かぐユリ姫 (前編)





多分…昔。
ある所に、おじいさんが年甲斐もなく一目惚れしそうなお姉様とおばあさんと呼ぶには程遠い年齢の、言葉だけ年寄りな少女がおりました。
とある日、お姉様が何時もの様に山へ修行へと向かう途中の事です。
前方の竹林からぼんやり光るものが見えたのです。
そして、お姉様はその光を。

「あら?何故光っているのかしら?」

遠くから眺めて、何時もの修行所へと行きましたとさ。v めでたしめでたし。

完。

…。
……。
………。
…………。

「って、ちょっと待て〜いっ!!待ちなさいっ!!ジュディスちゃんっ!!それじゃ、お話が進まないでしょっ!!各々、各場所で待機してるんだから、ちゃんと台本通り進めてっ!!」

…ごほんっ。
改めまして。

多分…昔。ある所に以下略。
お姉様は、何時もの様に山へ修行へと向かいました。
いつも通る竹林を歩いていると、なんと、不思議な光景を目にしたのです。
それは、とてもとても神々しく光る竹でした。
お姉様は、その竹を。

「えいっ」

ズボッ。

槍でえぐり根っこをぶち切り引きぬくと、そのまま修行を止め、家へと持ち帰りました。
家の前まで、到着すると、なんと大変です。

「あら?家に入らないわ」

竹を切って中を持って来なかった所為で家の中に入らず、仕方なく。

「パティ。ちょっと来て貰って良いかしら?」
「んー?なんじゃ、ジュディ姉」

声をかけると中から少女が、包丁を持って出てきました。
これは料理をしていたのです。他意はきっとありません。

「ん?ジュディ姉。この竹どうしたのじゃ?きらきら光って綺麗なのじゃー」
「生えてたから抜いて来たのだけれど、お家に入らないのよ」
「成程。んー…そうじゃのー。………斬るか」

キランッ。
少女の目が光ったのか、それとも包丁が光ったのか。
何にせよ、身の危険を感じた竹は、自分から二つにぱっくりと割れてしまいました。
その中には…。

「キュ〜……」

すっかりシェイクされてしまった、それはそれは具合の悪そうな女の子がおりました。
(注意 ただ、諸事情により赤ちゃんを用意出来なかった為、代役のラピードの子供が役をしております。)

「なんじゃあ?可愛い子がおるのじゃ」
「そうね。可愛いわ」
「……よしっ!この子はウチが育てるのじゃっ!」
「あら。面白そう。私も手伝うわ」

少女の面白い試みから育てる事になった女の子。
その子はかぐや姫とは名付けられず、ユーリと名付けられ、不思議な事に女の子はすくすくすくと育ち、三か月も経たないうちに、にお姉様ですら追い越す位に大きく美人に育ちました。
女の子が育つその間、お姉様は必ずと言っていいほど、光った竹を持ち帰り、その中には金銀財宝がざっくざっく。
三人は何不自由なく暮らしておりました、そんな時。

「……重い」
「着物とはそーゆーものなのじゃ」
「でも、とっても似合ってるわよ。ユーリ」
「……なぁ、何度も言うようだが、どーしてオレが姫役なんだ」
「……そういえば、ユーリ。貴方宛てに文が届いてるわよ」
「…聞いてくれ。オレの話を」
「はい。文」

育ての親に敵う訳も無く、ユーリはその文を泣く泣く受け取り、開く。

「えーっと。何々…?『美しいと有名なおぜう(嬢)さん。おっさんと一つお付き合いしてみる気はないかい?』……パティ。これ燃やしといてくれ」
「了解なのじゃ。結構な良い紙じゃから良く燃えるのじゃ」

少女は早速、目の前の囲炉裏に文を投げ入れました。
パチパチと良い音を立てて燃える文をさくっと記憶から抹消し、三人は毎日を幸せに暮らしていましたが。
一日一通だったその文が、三通、四通と増え、終いには一日に十通届くようになり、流石に紙が勿体なくなったのか、お返事を書く事にしました。

『いい加減、うざってんだけど。でもまー、心意気は買ってやる。だから、オレがこれから言う物を持ってきたら、付き合ってやってもいいぜ』

その文に大層喜んだ文を出したおっさんは、改めて何を用意すればいいか問い掛ける文を送ってきました。しかも。

『おっさん、そこそこお金持ちだから多少の者は用意出来るわよ〜』

との自慢付き。
どうやらこのおっさん。とある地域の貴族様らしいのです。
軽い挑発をされて、いらっとしたユーリはもう一度文をしたためました。

『んじゃ、この五つの中から一つ。どれでもいいから本物を持って来い。

一つは、『宙の戒典』。
一つは、『副帝候補が大事にしている人形(ブッシュベイビー)』。
一つは、『天才魔導少女が愛用している、魔導器』。
一つは、『大きな剣を担いだ少年が隠し持っている○○○○の写真』。
一つは、『聖なる焔の光が連れて歩いている聖獣の毛』。

