お弁当攻防戦
後編
ユーリと別れた後、フレンは消えたお弁当を探すため、ユーリの教室に来ていた。
しかし、ユーリ達は昼休憩の前は体育だった。
だから、変化などある訳がない。
けれど、逆に言えば誰もいなかった時間だ。
入ろうと思えば盗みに入れてしまう。キョロキョロとあたりを見渡す。
ユーリの鞄らしきものは見つからない。
となると、地道に聞き込みしかない。
そう思って、人を探していると、向こうからジュディスが歩いて来た。
ジュディスもフレンの存在に気付いたらしく、にっこりと微笑み歩み寄ってくる。
相手の方から寄って来てくれるなら都合がいい。
フレンは早速、探し物の事を聞く事にした。
「ユーリのお弁当が入った鞄?あの水色と白のストライプの?」
「そう。それなんだけど。何処かで見なかったかな?」
「…どうだったかしら…」
頬に手を当てて、ジュディスがじっくりと考えて、静かに顔を振った。
どうやら見ていないらしい。
「そうか。すまなかったね。呼び止めて」
「いいえ。私の大事なお友達の為ですもの。私も何か気付いたら先生に教えるわね」
「すまない。そうしてくれると助かる。有難う、ジュディス」
「ふふっ。それでは失礼します」
「あ、そうだ。ジュディス」
「?」
「ユーリに授業に間に合わなかったら悪いから、何か食べててくれって伝えてくれないか?」
「分かったわ。それでは」
言って優雅に立ち去って行く。
さてさて、ユーリのお手製弁当は何処に行ったのか。
お昼休みが終わるまでには何とか、取り戻してご飯を食べたい。
何より、他の人間にユーリのお弁当を食べさせたくない。
完全なる独占欲を抱えて、フレンはお弁当を探しに本腰を入れ始めた。
擦れ違う生徒、生徒に聞いて行く。
しかし、目ぼしい情報は得られない。
ユーリが学校に来る段階で何処かに置いて来たんだろうか?
「あれ?フレン?何してるんです?」
「必死そうな顔して何してるのよ」
「エステリーゼ様にリタ。それが…」
今現在の情報を伝える。
すると、エステルは知らないと答えたものの、リタは何か知っているのか首を捻っている。
「リタ、何か知ってるのかい?」
「んー…ユーリの鞄よね?アタシどっかで見た気がするのよ」
「本当ですっ!?」
「うん…何処だったかな…」
今の所情報は無い。
もう、このリタの情報に頼るしかない。
じっとリタが思い出すのを待っていると、はっとリタが思い出した。
「そうそう。思い出した。確か、おっさんが持ってたような気がするわ」
「おっさん…?レイヴン先生かい?」
「うん、それ。そのおっさん」
「レイヴン先生が…」
「あのおっさん、珍しい鞄持ってるなーって思ってたのよねー。しかもスキップしながらテンション馬鹿高で鼻歌歌いながら。何か超ムカついたから一発殴っといたんだけど」
「殴…え?」
「そんな事どうでもいいのよ。とにかくおっさんが持ってたって事しかアタシは知らないわ」
「そうか。ありがとう」
取りあえず、手掛かりは手に入れた。
フレンは、急ぎリタがくれた情報をもとに、レイヴンの所へと向かった。
「レイヴンさん、いますかっ!」
ノックも何もせずにドアを勢いよく開ける。
「な、な、なななな何ごとっ!?」
「失礼します」
そして、許可など全く無視して、ずかずかと中に入り込み目当ての鞄を探す。
「なになに?なんなの?フレンちゃんっ」
慌てたレイヴンをぺいっと投げ飛ばし、寸前まで座っていた椅子の周り、机の上、兎に角荒らす…いや、探す。
そして、机の下を見ると、…白と水色のストライプの鞄がっ。
「これは…」
「きゃーっ!!」
ドンッ!!
