※ 女体化です。
※ 続き物ですが、これだけでも読めます。
※ 乙女なユーリも何故か可愛いんですよ?
※ フレンとユーリ♀の間に子供がおります。



家出します? 前編





「…はぁ。本当に最悪な夢だった」

何度思い返しても腹が立つ。
いや、腹が立つって表現も少し違うかも知れない。だが、他に表現の仕方が分からない。
今日見た夢。
それは、僕にとって世界で二番目に大事な大事な宝物の愛娘達が出て来る夢で。
見た目僕にそっくりで中身がユーリなハル。そして、見た目ユーリにそっくりで中身が僕(ユーリが言っていた)なルリ。
そんな大事な、だいじな、だ・い・じ・なっ!!ルリが嫁に行く夢なんて…。
しかも、しかもだ。僕に向かって嫌いって…嫌いって言って…最悪だ。
今思い出しても泣きたくなるような、腹が立つような………イラッ。
―――グシャッ。
手に持っていた書類が怒りの余り握り潰してしまったのだけれど、こんなの些細な事だ。
娘達が嫁に行く恐怖に比べたらこんなもの…。こんなもの…駄目か。僕がなりたくてなった、ユーリと約束したやり遂げると誓った仕事だ。
こんなもの何て言ったら、ユーリに呆れられる。
それはもうぐしゃぐしゃになった書類を改めて開き、内容を読み込む。
本当は歩きながら読むと言うのはあまり行儀の良いことじゃない。
だが、ユーリと結婚して、子供が産まれて、一日一回は彼女等の顔を見ないと落ち着かなくなってしまった。
だから、一日のノルマは確実に終わらせる為に、一分一秒たりとも無駄にしたくない。
城内の警備の配置を確認しながら、自室のドアを開ける。
そう言えば、結婚する前はユーリは何時もここに遊びに来たっけ?
中に入ると、窓から現れて…。
子供が出来てからは一切来なくなったなぁ。
まぁ、来られても僕は怒ってしまうし、喧嘩になっちゃうだろうけど。
ふと窓の外を見ると、外にある大きな木に影が三つ。
大きい人影と小さい人影×2。
…え?
まさか…?
急いでドアを閉めて慌てて窓を開けるとそこには。

「ユーリっ!?」

驚いて名を呼ぶと、「よっ」と明るく手を上げて答えて誰もが見惚れる笑顔で微笑んだ。

「パーパ」
「父さん」
「お前ら気をつけてそっちに渡れよ」

細心の注意を払い、ユーリが僕達の愛娘を支えつつ窓から中へと入って来た。
………これ、凄く教育に悪いんだけど。
そもそも、ここが入口だと思われたら…。
でも、とりあえず、それはそれとして。
窓枠から降りる寸前の僕の愛娘達を両腕で抱き締め床に降ろす。
可愛いな。本当に。ほんっとうに。
が、それでもいい加減本題に入らないと。

「所で、どうしたんだい?」
「ちょっと、話があってな」
「話し?」
「あー、その、な?」

少し言い辛そうにユーリが口籠る。
珍しい事もあるものだ。大抵ユーリはケロッと何でも口にするのに。
寧ろ、言いたくない事がある時は口籠ったりしないで、絶対それを顔に表さない程隠し通す。
それが、ユーリなのに。
何か、あったのだろうか…?

「ユーリ?」

ちょっと心配になって、顔を覗き込むと、ユーリはバッと顔を逸らした。
それでますます心配になる。
そっと、ユーリの頬に触れると、一瞬ビクリと体を跳ね、ユーリがそっと僕と視線を合わせる。
目が不安げに揺れている。
本当に何があったんだろう?

「ふ、フレン。あのな?」
「うん」
「実は―――」
「団長っ!!」

ドアをぶち破る勢いで、僕の側でずっと働いてくれている副官のソディアが飛び込んで来た。

「大変ですっ!!デイドン砦で」
「ソディア。落ち着いてくれ。もう一度始めから報告を頼む」
「は、はいっ。失礼しました」

ユーリから離れ、ソディアが寄こした報告書と報告を照し合せる。
どうやら、デイドン砦が魔物に取り囲まれ孤立してしまったらしい。
そうなると、部隊の再編成。取り囲まれて孤立したと言うのなら僕も行かなければならないだろう。
ふと、さっきのユーリの様子が気になって視線だけそっちに動かすと、そこには既にユーリの姿もハルとルリの姿も無かった。
帰ったのか…?
振り返って確かめると、カーテンが風に揺れているだけだった。

「フレン団長?」
「あ、あぁ。今行く」

ユーリのあの瞳は気になる。気になるけれど、今は仕事に集中する事にした。
それを自分が後で恐ろしく後悔する事になるとは、この地点ではまだ気付けなかった。


□■□



デイドン砦の魔物を一掃し、部隊の再編も何とか終わらせ、帰りついた我が家。

「なのに…。どうして誰もいないんだ…」

がっくりと肩が地面に着きそうな位に落ち込む。
しかも、……しかもっ!!
この置手紙…。
どうしよう。本気で手が震えるんだけど。
頭の中が全力でその言葉を拒否している。
……落ち着け。落ち着いてもう一度文章を……。