いいか?本物だからな。偽物とか近い物じゃ駄目だから。頑張れよ、おっさん』

ユーリの文は無事おっさんに届き、おっさんは停止しました。

「ってか、ちょ、無理よ、これっ!特に最後っ!これ作品違うじゃないっ!!」

と、おっさんが叫んだかどうかは分かりませんが、それでも女たらしのプライドと帝からの命令でおっさんは頑張るのでした。

そして数日経ったある日。
おっさんからの文と共の五つの箱が届いたのです。
まさか、やりとげたのか…?五つ共…?
焦って、文を開くとそれを増長させるように威張り散らす内容。
確かめてくれようとまず一番小さな箱を開けると。
そこには、一枚ぺらりと写真が入っており、それは…。

「ユーリ、聞いてよっ!!レイヴンったら酷いんだよっ!!行き成り僕の鞄漁ったと思ったら勝手に僕の大事な写真持って行ったんだっ!!」

ドアを張り倒す勢いで少年貴族がユーリの部屋へ突撃してきました。

「それって、これか?」

ぺらん。
少年貴族の前に写真を見せるとぱぁっと顔が輝き、それだよっ!と両手で受け取り、これからちょっと仕返ししてくるっ!そう言って入って来たと同じ勢いで出て行きました。
まるで嵐そのものでした。
…何故か次に小さいのと行くのが怖く、今度は重さで…。

「一番重いのは…これか?」

細長い箱。
多分、『宙の戒典』だろう。…事は分かるんだけど…?
パカリ。

「おっ!?本物…じゃあねぇなぁ。多分。おーい、ジュディ」
「呼んだ?」

奥からほいっと顔を覗かせたお姉様にそっと『宙の戒典』を握らせる。

「ちょっと…よろしく」
「…剣は使った事がないのだけれど…」
「大丈夫。ジュディならやれる」

そうかしら…?首を捻りながら、家の外へと出ると目の前にたっている木に向かって力一杯斬り付けると、パキンとあっさり折れてしまいました。

「あら?」
「やっぱり、偽物か」
「これ、多分飴細工じゃないかしら?」
「……無駄な事に技術つかってんなー」

取りあえず、その折れた飴細工『宙の戒典』をお姉様から受け取り、箱に仕舞うとそっと見なかった事にしました。
…何かどれも開けるのが怖くなってきたユーリでしたが、覚悟を決めて次は振っても全く音がしない箱を開けた。

「…これは、ブッシュベイビー…だよな。…だけど、微妙に顔違うような…?」

本来の顔と違うような…?

「なぁ、ジュディ?」

実はさっきから横にいるお姉様に声をかけると、違うわとあっさり答えが帰って来た。

「だよなー…。普通ブッシュベイビーって、きりっとした顔なのにこれはどっちかってーと、しょぼーんって感じだよな」
「多分、エステルに借りる事が出来なかったのよ」
「…泣かれたな」

って事はこれもおっさんの手作りか…?
先程からおっさんが才能の無駄遣いしているとしか思えない。
…後、箱は残り二つ。
これが二つとも軽い。そして、振ったら二つともかさかさ音が鳴る。

「どっちにするか…」
「いっそ、同時に開けたらどうかしら?」
「…そーするか」

お姉様が箱の蓋に手をかけたので、ユーリも蓋に手をつけ、せーので同時に蓋をあけ、中を確かめると。

「…?『無理、でした…』?…あー、文が燃えてる…」

どうやら、これは無理だったらしい。
天才魔導少女貴族から、炎を放たれた事を文がありありと表れていた。
そう言えば、お姉様が開けた中身はどうだったんだろう?
ひょっと隣を覗くと、そこには青い毛が一房。

「ねぇ、ユーリ。この毛って…」
「…あぁ。間違いない」

そっと蓋をして、ユーリは筆をとった。書く答えは決まっている。

そのユーリが書いた文が届くのは、2日後。
おっさん、ドキドキしながら文を開く、と。

『おっさん、ラピードの毛切りやがったな…。死ぃ、覚悟しとけよ』

そっと、文を閉じたとか、閉じなかったとか…。
兎に角おっさんのチャレンジは全て失敗してしまいました。