合が終わり、第二試合開始。

一回戦、エステルvsユーリ。
エステルがユーリに敵う訳も無く、ユーリの圧勝。
二回戦、パティvsフレン。
パティも奮闘したが、最後の最後にフレンのユーリへの愛が勝り、フレンの勝利。
三回戦、ジュディスvsレイヴン。
自分の目的の為には手段を選ばず。レイヴンが本気を出しジュディス頑張ったもののレイヴンの勝利。

そして、決勝戦。
決勝戦に残ったのは、ユーリ、フレン、レイヴンの3人。
それぞれ一対一で戦い二勝した人が優勝である。


第一回戦。
ユーリvsレイヴン。

「おっさん、覚悟しろよ」
「青年こそ。おっさんの本気見せちゃうもんねっ」
「へっ、言ってろ」

剣を構え、ユーリが先に駆け出した。レイヴンの弓がユーリに放たれ、寸での所で回避する。

「時雨っ!!」
「うわっと」

追い討ちをかけるように光の矢が放たれるが、それは剣で弾き、

「蒼破刃っ」

しっかりと打ち返す。しかし、そこは帝国騎士隊長主席。甘くは無い。絶対の間合いを把握し後方へ逃げ、追撃をかけられる前に矢で先手を打つ。

「っと、あぶねぇな。おっさん」
「あっさり回避しておいて良く言うわ」
「当たり前だろ。けど流石、騎士団隊長主席の名は伊達じゃねぇな」
「あら?お褒めいただけるとは思わなかったわよ。惚れ直しちゃう?」
「ははっ、そうだな」
「おっさん、青年なら恋人にしてあげてもいいわよ」
「ありがとな。けど、遠慮しておくぜっ!!」

軽口を言い合いつつも剣を振り上げ攻撃を仕掛ける。正統派の闘いが続き、勝負は体力の差でユーリの勝利で終わった。

第二回戦。
レイヴンvsフレン。

「……ねぇ、ちょっと青年?顔が凄い恐いんだけど?」
「そんな事ありませんよ。シュヴァーン隊長主席殿」

目がスっと細められる。こう言う所は、ユーリの親友だなと心の底からレイヴンは実感する。

「な、なんでそんなに殺気たっぷり〜?」
「………」
「む、無言はおっさん恐いわ〜っ!!」

フレンはニッコリと笑い、剣を構えた。そして、

「はあぁぁぁっ!!」
「え?ちょっと待ってっ!?それってっ!!」

光が剣に集まり、まるで光の槍のように…。

「光竜滅牙槍っ!!」
「秘奥義じゃないのぉーっ!!」

光がレイヴンに向かって放たれた。……レイヴン瞬殺。

「…ユーリは僕のモノですから」

キラリとフレンの目が光る。

「………焼きもち…なら、そう、言って…ちょうだい……がくっ」

フレンの秘奥義発動にてレイヴン敗退決定。レイヴンはそのままエステル(医者)の所へ移送された。

第三回戦。
ユーリvsフレン。

絶対に負けられないユーリとフレンの一騎打ちとなった。

「ユーリ、本気で行くからね」
「当たり前だ。オレも死ぬ気で行くっ」

どちらから合図する事もなく、走り出す。剣のぶつかり合っては離れ距離をとる。

「ルミナンサイスっ!!」

距離をとった途端に魔術が飛んでくる。しかし、

「甘いぜっ」

呪文を唱える隙にをつき、懐に入り込み、

「虎牙破斬っ!!」
「くっ…」

技を繰り出す。そして、フレンは気付いてしまった。腕が回りそうなほどユーリが近くにいる事に…。

(ユーリ……可愛いっ!!)

フレンはユーリの剣を弾き飛ばし、目の前のユーリに抱きついた。そして、ここぞとばかりに背中や尻をなで、首筋に吸い付く。

「…っ!?フレン、放せっ…」
「ユーリ、本当に君は可愛いよ…」

ユーリの体に触れるのに夢中で全く聞いていない。

「…い・い・加減に、しやがれっ!!」

バキィッ!!
キレたユーリの右ストレートがフレンの顔に見事に当たり、フレンノックアウト。ユーリの優勝が決まった。

ユーリが優勝した事により、レイヴンは自分の願いが叶わない所か一週間自分の嫌いな甘い物を作り続けなければならなくなった。
そして…。

(…ユーリの色気を計算に入れてなかった…。次こそはっ!!)

フレンが次の決戦の計画を立てている事をこの時点では……誰も知らなかった。