『いえでる』

…いえでる。いえでる…。どうしても、考えても考えても、どう考えても『家出る』としか読めない。
な、なんでっ!?
この文字はハルの文字だ。流石にユーリだったらこんな下手な文字じゃないし、書き置きなんてしないで僕に直接文句だろうとなんだろうと言うだろうし。
でも、何でユーリまでいなんだっ?
本当に何かあったのだろうか。
今日のユーリは何か言いたげだった。
それを聞かずに仕事を優先した罰が当たったのか…。
はっ!?もしかして、これは実はルリの字で、今日見た夢(ルリがよりにもよって、レイヴンさんに嫁に行ってしまう夢だ)が正夢だった、と、か……。
そうだっ!
それに、ルリはレイヴンさんから告白を受けたと寝ぼけながらも間違いなく言っていた。
……そうか。そうなんだ。

さて、と。

剣を抜き出し、歯零れがない事を確認して…うん、ばっちりだ。
そして、人一人位は跳ね飛ばしているんじゃないかと思われる猛スピードで僕は登城した。
勿論、狙いはただ一人。
今日、城の中の隊長主席に宛がわれた部屋に来る事は知っていた。
遠慮何てしない。
堂々と、城全域が揺らいでも可笑しくない程の力を持ってドアをぶち開けた。

「ぎゃあっ!?って、何よ何よ。フレンちゃんじゃない。あのね?ドアはもう少し静かに開けるものよ?」
「レイヴンさん。ユーリは何処です?」
「へ?」
「しらばっくれても駄目です。と言うか、もういっその事斬ってもいいですか?」
「な、何言ってるのっ!?フレンちゃんっ!!お目めが、お目めが恐いのよーーーっ!?」
「あぁ、はい。つべこべ言わずユーリと娘達を出して斬られるか、黙って僕に斬られるか、とりあえず斬られるか選んでください」
「うーわー。ほっとんど選択肢ないんですけどー」

チャキッ。
剣の柄をしっかりと握り、素直に今のこの感情を乗せてレイヴンさんを睨みつける。
すると、みるみる内にレイヴンさんの顔はあおーく染まって行き、慌てたように僕の剣を握る手をとりその上を握り締めた。

「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着こうか。フレン」
「僕は落ち着いてますよ?」
「いやいやいやっ。その目は可笑しいでしょっ!なに、何があったのよっ!?」
「…本当に、分かっていないんですか?」
「分かるも分からないも、おっさん、ユーリちゃんとは暫く会ってないわよぉっ!?」
「え?」
「そうねぇ。一季節は会ってないわね」
「し、しかし、ルリはレイヴンさんに告白されたって…」
「告白〜?告白。告白………んー?……あ、もしかして」
「…やっぱり思い当たるんですね?」
「いやいや、違う違う。おっさんがルリちゃんに言ったのはー。おっさん甘い物苦手ーって告白したのよ」
「……は?」
「うーん。順番に説明するとね。
君の娘達ってのは、フレンとユーリの教育の賜物で、一緒に遊びに行ったりして何か買ってあげると、お礼のつもりなのか自分達のを一口あげるってくれる訳よ。
ハルちゃんはフレンに似て甘い物よりお肉の味がするとかそうゆうガッツリ食べれるスナック菓子とかを選ぶから良いんだけど、ルリちゃんはユーリちゃんに似て甘い物好きじゃない?
となると、おっさん辛い訳よー。一口でも。だから、おっさん甘い物苦手なのよーって告白したって訳。そしたら、ルリちゃんはお父さんの躾を守ろうとしたけど出来なくて、後でお礼を絶対するからちょっと保留にさせてくれってね。
気にしなくていいって言ったのに、お父さんの言いつけを守ろうとして。良い娘達よね〜」

嬉しいやら悲しいやら。
……ルリもハルも可愛いな。ほんっとに良い子達だ。
だが、そうなるとユーリは、ハルとルリは何処に…。

「全く、君達の娘がおっさんみたいな、おっさんを選ぶ訳ないでしょうよ。それで、おっさんの疑惑が晴れたかな?」
「はい。すみません、でした」
「ほいで?」
「はい…?」
「どうして、そんな鬼気迫る顔でおっさんを問い詰めに来たの?」
「実は……」

僕は朝の夢の話から事細かに状況を説明した。
全部話を聞いたレイヴンさんは首を捻り、理解出来ないという顔をして僕を見た。

「んん〜?ユーリちゃんがそんな焦るような、フレンちゃんが仕事中に急いで知らせなきゃならないような大変な話あったかなー?少年もそんな事特には言ってなかったし……はて?」
「あの時、ちゃんと聞いておけば…」
「でも、あれ?この前……あー、そうだ。フレンちゃん。一回、家に戻ってみましょ。もしかしたら、ユーリちゃん帰って来てるかもしれないし」
「そう、ですね」

僕はレイヴンさんに引き攣られるまま、飛び出して来た我が家へと帰宅する事になった。