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ユーリとフレンの足取りを必死に追いかける。
ジュディスとバウルが合流しても、今ようやく追いついた。
エフミドの丘を私達は駆け上る。
辺りには、腕を抑え倒れる騎士やギルド員達が転がっていて、けれど、私達はそれを助ける余裕などなく、ただただ走り続けた。
ある程度駆け上ると、剣のぶつかる金属音が耳に入ってきた。
戦っている。
それはもう、誰だとか言うまでもなかった。
私達は無意識にスピードを上げる。
ユーリとフレンを助ける為に。
道なんて走ってられず、私達は草をかき分けて進む。
その時。
ガサガサと、近くで音がした。
勿論、ここには沢山のギルド員や騎士がいる。
その人達なのかもしれないけれど、でも、その音とは少し違う。
そして、草むらから顔を出したのは…。

「パティっ!?」
「レイヴンもっ!?」
「ハリーまで、一体…?」

そう。そこにいたのは何時もの漂々感の抜けた三人がいた。
そこにいる三人が皆真剣な顔そのものだった。
確か、皆自分のすべき事を果たす為に、それぞれの街に残った筈。
なのに、どうして…?

「…これは、俺達の責任だから」

ハリーがそう言うと、レイヴンとパティが頷いた。

「うちは…見届ける義務があるからの」
「…俺様も、ね」
「仲間、ですものね」

ジュディスの言葉に皆が同意した。
…こんな時に凛々の明星の皆が揃うなんて…。
零れそうになる涙をぐっと堪え、私達は全員で二人が戦っているであろう場所へと向かった。

どんどん金属音は大きくなっていき、声も聞こえるようになっていく。

「……れる………ねぇんだよっ…」
「…次っ!!」

声が…二人の声が聞こえる。

「ユーリ…ユーリっ!!」
「あっ!カロルっ!!」
「あの馬鹿っ!!」

突然スピードを上げ、カロルが駆け抜けていく。
きっとカロルは焦っているのでしょう。
でも、リタの言うとおりお馬鹿です。
慌てて、私達も後を追うけれど、カロルはどんどん先に行ってしまった。
必死に追いかけると、海の見える丘へ出た。ここは以前ユーリとカロルとリタと私、四人が海を共に見渡した場所。海に、世界の広さに感動したあの場所。そんな丘の真ん中でカロルが呆然と立ち尽くしていた。

「カロル…?」

声をかけるけれど、反応がない。
どうして…?
ふと、カロルの側へ近寄り、肩越しの奥カロルの見つめる場所へ視線を移す。そこには…。

「ユー…リ…?」
「う、そ…」

フレンが庇うように立っているその後ろに…ユーリが血だらけで横たわっていた。
ピクリともせず、青白い顔で…。そんな…。

「ど、どうしてっ!?」
「……いきなり飛び出した僕に剣が当たりそうになって…」
「もしかしてっ!?」
「…ぼ、…僕を庇って……ユーリっ!」

リタの声がカロルの意識を呼び戻した。
カロルがユーリの元へ近づこうとするが、残っていた騎士やギルド員に阻まれ近づく事が出来ない。
それ所かどんどん、フレンから、ユーリから引き離されていく。

「どいてっ!どいてよっ!!ユーリっ!!ユーリっ!!」
「早く治療しないとっ!」

私達は必死に人の間を掻い潜り、ユーリの元へと向かう。
しかし、ユーリの元へと向かうより先に次の惨劇が起きてしまった。

―――どすっ。

「……ぐぅっ!……」

鈍い音がして、一瞬フレンの呻き声が聞こえそして、私達の見たものはギルド員の刃がフレンのお腹を貫い瞬間だった。
一瞬の怯み。しかし、

「うあああぁっ!!」

フレンが刺さった刃を引き抜き、流れる血もそのままに、斬りつけた相手を斬りつけた。
フレンのお腹から血が流れ続け服が真っ赤に染まっていく。

―――助けに行きたいっ!!

なのにこの距離が一向に縮まらない。
でも…でも、目の前で誰かを失うのはもう嫌ですっ!!
フレンが剣を地に刺し、決して倒れるものかと迫りくる人達と向かい睨む。
最後まで意思を貫き通そうとする、フレンの正義を見て…もう、我慢は出来なかった。

「いい加減にして下さいっ!!副帝のエステリーゼ・シデス・ヒュラッセインが命じますっ!!騎士団全員剣を置き、下がりなさいっ!!」
「え、エステリーゼ様…?」
「早くっ!!」
「は、はっ」

騎士達が一斉に剣を地に置き、跪く。

―――これで、近づける。助ける事が出来る。

私達が近寄ろうとすると、残りのギルド員が道を阻む。
しかし、それは。

「お前達も道を開けろっ!!いい加減にこの可笑しな状況に気付け!!」

ハリーの一喝により解決する。心の中で精一杯の感謝をハリーに送った。

―――これで二人の手当てができる。二人と離す事が出来る。

けれど…。私達が人込みを掻き分け二人の前に立つ寸前に、空に大きな影が現れた。
そして、耳を突き刺す爆音と共に炎を纏った剣が落下してきたのだ。
どうして、いきなりこんなっ!!
反射的に空を見上げるとそこには…。

「デューク…」

レイヴンがぼそりとその名を呟いた。

「…それ以上近づくな」

そう言って、デュークはフレンとユーリを私達から遠ざけるように間に立ちはだかる。

「貴様達にこの者達に触れる権利はない」
「何言ってんのよっ!早く手当てしないと、二人がっ!」
「この者達がこんな状況に陥ったのは貴様らが原因だろう」
「そ、それは…」

何も言えない。
そう、私達は遅かったのですから…。

「この者達は私が連れていく」

デュークが(きっと精霊の力を借りているのでしょう)二人を大きな風の膜で包み込んだ。
その途端、フレンが力尽き、膝をつく。でも、もう無意識なんでしょう。自分の片割れを求める様に必死に近寄り側にいた既に意識のないユーリをきつくきつく抱き締めて…。そして、二人と共にデュークは空へと舞い上がる。
―――行って、しまう。二人が行ってしまうっ。

「デュークっ!やめてっ!二人を返してっ!!」

しかし、振り向いてもくれない。

「お願いですっ!!デュークっ!!」

必死に追いかけて、足がもつれて、転びそうになってもそれ所じゃない。

「二人を連れて行かないでっ!!」

―――嫌っ!!
二人がいなくなるなんて絶対に嫌っ!!
けど、私の声なんてまるで聞こえていないデュークは二人をどんどん私達から遠ざけていく。

「フレンっ!!ユーリっ!!」
「エステル、危ないっ!!」

後ろから腰に腕を回されて引きとめられて、ようやくここがあの時心の底から感動した海の見える崖だと気付く。
でも、でもっ!!
涙が溢れ出る。

「嫌ですっ!!ユーリっ!!」
「エステル、駄目っ!!」
「離してくださいっ!フレンが、…ユーリがっ!!」

それでも決してリタは離してくれない。
そして、私も追いつけない事を知ってる。
けれど…。

「ユーリっ!!嫌あああああああっ!!」

心が痛くて堪らない。
私はヨーデルが駆けつけて来るまで、ずっと……泣き続けた。