気になるあの娘 後編
僕は改めて、ユーリの家へと向かっていた。
必要な物は色々ある。まずは制服。次に、着替え。
…そう言えば、ユーリと初めて会った時も制服だったような…?
色々考えている内に気付けば、ユーリの家の前に着いていた。
ドアノブを回し、開けた瞬間―――。
「ユゥゥゥゥゥリィィィィィっ!!」
咄嗟に動いていた。
ピンクメッシュの男が突き出したナイフを避け、腕を手刀で叩きナイフを落とし、そのまま掴みあげ腕を背の方へ捻り上げ、壁へと叩きつけた。
「…君、ユーリを狙ってた奴だね」
「誰だ…お前」
こんな奴に名乗る名前なんてない。
何も答えずにいると、男は何かピンと来たらしくにやりと笑った。
「いや…待てよ。金髪の男…。そうだ。ユーリが言っていた。フレン、フレン・シ―フォ」
「…何故ユーリを狙う?」
「狙う?…ひゃーはっはっはっ!!狙ってんじゃねぇ。あれは俺のモノなんだよっ!!」
「…どう言う事だ?」
腕に更に力を込め、更に痛めつける。
だが、男は笑い続ける。
…そう来るのなら…。
腹が立っていたのかもしれない。…いや、『しれない』じゃないな。
腹が立ったんだ。
再度力を込めて、男の頭ごと壁へと打ちつけた。
「ぐはっ…」
「…寝かせない。さぁ、話して貰うぞ」
「くっ…アイツは俺の婚約者だ」
「何?」
「アイツの親戚がアイツを俺の親に売ったんだよ。金と引き替えになァっ!!」
…売られた?ユーリが…?
『親戚の間を転々としてたんだけどよ。ちょっとした事があって、その親戚に金が入ってな。オレにもそのお零れが入ったんだ。だから、家を出れて晴れて自由の身って訳だ』
…それじゃ、あれは…。
要するにユーリは、自分が売られたお金を少しだけ貰って、でも、売られた先から逃げ出してこっそりここに住んでたと…?
「じゃあ、何でユーリは」
学校に通ったんだろう?だって、そんな事したら一発で居場所がばれてしまう。
現にバレたからユーリはコイツに追いかけられる嵌めになった。
「そんな事知らネェっ!とにかく俺はアイツを犯れればいいんだよっ!!」
犯れる…?
自分の周りの空気が一気に冷えて行くのを感じる。
どうやら僕は怒っている。
「一昨日は後少しの所で逃げられたからなァっ!!」
逃げられた…?
…ちょっと、待って。
って事は、もしかして…ユーリの熱の理由、風邪の理由は…?
それに、…あのユーリの首筋の痕は…っ!!
カッと頭に血が昇り、僕は目の前の男の顔面を思い切り殴りつけていた。
「ぐはぁっ!!」
…これで意識は暫く戻らないだろう。
念の為、持っていたハンカチで首を絞め…いやいや、両手首を縛って部屋の前に蹴転がすと部屋の中へと入った。
あぁ、そうだ。念には念をいれて…。
制服の上着のポケットから携帯を取り出し、メモリーから父さんの番号を呼び出し掛ける。
三回程呼び出しコールが鳴り繋がった。
『もしもし?フレン、どうした?』
「父さん。仕事中にごめん。今ちょっといいかな」
『おー。大丈夫だ』
「実は………」
手早く今の状況を説明すると、予想以上に早く『任せろっ!』の言葉と共に電話は切られた。
…と言うか、僕の家族はちょっとユーリを好き過ぎないか…?
ユーリの部屋に散らばっていた制服を部屋に置いてあった紙袋に畳んで詰め、タンスも何もないこの部屋。
そう言えば、洗濯物とか?浴室はあるらしくそっちを覗くと…何もかかってない。
タオルすらないとは…。
ちょっと嫌な予感がして、簡易キッチンに入り冷蔵庫を開けると空っぽ。
「これではまともな生活が出来る訳がないっ!」
ユーリがいる訳では無いのに、つい叫んでしまう。
キッチンは使った跡があるから、食べてはいたんだろうけど、お金が無いって言ってたな?
