本当の犯人は誰だ?
下町の祭り。
フレンの所為で劇をやらされ、凛々の明星の仲間に嵌められて、オレは女役でドレスまで着せられて、舞台に出された訳で。
とっとと立ち去りたいってのに、何故かアンコール公演の依頼が届いた。
下町にまだ滞在していたオレ達は、オレの部屋でその依頼について話し合っていた。
「オレはやらねぇぞ」
『えぇーっ!?』
断言した俺に大ブーイングが部屋に響いた。
しかしオレの意志は固い。女装何てもうする気はない。
「そんな事言わないでよ、ユーリ」
カロルが必死に食い下がってくるが、駄目なものはダメ。嫌なものは嫌だ。
「そもそもオレがいなくてもおっさん一人で回ってただろうが。だったら何の問題もねぇだろ」
「あらー。ユーリエったら私の演技力に恐れをなしたのねー」
おっさん。なよなよすんな。絶好調に楽しそうだな。
「そうそう。おっさんに恐れをなしたから、オレは出ない」
折角だからおっさんのセリフを利用させてもらう。
「ユーリ。どうしても駄目、なんです?」
「悪いな、エステル」
エステルの頭を撫でながら、誤魔化す。
本当の事を言うと、劇に出る分にはなんの問題もない。いや、まぁ、恥ずかしいは恥ずかしいんだが。
実際オレが気にしてるのはそこじゃない。問題は…。
「ユーリ。エステリーゼ様がこんなに頼んでいるんだ。君が何の役をやっていたのか僕は知らないがやってあげてもいいんじゃないか」
「…フレン。お前なぁ…」
…こいつの所為だ。
こいつにばれたら絶対に笑われる。確実に、間違いなく、絶対…。
それだけは御免だ。
「…はぁ。嫌なものは嫌なんだよ。そんなに言うんならお前がやってやれよ。下町の奴らだったらお前でも全然構わないはずだぜ?あの衣装も似合うだろうしな」
「えっ?僕がっ?」
ギランッ!
皆の視線がフレンへと向けられた。作戦成功だ。このままフレンが餌食になってくれればオレは解放される。
「フレン。それじゃ、あとは頼んだ」
「あ、おいっ!ユーリっ!!」
小言を言われる前にオレはさっさと部屋を出た。追い掛けられても面倒だから、屋根の上へと上がり、そこから急いで離れる。
全く、冗談じゃねぇ。女装して良い思い出なんてあったことがない。
小さい頃、宿屋の女将さんに遊ばれて良く女の子の服を着せられていたんだが…その恰好で外に出ると決まって、変なおっさんに声かけられる、触られる、終いにゃ攫われそうになる。
本当に碌な事がない。
…因みに、フレンはオレが攫われかけたことを知らない。勿論女装姿を一度も見せた事はないっ!
劇の時だって危うくばれそうになったが、何とかばれずに終わったんだ。今回だって逃げ切って見せる。
そう言って、オレは何とか逃げ切れた。
……つもりだった。
「……それで?」
オレは椅子に座り足を組んで、目の前に立つカロルとおっさんを睨み付けた。
「フレンに任務が入っちゃって…」
「だーかーらー。わたしーがー。ユーリエのー、背後に回ってー、睡眠薬を塗ったー、針をー、吹ーきー矢ーでー、プスっとっ!!」
「おっさん、てめぇ」
くねくねしてんじゃねぇよっ!!
眠っている間にドレス着せやがってっ!!
っつーか、薬盛ってんじゃねーよっ!!
しかも、そのキャンセルが舞台の当日とか。
フレン…、あいつ態とじゃないだろうな…。
ふるふると拳が震える。が、その拳をぶつける場所がない。
くそっ、こんな恰好じゃなかったらフレンの奴を殴りに行くものを…。
「とにかくオレは」
出ないぞ、と言ったその言葉を打ち消したのはリタとパティがドアを開く音だった。
「時間なのじゃー」
「とっとと行くわよっ」
もう完全に拒否権はないらしい。オレはカロルとおっさんに挟まれて、逃げる事も叶わず、舞台へと出る羽目になった。
まぁ、最悪任務だって言うならフレンはいないだろうし…。
オレが思った通り、会場にフレンはいなく、なんの滞りもなく劇は終わった。
『劇は』終わった。
終わったってのに、なんでオレはいまだにドレスを着てるんだっ!?
