※ 現代パロ〜お医者さん編〜です。
※ フレンはアレクセイ総合病院の内科医です。
※ ユーリは小さな町医者です。
※ 間違いなくギャグです。



白衣の騎士





「…また、消えやがった…」

オレ、ユーリ・ローウェルは小さな町医者を経営していた。なんで大きな病院に勤めないのか?って聞かれると昔一悶着あったからだとしか答えようが無い。けれど、今はこの町医者な状況を気に入っていたりする。しかし…。

「なんで、あのおっさんはいっつもいっつも逃げるんだっ!!」

毎度毎度「おっさん、注射するのは好きだけどー」とか「ジュディスちゃんにされるならいいけどぉー」とか…。流石にこう何度も脱走されると…。

「ま、向かう所は分かってんだからいいけどよ」

あのおっさんは何時も昔オレがいた病院にこっそり侵入しているのだ。看護婦のジュディスは、「もう、放っておいたらどうかしら?」と言うが、流石に自分の患者にそこまではしたくない。とにかく、オレは診察が一区切りついた昼休みにおっさんが居るであろうアレクセイ総合病院へ向かった。白衣は着ていく訳にはいかないから、白衣を脱ぎスーツ姿で病院へ入る。

「…げほげほっ…」
「あぁ…。気持ち悪い…」

………。相変わらずここの病院は病人を待たせて、更に具合を悪くさせる天才だな。医者は沢山いるくせに…。

「…金次第ってか…?反吐が出るぜ」

手持ちの薬は少ないが、それでも少し位の対処なら…。近くにいた咳が止まらない子供に小さな薬を手渡す。隣にいた親がオレの顔をみた。それに笑って答える。

「あ、あの…」
「今白衣着てないから信じられないかもしれねぇけど、一応医者だよ。ほら、これ舐めてろよ。少し、痛みが減るはずだから」
「あり、がとう」
「おう。ただし、ちょっと苦いかもしれないからこれもやるよ」

小さな子供の手のひらに飴玉を置く。すると、その子は嬉しそうな顔をして笑った。笑えるのなら大丈夫だな。子供の頭をポンポンと叩き改めてロビーを見回す。さて、と。おっさんを探すかな。つい足をとられてしまったが、レイブンを探しに来たのを思い出す。多分、この病院の中庭だろうな…。足を中庭に向ける。すると後ろから聞き慣れた声に呼び止めたられた。金髪の男前。親友のフレン・シーフォだった。

「ユーリっ!!」
「あん?あぁ、フレンか。お前、病院で騒ぐなよ」
「騒ぎたくもなるっ。ユーリ、医者を辞めてホストになるって本当かいっ!?」
「……は?」
「とぼけないでくれっ!!何で、そんな大事な事を教えてくれなかったんだっ!!」
「……フレン、ちょっと来い」

フレンの首根っこを捕まえ、ズルズルと騒いでも大丈夫そうな中庭へと向かった。幸いな事に中庭に人はいない。これで、心置きなく怒鳴ることが出来る。

「んで?誰から聞いたんだ?そんな話」
「誰からって、話を逸らさないでくれっ!!君はあんなに必死にとった医師免許を無駄にする気かいっ!?」
「あのなぁ、フレン」
「ホストなんて、そんな職業っ。確かに君はありえない位、可愛いし、綺麗だしっ」
「……おい」
「でも、そんな危ない職業に就いたらただでさえモテるのにもっとモテてしまうじゃないかっ!!」
「おい、フレン」
「そしたら、気付けば知らない男に手篭めにされてっ。あぁっ、なんて可哀想なユーリっ!!」
「…そこまで行くとただの妄想だな」
「そんな事になる前に、僕のモノになればっ!!そうだよっ!!ユーリ、僕のモノになればいいよっ!!」
「いいよって、お前なぁ…」

正直口を挿む隙がない…。ってか、一体誰だよ。こいつにこんな事吹き込んだの…。面倒な事しやがって。一人しゃべり続けるフレンの言葉はオレの耳を右から左へと流れていく。