「おわっ!?」
レイヴンの体当たりを喰らい、フレンが傾く。
その隙に、レイヴンは鞄を取り返す。
「駄目よっ!!フレンちゃんっ!!これはおっさんが貰ったんだからっ!!」
鞄をぎゅーっと抱きしめて、レイヴンがフレンに威嚇する。
「ちょっと待って下さい。この鞄はユーリのなんです。ユーリも鞄を探していて。返して下さい」
「それこそ、ちょっとお待ちなさいよ。この鞄はパティちゃんがおっさんにってくれたのよっ」
「パティ?中等部の生徒が、どうしてこっちまで来るんですか?」
「それは、決まってるでしょっ!!おっさんのファンなのよっ!!」
「嘘ですね」
「ちょっとっ!!きっぱり斬り過ぎでしょうっ!!」
「教職者として嘘をつくのは如何なものかと思いますよ」
「フレンちゃん、おっさんの話聞いてる?」
「兎に角、それを渡して下さい」
「い・やっ!!」
ふぅ〜…。
言葉が通じない相手にフレンがにっこりと笑う。
その後ろに漂う真っ黒いオーラ。
けどレイヴンも何でか負けていられない。
「おっさんのお昼御飯がかかってるのよーっ!!」
「あっ!?レイヴン先生っ!?」
レイヴン脱走。
しかも鞄を持って逃走。
突然の脱走にフレンが一瞬呆気にとられている。
その間に距離がひらいて行く事に気付いて、慌てて追いかけて行く。
とは言え、廊下は走ってはいけません。
フレンが早足で歩く。
はた目から見るととてもおかしな光景だったり。
でも、教師の癖に全力で疾走するレイヴンと必死に早歩きするフレン。
取りあえず追いつける訳がない。
仕方なくフレンはレイヴンが逃げそうな場所に先回りする事に決めた。
それは勿論。
ユーリ達の教室。ジュディスの下である。
急ぎ教室へ向かうと、そこにはレイヴンはまだ来ていなかった。
「間違ったか?」
「ん?フレン先生?何をしてるのじゃ?」
後ろから声をかけられ振り返ると誰もおらず、くいくいとスラックスを引っ張られ下を見るとそこにはパティの姿が。
「あぁ、パティ。君こそ高等部に用事かい?」
「なのじゃ。今日ユーリがご飯が無いらしいからの。皆でお弁当買って来て食べようってメールが来たのじゃ」
「そうか。それで…」
「うむ。ウチとしては嬉しいんじゃが、はて?」
「ん?」
「おかしいのぅ。さっきおっさんにユーリの鞄を届けたはずなんじゃが」
「えっ!?」
「なんじゃ?どうかしたのか?」
「…パティ。ちょっと聞いても良いかな?」
「?」
「その…君はレイヴン先生のファンだったり…?」
「…撃たれたいのかの?」
ギラリ。
「あ、いや。ごめん。レイヴン先生がそう言ってたから…」
「なるほどの〜…」
フレンに引き続き黒いオーラが漂い始めた所へ。
「あっ!?やばっ!?」
レイヴンが教室前のフレンとパティを発見。
逃走する前に、捕まえなくてはっ!!
フレンとパティが追いかけようとした瞬間。
レイヴンに向かい、フレンの後方から何かが飛んで行った。
バコーンッ!!
その何かは良い音を立ててレイヴンの頭へ直撃し、レイヴンはそのまま倒れた。
「ったく。やっぱり犯人はお前かよ」
「ユーリ?」
投げたのはどうもペットボトル(中身有)らしい。
急いでフレンとパティはレイヴンに走り寄り、鞄を取り返そうとするが。
「わーたーすーもーんーかーっ!!」
「物凄い執念じゃの」
鞄を抱きこんでしまった。
これでは力一杯引っ張れば鞄が切れてしまう。
ユーリが大きくため息をつくと、仕方ねぇとレイヴンに歩み寄る。
「分かった。分かった。今度おっさんにも作って来てやるからせめてフレンに弁当だけでも返してやってくれ」
「えっ!?」
「ほんとっ!?ユーリちゃんホントっ!?」
「ちょっと待ってくれっ!ユーリっ!!」
フレンが慌てる。
鞄を渡すと言う事は、その中に入っている『下着』もレイヴンに渡す事になる。
自分の彼女の『下着』をっ!!