「参ったわねー。まさか荷物を全て盗まれるなんて、盲点だったわー」
「あたしの魔導器ーっ!盗んだ奴マジぶっとばすっ!!」
「大丈夫ですよ。リタ。ラピードがきっと取り返して来てくれますっ」
エステルが胸を張ってリタを慰めているが…。
「そうね。けれど…いつもならもう帰ってきている筈のラピードがまだ帰ってきていないわね」
そうだ。ジュディスも考えていたらしいがオレもそれを疑問に思っていた。
あいつの事だ。へまはしないと思うが、真っ直ぐ帰って来れない理由があるかもしれない。
探しに行くか…?
…この格好でか…?
………ねぇわ。
ついつい自問自答してしまう。
「うん。…遅いよね」
「皆で探しに行きましょうっ」
来るわ来るわと思ってたが本当に来た。エステルの放っておけない病が…。
「カロル。エステル。一つ聞く。オレとおっさんの恰好を分かってて言ってるか?」
「え?」
「きょとんとすんな、カロル」
「とても似合ってますから大丈夫ですっ」
「大丈夫な訳あるかっ」
頭が痛くなってきた…。
「じゃあ、行きましょうか」
「ジュディっ!?」
「ラピードが心配ではないの?」
「う…」
結局オレはジュディスに言いくるめられ、ラピードを探すことになった。
下町の祭り。
祭りと言うからには、かなりの人混みが想定される。
となると必然的に。
「君達かわうぃいね〜」
「どう?俺らと一緒に狩りに行かない?」
こういうナンパ野郎が出てくる。坊主の男と虹色の頭をした男のちゃらい二人組。
しかしナンパのセリフが狩りに行かないって、どうなんだ。
そこで行くって言えば、かえって怖くねぇか?
取りあえずオレは女子達を自分の背にかばうように一歩前に出る。
「お?お姉さんが相手してくれんの?」
「…あれー?よく見たらこの娘達、さっき舞台に立っていた娘達じゃね?」
「っとに、面倒くせぇなぁ。そもそも…誰がお姉さんだぁ?」
この格好で凄んだ所で効果がないかもしれねぇが、やらないよりはまし。
それにこの声でオレが男だと分かるだろうし。
「……その声、てめぇ…まさか」
「なんだよ」
ようやくオレが男だって理解して、引いたのか?
ま、当たり前だよな。
こんなタッパあって声の低い女なんているわけ…。
「男役の娘だなっ!?低くて可愛いなっ!」
「これはこれで萌えーっ!!」
「ジュディ、やべぇぞっ!こいつら完全に馬鹿だっ!」
限界まで首を捻り後ろを振り向くと、ジュディスはにっこりと微笑み。
「とっとと逃げましょうか」
断言した。全員で頷き一斉に散開した。エステルを一人で走らせるのは心配だが、リタが後ろを追い掛けたから大丈夫だろう。
オレもわざと人混みの中へと逃げて行く。
いっそ下町を抜けるか。
坂道を走り抜け、噴水のある広場でベンチへと座る。
あー…くそっ。あっちぃ…。
ラピードもいねぇし、窃盗犯マジ許さねぇ。
…どうすっかなー…。この衣装で一人歩いてまたさっきみたいなのと出会っても面倒だしなぁ…。
ぼんやりと空を見上げて現実逃避をしていると、隣に新聞を持った男がどっかりと座り込んだ。
なんだー?他にも空いてるベンチは一杯あんのに、なんで隣に…―――っ!?
尻に変な感触が…おいおい、まさか…。
静かに振り向くと、隣から伸びた手が尻を撫でまわしている。
男の尻撫でまわして何が楽しいんだか。
睨み付けるが男は新聞を読んでいるふりをして一切こちらに視線を向けない。
どうしてくれようか、この野郎…。
「…失礼ですが」
げっ…、この声…。
「帝国騎士団のフレンと申します」
フレンだ…。静かに顔を伏せてフレンから視線を逸らす。
「そちらの女性に触れている手を離して頂いても?」
声が低い。何時もの声よりも。フレンの奴怒ってやがる。いや、違うか。怒ってるんじゃなくて、威嚇している?
