※幼い時は逆だったらどうだろう…?って考えてみた結果ww
正反対な二人
「さーて、と。寝よねよ」
食事も終わり、各々が部屋へ戻っていく。
今日は珍しく宿が二部屋とれた。
当然の様に男女に別れ部屋に入る。
ユーリは、さっさとベットへ向かい寝転がってしまった。
「ユーリ、行儀が悪い」
そんなユーリをフレンが嗜めた。
これはもう何時ものパターンで、後ろに続いて入って来たカロルとレイヴンも何も言わない。
「オレに行儀とか、今更だろ?」
「だから、それを正せと言っているんだっ」
「うるせぇなっ。オレがどうしようとオレの勝手だろっ」
「ユーリっ」
どんどん口論から殴りあいになりそうな雰囲気を察したのか「まぁまぁ、二人とも」とレイヴンが割って入った。
「おたくら、いっつもこんなだけど幼馴染なんでしょ?昔からこうだったわけ?」
「あー、うん。僕なんだか想像がつくよっ。多分ユーリがガキ大将で、フレンが大人しくて振り回されてそうっ」
自信満々に言うカロルの言葉を聞いて、喧嘩していた二人は互いに顔を見合わせ苦笑いした。
「いえ、僕達は…」
「お前が言ったのと全く正反対だったな」
喧嘩するのを止め、二人は並んでベットに腰をおろした。
「えっ!?嘘っ!?」
「そ、それはおっさんにも想像つかないわー」
明らかに驚いている二人を見るとやっぱり苦笑いしか浮かばない。
しかし、二人は興味があるのか下町組が座っているベットの横へ腰を降ろし、話の先を促した。
「って、事はユーリの兄ちゃんが大人しくて、フレンちゃんがガキ大将だったって事?」
「はい、お恥ずかしながら…」
「こいつは良くオレを巻き込んでくれたぜ〜?」
「ユーリだって、いっつも付いて来たじゃないかっ!」
「ん?んー…まぁ、楽しかったからな」
二人が当然の様に話しているが、カロルとレイヴンにして見れば全然想像が付かない。
何せ、今の二人の姿はそれこそ過去の姿とは正反対だったから。
「じゃ、じゃあ、どうしてこうなっちゃったの?」
「カロル、お前何気に失礼だぞ」
「でも、確かにそうよね〜」
レイブンまでしみじみと頷く。
ユーリとフレンはまた顔を見合わせた。
その表情は互いに「どうして?」と問い掛けている様だった。
そして、先に口を開いたのはフレンだった。
「…僕はユーリに憧れていたから」
「はぁっ?」
流石に驚いた。
フレンの口からまさかそんな言葉が出て来るとは思わなかったから。
「小さい頃のユーリは、何でも知っていて、本なんかもスラスラと読めて、知らない事は何も無くて…僕にとっては凄く憧れだったんだ。だからユーリの隣に立てる様に下町から引っ越した後も必死に勉強して…」
「なのに、こんな結果になっていたと」
「おい、おっさん」
盛大なオチを付けてくれたレイヴンに突っ込みを入れるが、フレンがそれに大きく頷くものだからユーリは小さく舌打ちして顔を逸らした。
「騎士団であった時は凄く嬉しかったのに、まさか君が…あんなに馬鹿になってるとは」
「って、ちょっと待てっ!馬鹿って何だっ、馬鹿ってっ!」
「だって、そうだろうっ。騎士団の試験の時だって」
「あ、あれは…。けどなっ、そもそもオレだってお前みたいになりたくて、本読む暇も惜しんで剣の練習してたんだぞ」
「えっ!?」
今度はフレンが目を丸くするほど驚いた。
「お前は、どんな時も負ける事が無くて、強くて、いつもオレはお前に守られてばっかりで、オレもこいつの隣に立ちたいって、そう思って…。お前がいなくなった後も必死で練習して、少なくともお前には負けても他の誰にも負けないように」
「でも、フレンはありえない位真面目になってたんだね?」
「か、カロル。それはあまりフォローになっていないよ」
カロルの言葉にフレンはがっくりと頭を落とした。
「あらら、それじゃ、何?互いが互いに近づこうとし過ぎて位置が入れ替わっちゃったっての?」
二人は大きく頷いた。
「久しぶりに再会した時、凄く驚いたけど一目で分かったよ」
「オレだってそうだ。あまりの変わり様に驚いたけどな」
「それはお互い様だよ」
「だな」
穏やかに微笑む二人の間にカロルがムギュリと入り座り込んだ。
「いいな〜、二人とも。僕もそんな友達が欲しい」
「ハリーがいるだろ?」
「そうだね。彼ならカロルと一緒に頑張ってくれるかもしれない」
「ハリーか…。うんっ、そうだねっ」
「でも、少年?案外、パティちゃんでもいいんでない?」
レイブンの言葉に、