「……たいと思うんだけどっ。どうかなっ!?」
「えっ?」

突然話をふられ、全く聞いていなかったオレは…つい。

「いいんじゃないか?」

と適当に答えてしまった。ちゃんと聞いて置けばよかったと後で後悔したがもう遅い。そんなオレの答えを聞き、フレンは嬉しげにと笑いオレの手を掴み言った。

「そうっ?じゃあ、早速準備するよっ!!」
「あ?あぁ。ってか、そんなことよりお前にくだらない事言ったの誰だよ」
「くだらない…?あぁ、ユーリの事を教えてくれたのはレイヴンさんだよ」
「ほぉーう…。あの、おっさん…。絶対捕まえて、でっかい注射打ってやるからな…」

フレンがエステルに呼ばれ名残惜しげに仕事に戻るのを見届け、オレは前に自分の患者だった少年、カロルの部屋へ向かった。病院は走られないので心持ち早足で。案の定、レイヴンはそこにいた。ベッドの上に座るカロルと楽しげにゲームをしている。

「あ、ユーリっ」
「よぉ、カロル。それに…おっさん?」

カロルの頭を撫でながら、椅子に座るおっさんを睨みつける。

「あ、あらら〜?もう、見つかったの〜?」
「全く、いっつもいっつも逃げやがって…。しかも、フレンに適当な事言ってくれたよなぁ?」
「ぎくりっ」
「さーて、仲良く帰ろうな?おっさん?」

おっさんの体をつかみ肩に担ぎ上げ、病室を出ようとするとカロルがオレを呼び止めた。

「ユーリ、また遊び来てくれる?」
「あぁ。けどな、お前が早く退院してオレに会いに来てくれても構わないんだぜ?カロル」
「う、うんっ」
「じゃあな」
「少年ーっ!!おっさんを助けてーっ!!」
「…レイヴン、覚悟を決めなよ」
「少年の裏切り者ーっ!!」

そのまま、総合病院を出て自分の病院に戻りジュディスにおっさんをベッドに縛り付けておくよう頼み午後の診察にうつった。午後からの患者はそういなく、何事も無く一日が終わるはずだった。…のに。診察室でカルテを見ていると、フレンが勢い良く中に入ってきた。

「ユーリっ、見つけてきたよっ!!」
「フレン?」

手に持った凄い量の書類。良く見ると不動産と書いてある。

「さ、新居を決めようっ!!」
「…は?」
「どこがいいかな?やっぱり、病院に近い方が…。あ、でも。君の職場に遠いと駄目だよね?」
「ちょ、ちょっと待てっ。フレンっ」
「ん?どうかした?」
「一体何の話だ?」
「え?だから、僕と一緒に暮らすって、お昼に話したじゃないか」

一体何の話だ…?オレは記憶を必死に遡る。

『ユーリがホストをする程困っているのなら、僕と一緒に暮らせばいいんだよ。僕はもう君と添い遂げる覚悟は出来てるしっ。この際籍を入れたいと思うんだけどっ。どうかなっ!?』

………マジか…?
確かに、昼間フレンはそう言っていた。ちょっと待て。落ち着け、オレ。あの後オレは何て言った?

『いいんじゃないか?』

………。
ぎゃあああああああっ!?
肯定してるじゃねぇかっ!?なんでちゃんと聞いておかなかったっ!?
と、とにかくフレンにその事を素直に話してっ。

「ふ、フレン。あのな?」
「ユーリ…?今更断るのは許さないよ」
「う…」

…これもかれも全部おっさんが悪いっ!!
ガタンと椅子から立ち上がると、診察室を飛び出し、おっさんの病室に駆け込んだ。

「あ、あれ?どうしたの?青年?」

のん気にジュディと茶なんて飲みやがって…。

「ジュディ、注射の用意出来てるよな?」
「勿論♪」
「そうか。じゃあ、おっさん。この注射、物凄い痛いと思うけど、いいよな?」

ジュディスにこの病院で一番太い針の注射を準備してもらい、それを受け取る。

「せ、青年〜?なんか、凄い怖いんですけど〜?」

オレはニッコリと笑いレイブンの腕を取った。

「青年待ったーっ!!」
「待たねぇっ」

ブスリッ。

「んぎゃああああああああっ!!」

レイヴンの叫びが病院中に響いたが、オレは一切気にしない事に決めたのだった。