ユーリが好きですが何か問題でも?





後編


嫌な予感は案の定的中した。
レイヴン部長の提案した突発的飲み会が急遽施行されたのだ。
何時もならば、ユーリを自宅で一人にして置く訳にはいかない、と断る所を今日の議題の発端である僕が断る訳には行かず、泣く泣く参加を余儀なくされた。
一応今日は会社の飲み会で遅くなるとメールをユーリには送ったけれど、予想外の速さで返信が来て、しかも。

『ゆっくりしてこい。何なら泊まりでもオケ』

って…。ユーリ、全然僕を必要としてくれてない。
本格的に旅支度をしたくなってしまった。
レイヴン部長に引き摺られるように、飲み屋へ行くと、そこには同期で別部署で働いているガイと何故か楽しそうにニヤニヤ笑っているガイの上司であるジェイド部長が座っていた。
どうしよう、帰りたい。
助けを求めるようにガイの方に視線を送ると、ガイは静かに頭を振った。
その視線は静かに『諦めろ』と告げていた。

「いや〜、良く来ましたね〜。フレン、貴方の噂はこちらの方まで届いていましたよ〜。なんでも、営業へ行けば必ず契約をとってくるとか言われてるそうじゃありませんか。素晴らしいですね〜」
「えっ!?いえ、そんな。それを言うならば、ジェイド部長の方でしょう。向かう所敵なしとお聞きしました」

ガイに促され僕とレイヴン部長は席につく。
しかし、どうしてジェイド部長がここにいるんだろうか。
肘で隣に座るレイヴン部長の小脇をつつく。

「なんでジェイド部長がいるんですか」
「そんなのオッサン知らないわよ。おっさんはガイ君しか誘ってないもの」

ひそひそと聞こえないようにやりあうと、

「おやー?目の前でこそこそと怪しいですねー」

なんでそんな楽しそうに…。
頬が引きつってしまう。

「まぁまぁ、部長も抑えて抑えて。まず乾杯と行こうぜ」

ガイの執り成しで僕達はようやく酒を注文し、本題に入る事になった。
予想外の人物はいたにしても、目的は僕の悩み相談だ。
レイヴン部長が代わりに概要を説明してくれて、何故か二人から微妙な顔をされてしまった。

「えっと…?」
「幼馴染との恋ですら大変だってのに、兄妹とか。フレン、お前も大概チャレンジャーだな」
「そうかな」
「そうだろ。血の繋がりがないのがせめてもの救いって感じだな」

そこまで兄妹間の恋愛ってのはおかしなことなのだろうか。
それこそ、血が繋がってないんだから、何の問題もないだろうに。

「妹はお前の気持ちに気付いてるのか?」
「いや、多分、知らないと思う」
「んん?フレンちゃんどうしてそう言いきれるの?」
「僕は完璧に隠してますから」

これに関しては自信がある。
胸を張って答えると、ジェイド部長が疑うように悪い顔で微笑んだ。

「本当ですか〜?怪しいですねー。ではちょっとテストしてみましょうか」
「テスト、ですか?」
「えぇ、そうです。では、第一問。家に二人きりでいる時。食事は一緒にとっていますか?」
「……いいえ」
「ふむ。第二問。昔は兄妹で一緒に出掛けていましたか?」
「はい」
「第三問。今は一緒に出掛けたりしますか?」
「いいえ」
「第四問。自分が帰宅すると妹さんは部屋にいますか?」
「はい」
「最終問題。その後部屋から出て来てくれたりしますか?」
「いいえ」
「成程ー。完全に気付かれてますね。しかも上手い具合に避けられている、と」

あっけらかんと言われて、一瞬意味が頭に入ってこなかった。
完全に気付かれている?
えーっと、それは、要するに…。

「ええええええっ!?」

つい立ち上がってしまった。
しかし、驚くのも仕方ないと思う。
だって、ジェイド部長の言い分が本当なら、僕は既に避けられている事になる。
失恋確定って事になるじゃないかっ!
そんな…。

「フレン、落ち着けって。ジェイド部長の口車に乗せられてたら負けだぞ」
「ガイ…」
「まぁ、外れてもいない気もするけどな」
「やっぱり、失恋確定なんだね」

いっそ自棄酒で今日は酔いつぶれてしまおうか。

「そうとも限らないんじゃない?ってゆーか、ジェイド。うちの若いの苛めないでくれる?」
「おや。苛めたつもりはないのですが」
「嘘言うな」
「おやおや。これまた手厳しい」
「あのね、フレンちゃん。避けられてる理由を考えてみたらいいんでない?」
「避けられている理由?」
「そうそう。もしかしたら、妹ちゃんも恥ずかしくて避けてるのかもしれないじゃない?」
「恥ずかしい…?」
「うんうん。理由なんて本人に聞いてみないと何とも言えないって事よ」

