失くせないモノ
【8】
権利書を預かって、数日が過ぎた。
今の所何もない。
以前と同じように毎日を過ごしている。
フレンと一緒に何処かへ出かけても何時も通り。
もしかして、あの企画ぽしゃったんじゃないか?
だとしたら、何も気にする事も無くなっていいんだけどな。
そう思っていた、ある日の夜。
―――事件は起きた…。
オレとフレンは珍しく帰宅時間が一緒になり、ならば一緒に晩飯を作るかと言う事で、料理を一緒に作り何気ない会話を繰り広げながら食事をして、リビングで食後のお茶を飲んでいた。
「あ、そういや、今日甘味特集あるんだよ。見てもいいか?」
「好きなの見ると良い。僕の許可を取る必要はないよ」
また爽やかな笑みを浮かべている。
そう言う笑顔は女に見せろ、女に。
と思いつつも口に出すつもりは勿論なく、オレはテレビの電源をオンにした。
っと、そうか。
始まるまでまだ少し時間あるか。
テレビに映し出されたのはニュースだった。
ニュースキャスターが淡々と今日の出来事、事件を語って行く。
そして、映像が切り替わり…オレはその映像を見て凍りついた。
「………お、い…。マジ、か?」
「ユーリ?」
そこに映し出されていたのは、火事の現場で燃えているのは…オレの育った施設だった。
一瞬見間違いかと思って、眼を擦りもう一度みる。
しかしどう見ても間違いない。
そもそも、オレが施設を見間違う訳が無いんだっ。
居ても立ってもいられなくなって、オレは立ちあがり玄関へと走る。
「おい、ユーリっ!」
靴に足を何とか入れて、玄関のドアを開けてエレベーターを待つ。
早く、早くっ!!
早くアイツ等の所に行かないとっ!!
エレベーターの到着音が鳴り、急いで乗り込もうとした所を、ぐいっと引き戻された。
「ちょ、離せっ!!」
「駄目だよ。行かせないっ」
「何言ってんだっ!!離せっ!!アイツ等が逃げ遅れてたりしたらっ!!」
必死に叫ぶ。
だが、フレンの力は緩まる事はなくて、寧ろがっしりと腰を掴まれ、玄関の中まで引き戻されてしまった。
「落ち着け、ユーリ」
「これが落ち着いてられるかよっ!!アイツ等が…オレの家族が危ねぇんだぞっ!!」
「ユーリっ!!」
「うるせぇっ!!離せっ!!」
離して欲しい一心でオレは暴れた。
けれど、フレンの腕は緩む事が無く、寧ろ冷静な目でオレを睨んでいた。
「…なんだよ、その目は…」
「ユーリ?」
「まさか…お前が、お前の会社が権利書欲しさにやったんじゃないだろうな…?」
「何を言ってるんだ?」
「だって、そうだろ?こんなタイミング良く火事になる訳ねぇ。お前知ってたんじゃねぇのか?オレが権利書持ってるって」
「待ってくれ。ユーリ、少し落ち着いて。君の言っている意味が分からない」
「今更しらばっくれんなっ!お前だろっ!!あの施設周辺の土地を買い取ってショッピングモールを建てるって計画立てたのっ!!オレの家を経営難に追い込んだのもっ!!全部、お前が、んんっ!?」
溢れだす今までの疑問を塞ぐかのように、突然フレンにキスをされた。
息すら奪い取られる様な荒々しいキス。
何でこんな行き成りキスなのか。
そんな事すら考える余裕も与えないキスにオレは小さくもがく。
「落ち着いて…。僕の話を聞いてくれないか」
そっと唇を離し、そう耳元で囁くが、オレの脳内はそれを拒否している。
聞きたくない。
例え、それがオレの勘違いだったとしても。
今は聞きたくない。
オレは、とにかくアイツ等の元へ行きたい。
とにかくそれを訴える。
けど、フレンはそれだけは決して許可してくれなかった。
「今、その状態で君があの場所に行っても、何の役にも立たないよ」
「んなこた分かってるっ!!けど…」
もし、こうしてる間にもアイツ等がオレに助けを求めていたら…?
そう考えたら、ここでこんな事をしている暇はないんだっ。
フレンの腕の中、オレは暴れる。
「…聞き入れてはくれない、…か」
呟く声と小さな舌うち。
そして、
「おわっ!?」
いきなり肩に担ぎあげられ、余りの突然な行動に驚き、思わずフレンの肩にしがみつく。
しかし、フレンが室内に戻ろうとするから、オレは再び降ろせと叫び手足を振り回す。
けれどビクともしないフレンはそのままオレをフレンの自室へと連れ込みそのまま、ぽいっと放り投げられた。
落ちる感覚と、床に叩きつけられる衝撃を、ぎゅっと目を固く閉じて覚悟を決める。
だが、その衝撃は来なく、むしろクッションとバネがオレを受け止めた。
急いで目を開き状況を確かめると、どうやらオレはベットの上に落とされたらしい。
「な、にす、っ!?」
文句を言う前にフレンに強くベットに押しつけられて動きを封じられた。
「言ってもどうせ君は聞かないだろうから。すまないが、動けなくさせて貰うよ」
動けなく?
