君とお前と歩む為に。12
「…要するに、おっさんの不甲斐無さが一番の原因なのよね」
見事に怒りモードを発しているリタにレイヴンさんが怯えている。
「いや、おっさんだけを責める訳にはいかねぇよ。俺も倒し切れなかった訳だしな」
「あら?貴方は出来る限りの事をしたのだから良いのよ」
ユーリの弁護はあっさりと流されて…怒りは全てレイヴンさんに向けられた。
「僕もそう思う。だって、レイヴンがちゃんと僕達に教えてくれれば…」
「そうよっ。がきんちょも良い事言うじゃないっ!」
「あらら〜、もう完全におっさんの所為なのねー」
そんな状況じゃなかったんだろう。
それは隣にいるユーリの顔を見るとよく分かる。
「…それに、やっぱりレイヴンがちゃんと手紙を届けていればフレンが幻覚みたり、ダングレスト襲ったりとかしなかったんだよ」
「そうね。じゃあ、掟に基づいて罰を与えようかしら」
「ウチも混ざるのじゃっ。ユーリにもちゃんと罰は与えたから今度はおっさんが受けるのじゃっ」
「私もっ」
「勿論、アタシもするわっ」
四人に追い詰められ、ユーリが心の底からレイヴンさんに同情している。
そんなユーリが僕を見ていた。
「どうかした?ユーリ」
「…んにゃ、ただもう幻覚は見てないなって思って」
「…うん。本物のユーリが隣にいる今なら分かる。本当に僕は幻覚を見ていたんだって……。最初、ユーリが死んだと知った時…あの時僕は、僕の心はユーリの死を否定していながら心の何処かで何時かこんな日が来てしまう事を知っていた。ダングレストに着いて棺に入った君を見て、これは本当の事なんだと…ユーリの死は事実なんだと。でも……早すぎたんだ。僕に君の死を受け入れるだけの覚悟はまだ出来ていなかったんだ。なのに、君からの遺品が届いた。それは、君と約束していた『魔導器』だった」
「…約束?」
「そうだよ。忘れたの?……君は言ったんだ。君が死んだ時はこの魔導器を僕に託すって。だから尚更君が死んだって事実の信憑性が増して…。だけどっ…信じたくなかったからっ。絶対にユーリは生きてるって信じてっ…そうしたら、君の遺体が下町に運ばれて…信じたくなくて…でも現実は君の死を見せ付けて…そしたら何が何だか分からなく、なって…」
「フレン…。ごめんな」
ユーリが僕の頬に触れた。
暖かい…。
本当に君が生きている。
その事がこんなにも幸福な事とは思わなかった。
そう思うとまた胸が締め付けられる。
ユーリの顔を見つめると、何時ものからかい顔になりニヤリと笑った。
「でもな、フレン」
「?」
「ちゃんと気付けよな」
「え?」
「俺の遺体。まー、あれは精霊が作った偽者なんだが、その遺体に魔導器がついていたってこと」
「…え?」
「だから、お前なら偽者だって気付けた筈なんだぜ?俺の魔導器を受け取っているフレン、お前なら…。俺だってお前には…お前にだけは生きてるって事を知らせたかったんだよ。知っていて欲しかったから…」
「…ユーリ…」
嬉しかった…。
それと同時にどうして冷静になれなかったんだと、軽く自己嫌悪に陥る。
だけど、それも仕方ないと開き直る事にした。
だって、僕にとってユーリはそれだけ愛おしく大切な存在なんだから。
ようやく回ってきた頭で一つ大事な事を思い出した。
さっき何だかんだで有耶無耶になったけれど、僕に宛てたユーリの手紙ってどうなったんだろう?
何を書いていたんだろう?
頬の触れている手を更に自分の手で被い、ユーリの名を呼ぶとちょっと照れくさそうに「何だよ」と返事が返ってきた。
「…その…、君が僕に書いた手紙は今どこにあるのかな?」
「知らねぇけど…おっさんは『海凶の爪』の連中が持ってるって言ってたな」
「そっか。じゃあ、取り返さないと…」
「だな。んで取り返したら破いて捨てるっ!!」
「えっ!?何でっ!?僕にくれるんじゃないのっ!?」
「あんなこっ恥ずかしいの、今更読まれて堪るかっ!!」
「えぇぇっ!?嫌だよっ!!勿体無いっ!!」
「勿体無いって…お前…」
だって、だってっ!!ユーリは滅多に手紙なんて書いてくれないし…。
『海凶の爪』が持ってる可能性があるなら、取り返すっ!!
決意を新たにすると、ユーリが呆れた顔で僕を見た。
でも、止める気はないからっ!!
ぎゅっとユーリの手を握ってじっと見つめた。
「……あんた達、いつまで見つめ合ってんのよ」
リタの冷静な突込みが入って、それに慌てて僕の手をユーリは払い「見つめ合ってなんかないっ!!」とはっきり言った。
だけど、そんな顔を真っ赤にしていたら説得力が無いって事を多分ユーリは分かってないんだろうなぁ…。
「とにかく、今度こそ『海凶の爪』を叩く必要があるわね」
「のじゃ。うちらの怖さを思い知らせてやるのじゃ」
「だな。やられっぱなしは性に合わない」
「うん。やろう。僕は今の状況にした責任を取らなければならない」
「このリタ・モルディオ様を利用した事、後悔させてあげるわ」
「もう、騎士団とギルドを戦わせたりしない。絶対に僕が止めるっ!!」
「そうですね。私も帝国に…世界に暮らす人のために私に出来る事をしますっ!!」
「おっさんも手伝うわよぉー……がふっ」
そして新たな作戦が始まった。



