白ユーリ姫 (前編)
多分…昔。ある所にそれはもう、たいそう綺麗な黒い服と日本刀をを愛用する黒髪の王子様がいました。
王子様は雪のような肌の白さから『白雪姫』と呼ばれ……る事を必死に拒み続け、様々な人から本名の『ユーリ』と呼ばれ、お城で幸せに暮らしていました。
「ユーリ、ユーリっ!!」
「あん?何だよ。エステル」
「大変なんですっ!!実は、ジュディスから手紙が来たんですっ!!」
「ふぅん。それで?」
「隣の国の王子の『フレン』がユーリをお嫁に下さいと書いてありましたっ!!」
「……嫁〜?オレ男だぞ?」
「構わないそうですっ!!」
「あ、あのなぁ…」
「もしかして、これって政略結婚ですっ!?」
継母のエステルは言いました。エステルはユーリの事をものすごぉーく大切にして育てたので、隣の国の王子と結婚なんてさせるものかと意気込みました。
しかし、当の本人は至って気にせずに、あっさりと言いました。
「仕方ねぇな。しばらく行方くらませば諦めるだろ」
「え?ユーリ。城下に降りるんですっ!?それじゃ、私もっ」
「アホ。2人で逃げたら直ぐにバレちまうだろうが」
「えぇ〜?ユーリ、ズルイです」
「悪いな。エステル。何かあったらラピードをよこしてくれよ。じゃあな」
エステルは多少拗ねながらも、ユーリを見送りました。そして、ユーリが一人で出て行くことになったフレンに恨みをぶつけようと決意したのです。
そこで、お城で昔から伝わる魔法の鏡を取り出しました。この鏡は何でも疑問に思った事の答えを教えてくれる凄い魔法のかけられた鏡なのです。
「パティ、パティっ。教えてくださいっ」
「むむ?なんなのじゃ?ウチに教えを請うとは…エステル、偉いのじゃっ」
「はいっ。ありがとうございますっ。それで、ですね?今、ユーリがフレンから逃れる為に城下に降りてしまいましたっ」
「ユーリが一人でかー?今、外に行くのは危ないのじゃー」
「ですよねっ?」
「でも、ユーリは一度決めたら曲げないからのー」
「そうなんです…。だから、パティっ。私達で何かお手伝い出来ないでしょうかっ」
「おぉーっ!それは良い考えなのじゃっ。早速作戦を立てるのじゃっ」
エステル(継母)とパティ(鏡)は早速作戦準備にとりかかりました。
―――その頃、ユーリは城を出て、馬に乗り森を駆け抜けていました。…ですが、途中大変な事が起きましたっ。獣に襲われ馬を逃がしてしまったのです。
「…ま、いっか」
大変な事が…と書くだけ損をしたようです。ユーリは全く、これっぽっちも気になりませんでした。
獣達を手に持っていた刀で薙ぎ倒し、流石に疲れたユーリはどこか休める場所はないかと、探し歩きました。
すると、小さなお家を見つけたのです。
「おっ、これで休める」
テイルズシリーズお馴染みの回復場所。山小屋と勘違いをしたユーリはその家の鍵をドアノブごと破壊し、中へズカズカと入って行きました。
「なんだぁ?小せぇベットだな。まるで子供用じゃねーか」
でもユーリは気にしませんでした。なぜなら、床でも眠れるからです。
ユーリは、安心して眠りにつきました。スヤスヤと大の字になり気持ち良さそうに眠りについたのです。
しばらくして…。
「あれ?ドアのノブが壊れてる?」
外から声がしました。けれど、とても疲れていたユーリは目を覚ましません。
「ええーっ!?もしかして、泥棒っ!?」
どうやらこの家の住人のようです。住人は小さな体に合わない大きな斧を持ってソロソロと中へ入ってきました。
「ん…?」
ユーリが目を覚まし体を起こすと住人はピタリと動きを止めました。
「もしかして、ユーリ?」
「お?カロルじゃねぇか。ここお前の家か?」
「う、うん。そうだけど…」
「そっか。悪ぃ。あんまり疲れたもんだから安全な場所で寝たくてな。ノブ壊しちまった」
「もー、ユーリ。びっくりさせないでよー。ノブ位すぐ直せるからいいけどさ」
その住人はカロルと言う少年でした。
昔、ユーリとエステルが城を脱走した時、たまたま魔物に襲われていたカロルをユーリが助け、それ以来ユーリが城を脱走する時、二人はいつも森で落ち合い仲良く狩をしていたのです。
カロルは久しぶりにユーリと会えた事を素直に喜びました。
「でも、どうしたの?ユーリ。ユーリとエステル一緒じゃないなんて珍しくない?」
「まぁな。今回はオレ一人だ。ちょっとフレンがアホな事言い出してな…はぁ」
「フレンって隣国の王子様だよね?ユーリの親友って言ってた?アホな事ってなんなのさ?」
「……聞くな。それよりカロル。しばらくここに置いてくれよ」
「うん。いいよっ!でも、きちんと働いてもらうからね」
「ははっ。分かってるって」
ユーリは森の中に住むカロルの家に居候する事にしました。元から仲の良かった二人は、それはもう幸せに暮らしていました。
一方ユーリが、カロルと楽しく過ごしていた時、お城のエステルと隣国の王子フレンの間に争いが勃発していました。
「エステル。フレンからの手紙、預かってきたわよ」
「あ、ジュディス。ありがとうございます」
ジュディスから貰ったお手紙を開き、お手紙の内容を知りエステルは怒りました。
「…政略結婚なんて考えていません。ただ、ユーリが欲しいだけです。って、駄目ですっ!!絶対に駄目っ!!」
「あら?どうして?」
「そうしたら、お城の中に私一人になっちゃいますぅ…」
「パティがいるでしょう?」
「パティはたまに遊びに行っちゃうんです。あの鏡の世界には大きな海が広がっていて、その海を船で旅してるそうです。凄く楽しそうで…うぅ」
「そう。じゃあ、ユーリをあげないように頑張りましょう?」
「はいっ。今、フレンに反対のお返事書きますっ!!」
すっかり、ジュディスのペースです。
「お返事もいいけれど、ユーリの無事を確かめなくていいの?フレンが、ユーリを探しに使いの者を出している可能性もあるわよ?」
「はっ!?それも、そうですねっ!!じゃあ、早速パティに聞いてきますっ!!」
「ふふっ。楽しくなりそう」
ジュディスの黒い心にエステルは気付きませんでした。
エステルは鏡へ向かいパティを呼び出します。
「パティ、パティっ」
「むー?なんなのじゃー?」
「パティっ。ユーリは無事ですか?」
「ユーリ?うむ。ピンピンしとるのじゃ」
「そうですか。良かった…」
ユーリの無事を確認して、エステルはほっとしました。
そして、次にするのは…。
エステルは、城下に住むリタ(魔女)へ相談に行きました。
リタとエステルはとても仲の良い親友でした。
「リタ、お願いします。毒林檎を作ってもらえませんか?」
「んなっ!?あんた、何言ってるか分かってるのっ!?」
「勿論ですっ」
「……人を殺す覚悟、あるの?」
「えっ!?あ、違いますよっ!?本当の毒じゃなくて実は…」
リタはエステルの話を聞き、それならと納得しました。
こうして、エステルのユーリ引き留め作戦は始まったのです。



