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吸血恋歌





【4】



「無理だ、ってぇ…」
「大丈夫。入るよ」
「僕達が嘘言った事あったかい?」
「結構、あるっ、っつーの、ぁッ!」
「…いい子だね、ユーリ」
「うぅ…」

涙目のユーリが僕達を見つめる。
…弟たちの目が輝いている。
少しユーリが可哀想になり、僕は後ろに退いた。

「もう、食えないってーのっ」
「大丈夫。大丈夫」
「何を根拠に大丈夫って言ってんだっ」
「うん?」

…山ほど積み上がった薔薇の花を前にユーリが必死に逃げだそうとしている。
流石に食べさせ過ぎたかな。
もともと僕達吸血鬼は、血を主食とするものの、血を飲みたがらない人も中に入る。
僕達もその部類に入る。
そしてそういう吸血鬼は血に最も近いと言われている薔薇を食べる。
それを見ていたユーリが食べたいと言っていたので、ユーリが僕達に馴染んだ当初、食べさせてみたのだけれど。
苦いっ!!まずいっ!!嘘つきっ!!
と言われ、僕を含め兄弟三人物凄いふっとい矢が胸に刺さり。
必死に品種改良を繰り返し、何とか甘くて美味しい薔薇を作り上げた。
…のは良いけど、やっぱり薔薇。
植物である。
だから、年月が必要な訳で…。
ユーリはすっかり成長して、まだ僕達の身長を越しはしないものの、言葉もはっきりしゃべれるようになり、……やんちゃになった。
屋敷にいないと思って探してみれば、木の上でもしくは屋根の上でお昼寝。
可愛いことは可愛いが心労が少し増えた気がする。

「うにゃあああっ!!もう、無理だってーっ!!」

ぼんやり自分の思考に思い耽っていたら、案の定ユーリが尻尾を全開に膨らませて逃げて行ってしまった。

「あ、逃げられた」
「探しに行く?」
「今行っても、威嚇された終わりだろうけど」

…沈黙。
が、別にそんな沈黙は何時もの事で気のもならない。
僕達は三人その場で解散した。
理由は簡単だ。
ユーリを探しに行く為。
さて…何処にいるかな。
きっと直ぐ下の弟は屋根を、末っ子は寝室に行くだろう。
じゃあ、僕は…。
木の上でも探してみようかな。
そうと決まれば、真っ直ぐ外に出て、薔薇園の方へ向かう。
その奥に立派な大木があるんだ。
広い僕達の館の敷地内で一番大きな木。
僕達三人乗ってもビクともしないような枝がある位立派で、僕が産まれる前からあるから…もうかなりの年月を経ている。
でも確かにあの木ってお昼寝していると気持ちが良いんだよね。
足を進め…って、さっきから体が痛いと思ったら、今夕方かっ?
まだ日が出てるじゃないか。
姿を変えていこう。
えーっと、…豹でいいかな?
ボムッと姿を変えて、いっその事と走り薔薇園を抜け、木の下へと辿り着く。
そしてそのまま、勢い付けたままがつがつと木を登って行くと。

「…ふふっ。どうやら、今回は僕が当たりらしい」

木の枝の上で黒猫が丸まって寝ていた。
尻尾がぷらんと下にさがり、ふりふりと動いている。
その横に座ってみる。
ユーリみたいに枝の先に行くと、どんなに太くてもこの枝は折れてしまうだろうから、付け根の方で座る。
木を揺らした振動でユーリは目が覚めたんだろう。
ぱちっと目を開くと顔だけこちらへと向けてにゃあと一言鳴いた。

「ごめんごめん。僕も一緒に寝ていいかい?」

どうやら今のにゃあは抗議だったようだ。
けど、素直に謝り体を枝にそって寝そべると。
ユーリは起き上がり、軽く背を伸ばし、僕の背の上へと乗っかって丸くなった。
ふあぁっと欠伸をして眠りにつく。
…これは…、バランス崩せないな。
そもそも僕は人型が、二本脚のバランスで生きて来て、こんなバランスをとる事は滅多に…。
しかしユーリを落とす訳には…。
物凄い葛藤の中、僕はただユーリの為に日が暮れるまでじっと動かずにいた。
…勿論眠れる訳が無い。
ただ目を閉じて、ユーリと一緒の時間を楽しんだ。
何だかんだで数時間が経ち辺りが星明かりのみの闇に包まれ始めた時。
流石にこれから木の上で寝続けるのはユーリが風邪を引く。
そう考えて、しっぽでユーリを揺さぶってみた。

