君とお前と歩む為に。2
「ユーリが…死、んだ…?」
自分の体から血の気が引いていくのが分かる。
今言われた事を頭の中に入れることを体中が拒絶した。
正直、立っているのがやっとだった。
「さっき、カロルが凄く慌てて走ってきたんです。城に飛び込むように…。必死に私とフレンの名を呼んでいたそうで」
僕は黙って先を促す。
「慌てて行ってみたら、私の顔を見て『ユーリが死んだ』とそう言って…っ!!」
ボロボロとエステリーゼ様の瞳から堰を切った様に涙が溢れ頬を伝う。
まさか、そんな…。
嘘だと思う気持ちと本当なんだと思う気持ちがせめぎ合い、頭が混乱していた。
けれどそんな混乱した頭でも状況を確認しようと心とは裏腹に体が動いた。
「…カロルから詳しい話を聞きましょう。ダングレストに戻るにも彼が一緒の方がいい。確かめましょうっ」
「…っ…はいっ!!」
カロルが通されたはずの客室に向かっていると、城内は静まり返っている事に気づいた。
足音だけがだだっ広い廊下に木霊する。
先程までの慌ただしかった城内が嘘のように。
きっと、ユーリの訃報を聞いたんだろう。
僕とエステリーゼ様は、互いに合図する事無く走り出していた。
まだ、ユーリが生きていると信じていたかったのだ。
だが客室のドアを開き、そこにいたのは声をこらえ泣き続けるカロルだった。
やはり僕の顔を見ると、カロルの幼い顔がくしゃりと歪み涙が溢れた。
そして…。
「フレンっ…僕、は、僕はまたっ…っく…大切な、人を守れなかった…守れなかったよぉ…」
「カロル…」
「う…うあああああああっ!!」
悲痛な叫び声が、部屋の中に響き渡る。
何を言っていいのか、分からなかった。
カロルの声が胸に突き刺さる。
エステリーゼ様が少し身長の伸びた幼さの残るカロルをきつく抱きしめた。
守れなかったと心の底から叫ぶカロルの台詞は僕の台詞でもある。
でも、まだその事実を受け入れる事が出来ない。
ちゃんと状況を聞くまでは…。
そう思い口を開きかけたその時、後ろから声に遮られた。
「…三人共、迎えに来たわ」
クリティア族の魅惑の女性、『凛々の明星』のメンバーのジュディスだった。
ジュディスの表情も暗い。
じゃあ、やはり彼の言っている事は…。
どんどん信憑性を増していく。更に追い討ちをかける言葉がジュディスから放たれた。
「ユーリの葬儀をするそうよ。バウルに頼んで来たの。行きましょう…」
『葬儀』その言葉が素直に頭に入っていかない。
固まった思考と体をジュディスが促し、僕達は城の外に出た。
城門の所にヨーデル殿下が騎士を二人連れ立っていた。
その手に―――『花束』をもって。
「……これは僕からです。フレン、騎士団を代表して、お願いします」
「了解、しました…」
やめて欲しい。
そうやって、ユーリが死んだという事実を突きつけないで欲しい。
彼は生きている。
そう、思いたい。
そう、願う。
花束を受け取り、ヨーデル殿下に見送られながらバウルに乗り込んだ。
ダングレストに向かう途中に、ジュディスが事の経緯を話してくれた。
ユーリが、ギルドと騎士団のいざこざを無くす為に動いてくれていた事。
そして、そんなユーリを不快に思ったギルドの連中が街の人を人質に取り、ユーリを呼び出し、ユーリは一人戦いを挑んだ事。
そこで命を落とすような重症をおって、治療が間に合わずそのまま…。
ユーリの死が現実味を帯びて僕に迫ってきているような気がして…。
僕は心のどこかで、彼は絶対に死なないと思っていた。
疑問にすら思わなかった。
だけど、魔物と戦う僕だって常に『死』とは隣り合わせで。
当然彼にだって隣りあわせなのだ。
ヨーデル殿下から預かった花束を握る手が震える。
僕はただただ、これが悪い夢であるようにと願った。
ダングレストについた時には、もう夕方だった。
大きな広場に皆が花を持って集まっていく。
それを見て、何かが―――切れた。
人ごみを掻き分けて広場の中心に向かっていく。
頭の中はユーリの名前だけが反響している。
感情だけが焦りを生み、中々中央につかない。
ようやくついた広場の中央にある大きな棺にユーリが眠っていた。
凄く綺麗な顔だった。
まるで今にも起き上がってきそうな…。
「何、寝てるんだい?ユーリ…?」
そっと頬に触れると、いつもの温もりが感じられない。
「嘘だろ?こんなの嘘だよねっ!?ユーリっ!!」
いつまで経っても起き上がらない。
いつもの人を小馬鹿にしたように笑い顔も…。
からかうような声も…。
一切返ってこない。
「ユーリっ!!」
「フレンっ!!落ち着いてくださいっ!!」
僕を止める為にエステリーゼ様が腕を掴んで叫ぶ。
けれど、目の前の『絶望』に僕の心は耐え切れなかった。



