君とお前と歩む為に。1
帝都ザ―フィアスの結界魔導器を始め、全ての魔導器が世界から消え1年が経った。
空を見上げると世界を覆っていた『星喰み』が嘘のように、澄んだ青空が広がっている。
これは精霊達の力なのだろうか?
全ての大地が失いかけた力を取り戻し輝きを放っている。
まるで光を集めたような輝きを放つ金の髪の青年は、そのサファイアブルーの瞳で光り輝いている世界を城の窓から見下ろしていた。
―――1年前。
『凛々の明星』の名を持つギルドのメンバーは、世界を脅かす『星喰み』を倒す為に『始祖の隷長』達を精霊に生まれ変わらせた。
だが、それだけでは『星喰み』を倒すに敵わず、この世界『テルカ・リュミレース』の生活を補う道具。『魔導器』に必要不可欠な『聖核』を精霊に変えギリギリの所で勝利を得た。
『星喰み』から世界は救われた。
しかし魔導器が精霊に変わってしまった事実を、人々が受け止める前に世界は変わってしまったのだ。
人々の安寧は消えてしまった。結界がなくなった為、魔物が街の中へ入り込む。
けれど自分達を守る武醒魔導器すらない。騎士団やギルドも力の限り頑張っている。それでも、今までの実力の半分。いや、3分の1もないかもしれない。
どれだけ魔導器に依存していたのか…。
つくづく思い知らされる。
僕は、世界所かこの帝都ですら守れていない。
そう考えるとまた気分が沈み込んだ。
僕の親友は、世界を救い、人々を救って今まさに最前線で動いてる。
「…ユーリ」
無意識に彼の名を呟く。
帝国騎士団を立て直そうと、がむしゃらに頑張って、ようやく半年前正式に『騎士団長』の座を手に入れた。
これでようやく、君と対等に立てる。
だと言うのに、現状はこれだ。
帝国の中でさえまとめきれていない。
評議会の連中はいまだに、裏でこそこそ動いていて、副官のソディアに探らせてはいるが、まだまだ底が見えてこない。
このままでは、また…。
焦りだけが頭の中を駆け巡る。
…はぁ、と小さくため息をつき、雑念を払う様に頭を振った。
「出来る事から一つずつ、だな」
考えるだけでは始まらない。
今やれる事をやらなくては…。
目の前の問題を片づけなければ、次の問題に移れる筈もない。
窓の外から視線を戻し、既に慣れてしまった騎士団長の椅子に戻り書類に目を落とした。
次から次へと問題は溢れている。
一つ一つ書類を読んでは、サインを入れ、これの繰り返し。
今日もこれで一日が終わる、…はぁ、とまた溜息が漏れた。
こんな気分で仕事をしていても進まない。
少し気分転換に、体でも動かしに行こうかな?
そんな事をぼんやり考えていたその時だった。
―――城内の空気が………変わった。
いつも穏やかな城内の空気がピンと張り詰めたものに変わる。
嫌な予感が体を走る。心がざわざわする。
何かが起きたのだろうか?
無意識に席を立ちドアに走り寄ると、開く前に「フレンっ!」自分の名を呼ぶと共に目の前のドアが開いた。
「フレンっ!!」
「エ、エステリーゼ様っ?」
桃色の髪をしたドレス姿のお姫様が胸に飛び込んできた。咄嗟に受け止めはしたものの、反動で少し体がのけぞる。
この騒ぎは、エステリーゼ様の来城で起きたのか?
だが、それだけにしては、エステリーゼ様の様子がおかしい。
こんなに取り乱すなんて事は、ここ数年の間、脅威が消えた今ならありえないのに。
「どうかなされたのですか?」
そう、問いかける。
問いかけただけなのに、エステリーゼ様の手は震え、僕の服を掴んでいた。そして。
「フレンっ、急いでダングレストへ行ってくださいっ!!」
「ダングレストへ?それは、何故?」
あそこは、ギルドの街。帝国に属する騎士団は歓迎されない。
ましてや、そこのトップにいる僕は。
行くべきではない。不用意に立ち寄れる場所ではない。まだ、あそことの関係を築くまでには到達していないのだ。
だから、行くにはそれなりの理由がいるのだ。何故行かねばならないのか。
エステリーゼ様に問うと、胸に沈んでいた顔を上げ、大きな瞳が今にも泣き出しそうに。
それでも、僕をキッと見据え、
「ユーリが…亡くなりました」
素直に受け入れがたい言葉が僕の心を打ちつけた。



