※ ユーリが女体化です。
※ 騎士団時代の話(映画版)が少し入ります。
※ ギャグ…だと思うよ?
最優先事項だろ?(前編)
『……………え…えええぇぇぇぇぇぇっ!!?』
ヘリオードの宿屋で、ジュディスとレイヴン以外の仲間の声が木霊した。星喰みを倒し、久しぶりに集まったメンバーが顎が外れる位驚いている。
「うるせぇっての。他の客に迷惑になるだろうが」
ユーリがケロリと言うがそれ所ではない。リタを筆頭にユーリに皆が問い詰める。
「ユーリっ!!そんな事聞いてないわよっ!?」
「別に言う必要ないだろうよ」
「必要ありますっ」
「あるのじゃっ!!」
「そうだよ、ユーリっ!!それじゃ、僕ずっと…うわっわわっわわわっ!!」
カロルの顔が真っ赤に染まって、そのまま綺麗に大の字になってぶっ倒れた。と同時にコンコンとノック音がして、
「ユーリ、皆、声が宿屋の外まで聞こえているよ」
「他の客に迷惑になる」
「お静かにおねがいしますよ」
フレンを先頭にソディアとウィチルと共に入ってきた。
「おいおい、オレは騒いでねぇよ。騒いでんのはこいつら」
「…?一体どうしたんだい?カロル何て倒れてるじゃないか」
「んー?…んー」
歯切れの悪いユーリにフレンがエステルに問いかけた。
「一体何があったのですか?」
「それがっ、ユーリが女性だったんですっ!!」
「えぇっ!?……って、何だ。そんな事だったんですね」
「フレンっ、もしかして知っていたのですかっ!?」
「え?えぇ、まぁ…」
「いつですっ!?何時知ったのですっ!?」
「えっ!?えぇーっと…ユーリ?」
エステルに、問いかけたはずなのに問い詰められ、しかも気付けば『凛々の明星』のメンバー所か、一緒に来たはずのソディアとウィチルにまで迫られフレンはユーリに助けを求めるが、頑張れーと手を振られるだけだった。仕方なく全員に促されるまま部屋の椅子に座らされ、話し始めた。
―――騎士団時代。
騎士になり初任務でユーリ・ローウェルとフレン・シーフォは馬を走らせシゾンタニアへ向かっている。帝都からシゾンタニアまでは結構距離がある。だから、当然行くまでの間夜になると、野宿をするのだが…。今二人は正直戸惑っていた。何故なら、久しぶりにあった幼馴染が…。
「お、前…、男だったのかっ!?」
「き、君こそ…、女性だったのかっ!?」
自分の知っていた性別と逆だったからだ。たった今滝を見つけ、水分補給をする事に決めた二人は馬を降りた。ついでだから体から汗を流そうと、タオルを取り出し上着を脱ぎ首にかけると、ユーリは頭から水をかぶった。その時水筒に水を汲んでフレンは水を浴びようと上着の前を肌蹴け、ふとユーリに目をやると、そこには知っていた筈の体は無く、見慣れない、けれど立派な胸がついていた。
―――カラン…。
手に持っていた水筒が地面に落ち、折角汲んだ水が零れ流れていく。だが、今はそれ所ではない。
「ま、マジかよ。オレてっきりお前が女だとばかり…」
「そんなわけ無いだろうっ。君の方こそ、そんな…」
「ちっせぇ頃はどう見たってお前の方が女っぽかっただろっ。髪も金髪で、綺麗な面立ちでっ」
「僕だって君はどっからどう見ても男の行動だったからっ!てっきり」
ユーリが女性だなんて微塵も思わなかった…。と視線を逸らさずに言われ、流石に…。
「おい。あんまり、こっち見るな」
「あ、ごめんっ!」
慌てて振り返ってからフレンはふと思う。
「って、君がそんな格好してるから悪いんだろっ!!」
「オレの所為かよっ!!」
「いいから、さっさと服を着なよっ!!」
フレンの言い方にむっとするが、しかし何時までもこんな格好でいるわけにもいかず、いつも巻いているさらしを胸に巻き上着を着込んだ。
「ほら、着たぜ」
「あ、あぁ…」
そっと振り返ると見慣れた姿に戻っていて、フレンは安堵の息を吐いた。どうにも微妙な空気だった。話しかけるにも話しかけられず…。二人はそのままシゾンタニアに到着した。到着早々、ナイレン・フェドロック隊長に部屋割りを聞いてフレンは愕然とした。
「ユーリと…同室っ!?」
「あぁ。何か問題でもあるか?幼馴染なんだろ?」
「ちょ、ユーリは女せ、むぐっ!?」
「問題ないよなー?フレン。そいじゃ、隊長。オレ達早速部屋に行くがいいよな?」
ずるずるとフレンの口を抑え引き釣り隊長室を出て行った。
「…あー、面倒くせぇ事になりそうだ…」
問題児達を見送りナイレンは溜息混じりに呟いた。
―――その日の夜。
ユーリとフレンの歓迎会が行われた。
美人双子姉妹が教育係との事もあって、二人は彼女達の間に座らされた。
ユーリはいい。まだ女だから女性と座っていても何も無いだろう。だが、フレンにしてみれば女性に囲まれているのである。
(…これは何かの拷問か…っ!?)
