掟その4 行事には積極的に参加しよう(文化祭編)
■ 中編 ■
「それにしても、皆凄い恰好だね」
「なのじゃ」
リビングのテーブルにつき、皆でユーリ手製の朝飯のお握りを食べている時、カロルとパティが皆の変わりように慣れる事がないのか、ぼそりと呟いた。
しかし、それには苦笑いしか出来ない。
そもそも、ヴェスぺリア学園は自由な校長が自由に経営している学園である。
その為、生徒は常に校長に振り回される。
去年の例を上げると、『旨い物が食べたい』。そんな校長のアホな一言からクラス対抗料理大会が行われたのである。
因みに結果は勿論、ユーリの策略により出場させられたフレンの毒料理により審査員の校長が食中毒で救急車と共に消え去り、幕を閉じた。
そして、今回はフレンが生徒会長になった事で、校長の作戦は悉く防がれているのだが、あまりの押しの強さにフレンが今回珍しく負けてしまった。
理由は、意外に生徒達も盛り上がっている。と言う事にある。
今回校長が言いだした事は。
『どうせ文化祭をするのであれば、皆が別の事をするでなく、皆が同じテーマで競い合ってみてはどうだねっ!そう、そして、テーマはこれだっ!!』
それが、『喫茶店』である。
飲食物を扱うには色々許可がいるというのに、それすらも校長は乗り越え、結局は文化祭のテーマは喫茶店になってしまった。
更に、校長の余計な一言。
『だが、普通にやるのではつまらん。どうせならば、競い合ってみるがよいっ!!来場者に入り口でチケットを渡し投票制にするっ!!そこで一位になったクラスには褒美として私の権力が許す限り、出来る事を一人一つだけ叶えようではないかっ!!』
その一言で全校生徒の心に火がついたのは言うまでもあるまい。
色々成績がやばい生徒もそれでカバー出来るかと思えば張り切って当然。
けれど、それに巻き込まれた生徒達はと言うと…。
「…はぁ」
溜息しか出てこなかった。
勿論その溜息をついたのは、言うまでも無く。
「何で女装ばっか…」
ユーリだった。
当然と言えば当然。
高校生男子が女装をしたいなんて普通は思わないだろう。
だが、目の前にいる不機嫌オーラ出しっぱなしのリタがいる。流石にその前で愚痴を上乗せする事も出来ずただただ溜息を吐くしかなかった。
微妙な空気のまま、食事が終わり、エステルとリタ、そしてジュディスはレイヴンに送られ先に寮を出た。
カロルとリタは体育祭と同様、文化祭にも来るらしく部屋で準備をしている。
残されたのはユーリとフレン二人。
仲良く後片付けを素早く済ませ、二人鞄を持ち寮を後にした。
学校まではそう距離は無い。
だが、人通りがない訳ではない。
その為…。
『おい、あの娘可愛くね?』
『確かに。けど、横に居るの、あれもしかして彼氏か?』
『だとしたら、可哀想ー。コスプレイヤーの彼氏持ちで彼女もそれに付き合わなきゃならねぇのか』
『凄い。あの騎士の男の人。カッコいい。』
『でも何で騎士?』
『さぁ。あ、そう言えば今日近所の高校で文化祭あるって言ってたよ?』
『あ、そっか。それでかー』
様々な言葉が飛び交っている。
好奇心丸出しの目がジロジロと二人を物色する。
「…成程」
「何が成程なんだよ」
フレンと二人きりになった途端不機嫌を堂々と表に出したユーリは隣にいるフレンを睨みつけた。
しかし、それすらも超越する程ユーリが可愛くて仕方ないのか、フレンはニッコリと笑ってユーリの問いに答えた。
「いや、この姿で登校すれば嫌でも人の目に止まって、宣伝効果になるなーってね」
「あぁ?……オレにはさっきからオレのプライドを刺激しまくる言葉しか聞こえねぇ…」
「それは、仕方ないよ。だってユーリ凄く可愛いから」
「オレは男だっつのっ!!」
「うん。男でも可愛いよ。大丈夫」
「お前な〜…」
「でも…そうだね」
スーッとフレンの纏う空気がどんどん冷えていく。
ユーリの背中をゾクリと寒気が走り抜ける。
「…君を変な目で見る人達は、許せない、かな?」
グイッと手を引っ張り、ユーリの指に自分の指を絡ませてフレンは、ユーリを見てポーっとしている連中を睨みつけた。
ユーリは僕のだから。
口には出してはいないけれど、どう考えてもそう言ってるとしか思えない。
そんな雄弁に語っているフレンの目を見て、回りはそそくさと逃げ出して行った。
しかし、ユーリはそれに気付く事無く、寧ろ。
(これ、いつまで繋いだままなんだ?)
と自分の手にばかり意識がいっていた。
だがフレンはそんな繋いだ手を離す事無く学校まで牽制を続けながら登校したのだった。
学校に到着するとそこからはもう大忙しだった。
喫茶店を作る為、どこよりも目立つ仕組みにする為。
裏方の仕事はすさまじかった。
「……こりゃすげぇな」
「でしょ?おっさんたまげちゃった」
いきなり自分の呟きに参加してきたレイヴンに少し驚きながらユーリはレイヴンを見ると、少し憐れみながら口を開いた。
「…さっきは言えなかったけど、おっさん。似合わねぇな」
「…30過ぎたおっさんが似合うって言われた方がおっさんショックだわ」
「だよな。しかし、ホントすげぇな。本格的に木まで使って教室の中にもう一つ部屋があるみたいだな」
「裏方担当の努力と涙の結晶だわね。ま、下心がある所為で教師としては何とも微妙だけれども」
「…確かにな」
そう。本当に立派な喫茶店が出来上がっている。まるで本当のメイド喫茶の様にメニューも豊富で、何よりもキチンと人を選べる指名制である。
これはいっそホストの様と言ってもいいのかもしれないが、入口に写真が貼られており、誰を指名してもいいし時間によってはデートと写真付き。
勿論料金は変わってくる。
「えーっと、何々?店内御指名、接客込みで100円。追加料金200円で写真、更に300円追加で校内を一周デート。…ってオレは嫌だぞ。知らねぇ奴と一緒に写真とか校内歩くとか」
「安心しろ、ユーリ」
「アシェット?」
「お前に拒否権はないっ!」
……。
一瞬の沈黙の後、アシェットがユーリに今度こそ殴られたのは言うまでも無い。
触らぬ神にはなんとやらである。
何はともあれ、準備は進みいよいよ文化祭が開催された。