ようするに、ユーリの性格上自分を売った金なんて極力使いたくないって思って、節約に節約を重ね、多分食事もまともに取ってない筈。でも、僕や皆にそれを悟られたくなくてお弁当だけは作ってたんだ。…本当に、馬鹿だな。
助けを求めればいいのに…。
兎に角、ユーリの家にあったユーリの物を全て鞄に詰めると、部屋を出た。
すると、丁度良くそこにパトカーがアパートの前に止まり、中からスーツを着た…。
「ナイレンさん?」
「よぉー、フレン。来てやったぞ」
「有難うございます。父さんが連絡してくれたんですね」
「おう。嫁が来たと飛び跳ねてたぞ」
「…父さん…」
恥ずかしさに顔を伏せる。
ほんとに僕の家族は……。
しかし、ナイレンさんは豪快に笑いながら僕の頭をガシガシと撫でると、ドカドカと歩きピンクメッシュの男を担ぎあげパトカーへと放り投げさっさと行ってしまった。
余りの仕事の早さに呆気にとられたけれど、僕は家へと足を向けた。
そろそろユーリが一旦起きるだろうか?
思って、少し急ぎ足で家へ帰ると、案の定ユーリは起きていた。しかし…。
「ユーリ、もう、安心していいからなっ!義娘を守るのも父親の役目だっ!!」
「そうよ。ユーリちゃん。何時までもいてもいいからねっ!!むしろ、ずっと、永住しても構わないからっ!!」
「え?お?うん?」
リビングのソファに座っているユーリの両手を掴みニコニコと笑っている母さんと、その後ろで胸を張って腕組をしている父さんにユーリはタジタジと周りに助けを求めて僕の所にその視線が辿り着いた。
「フレン、助けてくれ」
「ははっ。ごめん。父さんも母さんもどうやらユーリの事を自分の息子以上に気に入ったみたいで」
「い、いやいやいや。おかしい。それはおかしいだろ」
ユーリが必死に否定しようとするが、両親は大きく頷いていた。
それはそれで、僕は微妙な気もするが。仕方ない。
だって、ユーリは可愛いんだから。
「兎に角、父さん、母さん。ユーリは病み上がりなんだから、まだ休ませないと」
「えっ!?あ、そうねっ!ユーリちゃん。晩御飯何がい〜い?」
「いや、オレ帰…」
『駄目だ(よ)』
ユーリの提案は僕等家族三人から却下をくらった。
目を白黒させているユーリの前に持ってきた荷物を置く。
「ユーリ、荷物はこれで全部?」
「え?あ、そうだけど…」
「そう。じゃあ、母さん。悪いんだけどユーリの部屋、作ってもらえるかな」
「大丈夫っ!!もう、作ってあるわっ!!」
「……あ、そう。父さん、ユーリの実家の…」
「全て片づけてある。ユーリは既に自由だよ」
…速過ぎるだろう…。
頼んだ僕でさえ、付いていけないスピード。ユーリなんてもうさっぱり理解出来てないだろうな…。
取りあえず落ち着かせる方が先か。
僕はユーリの手をとり、母さんがユーリ専用にしてくれたであろう部屋へ向かった。
ドアノブを捻り、開けると…。
「うわぁ……」
「な、なんだ、この部屋…」
部屋中ピンクに染まって目が滑る。
カーテンも、椅子も、机も、絨毯も全てフリルやレースのついたピンク色の部屋になっていた。
ここ、もともと何もない部屋だった気が…。
「おい、フレン…。さっきの話の流れから行くと…」
「うん。多分、ここが君の部屋だと思う…」
って言うか、何時の間にこんな天蓋付きのベットを買ってたんだ…。
もう、呆れるのを通り越して、称賛に値するな、これは。
「……しばらくしたら、それとなく母さんに言っとくから、今はこれで我慢してくれないか…」
「別にオレは寝れさえすれば構わねぇ…っつーか、ちょっと色々頭が追いついてないんだけど」
「だろうね。一つずつ話して行こうか」
「おう」
「一応、君はベットに入って、ね」
「平気だ」
「駄ー目。ほら、ベットに行って」
背中を押してユーリをベットに寝かすと、僕もベットの端に腰をかける。
「で?何を聞きたい?」
「…そうだな。まず…お前、何処まで調べた…?」
来ると思った質問。
