Y side V
有り得ない事続きで頭が混乱しっぱなしだ。
だが、そんな状況で起こったこの戦いをどうにかしなきゃなんなかった。
カプワ・ノールに降り立ち、刀片手に騎士団の連中を気絶させていく。
別にギルドの肩を持つわけじゃない。
けど、今オレはギルドの人間なんだ。
「あっちに強い奴がいるっ!」
ギルドの誰かが叫んだ。
『強い奴』
そいつさえ倒してしまえば、カタがつくかもしれない。
オレは真っ直ぐそいつの所へと向かった。
殺さないように。でも、起き上がっても来れないように。
騎士をなぎ倒しながら。
そして、一番強そうな奴を発見した。
…そうだな。
騎士団で強い奴。
それだったら、こいつしか、いないよな…。
「…フレン」
「ユーリ…」
あいつもオレがいることは予想済みだったのだろう。
ただ、悲しげな顔がこっちを見ていた。
んな顔するな。オレだって、好きで戦ってたわけじゃねぇ。
お前とこんな形で戦いたくなんかないっ。
それでもこの感情を言葉にする事は出来なくて。だから思いを剣に乗せる。…剣しかない。
フレンに剣を向けると、フレンもそれに応えた。
金属のぶつかる音。
オレとフレンの剣がぶつかるたびに、互いの迷いが剣捌きに表れた。
オレ達は、何も言わない。
ただ、剣をぶつけ合うだけ。
一撃一撃が重く、酷くスローに感じた。
…どれだけ、剣を重ねたのだろう。
ピーーーーッ!!
笛の音が聞こえた。かと思うと一斉にギルドが撤退を始めた。
撤退…。流石にここで残されて、騎士団対オレは辛すぎる。撤退しなければいけない。
どうしようもなく、オレはフレンから一定の距離を保ち撤退した。
ギルドの連中は船に乗りカプワ・トリムまで撤退していくようだ。
本当ならオレもあれに乗るべきなのかもしれない。けれど、オレは……カプワ・ノールへと残った。
前にラゴウが住んでいた家の付近へとこっそり姿を隠す。
夜になったのはちょうど良かった。
夜の闇はオレの姿を隠してくれる。
闇に紛れてカプワ・ノールを抜け、エフミドの丘へ。
あそこなら、隠れられる場所は沢山ある。
それに、何でだろう…。あいつがいる気がする。
あの海が見える丘に。
オレは何かに誘われるように海の見える丘へ走った。
辿り着いてみると、そこには夜の月のように光を受けて輝く見慣れた金の髪を持った青年が海をただ眺めていた。
「フレン…」
「やっぱり、ここに来ると思ったよ。ユーリ」
「オレもだ」
遠い海を見渡せる場所にフレンが立っている。
オレはその横に立ち、ただ海を見つめていた。
「一体、何がどうなっているのか…。さっぱり分からねぇ」
「…何かが後ろで動いている。それだけは確かだけれど」
「…だな。…だが、何故かオレ達だけが何も知らない気がしねぇか?」
「うん。何もかも後手に回っている。それに…」
「もしかして、あの天然陛下に何かあったのか?」
「と聞くと言うことは、そっちもハリーに何かあったんだね?」
「…あぁ。一旦状況を整理しようぜ。お前の情報をオレに寄こせ」
「あぁ。君の情報を僕も知りたい」
フレンとオレは今知っている事を整理しながら情報交換をした。
まとめると、一つは『ギルドと騎士団が完全に分裂しようとしている事』。もう一つは、『組織二つのトップ、ハリーとヨーデルの態度が一変した事』。そして、更にもう一つは…。
『オレとフレンに全く情報が入ってきていないこと』
「自慢じゃないけれど、僕は騎士団のトップに入って大抵の情報は得ることが出来る。だが」
「それは、お前だけじゃねぇ。オレだってギルドにいる限り情報は流れてくる。でも、全く入って来なかった」
「…考えられる事は一つだけど、それを信じたくない僕もいる」
「オレだってそうだ。だから、もう一度会いに行ってくる。それで、駄目なら…」
「ユーリ?」
「…これがオレの選んだ道だ」
あの時、ヘリオードで新聞を読んだオレは、急ぎダングレストへ引き返しそして、会ったハリーはハリーそのものだった。
だが、言っていることだけが全く違ったのだ。おかしいとは思う。だがハリーが何ものかに操られていたとしてもそうでないにしても、もう一度話をする必要がある。本心を見る必要が…。
それに、もしもハリーが自分の私欲の為だけに言っているのだとしたら、オレは間違いなくこの刃を下すだろう。
「ユーリ…」
「うわっ!?お、おいっ」
フレンの手がオレを引き寄せ、腕の中へと仕舞い込んだ。
何も言葉を発しない。ただオレを抱き締める。
互いの心音だけがオレとフレンの間に聞こえていた。
…これからどうなるかなんて分からない。
ただ、オレはフレンが作る帝国を見てきた。これからどんどん変わるであろう世界を見続けていたい。
フレンは光の道標になる。その道を皆が広げて歩けばいい。
フレンが光の道標になる為に、影が必要ならばお前の影にオレがなってやる。
だから…。
オレはそっと、フレンの胸に体を預け目を閉じた。