そう言われてみればそうか。
まだ、避けられている理由が分からないから。
だったら直に聞いてみればいいのか。

「でも、どう、切り出したら…」
「そうねぇ…」
「自分の気持ちを伝えるしかないでしょう?」
「え?」
「こんな風にうだうだ考えていても解決策何て出ませんよ。答えはその妹しか持っていないのですから」
「ジェイド部長…」
「結果が出てから悔やみなさい。貴方達はまだ若い。挽回をするチャンスは幾らでもある。やる前に悩むのは年寄りの特権ですよ」

………。

「おや、どうかしましたか?皆さん」
「あ、いや。ジェイド部長もたまにはまともな事言えるんだなって思ってな」
「それはそれは。お褒め頂き有難うございます。お礼にガイには明日の仕事を五割増しにして差し上げましょう」
「はっ!?ちょっと、それはないんじゃないかっ!?」

ガイがジェイド部長に全力講義をしているが、僕は目から鱗が落ちたようだった。
そうだ。結局僕に残されてるのは気持ちを伝える事しかないんだ。
やれることは一つしかないって事。
何か悩んでいた事が嘘みたいで、頭の中はスッキリしていた。

「ジェイド部長」
「はい?」
「有難うございます。何か、頭の中がスッキリしました。お礼に今日は僕が奢ります。好きなだけ飲んでくださいっ」
「いやー。悪いですねぇ。そうですかぁ?では、御馳走になりましょう。あ、店員さん。ワインをボトル二本追加でお願いします」
「あ、僕も日本酒追加でっ」

目的が定まった僕は、その後ただただ、楽しく飲んだ。
そして。飲み過ぎに待っている結末は誰しも知っているもので。

「うぅ…真っ直ぐ歩けない……」

ここまで飲んだ事はないから、…辛い。
吐きたいまでではないにしても、目が回って足がふらつく。
家が遠い…。
それでも頑張って歩いていると、突然携帯の着信音が鳴り響いた。
もたついた手で何とか電話に出ると、

『おいっ、フレンっ。今どこだっ?』
「え、っと…ここは、近所の、公園、だとおもう」
『公園だなっ。今迎えに行くから待ってろよっ』
「えっ!?いいよっ、もう0時回ってるんだから、家にいてくれ」
『嫌だっ。いいからそこにいろよっ』
「嫌、って、ユーリ」

ブツッ。

「切られた…」

えっと…ユーリはここで待ってろって言ってたっけ。
じゃあ、待ってよう。
普段なら絶対こんな不用心な事をしないだろうけど、今日は酒の所為で頭が働かず、僕は公園のベンチに座り一息ついた。

「あー…夜空が綺麗だなー…」

空を見上げるとキラキラと星が輝いて、闇を明るく照らしている。

「でも、ユーリの髪の方が確実に綺麗だ」

うんうんと頷く。

「お前、何恥ずかしい事言ってんだ」

横から声がして隣を振り向くと、そこにはユーリが呆れ顔で立っていた。

「やぁ、ユーリ…」
「やぁ、ユーリ、じゃねぇよ。ったく、確かに飲んで来いって言ったけどよ。帰ってくるなら、こんな遅くまで飲んでるんじゃねぇよ」
「うん、ごめん…」
「吐き気は?」
「大丈夫。ちょっとふらつくけどね」
「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか」

ユーリは僕の前に立ち、僕の腕を掴んで引っ張ってくれる。
その力に逆らわずに立ち上がると、ユーリはそのまま僕の腕を自分の肩へとかけてくれた。
ユーリの肩を借りながら帰路につく。

「なんか、こうしてユーリの二人でいるの久しぶりだね」
「そうか?毎朝起こしてやってるだろ?」
「直ぐに、いなくなっちゃうじゃないか」
「それは…」
「ユーリは、僕の事が嫌いか?」
「フレン?」
「僕は…ユーリの事が好きだ。兄妹とかそう言う事じゃなく。君を一人の女性として好きだ」

酔った勢いってのは凄いな。
躊躇いなく言葉が出てくる。

「フレン…オレは…」

ユーリの足がぴたりと止まる。
そして、ユーリが何か言ってくれそうになったその時。

「おうおうおう。往来でいちゃいちゃしてんじゃねーぞ、こら」
「お子様はもう帰る時間ですよー」
「お、でも、美人連れてるじゃねーか。兄ちゃん、その娘、こっちに寄越せよ」

酔っ払いか、チンピラか。
なんにしても、鬱陶しいっ!
折角ユーリが何か話してくれそうだったのにっ!
僕はユーリから体を離すと、僕の肩に男の手が肩へかかった。

「おい、聞いてんの」
「うるっせぇんだよっ!!」

バキィッ!!

