―――その後。
意識を失うまで泣き続けた彼女は、新たな決意をした。
そう。それは、命を懸けてまで二人の青年が望んだ世界を作り上げる事。
そして、それは彼女のが最初に決意した、彼らの期待に答える事に相違なく、彼女の働きは目を見張るものがあった。
どんな民にも平等に自由に暮らせる権利をもたらしたのだ。
勿論それは一朝一夕になるものではない。
けれど、彼女はそれをやりとげたのだ。
仲間たちと一緒に。
カロルを中心にジュディス、パティはギルドの更正を。
ユニオンと言う機関の徹底的な洗い直しをした。
ハリーの協力を元に、全てをきちんと立て直したのだ。
それと同時に、ヨーデルを中心に、レイヴンとエステルは皇帝の権力の見直しを。
それら全てをやり終えるのに、五年の年月を要したのだった。

―――五年の月日が経ち…。
彼女は、探していた。
ずっと、求めていた者を。こんな平和な世界を作る為に自らを犠牲にした、大切な仲間を。

「やっと…やっと会えますっ!」

森の奥深く。
動物達しかいない森の中に煙が上っていた。
ようやく探し当てた、大事な仲間。
急ぐ気持ちのままに彼女はただ、山を駆けあがる。そして…視界が開けて辿り着いた場所には…。

「誰も…いない…です?」

確かに山小屋はある。
けれど、開けられたドアの中を覗き込んでも誰もいない。
立ち昇っていた煙も誰か、休憩する為にキャンプを行ったのだろう。
既に火は消されて、その場所には誰一人としていなかった。
―――また、外れ…。
五年の間、彼らは生きているとずっと、ずっと探し続け…それでも、もう限界は来ていた。
足から力が抜けてペタンと座り込む。
視界が歪み、目から涙が溢れ出す。

「もう…無理です。どんなに探してもいない…」

やはり、もう…。
諦めにもにた感情が更に涙を流させる。
それでも…それでも。

「会いたいです。……フレン…ユーリっ!」

心の底から、青年達の名を呼んだ。
ずっとずっと、会いたくて堪らない相手を…。

「呼んだか?エステル」
「……えっ?」
「だから、ユーリ何度も言ってるだろう。エステリーゼ様とお呼びしろと」
「ふ、……れん……?」

後ろから、懐かしい声がした。
手が、声が震える…。
自分が作り上げた都合のいい幻聴なのではないかと振り向く事が出来ない。
けれど、それは幻聴でもなんでもいい。
自分を叱咤し、振り返るとそこには、優しく微笑んだ二人が立っていて…。

「ユーリ…、フレン…?」

確かめる様に名を呼ぶと二人は顔を見合わせ、笑い彼女の前に回りしゃがみこんだ。
そして、ポンと頭を叩くように撫で、昔と変わらない笑顔でユーリが笑った。

「おう。良く、頑張ったな。エステル」
「ユーリ…」
「大丈夫ですか?エステリーゼ様」
「フレン…」

差し伸べられるフレンの手。
彼女はその手にそっと手を乗せる。
その手はとても暖かくて…。
ギュッと握れば、そっと握り返してくれる。
生きてる…。
また会えたっ!
彼女の頬をまた涙が伝った。

「おいおい、んな泣くなって。目が溶けんぞ」
「生きて………良かっ、た……」
「えぇ。ラピードとデュークのおかげで」
「だな。ラピードがデュークを呼びに行って助けに来てくれたお陰でオレ等生きてんだもんな」
「……だったら、最初っからそう言いなさいよーーーっ!!」

突然の空気ブチ破りにユーリとフレンが一時停止した。
そこには怒れるリタ、ジュディス、パティが、立派に成長した姿で武器を構え立っていた。
流石に、ユーリとフレンはそれを予想していなかったらしく、二人顔を見合わせた。

「…信頼して貰えていた様で凄く嬉しかったわ」
「の割に凄い形相だな、ジュディ」
「こうなるって分かっててどぉしてお前達はこうも馬鹿なのじゃ」
「パ、パティ…。銃口は人に向けてはいけないものだよ」
「とにかく、一回ぶっ飛べーーーっ!!」

流石にやばいと判断した彼らは、ダッシュでその場を離れようと立ち上がり振り向く。
が、しかし。

「…僕も、……確かに僕も信じれなかったけど、でも。こんなに長い間姿を消さなくてもいいじゃんかっ!!」
「カロル、た、頼むからその武器仕舞え」
「まー、一回殴られといた方が楽よ。おっさんの経験から言って」
「シュヴァーン隊長まで」

ジリジリと追い詰められる、フレンとユーリ。
でも、その顔には笑顔が浮かんでいた。
こんなにも心が温かくなる位、二人がここに居る事が…嬉しい。
二人が生きていてくれた事が、何より嬉しい!
だから…。

「エステルっ!助けろっ!」
「…ユーリ、もう覚悟を決めて素直に殴られようよ」

彼女は立ち上がり、世界を救おうとして命を懸けた二人の手を握り締め、そして…。

「ユーリ、フレン。もう、離しませんからね」

そう言って、もうこの愛おしい温もりを決して離さなくて済む幸せを、二人に届くようにと最上級の笑顔で微笑んだ。