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クオイの森。
僕とユーリは帝国の追手から身を隠すように二人抱き合う様に、木の幹にある小さな窪みに体を隠していた。
勿論、武器は離さずに。
「はぁ……はぁ…」
ずっと走り続けていた所為か、息が整わず無意識に目が潤む程に苦しい。
横に居るユーリも同じなのか、必死に身を隠しながらも呼吸を整えていた。
本当なら、体を伸ばしきちんと呼吸をすべきなのだろう。
けれど、今そんな事をしたら間違いなく見つかってしまう。
ここだって、いつ発見されるか分からない。
僕とユーリは全ての勢力を潰した。
誓った通りに。
最後の帝国の勢力も、評議会、騎士団、そして帝国そのものを制圧したのだ。
その前にはダングレストへも行った。そこで、ギルドの勢力も潰した。
今ダングレストの大半、そして帝国の大半の戦士は武器を握る事は出来ても、あれ以上腕を鍛える事は出来ないだろう。
強い敵に挑む事も出来ない筈だ。何故なら、彼らの利き腕に麻痺を植え付けた。
麻痺は、大きく動かなければ、普通に生活している分には支障はない。それこそ、食糧を確保する狩り程度なら普通に出来る。
それ以上の力さえ求めなければ平和に過ごせる。皆が平和に過ごせる。
そして、残されたのは…残された力は…。
そっとユーリの顔を見ようと横を向いた。
すると、ユーリも同じ気持ちだったのだろう。
目が、視線が合った。
…何も言わない。
けれど、ユーリの瞳は、黒紫の瞳はふっと柔らかく揺らいで、…分かってるって言っている。
それが嬉しくて、僕の口元にも無意識に笑みが浮かぶ。
「…これから、何処に行く?」
「…決まってるだろ」
「……だよね」
そう。決まってる。
どうせ、行くのならば。
君と会ったあの場所へ。
エフミドの丘へ。
でも、そこへ行ったらもう、きっと帰ってこれないだろう。
だから…。
僕はユーリの肩へと手を回し抱き寄せた。
「フレン…?」
「…大好きだよ。ユーリ」
「どうした?いきなり」
「うん。伝えたいんだ。僕のこの気持ちはずっとずっと変わる事はないからね」
「……恥ずかしい奴。でも、俺も愛してる。ずっと…。例えこの命が尽きたとしても」
嬉しい。
凄く、凄く嬉しい。
その衝動の赴くまま、僕はユーリの顎を上向けて唇を重ねた。
そして、ユーリも何の抵抗もなく僕を受け入れてくれる。
大好き。
愛してる、ユーリ。
この気持が伝わるように。
深く、深く口づける。
唇を離しても、きつく抱きしめ合う。
そして笑い合い、もう一度触れ合うだけのキスをして、窪みを飛び出し、エフミドの丘へ向かい走りだした。
『見つけたぞっ!!』『こっちだっ!!』と叫ぶ声がして、僕達の周りにどんどん人が増えていく。
でも、負ける気はしない。
例え取り囲まれても、ユーリと二人なら負ける筈もない。
どんなに疲れていても、そう思う。
振り下ろされた剣を弾き飛ばし、向かって来た相手の腕を斬りつける。
それでも、向かっている場所はエフミドの丘。
クオイの森を抜けるとどうしても平原に出てしまう。
勿論街など寄れる筈もない。
追手と剣をぶつけ合い、斬りつけ、そして進む。
どれだけ、僕とユーリの手は血に染まったのだろうか。
もう、決してとれる事は無いんだろう。
そう思える位には戦って、血を流した。
けれど、それももう終わる。
僕達はエフミドの丘へただ走り続けた。
そして、漸く辿り着いた海の見える丘。
そこで、僕とユーリは途中撒いてきた騎士とギルド員と向き合う為振り返る。
もうズタボロで、息ももうままならない。けれど。
「フレン…。こいつらで最後だな」
「うん。そうだね」
「漸く、終わるな」
「うん。長かったけど…でも、僕はユーリといれて楽しかったよ」
「ばぁか。『いれて』じゃねぇだろ。これからも一緒に『いる』んだよ」
「…ユーリ…。あぁ、そうだねっ!」
「行くぜっ!フレンっ!」
「あぁっ!これで決めようっ!」
『追い詰めたぞっ!!』『覚悟しろっ!!』そう言って、騎士とギルド員達が僕達を取り囲んだ。
あれだけ戦ったのにまだこんなにいるんだな。
ここまでの戦力が必要だった世の中だったのだと思い知らされる。
僕とユーリは最後の気力を振り絞り、武器を構えた。
これが、最後の戦いなんだ…。