「ユーリが、親戚を転々とした事。その親戚にユーリを襲った男の家へユーリがお金と引き換えに売られた事。それが嫌で逃げ出した事」
「…そっか。もう、そこまで知っちまったか」
「でも、聞いていいかい?」
「ん?何だ?」
「どうして、学校に入ったんだい?確かに、これから一人で暮らして行く上では高卒資格持ってた方がいいだろうけど。だったら、この学校じゃなくても…」
「そ、れは…。あの学校にはお前がいたから…。どうせ、逃げ切れる筈なかったんだ。金だけは腐るほど持っている家だ。直ぐに探偵でも何でも使って居場所はばれる。だったら少しの間だけでもオレはお前と一緒にいたかった」
「ユーリ…」
「案の定、直ぐにばれてザギが追って来たけどな」
「ザギってあのピンクのメッシュが入った…?」
「おう。それ。アイツはその金持ちの一人息子でな。何度も襲われて逃げ切って来たんだ」
「そっか。ユーリは僕に会いに来てくれたんだ」
ユーリに言うと、真っ赤になって顔を逸らしてしまった。
可愛い…。
「け、けどなっ!お前に迷惑をかけるつもりはねぇからなっ!直ぐに出てくし」
「迷惑なんてかかってないよ。それより、君はもっと自分の事を大事にすべきだ」
ぱっとユーリがこっちを見る。
何か僕の真意を探る様にじっと目を合わせる。
「ユーリは僕の事が嫌い?」
「んな訳ねぇだろ。さっきも言った様にもう一度お前に会いたくて…」
「うん。ありがとう。ユーリ。僕もユーリの事が好きだ」
「ッ!?」
僕はユーリの手をとり、その甲に唇を寄せた。
驚いて顔を耳まで赤く染め上げるユーリを上目で見て微笑んだ。
そう。僕はユーリを好きになってたんだ…。
最初にあった時に見惚れて、一緒に過ごして行くうちにユーリを知りたくなって、ユーリを側に置いておきたくなって、ユーリを知ってるとユーリを自分のモノだと言う男に嫉妬して…。
ユーリをもう手放したくない位に、惚れてるんだ。
「今はまだ無理だけど、大学を卒業したらユーリ僕と結婚して欲しい」
「なっ!?フレン、お前、何言ってっ!?」
「ユーリを手放したくない。…駄目かな?」
「駄目かなって、お前オレは、もう…」
「あぁ。あの家の事だろう?大丈夫。父さんが全て終わらせたと言っていたから、君はもうアイツの婚約者じゃなくなったよ」
「へっ?…い、いや、でも、ザギがお前を襲ったら」
「それも大丈夫。警察に突き出してきたから。安心して家にいればいいよ」
「で、でもな。それだと、お袋さんが大変」
「って欠片も感じてないから。むしろ、母さん、ユーリがいれば僕なんていらないんじゃ…」
ユーリがぱくぱくと次に言う言葉も見つからずただ口を動かす。
「ユーリ…。僕は昔の君が凄く憧れだった。でも、再び再会した時、恋に落ちたんだ」
「フレン…」
「愛してる。結婚して、くれるかい…?」
「…お前には負けた。いや。お前に勝てたことなんてオレにはねーな」
「ユーリ?」
「結婚してやるよ。フレン。オレもお前と結婚したい…」
僕の手をユーリがぎゅっと握る。
その顔が、頬笑みが凄く綺麗だった。
ユーリは何処まで僕を虜にするんだろう…。
堪らず、僕はユーリを抱きしめた。
「ずっと…一緒にいる。ユーリ…愛してる」
「フレン、オレも…」
ユーリの瞳に吸い寄せられるように、僕は―――キスをしていた。
―――次の日。
朝、リビングへ二人で顔を出したら、お赤飯が山の様に盛られており両親の満面の笑みに出迎えられ、ユーリと僕がこっそり溜息を零したのは―――二人だけの秘密だった。


アトガキ?
もっしー様からのリクエストでした(^◇^)ノ
【学パロフレ♀ユリ】
いかがでしたでしょうか…?((((;´・ω・`)))ガクガクブルブル
前後編で終わらせる気が、前中後編の三部に…orz
因みにユーリさん、ザギからはちゃんと逃げ切れてますwww
すっごい乙女(当サイト比率)なユーリになってますが、許して下さいませ。orz
けど、凄く楽しんで書かせて頂きましたヾ(o≧∀≦o)ノ゙
リクエスト有難うございましたっ!!