居心地が悪いどころではなかった。
「なんだよ、フレン。そんなにオレの横が嫌なのかよ」
「あぁ、嫌だね。そもそも、どうして君が騎士団にいるんだっ」
『女性なのに』と言う言葉を必死に飲み込んだ。女と言うセリフはどうもユーリには言ってはいけないようだ。女だと気付いた時からそうだった。まるで、女だって事を避けているような、そんな気がする…。さっき、荷物を片付けている時もそうだった。
『お前、オレが女だって言うなよ』
『どうしてだ?』
『…お前には関係ない。いいから言うなよ』
『……分かった』
何故かその時だけは頷いてしまった。ユーリの顔が泣きそうだったからだろうか…。あんなユーリの顔見たこと無かった。―――が。
「あー…だって、オレ強いもん」
「………はっ」
今じゃそんな様子は微塵も無い。呆れ半分に嘲笑され、ユーリはムッとする。
「何だよ」
「別に」
「あぁ、そうかよっ」
そっぽを向くユーリに今度はフレンがムッとした。
(何もそんなあからさまに顔を背けなくてもいいじゃないかっ)
何か悔しくて自分も反対に顔を背けた。それでも、この時から既にフレンの心はユーリに傾いていた。けれど、それに気付かないフリをしていた。
―――数日後。
「ユーリっ!!どうしてそう、君はいい加減なんだっ!!」
「うるせぇなっ。お前みたいにいちいち小せぇ事気にしてたら戦えねぇんだよっ」
剣の訓練をしていたら何時もの喧嘩。それを隊員達が見守っていた。
「そもそも、その手っ!!」
「手ぇっ?」
「傷だらけじゃないかっ!!ちゃんと手当てしてるんだろうなっ!?」
「してねぇよっ。めんどくせぇっ」
ぎゃんぎゃんと言い合う二人を二人の教育係がいつも止めるのだが……この日は違った。
ユーリの声に勢いが無い事をフレンは薄々気付いていた。けれど、いきなりふらりと体が揺れるまでとは思わなかった…。
「ゆ、ユーリっ!?」
「あぁ…?何か…目がまわ…」
「ユーリっ!!」
剣がユーリの手から落ち、目の前にいたフレンの胸へと倒れ込む。慌てて持っていた剣を捨てユーリを受け止めた。
「わ、わる、ぃ……」
「だ、大丈夫、だけど。ユーリこそ大丈夫なのか?」
「……大丈夫、じゃねぇ…。腹、痛ぇ…」
「え?ユーリ、もしかして…それって…」
原因が分かって良かったのか、悪かったのか。
ユーリは、女と言う事を隠している。だが、この状況だと助けを求めれるのは隊員しか…。
しかも、女の隊員は双子しかいない。けれど…。ぐるぐると頭の中を回る。抱きとめたまま一時停止していた所為か、不振に思った隊員達が走り寄ってきた。
それを掻き分けるように、隊長がフレンの側によりユーリの顔を覗いた。
「…ふーん。なるほどな。こりゃ、貧血だな」
「……隊長?」
「おい、ヒスカ、シャスティル。フレンと一緒にユーリを部屋で休ませてやれ」
「は、はいっ」
「…でも、何で?」
「さぁ?」
「フレン一人じゃ、絶対どうしようもない事あるだろ。なぁ?フレン?」
なんと答えればいいものか分からないけれど、でも隊長の言っている事は確かだったのでフレンは静かに頷いた。剣の片づけを先輩騎士達に頼み、ユーリを抱き上げ自室へと向かった。すれ違う先輩騎士達に笑われ、からかわれたが、何故か恥ずかしくはあったものの嫌ではなかった。自室に着き、シャスティルに部屋の戸を開けて貰い中へ入るとユーリをベットへ寝せた。勿論、フレンのベットにだ。
(具合が悪いのにあんなベッドに寝かせられない)
じーっと、ユーリのベッドを眺めて、遠い目になる。
「さ、てと。どうしよっか?」
「うーん。とりあえず、着替えさせる?」
「え…?ちょ、待て……」
「ちょっと、大人しくしなさいっ!!」
「っ!?」
ユーリの上着をシャスティルが剥ごうとして、ユーリが抵抗する。…やばい。見てたら絶対やばいっ!!
フレンは部屋を飛び出した。数分後、双子の驚愕の声が部屋から聞こえて、ユーリの性別は隊員に知れ渡ったのだった。
