ユンデレラ





多分…昔。ユーリ(シンデレラ)と言う名のそれはもう、大層美しい姫がおりました。
しかし、その姫は父親が連れてきた継母と連れ子である姉達にいつも苛められていたのです。

「ユーリィィィィィっ!!」
「何時まで、一つの仕事に時間をかけているのだ」
「だいたい何故君がここにいるのだね?」

……。
そ、それはそれは濃いメンバーの継母と姉達でした。

「さて、諸君。これから城にいるフレン・シーフォの所へ奇襲をかける。幸い、ここに『武闘会』の果たし状がある」
「いやいやいや、それ、『舞踏会』の招待状だろ」
「…なるほど。ならば戦の準備をしよう。きっと、友のエルシフルも待っているだろう」
「流石に城がでかいとはいえ、『始祖の隷長』は入れねぇって」
「フレン・シーフォォォォォォォォォッ!!」
「お前はさっきからうるせぇよっ」

流石のユーリでも疲れてきました。
ですが、意地悪な継母と姉達はユーリを更に苛めるのでした。

「ふむ。この武闘会はドレス着用らしい」
「何故だ?アレクセイ」
「ふっ。よかろう。ハンデ位あたえてやろうではないかっ!」
「いいぜぇっ!!ハンデハンデハンデぇぇぇっ!!」
「…誰か、助けてくれ…」

ユーリへ継母達はドレスを用意しろと言いつけました。
彼等の…彼女等の着れる様な、ドレスは売っていなくユーりはとても悩んだ末、ジュディス(仕立て屋さん)に注文する事にしました。
色々からかわれながらも、何とかドレスを調達し嬉々としてドレスを着込む、立派な体格をした男性…もとい、女性達でしたが、唯一継母だけが、その立派な筋肉が邪魔をして、背中のチャックがしまりませんでした。
(…ガムテープでも張っておくか)
……そぉーんな、ユーリの苦肉の策を知らず、継母達は準備を万端にし招待されたお城へと向かいました。
残されたユーリはようやく一息つくことが出来たのです。
とても、静かな部屋でした。

「やっと、静かになったぜ。っとに、いつもこうなら良いんだけどな」

手作りのケーキをテーブルに用意し、食べようとしたその時でした。

「ユーリっ!!」

エステル(魔女)が現れたのです。

「ふが?」
「何、のんびりケーキなんて食べてるんですっ!?」

エステルはとても慌てていました。
しかし、ユーリは気にすることなく、ケーキを美味しそうに頬張ります。

「どうして、彼等を止めないんですっ!?」
「止めて聞くような奴らだったら苦労しねぇよ」
「しかも、凄く怖いですっ!!」
「素直にキモイって言っても良いんだぜ?ほら、とりあえず、茶でも飲んで落ち着け」
「あ、すみません。ありがとうございます」

椅子に座るように促し、二人でゆっくりとお茶を飲み、ケーキを食べ…。

「って、そうじゃないですっ!!」
「何だよ?苺のケーキ、嫌いだったか?」
「いえっ。ユーリのケーキは大好きですっ。でも、そうじゃなくてっ。ユーリ、今ドレスを私が魔法で出しますからフレンを助けに行ってくれませんかっ!?」
「あー?助けになんて行かなくても大丈夫だって」
「駄目ですっ!ねずみさんとかぼちゃは用意してありますからっ!!」
「いや、だからな。オレは、ドレスなんて着たくない…」
「えーいっ!!」
「って、聞けよっ。人の話っ!!」

エステルは魔法をかけました。
すると、ねずみは馬に、かぼちゃは馬車に。そして、ユーリの黒い服は立派な純白のドレスに変わりました。

「さ、行ってくださいっ!!」
「だから、聞けって人の話をっ」
「魔法は12時で魔法は切れますから、それまで帰ってきて下さいねーっ!!」
「降ろせぇーっ!!」

問答無用で馬車に押し込まれ、ユーリは牢獄へ…いやいや、舞踏会へと赴いたのでした。

お城へ着くと、そこは素晴らしくっ…凄まじい世界でした。
舞踏会が開かれているホールは、何とも言いがたい集団の塊でした。

「…ねぇ、フレン。誰か良い人いた?」
「…カロル。逆に問いたい位だよ。この女装パーティのような状況でどうやって、良い人を探せと言うんだい?」
「…確かに…。まだ、ザギがマシに見えるしね…。ドンとディソンあたりはもう…」
「と、言うよりコレは本当に舞踏会なのかな?」
「ど、どうだろう…?」

フレン(王子)とカロル(王)が仲良く話をしていました。

「で、でもとにかく誰かと踊ってみたら?何か変わるかも?」
「…本当にそう思ってるのか?カロル」
「え?えーっと…」
「…カロル」

2人が深い深ぁーい溜息をつくと同時に会場がざわめき始めました。
そちらの方へ視線を動かすと、それはもう、とても美しいユーリがいました。
掃溜めに鶴とはよく言ったものです。