「んっ」

…え?
ちょっと待ってくれ。
今の鼻に抜ける凄い可愛い声はなんだ??
興味本意でもう一度同じ所を、ユーリの首のあたりに尻尾で揺さ振る。

「…ぁ…っ」

…感じて、る…?
何か理性の壁が崩壊して行くように感じる。
尻尾でユーリをくるみ持ち上げるとそのまま僕は木の下へと着地して人型に戻ってユーリを抱っこした。

「ユーリ?」

呼ぶと、ユーリの瞼がゆっくりと開く。
その瞳は僕を映しながらも揺らぎ、そして潤んで…。
ポムッと音を立ててユーリが人型に戻る。

「…フレン…。何か、体がむずむずする…」
「むずむず?」

聞き返すとコクコクと必死に頷くその顔は真っ赤で。
そっと腕の中で震えるユーリの首筋を撫でると、尻尾がぶわっと膨らみユーリ自体がきゅっと小さくなってしまった。
僕の服を握って何かに耐えている。
これは、もしかして…もしかすると?
そっとユーリの耳元に顔をよせて、ふっと耳に息を吹き込むと。

「ゃンッ…」
「あぁ…。成程。そうか」
「フレン…。オレ、病気?朝からずっとこうで、甘いもの食えば治ると思ったのに、全然…」

初めての感覚で怖いのか、ユーリの体はずっと震えている。
下手すると泣き出しそうだ。
僕はユーリを宥める様に何度もその黒髪を梳きながら頭を撫でる。

「大丈夫。病気じゃないよ」
「…ホント、に?」
「うん。本当」
「じゃあ、何…?」

くりっとした幼さの残る瞳が僕を見て来る。
そっとユーリの額にキスを落とし、安心出来る笑顔をユーリに見せる。

「『発情期』だよ」
「はつじょうき??」
「そう。…ユーリが子供を作れるようになったんだよ」
「こども…?、じゃ、じゃあ、フレン達の子供を産めるのかっ!?」

あー…うん。それは無理。
…なんだけど…。
こうも、眼をキラキラさせて、まっすぐな視線を向けられると…出来ないとは言えない。
ど、どうすれば…。
一瞬で思考をフル回転させて、いい案が浮かび上がる。

「そうだね。でも…その為にはユーリが僕を受け入れてくれないと、ね?」
「受け入れる?」
「そう。ほら、いつもしてるだろ?」

わざとユーリを煽る様に尻尾から手を辿わせ、何時も僕を受け入れてくれている所へ触れる。

「にゃ?あれをすればいいのか?」
「そうそう」
「フレンのそれ、受け入れるんだよな」
「そうそう」
「そしたら、フレンの子供産めるんだな?」
「そうそ……あー、うん、(多分)ね」

僕の言葉を聞くと更にユーリは嬉しげに微笑み、僕にぎゅっと抱きつくと、すりすりすりすりと頬と頬を擦りあわされる。
可愛い。

「ユーリは僕達の子供が欲しいのかい?」
「うんっ。だって、オレはフレンの嫁だからなっ!!」

えっへんっ!!
無駄に威張る。
しかし、可愛いから許す。
それじゃ、早速子供産んで貰う為にも、ユーリに僕を受け入れて貰おうかな。

「ユーリ、服、脱がしていいかい?」
「んっ。オレ、自分で脱ぐっ」

宣言通りパパパッと服を脱ぐと、また僕にぎゅっと抱きついてくれる。
可愛い、って言葉しかもう出て来ない。
耳をぱくっと口に含め、すっかり気持ち良さを覚えてしまった胸の尖りを指で擦る。

「ぁッ…、ふれ、…」
「気持ちいい?ユーリ」
「ぅ、ん…、気持ち、いい…」

首筋をぺろっと舐めて、胸に吸い付き白い肌に紅い痕をつける。
最近気付いた事がある。
こうして、ユーリと繋がろうとしている時、ユーリは無意識に僕達の行動を真似している節がある。
その証拠にユーリは僕の服の胸元のボタンを緩め、そのまま胸に顔を埋めるとちゅうと吸い付く。
ただ、やっぱり馴れてない所為か痛い。
針でさしている様な痛みが…最終的にいつも歯形がついていたりする。
だが、それすらも愛おしく感じる僕はユーリを止めるつもりも無く、そのままユーリの体を自分の物にすべく先を進めた。