若葉
【8】
「隊長っ!!」
凍った時間が動き出す。
「隊長っ!!」
「ナイレン隊長っ!!」
駆け寄り、オレは倒れそうになる隊長を支え、フレンの手助けのもと、ゆっくりと横にする。
「し、止血しないとっ!!」
一人大きな傷もなく動けるシャスティルが、自分の服を裂いて傷口に押し付ける。
「そうだっ!エステルっ!」
エステルの回復術なら。
急ぎ、エステルを視線で探し見つけた桃色は、青い顔でこっちを見ていた。
「ここ、は…どこ?」
エステルのその一言で悟った。
…エステルも帰ってしまったのだ。
でも…。
「エステルっ!…エステりーゼっ!!」
「は、はいっ」
「頼むっ!!力を、力を貸してくれっ!お前しか、もうお前の力に頼るしかねぇんだっ!」
「あ、貴方は…いえ。今はそれ所じゃないのですね」
急ぎ、走り寄り治癒術の魔法陣を展開する。
隊長は青い癒しの光に照らされ…けれど。
血が止まらない。
なんでだっ!?
「なんで、血が止まらないんだっ?」
焦り、ヒスカも何とか隊長の体に治癒術をかけるが、それでも血は止まらない。
「どうしてっ!?」
「…もう、いい」
「隊長っ!もういいってどういう事だよっ!ちっとも良くねぇよっ!」
「ユーリ…」
「血さえ止まればどうにかなるっ!諦めんなっ!!」
「ユーリ」
「頼むよ、隊長っ!オレは、あんたのそんな姿をもう見たくねぇんだよっ!!」
なんで、やっと今度こそは助けれたと思ったのに。
オレはまた、どうする事も出来ないのかっ!!
「…ユーリ」
ゆっくりと名を呼ばれたかと思うと、頭に衝撃が来た。
どうやら拳骨がてっぺんに落とされたらしく、オレはその頭を抱えた。
そして、どうやらそれはフレンも同じで、反対側で同様に頭を抱えている。
「過去は、過去だ。どうあがいても変えられない。お前さんなら解ってるだろ」
「隊長…」
「…だったら、やるべきことは…わかるな?」
隊長の強い意志を宿した瞳に、オレは俯くしか出来なかった。
「…ダメですっ。治癒術が効かないっ」
エステルの声にオレとフレンは同時に顔を上げた。
急いで、オレ達も何か出来る事を、そう動き出そうとしたはずなのに、体が動かない。
むしろ、体から意識が引き離されるような感覚がして、実際、そばにいる筈の隊長がどんどん遠のいていく。
「隊長っ!」
「ナイレン隊長っ!!」
叫ぶと、声が届いているのかいないのか隊長がいつものあの強気な笑みを浮かべた。
「隊長っ!!僕は、…僕はっ!!」
フレンが何か言っている。
けど、それはオレの耳には届くことなく、暗闇の中へと放り投げだされた。
※※※
目を覚ました場所。
そこは何もないただの野原だった。
まさか、また過去に飛ばされたのか?
焦ったものの、あたりを見回すとそうではないと直ぐにわかった。
「大丈夫?ユーリ」
「あぁ、悪いな。カロル」
「ユーリがずっと目を覚まさないから心配したよ」
「……」
オレ達の時代に帰ってきたのか。
立ち上がり、少し体を動かしてみても、昔の感じはしない。
「あれ?やっと起きたの?」
「リタ?」
「この周辺には何もなかったのじゃ。ただ一つ魔導器があるだけ」
「パティ」
「そうなると、フレン達は一体どこにいるのかしら?」
「…ジュディ」
…オレには一つだけ、フレン達がいる場所に心当たりがあった。
「ジュディ、悪ぃんだがオレを連れてって欲しいんだ」
ジュディとバウルに頼んで、オレ達は空へと舞い上がり向かった場所は、湖。
そこの騎士団の仮小屋にエステル達はいた。
けど、その場にもあの無駄に爽やかな金色の姿はない。
「ユーリ、フレンは…」
フレンの姿を探していたオレに気づいたんだろう。
エステルが声をかけてきたが、オレはそれを制した。
「大丈夫。分かってる。悪いが、お前たちはここで待っててくれるか?」
オレの言葉に皆素直に頷いてくれた。
小屋を出て、ゆっくりと湖の傍にある目的地へ急ぐ。
木漏れ日が気持ちいい小さな森を抜けて、湖に抜ける。
そこには小さなお墓と、その前にフレンが微動だにせず立っていた。
オレはゆっくりと近づき、フレンの横に並んだ。
「…納得、したか?」
「………」
「過去を、変えたかったんだろ?…納得、出来たのか?」
「………納得、か。…良くわからない」
フレンはそう小さく呟いて、俯いた。
泣いてるのだろうか?
