かぐユリ姫 (後編)





おっさんの無謀な挑戦からしばらく日が過ぎ…。
噂によると仕事人に成敗されたらしいとの事。
だが、そんな事一切関係ないユーリは相変わらず、お姉様と、少女と一緒に楽しい日々を過ごしていました。
ですが、街一の女たらしのおっさんが自分の命を削ってまで、お付き合いしたかったユーリを一目見たいと、なんと帝から文がやってきたのです。

「はぁ?帝から?」
「えぇ。貴方に会いたいんですって」
「何でオレがお貴族様に会わなきゃなんねぇんだよ」
「きっとユーリをお嫁に欲しいのじゃ」
「だから、オレは男だって言ってるだろ」
「この話では女役なのじゃ」
「うぐっ…くそぉ…」
「それで、どうするの?」
「……文を書く」

言いくるめられた、ユーリは筆をとりました。

『いくらあんたが会いたいって言っても、例えば、オレの前に現れて言われたとしても、オレは恐れ多いとか全然思わねー』

そう文に書いて。そのまま、書いて。
まんま、そのまま書かれた文は帝に届けられ。
それでも、文に会いたいと、しかもバージョンUPして嫁になれとプラスされ。
いらっとしたユーリは再び文を書きました。

『兎に角嫁とかありえねぇから。オレ男だから(重要)。それでも無理に嫁にさせよーとかするつもりなら、……腹ぁ、くくれよ』

と。
しかし、それがお誘いだと勘違いした帝が、とうとう腰をあげてしまいした。
やはり、女性だけの家。
そこは、それ。男性が覗いたりしない様に警護はしっかりしていました。
ですが、帝はそれすらも乗り越え、三人が暮らす家へ乗り込んできました。

「ユウゥゥゥゥゥリイィィィィィィッッ!!」
「相変わらず五月蠅ぇ奴だなっ!!お前はっ!!」

帝はこの世の者とは思えないユーリの美しさに胸を剣で討たれてしまいました。

「……ふぅ」
「流石ユーリ。そんな重い衣装を着ていても、胸を一突き出来るとは…あっぱれなのじゃ」
「…ふはははっ!!痛ぇっ!!痛ぇ痛ぇっ!!くっ!!気にいったっ!!また来るっ!!」

何やら一人で納得して帰っていった、帝を見送り…また数日が経ちました。

ユーリが一人夜空にぽっかり浮かぶ月を眺めていると…無意識に頬を雫が伝います。

「ユーリ?どうかしたのかしら?」
「……オレな。実はあそこから来たんだよ」
「…月、か?」
「そうだ。オレはあそこの住人でな。今月の十五日に迎えが来る。帰らなきゃならねーんだ」
「そ、そんなの聞いてないのじゃっ!!」
「そうね。私も初耳だわ」
「そりゃそうだ。オレだって今初めて教えたからな。…帰りたくねーな。ここ、居心地がいいし」
「なら、いればいいのじゃっ!!の、ジュディ姉」
「えぇ。私もいたいだけいればいいと思うわ。…そう。あの人にも協力して貰いましょう」

お姉様がいなくなり、パティもごそごそと何かを探し始めた。
二人の申し出はとても嬉しかったユーリですが、ユーリは知っていたのです。
どんな凄い武器を用意して待ちかまえていようとも、月からの迎えには敵わない事を…。
だから、ユーリはこれが最後と筆をとりました。

とうとう、ユーリが帰る十五日。
そこにはお姉様が呼び掛けた帝が率いる部隊と槍を構えたお姉様と銃を構えた少女が待ちかまえていました。
これだけの人数が集まってくれた事が、ユーリには何より嬉しかったのですが。

「来たのじゃっ!!」

月が一際輝き、月と重なる様に黒い影。
それはどんどん大きくなり、肉眼で確認出来る様になったそれは、大きな雲に乗っている綺麗な衣装を纏った、月の住人でした。

「ひゃははははっ!!来たぜ来たぜぇっ!!」

近寄って、飛びかかれる位の距離になった瞬間、部隊から矢が射られ、帝が斬りかかりに行くが、全て防御され帝にいたっては本来武器持ってない筈の住人に切られてしまいました。
他の部隊面も、お姉様も少女も攻撃をするが全然効果がありませんでした。
雲が、縁側に立っているユーリの横へとついて…。

「迎えに来たよ、ユーリ」
「……あぁ」
「君の罪はこれで償われた。一緒に帰ろう」
「…フレン……オレは…」
「…駄目だよ。ユーリ。君は僕と一緒に帰るんだ」
「…分かってるよ」

そっと、月の住人の手をとり雲に乗る。ユーリはお姉様と少女の方を見て微笑みました。

「ジュディ、パティ。世話になったな」
「ユーリ…」
「行っちゃ嫌なのじゃ…」
「……ありがとな。それと、これを」

ジュディの手にそっと、緑の液体の入った小さな瓶を握らせました。
あの馬鹿に、やってくれと。そう一言呟いて。

「ユーリっ!嫌なのじゃっ!」
「…パティ」
「………これ以上、地上の空気に触れると君の体に悪い。浄化させる為、この羽衣を纏って貰うよ」

パサリと羽衣を被させられたユーリの目にはお姉様も少女も映っていませんでした。

「…ユーリは、月の世界の姫なんだ。ただ、一つ事件を起こしてしまってね。罰として地上で記憶を封じて暮らせと命じられて地上に落とされたんだ。けど、地上の空気も地上の生き物も月の住人には体に毒なんだよ。だから、地上の記憶も言葉も消させてもらった」
「なっ!?」
「それに、ユーリは僕の事だけ知ってればいいよ」

にっこりと本音を吐いた月の住人はユーリを抱き上げ、来た時の十分の一の速度で月へと帰って行きました。

残された帝は、ユーリがいなくなった事を嘆きました。

「まだ、決着はついてねぇっ!!何か、何かないのかぁっ!!」

帝がユーリがいた部屋へと飛び込むとそこには手紙がありました。
その手紙には、一言かかれていました。

『滅べ。世の為に』

…。
帝は喜びました。
余りの喜びに、一日で山のてっぺんに向かい、山から月へ行こうとする程でした。
お姉さんはそんな帝を見かねて、ユーリから預かった液体を帝に飲むように促しました。
良く分からず、それでもユーリからの挑戦状と思い、それを一口飲むと…。

「ぐはぁっ!!」

帝は滅び、世界は幸せになりました。
……めでたし、めでたし。

(……帝、滅んでよかったのかの…?/パティ談)