『いや、それは無理(だよ)』
あっさりと否定が入った。
レイヴンが膝をかかえ、部屋の隅で拗ねているのを全く綺麗さっぱりとシカトし、ユーリは間に座っているカロルの頭をもしゃもしゃ撫でながらニヤリと笑った。
「けど、カロル。こーゆー奴がいると面倒なのも確かだぜ?」
「え?そうなの?」
「…確かにね。言っても言っても聞かないし」
「いっつもいっつもクドクド言ってくるし」
「あ、あれ?」
「やれば出来るのにやらないし」
「諦めろって言ってんのに何時までも誘ってくるし」
「自分の功績を人に譲ろうとするし」
「頑固だし」
「ユーリ?フレン?」
「いい加減騎士団に戻って来いっ!!」
「お前もいい加減諦めろってのっ!!」
収まった筈の喧嘩が再び勃発し始め、カロルはそそくさと部屋の隅で拗ねているレイヴンの近くへ避難した。
真夜中まで続いた喧嘩は、あまりの五月蝿さに怒髪天をついたリタの魔術にて幕を閉じ、ようやく皆眠りに付いたのだった。
―――ユーリは、夢を見ていた。小さい頃の懐かしい夢を…。
※※※
「行かないって言ったじゃねぇかっ」
「ユーリ…」
短髪、黒髪の少年が金髪の少年に向かって叫んだ。
大きな瞳から涙が零れないように、ぐっと拳を握り締めて…。
「僕だってっ、行きたくなんか無いよっ!でも、母さんが…」
金髪の少年の瞳にも涙が浮かぶ。
「そんな事分かってるっ。だけどっ」
だったら、どうして『行かない』なんて言ったんだ…。
浮かんでくるその言葉を必死に飲み込んだ。
言ったらフレンが困ると言う事をユーリは知っていた。
だから…。
「……ごめん。フレン」
「ユーリ?」
「オレには両親がいないから分からないけど、でも…フレンの母さんはオレにとっても母さんみたいなものだから、我慢する」
「ユーリ…」
頬を涙が伝う。
そんなユーリをフレンは力強く抱き締めた。
「父さんもいなくなって、僕は引っ越さなきゃならない。…だから、約束するよ。ユーリ」
「約、束?」
「うん。約束。僕は絶対帝都に戻って来るよ。だから…、待ってて」
「ホントにっ?…でも、どうやって?」
「それは…うぅ〜ん…。そうだっ。僕、騎士になるっ!」
「騎士に?」
「うんっ。それで絶対に帝都に戻って来る」
フレンが優しく微笑んだ。
「じゃあ、オレも。フレンと同じ目標を持つっ。オレも、騎士になってお前と再会する」
「ユーリ。うん。約束だよ」
「約束だ」
フレンとユーリは涙を流しながら、きつくきつく抱き合った。
その後の別れを惜しみながら…。
※※※
「…懐かしい、っつーか…恥ずかしいな」
目を覚まし、過去を思い出したのが妙に気恥ずかしくて、がりがりと頭をかいた。
「何で、あんな夢を見たんだか…」
ふと、窓の外を見ると、まだ日が昇っていなかった。
変な夢を見た所為か、眠気もすっかり飛んでしまった。
他の三人はベットでスヤスヤと気持ち良さげに眠っている。
再び布団に潜り眠気を待つのも面倒で、ユーリはベットから降りると、宿屋をこっそりと抜け出した。
外は少し薄暗いが朝に近い所為か、空気が澄んでいる。
ぼや〜っとしばらく歩き続ける。
すると、少し小さな広場の様な原っぱに着いた。
多分、ここは昼に来ると綺麗な芝生なのだろう。
ユーリは原っぱの中心にどっかりと寝転がった。
空を見上げると、微かに星が見える。
「…あの後、めちゃくちゃ泣いたんだよな…。目が有り得ないほど腫れて、ハンクス爺さんに怒られたっけ…?」
「…それは、僕が引っ越した後の事かい?」
「そうそう、って、お前っ?」
暗い中でもはっきりと分かる金髪がユーリの隣へと寝転がった。
「僕も泣いたよ。凄く、凄く泣いた」
「ははっ。嘘くせー」
「本当だよ。母さんに呆れられるほど泣いたんだ」
「その割には再会した時の言葉はあんまり嬉しそうには聞こえなかったぜ?」
「それは、君だって同じだろ?」
ユーリとフレンは顔を見合わせて、ふっと微笑んだ。
「けど、君が騎士団に本当にいるとは思わなかったんだ。だって、君はどっからどうみても研究者タイプだったから」
「……オレだって約束を破るつもりは無かったんだよ」
「うん。分かってる」
「フレン…?」
「分かってるよ。ユーリ。君の事は誰よりも、僕が知ってる…」
ふと、ユーリの上に影が出来る。
目の前にはフレンの顔があった。
「ユーリ…。愛してるよ」
「…フレン…」
フレンの顔が近づく。
ユーリは、フレンの口付けをそっと目を閉じて受け入れた。