何にせよ、オレが今出来る事は…フレンに気付かれないように逃走する事しかないっ。
今までだってバレてねぇんだ。今回だっていけるっ!
尻触られてショックを受けた女のふりをして走り去る。
「あっ!お待ちくださいっ」
待てる訳ねーだろっ!
ハイヒールで走り辛いものの、そんなの構ってられない。
オレは全力で逃げる。
逃げ…逃げる…って、はえぇよっ!!あいつっ!!
どんだけ全力で追いかけてきてんだよっ!!
こっちは履き慣れない物履いて逃げてるってのにっ!!
絶対巻いて見せるっ!!
今までにフレンを巻き続けたオレに不可能はないっ!!
フレンにも教えた事のない秘密の裏道を走り抜ける。
必死で逃げるっ!!
小路の角を曲がって、仲の良いおっちゃんの家の中を走り抜け、下町の奥の廃墟に辿り着き、中へ駆け込みドアを閉めそのドアを背に息をつく。
そして息を潜めてじっと待つ。
足音がする。あいつは鎧をまとってるからカシャカシャと音が聞こえる。
早く通り過ぎろ。と思ってるのに足音がドア挟んで向こうで止まった。
なんでだ?…早く立ち去れっての。オレはここにいない、ここにいない…。
「…全く。僕がいつまでも騙されるとでも思っているのか?」
……やべっ。ばれてやがるっ!
慌てて、廃墟の奥へ走り階段を駆け上がる。あーもうっ、この靴邪魔だっ!!
ぽいぽいっとハイヒールを脱ぎ捨て、ドレスを破って走りやすくする。この際、服は弁償すればいい。経費はおっさん持ちで。
「ユーリっ!!」
追い付いてきたっ!?
冗談じゃねぇぞっ!!こんな、女の恰好したオレを真正面からまじまじと見られるのなんて想像しただけで腹が立つっ!!
この廃墟の中だったらオレの方に分がある。絶対に逃げ切ってやるっ!!
続き部屋の中に逃げ込み、フレンが来る前に鍵を閉めて、隣の部屋へと逃げ、窓から屋根へと上る。
そして反対の部屋の窓から逃げこもうと覗き込んだ…。
「おわっ!?」
「甘いよ、ユーリ」
「って、手引っ張んなっ!あぶねぇだろっ!」
言うとフレンは引っ張っていた手の力が少し緩んだ。
その一瞬の隙がオレにとってはチャンスってね。
急いで態勢を立て直し、隣に建っている廃墟に飛び移る。
「あいつ、マジ面倒だなっ、どんだけしつこいんだよ」
裸足で走ってるから足も痛ぇし。
廃墟の中へと進む。こっちの中ってオレあんまり詳しくないんだよな。
取りあえず梯子を下りて、一階の出口に向かって歩く。
へぇ、この廃墟、言うわりにちゃんとしてるな。まだまだ人住めそうじゃね?
「でも、まー。何とか逃げ切れるだろ」
「それは、どうかな」
聞こえる筈のない声が聞こえて動きが停止する。
目の前に怒れるフレンが立っていた。今から方向転換して逃げれるか?
やってやれない事はないっ!!
くるっと方向転換してっ…。
「もう、逃がさないよっ!」
「痛っ!」
肩を捕まれ壁に押し付けられた。咄嗟に逃げようとするがフレンの両腕に挟まれて逃げられない。
壁に追い込まれるとか、男としてどうなんだ、オレ…。
「ユーリ、どうして逃げるんだ」
「逃げるに決まってるだろっ!くっそー…ばれてないと思ってたのに…」
「最初は分からなかったよ。でもね、ユーリ」
「なんだよ」
「君の逃げる道は毎回違うように見えて同じなんだよ。それに僕が気付いてないとでも?」
「う…」
嫌な奴だぜ、ほんと。
「ユーリ。聞いてもいい?」
「嫌だ」
「どうして、そんな格好してるの?」
「嫌だっつってんだろ」
「ユーリ…」
視線を逸らそうとしてもフレンがそれを阻止する。
顎を掴むな。顔を近づけるな。
「ユーリ…可愛い」
「ちょ、ちょっと待てっ」
「待てない…」
「んむっ!?」
き、キスっ!?
