硝子の壁
【15】
「前略 凛々の明星、…いや、共に走り抜けた皆へ。
これを見つけた時に僕とユーリはこの世界にいるだろうか?
こう言う書き方をすると怒られるかな?
リタとかジュディスとかに怒られそうだね。
でも怒らないでもらえると嬉しい。
この手紙を一番最初に発見したのは誰だろう?
一番可能性があるのはエステリーゼ様だろうか?
そうだとしたら、きっと泣いてしまわれるだろうか。
カロルもきっと泣いてしまうね。
そして怨むだろうか。
僕達を…。
ユーリを一緒に連れて行った僕を…。
すまない。
だが、許してくれないか。
僕は、もう、ユーリを離したくないんだ。
そばに、いたいんだ…。
一緒に。ずっと…。
あの時の後悔はずっと心に残り続けてる。
どうして、あの時、ユーリの手を離してしまったのか。
それだけが、ずっと…。
今度こそ、僕はユーリを守ると、側にいると決めたんだ。
ダークロンの持つ闇の毒。
これはエステリーゼ様の治癒術でも治す事が出来ないと知った時、僕は決めたんだ。
一人の男として、好いた女を守ろうと。
そして、それを実行した。
この選択に悔いはないけど、それでも、僕には投げ出したものを片づける責任がある。
…だから。
君達にお願いがある。
騎士団を、ギルドを、帝国を…世界を、頼む。
僕達はここから手を出す事は出来ないだろう。
あとは君達に任せるよ。
ヨーデル様。エステリーゼ様。
お二人で力を合わせて、より良い帝国へと導いて下さい。
帝国をお願いします。
カロル。
君はきっと僕達以上に強くなる。大丈夫。真っ直ぐ前だけを向いて進んでくれ。
ハリーと共にギルドを引っ張っていける筈だ。君なら絶対に大丈夫だ。
リタ。
魔導器に代わる道具の発明を。
騎士団にもギルドにも研究に協力して貰えるように依頼してある。
使えるものは何でも使ってくれ。
ジュディス。
リタやカロルのフォローを頼む。
後、精霊化した始祖の隷長達を探しだして、現状を説明してあげてくれないか。
きっとシャドウやルナのような精霊たちはまだいるだろうから…。
パティ。
君の経験を皆に分け与えてやってくれ。
君になら、それが出来る筈だから…。
それから、ユーリを連れて行ってすまない。
でもこれだけは譲れないんだ。
レイヴンさん。
若い皆を正しい道へと導いて下さい。
これは…貴方にしか頼めない事ですから…。
お願いします。
そして、ラピード。
僕もユーリも先に行って待ってるから。
…充分遊んだら、僕達を呼んで。
ちゃんと迎えに行くから…。
その前に呼んだらお仕置きだからね。
僕とユーリは旅に出るよ。
どんな旅路になるかは分からないけれど。
今僕とユーリは幸せなんだ。
だって僕とユーリを阻むものはもう何も無くなったんだ。
硝子の壁も、ユーリが背負った罰も僕の背負った責も全て無くなった。
ずっと一緒にいられるんだよ。
こんなに嬉しい事、きっとない。
最後に、皆、ありがとう。
本当に……心から、感謝している。
きっとユーリも同じ気持ちの筈だ。
それじゃあ、また…。
何時か、再会出来る事を信じて…。
帝国騎士 団長 フレン・シ―フォ
追伸
もしかしたら…。
君たちは本当に強いから、この手紙を僕が破り捨ててる可能性もあるかもね。
その時は一緒に笑ってくれるよね。
―――みんな」
硝子の壁 完