それだけは避けなくてはならない。
しかし、そんな事を気にも留めないユーリは首を捻った。
「何をそんなに焦ってんだ?別にいいだろ。あーでもフレンの食費だしなー。あ、でも金払って貰えば」
「そうじゃないっ!そうじゃないんだよ、ユーリっ!!」
「そうじゃないって?どう言う事だ?」
「食費とか、お弁当どうのとかそういう事じゃないんだ。いや、勿論、レイヴン先生なんかに僕の大事なユーリの手作り弁当を食べさせてあげたいなんて欠片も思わないよっ!?けど、それ以上にその鞄は渡せない筈だろっ!?」
「いや…別に」
「兎に角駄目だっ!!レイヴン先生っ!!」
「ほえ?」
「そのお弁当はあげます。ただし、その鞄と中身は返して下さいっ!!」
「いいの?お弁当食べていいのっ!?」
「今日だけ特別ですっ!!」
「わーいっ!!フレンちゃんありがとーっ!!」
「お、おい。フレン…?」
レイヴンさんは両手を上げて喜び、中からお弁当箱だけ取り出し、スキップしながら準備室へと戻って行った。
一方フレンは取り戻した鞄にほっと一安心。
それと同時にチャイムが鳴り、ユーリが何か言いたそうだったけれど、ユーリの手に鞄を返し、フレンは次の授業の為に急いで準備室へと帰って行った。
※※※
その日の夜。
何時ものようにユーリが晩御飯を作ってフレンを出迎えてくれる。
昼に何も食べず漸く仕事が終わりご飯にありつけた。
椅子に座り、ユーリの作ってくれた特製ハンバーグを食べていると、会話は今日の昼の事になった。
「にしても、何で弁当の方を選ばなかったんだよ。遅れてでも飯食っとけばんなに腹減る事なかっただろ」
「それは、そうだけど…。下着、入ってたんだろ?」
彼氏としては彼女の下着を他の男に渡したくなかった。
そう、素直に言うと、きょとんとしたユーリは、意味を理解して大きくため息をついた。
「ユーリ?」
「……はぁ。ちょっと待ってろ」
ガタンと席を立ち、鞄が置いてあるソファに近寄り中から買い物袋を取り出した。
それを、フレンに手渡す。
クエッションマークが頭の上に浮かびまくる。
開けてみろ。
言われて、開けて見ると中には。
「紳士用のトランクス…?」
「オレは何時、オレ用の下着だと言った?」
「…え?」
「お前の下着の買い置き無くなって来てたから、買っといたんだよ」
「……えっ?」
と言う事は…?
「僕のお弁当…」
「食べられ損だったな」
「……嘘だろう…」
明らかに落ち込んだフレンに苦笑いを浮かべ、その頭をもしゃもしゃ撫でる。
「まぁまぁ、オレを守ろうとしてくれたのは嬉しかったぜ。な、フレン」
「…ユーリ…そうだね。これも、ユーリが僕に買って来てくれたって事はプレゼントみたいなものだしね」
「そうそう。ほら、飯食おうぜ」
「うん」
「…でも、明日。レイヴン先生に仕返ししてもいいかな」
「好きなだけやれ。オレはとめねーよ」
「ありがとう」
フレンとユーリは仲良く晩御飯を食べ、床へとついた。
翌日。
レイヴンの為に、フレンが作ったお弁当をユーリが作ったお弁当と称して渡され、レイヴンは嬉々としてそれを食べて救急車で運ばれたと言う。
結局、お弁当攻防戦は、ドローで幕を閉じた。


アトガキ的なもの。
匿名希望の猫神様からのリクエストでした(^◇^)
リクエスト内容は
『フレユリ(女体化)フレンが先生でユーリは女子高校生で幼馴染で恋人』
でしたっ!!
ギャグに飢えててギャグにしちゃったんですが、どうでしょうか?ドキドキ(>_<)
結果的にはレイヴンが一番酷い目にあってるって?
仕方ないwww
うちのサイトではその役回りですwww
それではリクエスト有難うございました(*^_^*)