Y side T





星喰みを退けてから、三年が立った。
オレ達がカロル中心に立ち上げたギルド『凛々の明星』は、世界を正す為に持てる力全てを尽くしていた。
全ての人が生きやすい世界。
この地上に住む全ての生き物が平穏に過ごせる日常を得る為に自分に出来ることをやってきたつもりだ。
なのに、やっぱり人間は馬鹿な生き物なのだと再認識させられた。
そして、それに気づけない自分もまた馬鹿だったのだ。

「ユーリっ!!」
「なんだ?カロル?どうした?」

ダングレストの宿の一室。
オレがベットの上で次の依頼内容を確認していると、そこへドアを突き破る勢いで…いや、もう扉が壊れているから突き破ってのが正しいかもしれない。
だが、そんなのお構いなしに、それはもういい笑顔で、凄く嬉しげに、カロルはオレの寝ているベットにダイビングしてきた。
だうんと弾むベットに危うく落ちそうになるがそれを何とかこらえ、カロルをみると手に手紙を持っていた。

「あのね、ユニオンの定例会議に呼ばれたんだっ」
「へー。良かったじゃねぇか」

ユニオンの定例会議に呼ばれた。
ユニオンに加入していないオレ達のギルドにしてみれば、それはもう大出世…というべきなのだろうが、ようやくここまでのし上がったと喜ぶべきなのか、拘束するものがついた不運を厭うべきなのか。
大人のオレにして見ればなんとも判断しづらい結果だが、自分の成長が目に見えて評価されたカロルにしてみれば万歳ものだろう。
だから、オレは頑張ったカロルの頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。
いつもなら嫌がるそれもハイテンションなカロル先生は一切気にも留めず、むしろ自慢げに胸をはりエヘへとはにかんだ。

「んで、何時なんだ?」
「明後日の夜っ」
「そっか。胸張って行ってこいよ。首領」
「うんっ!!」

自分達のギルドが出世をしている。帝国とギルドもだんだん対等な関係を築き始めている。
ギルドの力が強くなっているのは良いことなんだが…。
なんでだか、最近胸がざわざわする。それを一言で言うなれば『嫌な予感』って奴だ。しかもそれがどんどん増して行っている気がする。
けれど特に大きな事件もない。ただのオレの気のせいだろう。オレはそう自分に言い聞かせベットから降りてカロルと向き合った。

「さ、てと。オレは次の依頼に行ってくる。カロル、ユニオンの会議の結果。後で聞かせろよ」
「うんっ。勿論だよ。ユーリっ!」
「んじゃ、な」
「うんっ。行ってらっしゃーいっ!」

大きく手を振るカロルに片手で答え、部屋を出て道具屋の前を通り過ぎながら、宿屋を出た。
相変わらず湿気のある暗めの街だ。しかし、嫌いじゃない。どうせだから少し遠回りして行くか。
本来行かなくてもいい道を通り、ダングレストを囲む川にかかった橋へ向かいながらふと思う。

「あんだけいたはずの騎士団がいねぇ」

星喰み戦後、ギルドと騎士団は協力状態にあった。
だから、どの街に行っても騎士団もギルドも一緒に仲は良くとは行かないながらも共存していた。
なのに、今はダングレストに騎士団の姿がない。
魔物がいなくなったから…という訳でもなさそうだ。
なら、どうして…?