……ん?
僕の両手はここにある。
何かを殴ったりはしていない。
という事は…?
視線を隣に向けると、いたはずのユーリがいない。

「こっちは今大事な話をしてんだよっ!邪魔してんじゃねぇっ!」

バキッ!ドゴッ!バシィッ!!

あ、あれ?見間違いかな?
ユーリがチンピラを潰していくように見える…。
僕、こんなに酔ってたかな?

「ちっ、弱ぇくせに出てくんなっ。ったく…あぁ、悪ぃな、フレン」

微笑むユーリは何時ものユーリだ。
あれ?やっぱり夢だったのかな?

「…幻滅したか?」
「え?」
「オレの本性見て幻滅したか?フレンさ、お淑やかな女の子が好きだったろ?…こんなオレ見て幻滅したか?」

ユーリは今にも消え入りそうな声で僕に問いかけてきた。

「本当はさ、大抵の男は追い返せてしまうし、スカートとか履くキャラじゃないんだよ、オレ。でも、フレンが好きで。フレンの印象を崩したくなくて。だから、フレンにばれないように距離をとって…」
「ユーリ…」
「オレ、お前と本当の兄妹じゃないって知ってた。それを知った時は嬉しかったよ。でも、こんなオレがフレンの横に立てる訳ないって、思って」

…やっぱり夢なんだろうか。
ユーリが凄く可愛いことを言っている。
僕は無意識に自分のほっぺをつねっていた。

「痛い…のかな?」
「フレン?」
「酔っぱらってるから都合のいい夢を見てるんじゃないかな」
「おい、フレン?」
「だって、ユーリが僕の気持ちに応えてくれて、しかもこんなに可愛いことを言ってるなんて夢以外何物でもないような…」
「か、可愛いって言うなっ」

顔が真っ赤だ。
やっぱり可愛い。

「うーん…やっぱり、夢なんだね。まぁ、こんないい夢だったらそれでもいいかな」

僕はユーリを抱きしめた。

「お、おい、フレンっ!?」
「大好きだよ、ユーリ」
「お、オレ、も…って、んっ!?」

ユーリにそっとキスを落とす。
触れるだけの軽いキス。それだけでも真っ赤になるユーリの顔を見て僕は嬉しくて微笑む。
緊張が解けたのか何なのか、ぐるぐると視界が回る。

「え?おい、フレンっ!?」

そのまま僕はユーリに全体重を預け眠ってしまった。

次の日、僕が目を覚ますとそこは僕のベットの上だった。

「やっぱり、夢だったのか…うぅぅ」

あんな幸せな夢、そうそうないよ。
半端ない絶望感が僕を襲う。そんな僕に予想外の声が飛んできた。

「何が、夢だったんだ?」
「え?」

毛布の中から声がして、そっと腕の方を見るとそこにはユーリの姿があった。

「全く、変な所で力尽きやがって。家まで連れて来んの大変だったんだからな」
「ユーリ…?」
「これで、もう夢じゃないって分かるだろ」

もそもそと毛布の中に入りこみ、僕の胸へ、その体を預けてくれる。

「好きだぜ、フレン」
「ユーリ…。どうしよう。幸せ過ぎて言葉が出ない」

すり寄ってくるユーリの体をぎゅっと抱きしめて、僕はその額にキスをして、微笑んだ。
そして、心からユーリに向けて…。

「僕も大好きだよ、ユーリ」























アトガキ的なもの。


通りすがりの猫神様からのリクエストでした(^◇^)
リクエスト内容は

『フレユリ♀義兄妹パロ』

でしたっ!!
フレンを旅立たせようと思ったのですがwww
ユーリの告白によりとどまる事が出来ました。
義兄妹ってのが楽しかったな〜♪
あと何気に出てくるアビスメンバーwww
おっさんだと相談が真面目過ぎるかなとwww
コラボ苦手だったらすみません(/ω\)
あと、大変遅くなって申し訳ありませんでしたっ!!
それではリクエスト有難うございました(*^_^*)