けど、それをいう事はしない。
「解らないんだ…。でも、どうしても、…考えてしまう。もし、あの時隊長がいなくならなければ、もし、僕が引っ越したりしなければ…ユーリは僕の傍にいてくれたんだろうか、って」
「フレン?」
「だから、過去に戻れると、その方法があると聞いて居ても立っても居られなくなった」
「それで…?実際過去に戻って、どうだった?」
「………」
「何か一つでも変わったか?」
「…っ…。変わらない。何にも変わらなかった」
ぐっとフレンはきつく手を握りしめた。
「僕がどんなに抗っても、例えその場で救えたとしても結果は変わらない、父は死んだと報告があって、隊長も…」
「…っとに、馬鹿だな」
とんっとフレンの背中を叩く。すると、
「っ!?」
急に腕を捕まれ、気づけばフレンに抱きしめられていた。
フレンの顔が肩に沈みこむ。
「あぁ…本当に馬鹿だ。でも、僕は君に隣に立っていて欲しかったんだ。あの日の誓いのままに」
「…フレン…。お前…」
「君に人を殺めさせたくなかったんだ」
「それは…」
「こんなにも過去に後悔を抱えてる自分が嫌で…」
「成程な。自分の感情を整理したかっただけ、か…」
「そのはず、だったんだけどね。もう、自分がよくわからない」
ぎゅっと抱きしめる腕に力がこもる。
「過去には戻れない。過去を変えるなんて出来るわけがない。分かってたのに…」
「…それで?」
「…ユーリ?」
「ほら。言いたいこと全部言っちまえよ。隊長もいるしな」
結局フレンは行き成りの騎士団長という役職で精神的に参ってたんだ。
だから、たまに逃げ出したくなって、オレを求めて、更に過去に戻って隊長を求めた。
ぽつりぽつりと話し出すフレンの言葉にオレはただただ頷く。
一頻り話した後、フレンはゆっくり頭を起こすと、青い瞳が隠れるくらい目を真っ赤にして小さく微笑んだ。
「落ち着いたか…?」
「……うん」
「そっか…んじゃ、そろそろ戻ろうぜ。あいつらも心配してる」
「………うん。でも、その前に」
「ん?」
フレンは小さな墓の前に膝をついた。
「隊長。…僕は、貴方に聞きたいことがいっぱいありました。けど…一番言いたかったのは、本当に感謝しています。貴方に」
オレからも…。
オレは胸の前に腕を置き、静かに瞳を閉じる。
隊長が、オレの生きる道を示してくれた。
そして今もまたこうやってオレ達を助けてくれている。
だから…サンキュな、隊長。
…あ、そういや。
ごそごそとポケットを探し、取り出したのは指輪だった。
「あの空間は魔導器によって作られた筈なんだけどな」
「ユーリ?」
「…隊長の奥さんの指輪だよ」
そういって開いた掌に指輪が転がっている。
「隊長の?」
「あぁ。知ってるか、フレン。隊長って、奥さんに一目惚れしたらしいぞ」
「えっ?」
「あの隊長がだぜ?猛アタックの末、結婚まで行ったんだってよ」
「へぇ、そうなんだ」
くすくすと二人で顔を見合わせて笑う。
「猛アタック、か」
「?」
「いや。そう言えば隊長が欲しい物は全力で手に入れる努力をしろって言ってたっけ」
「いつ、そんな話してたんだよ」
「君ががっつり眠ってる時に。…でも、確かにそうだな。欲しい物は全力で、か」
ん?
フレンの様子がおかしいような?
…気のせいか。
とにかく、この指輪を隊長に返そう。
湖の出来るだけ奥に届くように力一杯投げた。
指輪は弧を描いて、ぽちゃんと沈んでいく。
「ユーリ」
「ん?」
「僕は、まだまだ隊長に教わる事が多そうだ」
「そっか…って、おい?」
ぐっと腕を引き寄せられて、フレンの顔が凄く傍に…え?
口に何か触れて…。
「!?!?!?」
一瞬触れて、そのまま離れていく。
フレンの顔が幸せそうで…。
「ユーリ、大好きだよ」
「はっ、えっ?」
「沢山後悔した。けど、そのどれもに君が絡んでいる。もう、二度と後悔しない為にも、僕はもう我慢しない事にしたんだ」
「ちょ、何言ってんだ、お前」
「これから、本気で行くから覚悟して」
ちょ、ちょっと待て。
いろいろ理解が追い付かない。
い、今のは…その、キスってやつで…?
「さ、帰ろうか。ユーリ」
先に帰り始めたフレン。
その後姿を見ながら、ふと視線を感じて湖を見ると。
「…隊長?」
笑ってる?
湖の上に幸せそうにけれど豪快に笑う隊長の姿。
そして、静かにオレに背を向けて歩き出した。
その横には、女性の姿があり、間には女の子の姿。
「…そっか。相変わらず変に義理堅ぇんだから、隊長は」
指輪の礼をわざわざしに来なくていいのに。
それと、オレがそっちに行った時は覚えてろよ。
大笑いした事、後悔させてやっから。
オレは隊長に軽く手を振ると、背を向けて歩き出した。
「ユーリ?」
「なんでもねぇよ。今行く」
フレンが待つ方へ歩いていく。
オレもフレンも。
これからもう一悶着ありそうだが…。
まぁ、何とかなるだろう。
―――隊長が傍にいるからな。
完


アトガキ的なモノ。
さぁ、全力で謝りますよっ!!
超長くなってごめんなさいっ!!
しかも、超超遅くなってごめんなさいっ!!
あぁ、もう、何から何までごめんなさいぃっ!!( ;∀;)
あすか様のリクエストで
『フレユリで劇場ネタが絡んだお話』
でした。
ちょっとフレユリが少ないかな〜とか思いましたが、自分的には満足してます('◇')ゞ
なんかね?
フレンとユーリは後悔してる場所は一緒じゃないかな?って。
でも、フレンの方が案外過去に戻ってやり直したいって思いは強いんじゃないかなって思って。
じゃなきゃそんなしょっちゅう騎士団に帰ってこいって言わないんじゃないかなって?
けど、過去に戻った所で隊長はそれをすべてお見通しでさっさと自分の世界に帰ってやれることをやれ。
そして、過去は変えようがねぇんだよって事を教えてくれるんじゃないかな?
って色々考えた結果がこの話でしたwwww
本当はユーリが既に死んでいて、最終的にユーリを生かす為に、過去に戻ったんだけど、それをユーリが拒否をしたって言う結末も考えたんですが。
とりあえずこっちにしましたwwww
気に入って頂けると嬉しいです(^◇^)
それではリクエスト有難うございましたっ!