「考えたくねぇな…」

オレはボソリと口に出した。
それでもオレ達はまだこれからなんだ。
そう、自分に言い訳づけて、強くなる胸騒ぎを押さえつけ、オレは目的地のハルルへ向かう為ダングレスト後にした。
前と違って森を歩くにもそんなに危険はない。
以前はエアルの影響で魔物が凶暴化していたが、今はそのエアルも精霊が管理しているため何も害はない。
むしろ最近では人間の姿を見ただけで逃げていく。
案外人間が凶暴化しただけだじゃないだろうか?
とかふと浮かぶ考えを思考から投げ飛ばすと、無心で歩き続けた。
森を抜けると当然のようにアイテムを補給する為、ヘリオードへと立ち寄った。
相変わらず大工音が鳴り響いている。
ここは未だに工事を続けているようだ。
新興都市なだけはある。来るたびに新たな建物が立ち風景が変わり続けていた。
ある意味何も変わりない筈の街の風景。
だが、やはり何か足りない物がある。
それは…。

「やっぱり、騎士団がいねぇ…。どう言う事だ?」

気になる事はとことん気になる。
だったら、その理由探るしかないよな?
目的地へ急ぐ足をそのまま旅の間世話になっている宿屋へと向かった。
そこには、道具屋もあるし情報を得るには丁度いい。
アイテムも無くなってるしな。
そして顔馴染みの道具屋へ顔を出した。
すると、そこの店主も嬉しげに笑って出迎えてくれた。

「久しぶりだね、兄ちゃん」
「おー。相変わらず頑張ってるみてぇじゃねぇか」
「まぁな。これがなきゃ生きていらんねぇからな。んで?何をお求めだい?」
「今切れてるのはアップルグミとオレンジグミ、それとパナシーアボトルを五つずつ頼む」
「あいよっ」

威勢良く返事を返すとゴソゴソとカウンター内を漁る。
オレはそれを見つつカウンターに肘を付き、気になっていることに触れた。

「なぁ、最近騎士団の姿見ねぇんだけど、何か知らねぇ?」
「あぁ?騎士団?アンタも不思議な事を言うねぇ」

注文したものをカウンターの上に置き、数を確認しつつ袋に詰めて行きながらも不思議そうな声を上げこっちをみた。

「不思議?何でだ?」
「何だ、ホントに知らないのかい?最近の若いもんは新聞も読まねぇのかい?」
「新聞?最近は依頼書しか読んでねぇよ」
「そいつはいけねぇな。ほら、これだよ」

そう言って差し出された新聞の見出しを見て一瞬言葉を失った。
『ギルドの島、ダングレスト完成の日は間近』
何だ?これ?
ギルドの島ダングレスト?
意味が理解出来ず、文章を読み進める。
『ギルドが何故帝国より上に立つことが出来ないのか?その理由は土地にあるのではないだろうか?帝国が大半を占めているのはおかしい。我々は対等だといいながらも最終的に決定権を握るのは帝国である。そんな帝国に我々は意思表示をする為にギルドの島を作ることに決めた。そして、その第一歩として騎士団を島から全て追い出す事に成功した。更に友交協定にあるノードポリカもまた我々に同意している。』
…くだらねぇ。
けど、これで騎士団が追い出されたというのなら…。

「これ、マジか?」
「マジだとも。この街に騎士団がいないのが何よりの証拠だろう」
「…例えば、騎士団が街に残ってたらどうなるんだ?」
「ユニオン本部に連れて行かれて、投獄。もしくは処刑されるらしい」
「……笑えない冗談だな」
「冗談なんかじゃないさ。事実殺された奴もいたらしい」

ギリッときつく手を握る。

「ま、何にしても逆らったりしない限りは平和なんだしな。魔物もいなくなったし、後は上の奴らが勝手にすればいいさ」
「……そう、だな」

良く分からない苛立ちを軽く呼吸する事で落ち着かせポケットから金を取り出しカウンターに置くと、差し出された紙袋を持っていた荷物の中へと突っ込んだ。

「この新聞貰ってもいいか?」
「あぁ、いいよ。好きなだけ読むといい」
「サンキュ」

一言礼を言うと、本来休憩する筈だった宿屋を後にした。
歩きながら貰った新聞に改めて目を通す。
最近の日毎強くなった嫌な予感。
まさかこんな結果とは…。
こんな予感になるのなら、当たらないで欲しかった。
そう―――心の底から思った…。