い、いや。キスはいつもしてる。落ち着け、オレ。
たとえ、このキスがとにかくしつこくても、口の中に舌が入ってきたとしても何時ものこと…って、耐えきれるかっ!!
「んっ、は…ちょっ、フレンっ、んっ」
「可愛い…。ん…可愛い、はむ…、…可愛い」
おいおいおいっ。完全に箍外れてんじゃねぇかっ。
「お、ん、ぃ…いい加減、に、しろっ」
ゴンッ!
「痛っ!?」
フレンに頭突きをかまして、ようやくフレンの動きが止まった。
「お前、しつこいんだよっ」
「ごめん。すこしがっついた」
「少しか?少しじゃねぇよな」
「……ユーリが可愛いのが悪いと思うんだ」
「もう一度頭突き喰らいてぇか?」
「頭突きをもう一回受けて、キス以上の事が出来るなら受けてもいいかな」
「拳を鳩尾に一発喰らわせてもいいか?」
睨み付けながらも、とにかくフレンの腕から逃れたくてもがく。
けれど、もがけばもがくほど、フレンはオレを逃すまいと腕を狭め、気づけば抱きしめられている。
「おい、フレン。もう逃げねぇから離せ」
「嫌だ。でも…僕が離さなきゃいけない程の理由があるのなら離してもいい。あぁ…久しぶりのユーリの匂いだ…」
「おーい、お前のがストーカーっぽいぞー」
「失礼だな。愛おしい人を離したくないってのは、恋人としての特権だろう?」
どうしてこう…こいつは恥ずかしいことばっかり…。
「……っとに、馬鹿が」
「ユーリ…顔が真っ赤だよ?可愛い…」
「あー…もう、離せって…」
離さなきゃいけない程の理由?
そんなのある訳……あ。
「そいや、オレ達の荷物盗まれたんだっけ」
「…ユーリ?」
「あ、いや。オレがこの格好で走ってた理由がさ。荷物全部盗まれたんだよ。だから、服とか一切ねぇの」
「ユーリ。その話、詳しく聞かせてくれないか」
「あ?詳しくも何も劇が終わったら荷物が全部ねぇんだよ。それで、ラピードが犯人を捜しにいったんだが帰ってこねぇから皆で探そうってなってた所をナンパ野郎に捕まって皆散開して逃走しつつオレは走り疲れてる所を痴漢にあって、んでお前にストーカーされたと」
「……成程…」
ん?フレンがオレを離した?
もしかして、正義感が疼いてるのか?
の割には…フレンの人相が悪過ぎるような…。
「僕も協力するよ。その犯人を捕まえるために」
「お、おう?」
「じゃあ、行こうか。ユーリ」
「へ?」
行き成り腕に抱えられる。姫抱っこ。オレは一体何処に連れてかれるんだろうか。
…と言うか恥ずかしいから降ろせ。
主張したとこで無駄だと知っているから、オレはもう思考を飛ばすことにした。
そのまま、フレンはオレを連れて城へ向かった。
勿論ラピードにより犯人は捕まっており、犯人は騎士団へと受け渡された。
犯人が盗んだ荷物はフレンを経由して帰ってきた。
荷物を受け取りオレは仲間の待つ箒星の部屋へと帰った。
フレンは任務に戻り、オレは女装姿を見られた事も諦めがつき、部屋で落ち着いて着替えれる事にほっとして自分の荷物を確認した。
「……ん?下着が、ない?」
男物の下着が盗まれるか?普通。
けど、荷物全部確認した…がない。
まぁ、そんなに気にする事でもないか。替えはあるしな。
その時はそう思っていた。
後日、城のフレンの部屋へ所用で行った時の事。
「……なんで、コイツの部屋にオレの下着が…?」
しかも机の上に…?
カツカツと足音がする。フレンが部屋に戻ってくる?
本来フレンに用事があったのだが、…何か嫌な予感がしたオレは静かにフレンの部屋を後にした。
後書き的なもの。
つばき様のリクエストで痴漢もの、でした〜(*^▽^*)
さて、痴漢もの。
これ、痴漢もの?
ストーカーものな気がする。
許してもらえますように全力で謝罪。
そして、こんだけ遅れたことにも全力で謝罪っ!!
気に入って貰えたら嬉しいです(≧▽≦)
それでは、リクエスト有難うございました〜(≧◇≦)ノシ