人魚ユリ姫 (後編)





大変お待たせ致しました。
ようやく、教育的指導が終わったようです。

「…全く、仕方ないね。本当は使いたくないのだけれど、こっちの魔法薬にしようか。この薬は次の日没迄に海に戻らなければユーリ、君(の服)が泡になってしまう」
「泡に…?」
「そう。使いたくないよね?じゃあ、やっぱり君の体と交換」
「それは断るっ!!分かった。ようは取り返して海に戻ってくれば良いんだろ?」
「そう言う事だね」
「やってやる」

姫は自分の命を賭して、鍵を盗んだおっさん…王子に戦む決意をしました。
魔女に貰った魔法薬を手に陸へとあがると、嵐もおさまり明星も輝く夜空でした。

「どうすっかなー…。土地勘もないし、下手に夜に動き回るのもあれだしな。とりあえず、寝るか」

明日起きたら直ぐ行動できるようにと、薬を飲み、あらかじめ用意していた服を着込み、愛刀をかかえると岩を背に眠りに付いたのでした。
そこへ、顔中砂だらけの王子が現れました。

「…昨日から一日経った設定なのに、青年が投げつけてくれたお陰で顔から砂が取れなくなったわよー。さってと、ここで姫を連れて行くのが人魚姫の醍醐味よねー」

嬉しそうに王子は姫を抱き上げ、

―――ぐきっ。

「ごほぉっ!?」

腰を痛め共に倒れてしまいました。
だがしかし、王子は決して負けませんでした。

「なんのピロシキーっ!!おっさん、負けないんだからーっ!!」

気合で姫を担ぎ上げ城へと連れ帰ったのでした。
翌日、城のベットで姫は目を覚まします。
しかし、肝心の王子様は隣国の姫に会いに船に行ってしまいました。
なんと、姫が必死に取り戻そうとしようとしていた鍵をあげようというのです。
姫は焦り、急いで船へと向かいました。
目覚めたのは朝。
けれど、どんだけ遠い城に連れて来たんだっ!!
と突っ込みを入れたくなるほど、遠いのです。
姫は必死に走りました。
そして、何とか調度昼飯時に船へ乗り込むことが出来たのです。
必死に王子を探します。

「おっさんっ!!どこにいるっ!?」

もう、めんどくさくなり、声を張り上げる事に決めました。
船に乗っていた従者たちは姫を見つけ走りよりました。

「ユーリ、どうしたのじゃ?」
「パティ、セリフちょっと違うわよ?」
「って言うかストーリーももはや全然別物だよね…?」
「パティ、リタ、カロル、おっさん何処だっ!?」
「王子?王子だったらそこで隣国のお姫様と話しとるぞ」

従者1が指差す方を見ると、そこには小さくてモフモフな姫がいました。
肉球がとても愛らしいお姫様です。
しかし、お姫様は綺麗なものを見ると銜えたくなる癖がありました。
現に、姫が捜し求めていた鍵をパクリ。

「何で、『ガキの頃に戻ってんだっ!?』とか突っ込みはもうしねぇっ。ラピードそれよこせっ!!」

しかし、隣国の姫はまだまだ幼い為、姫が遊んでくれると勘違いして脱走しました。

「あ、こらラピードっ!!」
「あらー…。こりゃちょっと困ったわねー」

王子に困った様子は何もありませんでした。
それにイラッ☆とした姫は王子の首の根をヒョイッとつかみ、ひろーいひろーい大海へと放り投げました。

「おんぎゃーーーっ!!?」

必死に空を泳ぎ何とか凌ごうとしていると王子は気付きました。
海の中で姫を援護しようと待機していた姉達がいる事に。

「あれれっ?もしかして、おっさんラッキーだったりっ!?」

王子も両手を広げて、むしろ自分から飛び込んでいきます。
しかし、姉達はそんなに甘くありませんでした。
二人の姉の手にはそれはもう立派な槍と太い縄が…。
王子は問答無用で縛り付けられてしまいました。
一方、姫は隣国の姫を従者と共にひたすら追いかけていました。

「くそっ。すばしっこいっ!!」
「カロル、そっち行ったわよっ!!」
「あ、あれっ?パティ、そっちに行っちゃったっ!!」
「ぬっ!?逃がしたのじゃ…」

四人が奮闘している間に遂に日が傾き、太陽が海に沈もうとしてしまいました。

「ラピード、マジで頼む。それ取り戻さねぇとオレは泡になって消えちまう」
「くぅん…?」

姫の気持ちが伝わったのか、それとも遊び疲れたのか、ラピードはそっと鍵を姫の前に差し出しました。

「ラピード…」

姫が鍵を受け取ろうとした、その時。

「ぎぃやぁーーーーーっ!!」

ビクゥッ!!
―――ゴックン。

「……ゴックン…?ラピード、まさか…?」

どこからともなく王子の叫び声が聞こえ、それに驚いた隣国の姫は咥えていた鍵を飲み込んでしまったのです。

「キュゥン…」
「おま、マジかよっ!?鍵なんて飲み込んで腹大丈夫なのかっ!?いや、それよりどうすんだ、オレっ!?」

とうとう太陽が、海へと沈み始めました。
姫の服がどんどん泡となっていきます。
しかし、姫は服だけしか泡にならない事を知りません。
何も知らない姫はこんな死に様を人に見せたくないと、走り海へと飛び込みました。
すると、そこには…。

「ユーリ、お帰りっ」

満面の笑みで姫をキャッチした魔女がいました。

「さ、帰ろうか」
「は?ちょ、オレ今から消えるんだろっ?」
「うん。君の『服』がね」
「へ?」
「今度こそ、絶対に僕のモノに…」
「な?え?えぇっ!?」

姫は魔女の住まいへと引き釣り込まれてしまいました。
二人が立ち去った場所には、魔法で焼かれてしまった王子がプカリと浮き、船からは従者と薬を貰って陸に上がれるようになった姉達の笑い声が響き渡りましたとさ。
めでたし、めでたし。

おっさんの勝ち取った王子役が…が、がくり…(レイヴン談)