「…っと、フレンは何処だ?」

きょろきょろと誰かを探しています。

「カロルっ!」
「な、何っ?」
「僕、行ってくるからっ!!」
「え?え?」

フレンがユーリへと真っ直ぐ走っていき、彷徨うユーリの前に立ち、手を差し伸べました。

「ユーリっ!!」
「フレンっ。良かった。まだいたな」
「一曲踊ってくれるかい?」
「え?いや、無理」
「えぇっ!?何でっ!?」
「こんなガラスの靴履いて、踊れるわけ無いだろっ」
「あぁ、何だ。そんな事か。大丈夫、僕がリードするよ」

そう言って、フレンはユーリの手を取り、ユーリと曲に合わせて踊るのでした。

「あぁ…。こんな綺麗なユーリを見れるなんて…。待ってて良かったっ!!」
「…恥ずかしい奴。男のオレがこんな格好してて、綺麗な訳ないだろ」
「そんな事ないよっ!!君には回りに見えるこの地獄絵図が分からないのかいっ!?」
「…確かにな。あれに比べれば少しはマシかもしれないが…」

踊りながらもそっと回りに視線を移すと、ドン・ホワイトホースや、ボスにディソンと様々な女装が見え…。

(…あ、やべ。アレクセイのガムテープとれそうだな…)

と心配も心をよぎりました。

「ユーリ、僕と一緒にお城で暮らしてくれないか?」
「オレは下町の方が暮らしやすいんだよ」
「それは知っているけれど…カロルが結婚しろって五月蝿いんだよ」
「あー、それは仕方ねぇだろ。なにせ、プロポーズしたい相手がいるらしいからな」
「そうなんだっ。だから、毎日のように舞踏会を開くんだけど、最初は女性だったのに最近は男ばっかりっ!!」
「さっさと女選ばないから、そうなるんだろ?」
「…だって、僕は君が良かったから…」
「フレン…」

フレンが真摯な瞳でユーリを見つめました。
そして、その時。

ゴーン、ゴーン…。

12時の鐘がなったのです。

「やべっ。帰らねぇとっ!!」

フレンを突き飛ばし、城の外の階段へと走りました。
本当にガラスの靴だから踊れないのかと問いたくなるような速さです。
でも、変態も…フレンも負けませんっ!
階段を降りるユーリをとっ捕まえ、暴れるユーリを抱き締めました。

「ちょ、マジ放せってっ!」
「嫌だよっ!!」
「早くしないと魔法が解けるんだよっ!!家までのあの距離を歩いて帰るなんて面倒くさいんだぞっ!!」
「だから、城で暮らせばいいだろっ!!」
「嫌だって言ってんだろー、がっ!!」

今度は力一杯突き飛ばし、フレンが転んだ所でダッシュで逃げました。

「あー、もうっ。この靴邪魔だっ!!」

ペッと靴を脱ぎ捨てると、急いで馬車へと駆け込み、家へと帰るのでした。

次の日の事です。
継母と姉達は何やら嬉しげに武器の手入れをしていました。

「何してんだ?お前ら」
「うむ。先日の武闘会ではフレン・シーフォと決着をつける事が出来なかったのでな」
「今度こそ、友に会う」
「ふはははははっ!!強い、強いぞぉぉぉぉぉっ!!」
「…ってゆーか、いい加減オレの家から出て行けっ!!」

そう、ユーリがぶち切れた時でした。
コンコンとドアが叩かれました。
そんな事は一切関係ない人たちでしたので無視をしていましたが、流石にずっと叩き続けているので仕方なくユーリはドアを開けました。

「失礼」
「あん?おっさんじゃねぇか。何してるんだ?」
「青年、今おっさんは従者なんだけどー」
「気にすんな」
「全く青年はー…」
「そうだ、おっさんっ。頼みがあるっ」
「何よ」
「あれっ!!持って帰ってくれっ!!」

ユーリが指差した方向には…。

「アレクセイにデューク?何してるの?」
「この間から入り浸ってるんだよっ」
「あー、それはご愁傷様」
「ついでにザギも持ってってくれ」
「そうねー。んじゃ交換条件ね」
「は?」

そして、取り出されたのは昨日脱ぎ捨ててきた『ガラスの靴』だった。

「ちょ、ちょっと待て。コレがここにあるって事は…?」
「さ、ユーリ。今度こそ僕と城に来てもらうよ」
「フレンっ!?」
「この靴が合う人が僕の結婚相手だって、もう通達して貰ったから」
「じょ、冗談じゃねぇっ」
「勿論、冗談なんかじゃないよ。さ、行こうか。代わりに、ここにはレイヴンさんを置いていくから」

突然のフレンの登場&驚きの発言にユーリが固まったのを、これ幸いと抱き上げ満面の笑みでフレンは城へと帰っていったとさ。
めでたしめでたし。

ちょ、ちょっとー。おっさん、マジであいつ等のめんどー見なきゃ駄目なのーっ!?(レイヴン談)