白ユーリ姫(後編)





「いい加減、しつこい、っつーのっ!!」
「ユーリ、きりがないよっ!!」
「だなっ。ったく、一体何考えてんだっ!!」

ユーリとカロルは戦っていました。

「お願いですからっ、白雪姫っ!!フレン王子の下へっ」
「お断りだっ!!だいたい姫じゃねぇっ!!」
「ぐあっ!」

ユーリとカロルが戦っているのは、フレン王子からの使者でした。
しかし、姫呼ばわりされて怒ったユーリは次から次へと薙ぎ倒していきます。
もう、立ち上がる人がいない事を確認すると、カロルを連れてとっとと家の中へ入ってしまいました。

「ふぁー…。ユーリも大変だねー」
「全くだぜ。あいつも何考えてんだ」
「ははっ…あ、そうだっ。林檎貰ったんだ。ユーリ食べようよ」
「林檎?誰に貰ったんだ?また、フレンじゃないだろうな?」
「確かにフレンからケーキとかクレープとか届いたけど、これはレイヴンからだよ」
「あぁ?おっさん?なんでまた?」
「リタに頼まれたんだって。顔に青あざつけながら持ってきたよ」
「マジで。ま、まぁ。おっさんの努力を無かった事に出来ねぇから、食べるか」

美味しそうな林檎がバスケットの中に山積みになっていました。
ユーリは何の抵抗も無く噛り付きました。
すると、口の中に林檎の酸味とは少し違う酸味が広がります。

「んっ!?な、んだ、これっ…」
「えっ!?ユーリっ!?どうしたんだよっ!!ユーリっ!?」

ばたりっ。
真っ青な顔してユーリが倒れてしまいました。
カロルは、慌てました。
何故なら、ユーリに触れると体がとても冷たく、息もしていないのです。

「ゆ、ユーリが死んじゃったぁーっ!!」
「何だってっ!?」

一体何処から現れたのでしょう。
フレンがカロルの真後ろに立っていました。

「ふ、フレン?一体どこから…?」
「ユーリ、ユーリっ!!しっかりしてくれっ!!」

カロルの質問はまる無視でした。

―――コンっ。

頭に何かがぶつかりました。キョロキョロと回りを見回しても誰もいません。カロルは、ふと天井を見上げました。
そこには大きな大きな穴があいていました。

「……ボクの家が……」

カロルは涙に暮れました。
そんなカロルをそっちのけで、フレンは倒れたユーリを抱き起こし顔を覗き込みました。
確かに体は冷たく、意識もありません。

「そんな…ユーリ…」

フレンはユーリの体をきつく抱き締め、俯きました。

「………フレン…」

泣いている…。
カロルはどう声をかけていいのか分かりません。しかし。

「どうして、こんな格好をしているんだい…?」
「……あれ?」
「白雪姫と言えば、可愛い黄色と青のドレスだろっ…?」
「あの〜…フレン?」
「これは、何時もの君の服じゃないかっ」
「フレンさ〜ん?」
「この黒い服と君の白い肌は危険だといつも言っているだろうっ!!」

フレンはユーリを抱き上げると、ベットに寝かせ走ってカロル宅を飛び出しました。

「え?ちょっと、どこ行くんだよっ!」
「ただいまっ!!」
「はやっ!?」

一瞬にして帰ってきたフレンの手には、白雪姫定番のドレスがありました。
そして、あっと言う間に、ユーリを着替えさせました。

「あぁっ…。綺麗だよっ…。何て綺麗なんだっ…」
「ちょっと、フレンっ!!危ないよっ!!凄い危ない人になってるよっ!!」

カロルの言葉は一切、全く、これっぽっちも耳に入っていない所か、むしろ入れる気がないようです。

「凄く…可愛いっ…」
「わわっ」

フレンがユーリと唇を重ねました。
あまりに濃厚なチューだったので、カロルは慌てて目を塞ぎました。

「…んっ……っ?、………んんーーーーっ!?」
「あ、ユーリが目を覚ましたっ!?」

ユーリの声がして目を開けたカロルが見たのは、フレンとユーリの攻防戦でした。
キスから先へ進もうとしているフレンとそれを全力で阻止しようとしているユーリ。
カロルはどっちに味方すればいいのか分からず、一時停止していました。そこへ、救いの手…もとい、ジュディスが現れました。

「あら?目が覚めたのね」
「じゅ、ジュディっ!!いい所にっ!!助けろっ!!」
「あら?だって、貴方彼の事が好きなのでしょう?」
「はっ!?な、何言ってっ!?」
「貴方が食べた、その林檎。リタが作ったのだけれど」

何の事か気になるフレンはユーリを襲うのを止めました。

「その林檎は『【食べた人】が【心から愛している人とキスする】まで【仮死状態】になる』林檎なんですって」
「……って、事は…?」
「良かったわね。フレン。貴方の事をユーリは心の底から愛しているようよ」
「ゆ、ユーリっ!!嬉しいよっ!!」
「う、うわっ。ちょ、待てっ!!放せってっ!!」

フレンはユーリを抱き上げ、さっさと自分の城に連れ帰り、逃げようとするユーリの退路を塞ぎ、早速祝言をあげました。その時のユーリは文句を言いつつも嬉しそうだった…とか…?
しかし、残されたお城のエステルたちは…。

「レイヴンっ!!」
「うぅ〜…すまん。嬢ちゃん…」
「これで、完全にユーリはフレンのモノになってしまったのじゃっ。どうしてくれるのじゃっ、おっさんっ!!」
「そもそも、おっさんが林檎を渡す相手を間違えたのよね」
「そうなのじゃ。本当ならフレンに食べさせて、ほとぼりが冷めるまで眠らせるつもりだったのじゃ」
「…それも、それで酷くなーい?」
「いいんですっ。私のユーリを取ろうとするのですからっ!」
「あー、嬢ちゃん。泣かないでよー」
「うぅ〜っ!!今日から、私はこのおっきなお城に一人ですぅ〜っ!!」

エステルはかなしくてかなしくて涙がポロポロ溢れてきます。

「え、エステルっ」
「…リタ?」
「あ、あんたがいいなら、あ、あ、アタシが一緒に住んであげても、い、いいわよ?」
「本当ですっ!?」
「え、えぇ」
「嬉しいですっ!リタっ!!」

こうして、涙に暮れたエステルは、リタのツンデレなセリフのお陰で、2人仲良く末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。

エステルが書いたおじ様宛ての手紙をこっそり入れ替えたのだけれど…。案外、気付かれないものね(ジュディス談)