F side U
―――コンコンッ。
部屋の戸をノックする音が聞こえた。
何時ものように「開いているよ」と答えると戸が開き、「失礼します」と僕の信頼の置ける数少ない一人のソディアが入ってきた。
「閣下」
「その感じだと、やはり追い出されたようだね」
「…はい。どうやらギルドの連中はカプワ・トリムを堺にヘリオード、ノードポリカ、マンタイクを完全に制圧したようです」
「そう、か…」
突然のダングレストを中心としたギルドの勢力アップ。
状況が全く掴めない。
ギルドと騎士団は友交関係にあったはず。
それなのに、何故…?
「すまない、ソディア。引き続き調査を頼む。それと…」
「閣下?」
「このままではギルドが海を超えて渡ってくる可能性がある。本当はしたくはないが、カプワ・トリムからカプワ・ノールへ騎士団や民間人以外のギルドの移動を抑制してくれ」
「それは…」
「陛下の命をお守りする為だ。今この島に残っているギルドも至急ダングレスト、最悪カプワ・トリムまで引き返すように」
「了解しましたっ」
ソディアは踵を返すと直ぐ様部屋を出ていった。
しかし、分からない。
何故こんな事態になったのだろうか?
裏で何かが動いているのは間違いない。
だが、それが検討もつかないなんて…。
…いや、違うな。
今は考えている時ではないのだ。
動いて、現状を探らないと。
僕は部屋を出て、陛下の元へと向かった。
陛下の部屋へ足を向け進んでいると、向こうから陛下がこちらへ向かって来ていた。
陛下の前へ急ぎ膝を折る。
「フレン、良かった。今から貴方の元へ行こうとしていたのです。少し話がありまして」
「はっ。私も陛下にご報告せねばならぬことがございます」
「ならば、貴方の部屋へ行きましょうか」
「はい」
お供に連れていた二人を待機させ、僕の部屋へと案内する。
部屋の中に招き入れると、陛下は少しリラックスした表情で、ソファーへと腰掛けた。
「それで陛下。お話とは?」
「ギルドについてです」
やはり、そうか。
陛下もギルドの対応についてお話をして下さるのだ。
僕は、しっかりと頷いた。
しかし、陛下から出た言葉は僕の想像を遥かに上回る予想外の言葉だった。
「フレン、ギルドは本当に必要な組織なのでしょうか?」
「へ、陛下?それは…どういう?」
どういう意味なのだろう…?
「今の状況を見る限り、ギルドが有る事が本当に帝国の為になるのかと不思議に思う時があるのです」
「で、ですが、陛下。ギルドは私たち帝国が守れないモノを守ってくれています」
「それは本当に我々が守る必要のあるものですか?我々にとって必要なものでしょうか」
「陛下…?」
「必要のないものまで守り続けている必然性はありますか?」
「…陛下。それは違います」
「フレン?」
「必要か不必要か。それは私達が考えるべきことではありません。例えば、ヨーデル様にとって守りたいものではないとしても、他の民にしてみれば命にかえても守りたいものかもしれない。ギルドだってそうです。我々に必要がなくても必要とする民がいます。民を守るのが私達のすべきこと。その民が望むものを守ることが私達騎士団の使命です」
「そう…ですか。…そうですよね。僕は一体…?」
「ヨーデル様?」
「…フレン、僕は………いえ、何でもありません。忘れてください」
部屋へ戻ります。そう言って部屋を後にしたヨーデル様の背を見送り、僕は部屋を飛び出した。
何かが起こっている。何者かの手によって。
それを知るために僕は部下のウィチルへ状況を説明し城を飛び出し、現状がハッキリ分かりそうなカプワ・ノールを目指した。
徒歩だとかなりかかる。ならばと馬に乗り駆け出す。
これならば魔物に遭遇することもまずない。
ただ馬を走らせデイドン砦を通過する。
そこには既にギルドの姿はない。
ソディアが上手い事規制してくれているのだろう。
このままカプワ・ノールまで馬を走らせたかったが、流石に馬も限界に近づきハルルに立ち寄ることにした。
ここも、ソディアの規制のおかげでギルドの影はない。
真っ直ぐ宿屋へと向かっていると、「号外、号外だよ〜っ!!」と焦ったように新聞を配る少年とすれ違った。
その少年がバラ蒔いた号外新聞を手に取り、目を疑った。
『帝国の島ザーフィアス計画。取り掛かり開始。オルニオンからギルドを排除する事に成功。事実上帝国皇帝ヨーデル陛下がギルドへの宣戦布告である。』
何だ…コレは…?
こんな話、聞いていない。
『勿論、ギルド側も黙ってなどいない。本日の会談をギルド側代表者もボイコット。戦争の火蓋が切って落とされた』
まさか…そんな…。
居ても立ってもいられなかった。
もう走ることの出来ないであろう馬を置いて、僕は急ぎカプワ・ノールへと走った。
エフミドの丘を越え、漸く目的地についたのは帝都を出て、三日目の夜。夜の筈なのに、町から声が聞こえる。
武器のぶつかり合う音の合間に叫び声と唸る声。
この戦いを止めなければっ。
剣を引き抜き、争いのさなかへと僕は飛び込んでいった。



