人魚ユリ姫(前編)
多分…昔。ある所に広く澄んだ海の世界の上半身が人、下半身が魚の人魚の姫がいました。
ここは、海の住人たちが住む世界。姫は海の底のお城で従者の魚達と一緒に幸せな毎日をおくっていました。
今日も今日とて、毎日平和な日々が続く世界に暇を持て余した姫は海の真ん中にある岩へとのぼり上がり、日が沈む空を眺めていました。
「…あー、こりゃ雨になるかもなー?」
しかし、人魚の姫には関係ありません。
少し海の中が荒れる程度です。溺れたりはしません。
何故なら、人魚だから。
「んでも、嵐の後ってのは色んな物が流れ着くから面白いんだよな。どうせなら、陸に上がって色んな世界を回ってみてぇな」
この足だと無理だけどな。
自嘲気味に呟き、相変わらず空を眺めていると、予想通り天気が荒れ始めてしまいました。
「雨っつーか、嵐だな」
波が高く上がり、雨足も酷くなり雷も鳴り始めました。
そんな中、一隻の船が姫の目に止まったのです。
「危ねぇな…。この分だと間違いなくあの船は転覆する」
岩の上にいるのは危険な為、海の中に戻り海面から顔だけだして船を眺めていると、船は姫の予想通り波に敵わず転覆してしまいました。
「…お貴族様を助ける義理も無いが…このままだと寝覚めが悪いからな」
海の中に潜り、船が転覆した場所へと向かうと、そこには船乗り三人と身なりのいい男性が一人沈んでいます。
「……とりあえず、船乗りのリタとパティ、カロルを真っ先に助けるとして…」
三人の体をがっしりと掴み、急いで岸へとあがり安全な場所へそっとに寝かせました。
「残すはおっさんか…」
海の中に戻り波に漂う身なりのいい男性をじーっと見つめ、そして姫は結論を出しました。
「………別にいいか。助けなくても」
「ちょ、ちょっと待ってっ、青年」
「何だよ」
「それじゃ、話が進まないでしょうがっ」
「いやいや、おっさんは死んでも死なないから大丈夫だって」
「そうじゃなくてっ。折角おっさん王子役もぎ取ったんだから、ちゃんとして頂戴よ」
「はぁ…。仕方ねぇな」
姫はおっさんの腕を肩に回し、陸へと移動を始めました。
「って、こら、おっさんっ。変なトコ触るなっ」
「青年の胸板って立派よねー」
「触るなって言ってんだろっ!!」
ゴスッ。
姫の拳が脳天に一発入りました。
「い、痛いわー……」
「うっせっ。いいから行くぞっ」
「ぶーぶー」
文句を言うおっさん…男性の体を陸へと運び岸へと放り投げました。
男性は頭から砂へと突っ込みましたが、文句は言えません。
何故なら、気絶しているのを助けられるのが人魚姫の掟だから。
「よし、これで文句はねぇだろ。んじゃ、帰るか」
姫は海の中へと帰りました。
海の中の城へ帰ると、そこには姫の姉たちが姫の帰りを待っていました。
「ユーリ、外はどうでした?」
「あー、今日は荒れてるからエステルは出ないほうがいいな」
「あら?じゃあ、私は言ってこようかしら」
「ジュディなら大丈夫だろ」
「むー。ジュディスばっかりずるいです」
「ふふっ、ごめんなさいね。それじゃ、ユーリ。念の為鍵をくれるかしら」
鍵と言うのは、この海のお城から抜け出す裏口のドアの鍵。
そこは普段は解放されているのですが、いざ海が荒れた時の防護策として鍵をつけており、その鍵は姫達が順番に管理をしているのです。
「おー……って、あれ?」
「ユーリ?」
「鍵がねぇ…?」
「えぇっ?どっかで落としたんですっ?」
「そんな馬鹿な…」
「心当たりとかないの?」
「…もしかして…あの時…?おっさんかっ!?」
姫は急いで陸に戻りましたが、既に男性の姿はなく、浜辺に砂に一言書いてあった。
「鍵は貰った…?って、あの野郎っ!!」
ユーリは再び急いで海の中へと戻り姉達へ事情を説明しました。
そして、そのまま鍵を取り戻す為の陸へあがる手段を得る為に海の奥底にいる魔女の下へと向かいました。
「おい、フレンっ。いるかっ!?」
「ユーリ、ここは海の底なんだ。もう少し静かに」
「それ所じゃねぇんだよ。お前、確か人魚の足を人の足に変える魔法薬持ってたよなっ」
「持ってるけど、どうかしたのかい?」
「おっさんに鍵を奪われた」
「鍵って『結界』の?」
「あぁ。だから取り返しに行く」
「成る程。そう言う事なら。けれど、魔法を使うには代償が必要だ」
「代償…?」
「そう。この魔法薬と君の―(自主規制)―と交換でどう?」
「……フレン、ちょっと面貸せ」
只今、姫が魔女に教育的指導中です。しばらくお待ち下さいませ。