言葉の意味を理解する前に、オレの唇に再びフレンの唇が重なる。
最初はかさついていた筈のフレンの唇が、さっきのキスの所為で柔らかくなってリアルにその感触を感じてしまう。
さっきは驚きと焦りで意識してはいなかったが、今この状況に気付きオレは顔に熱が集まるのを実感した。
フレンもそれに気付いたんだろう。
その瞳が、ふっと柔らかく穏やかな物に変わり、オレの後頭部に手を差し入れるとぐっと自分の方へ引き寄せ、更に深くキスをする。
逃げ惑う舌に熱い舌が絡まり合い、自分の方へと誘い込む。
上顎、歯列、舌の裏。
全てを舐めつくされる感覚が何かを呼び覚まし、背中から腰にかけてゾクリと走り抜ける。
その悪寒にも似た何かが体を犯す感覚が怖くて、オレは必死にフレンの胸を叩いた。
離してくれ。苦しい。怖い。
必死に瞳だけで訴える。
すると、フレンは名残惜しそうにゆっくりとオレの唇を舐めて、顔を離した。
やっと解放された口で何とか呼吸をして体を落ち着かせる。
「ユーリ、キスの時は目を閉じて、鼻で呼吸をしないと」
言って微笑みもう一度キスを仕掛けてくる。
そうはさせるか、と顔を逸らすけれど、後頭部を手で支えられていた事を忘れていた。
簡単に引き戻されて、また深い深いキスをする。
何とか、何とか逃げられないもんか。
動かない思考を精一杯回転させて考えるも、フレンの次の一手がそれをも止めさせる。
フレンのもう一方の手がオレのTシャツの裾から中に入り込み、腹を撫でしかもどんどん上へと上がってくる。
そして、かりっと乳首を擦った瞬間、びりっと痺れが背筋を走り抜け、背が弓なりに反り上がった。
なに?
なんなんだ?
今の、感覚…。
やばい、何かわからねぇけど、何かヤバいっ。
頭の中で逃げなきゃと警鐘を鳴らしまくっている。
ちゅっとリップ音を立てて唇が解放されて、オレは必死に呼吸をする。
早く、態勢整えて逃げないと。
少しでも早く逃げなければと、オレはベットの上を小さくずり上がる。
しかし、フレンにはあっさりと見破られ、その唇は頬へとキスを落とし、更に首筋を舐めて―――っ!?
「ぅあッ!?」
「ユーリ、凄い敏感だね。…可愛いよ」
フレンの舌は乳首まで辿り着いた。
乳首を舐められる。
Tシャツが捲り上げられ、片方を舌が舐めて齧って、もう片方を指が捏ねる。
その度体中を走り抜ける痺れとぞわぞわと言い様のない感覚が急激に増え、オレは何とかこの感覚を逃したくて頭を振る。
でも、全然減ってくれない。
それどころか、フレンが乳首を弄る度にどんどん膨れ上がって、その感覚が怖くてオレの視界が歪んで行く。
「ここだけでイけちゃいそうだね。…でも、どうせなら」
かちゃかちゃと音がして、腰の締め付けがなくなる。
フレンの手が腹を撫でて、そして…。
「―――ッ!?」
「最初は僕の手でイってくれ」
知らない内に勃起していたそれを、フレンがやわやわと握り、緩急をつけて扱きオレを頂点へと促す。
自分でする時よりも、もっと凶悪な慣れない射精感に抗えず…。
ぐりっと先に爪を立てられた瞬間、オレは達していた。
「はっ、…はぁ…ぁ…、…」
「いい子だ、ユーリ…」
強制的に達せられたオレは、全力で走った後並みに体力を消費し、呼吸すら満足に出来ない。
そんなオレの頭をゆっくりと撫でて、頬と額にキスを落とし、フレンはオレのTシャツに手をかけてあっさりと脱がせてしまう。
そのまま履いていたデニムパンツも、汚れた下着ごと脱がし靴も放り投げられ、体を動かせないオレは完全に裸にされてしまった。
「…そのまま、いい子にしてるんだよ」
するとフレンは立ちあがり、部屋を出て行った。
フレンが、いなく、なった…?
回らない頭でもその事は理解できる。
だったら、今だったら、外に行ける?
アイツ等の所に…?
ぼんやりとした思考でも、忘れる事が出来ない事。
オレは力の入らない手で何とか体を支え、起き上がるとそのまま床へと足を付ける。
流石にこの格好のままいけない、から…服。
足元に散らばっている服を拾う為、屈みTシャツを手に取った、その時。
「いい子にしてろと言ったのにな?」
「フレン…?」
「ほら、戻って」
「は、離せっ!」
フレンが片手でオレを引っ張り上げて、ベットへと再び放り投げる。
体が弾み、バランスがとれず、そのままベットに突っ伏す。
その隙にフレンは、部屋にしっかりと鍵をかけて、部屋の鍵をフレンのデスクの棚へと閉まってしまった。
これじゃ、逃げるのに時間がかかる。
ふっと窓へと視線を移す。
「ここは六階。流石の君でも窓から飛び降りたら、死ぬよ?」
トンっと机に水の入ったペットボトルとコップを置く。
どうやら、それを取りに行ってたらしい。
だったら、さっき逃げていても直ぐに見つかってしまっただろう。
それに、フレンの言う通り窓から逃げる事も不可能だ。
完全に逃げ道を失ってしまった。
どうすればいい?
アイツ等の所に行くにはどうすれば…?
焦り始めたオレに気付いたんだろう。
フレンはオレの肩を押して、耳元に口をよせると。
「言っただろう?…君を動けなくさせて貰うって」
そう言って、女なら誰しもが見惚れるであろう顔で微笑むともう何度目か分からないキスをする。
「いい子にしていたら、手加減してあげる。でも、いい子に出来なかったら…痛くするよ?」
言っている意味が理解出来ない。
でも、本能的に逆らったらいけない気がして、オレがじっとフレンの様子を伺っていると。
「…そう。そんな風に大人しく僕に体を預けていればいい。僕の、ユーリ…」
僕の、ユーリ。
その言葉に驚く暇も無く、フレンの唇がオレの呼吸を奪い取った。



