Y side Y





船はオレ達が乗った瞬間に勢い良く発進し、今は海の真ん中を航海していた。
船に乗った時に気を失ったオレが目を覚ましたのは、船室のベットの上だった。
ある意味見慣れた天井がオレの視界に入る。

「…っ」

体を起こした瞬間、背中から体中に痛みが駆け抜ける。
そう言えば、背中を矢で射られたんだっけ?
つい漏れた呻きが聞こえたのか、椅子に座って地図を見ていたフレンがオレに気づき慌てて歩み寄った。

「大丈夫かい?ユーリ」
「あぁ。大丈夫だ」
「まだ、顔色が悪い。もう少し寝ていたほうがいい」

そう言ってオレを再びベットへと寝かせ、毛布をオレにかけた。

「そ、そんなことより、どうしてお前がここに…?」

フレンが一瞬の沈黙のあと、覚悟を決めたかのようにオレを見ると、信じられない事をはっきりと口にした。

「ヨーデル様を…殺した」
「なっ!?」

体の痛みなんてどうでもいい。
ばっと跳ね起きる。
それより、フレンがっ!?何でっ!?

「ユーリ…。僕は君に何時もこんな思いをさせていたんだね」
「フレン…」
「人を…命を斬る感触がこんなだったなんて…」

フレンの手が震えている…。
オレは堪らず、その手を両手で包みこんだ。

「馬鹿がっ…。何でお前が…っ」

ヨーデルも同じように呪いをかけられていたのは薄々気付いていた。だから、オレはあのままザーフィアスへ向かおうと思っていた。
フレンがしなくてもオレが…。手を汚すのはオレだけでよかったのにっ。
なのに、フレンはただオレに向かって『ごめん』と謝り続けていた。

「ごめん、ユーリ。…いつも、いつも僕は君にこんな重荷を押し付けていたんだっ」
「んな事どうでもいいっ!!お前…お前…っ」
「どうでも良くなんてないっ。ガリスタを斬った時からずっと…、ごめん」
「謝るなっ!!これはオレが選んだ道なんだっ!」
「…うん。だから、これは僕の選んだ道だ。…ユーリ、君と同じだ」
「何言ってっ」
「…僕はもう、帝国騎士団の団長じゃない。それこそ、今や世界を敵に回す犯罪者だ」
「フレン…?」
「君と同じだよ。これで本当に、君と同じだ」

フレンがオレの手からそっと手を離し、そのままオレを優しく抱き締めた。
何時もと同じ温かさ。なのに…。

「何で…オレはお前だけは光を見続けていられるようにってっ…」
「…馬鹿だな…君が泣くことじゃないだろ?」

そう言って少し体を離しオレを見て苦笑った。
泣いている…?
無意識に手が顔に触れるとひやりと何か冷たいものが掌を流れていく。
―――『泣いている』
そう意識した瞬間にぶわりと視界が歪み涙は止まらなくなった。

「どうせ君の事だ。ハリーを斬った後にヨーデル様も斬るつもりだったんだろう?」

嗚咽が止まらなくただただ頷く。

「一人で世界の敵になって、勢力を一つに、世界を一つにしようとしていたんだろ?かつてデュークがとった方法とは違うけれど、彼と同じように世界を救おうとしていた」
「そう、だ……くっ……オレ、一人で、……」

オレ一人で充分だったのに…。
しかし、フレンは緩く首を振った。

「いいんだよ、ユーリ。…もう、一人でしなくてもいい。僕も一緒に行く。…君と一緒に」
「フレ、ン…」

世界がオレを敵に回して、騎士団とギルドが一つになってオレを倒してくれれば良かったんだ。
その筆頭にフレンがいて、フレンが新しい世界を作り上げたのを見届けれればそれで良かったのに。
そして、一人世界の恨みを買って死んでいく。それがオレに与えられた罰だと思っていたのに。
そう…思っていた筈なのに。『嬉しい』と思うなんて…。
フレンの言葉が何より嬉しくて、そうして喜んでいる自分が悔しくて…。
ただ泣きじゃくるしかない、そんなオレをフレンは愛おしそうに、幸せそうに抱き締めた。

「愛してる、ユーリ…。世界中を敵に回しても君を手放したくない位に」
「…すっげぇ、説得力、ある、セリフだな…」

泣いているせいで言葉が発しづらい中でもそう茶化すと、フレンは素直にうんと頷いた。
だから、オレも素直に言葉にすることにした。

「でも、……オレも、オレの全てを賭けても良い位お前の事を愛してる」

オレの言葉にフレンは一瞬その蒼青を丸くさせたと思うとふんわりと極上の微笑みをくれた。
そのまま、互いに引き寄せられるまま唇が触れた。

「……んっ……」

フレンを…オレだけの光をずっと見ていたかった。
それはフレンも同じだったらしく、フレンもずっとオレを見ている。
すっと唇が離れ、互いに見つめ合い、ふっと笑いをこぼすと今度こそ目を閉じ素直にフレンの唇を受け止めた。
ただの触れ合うだけのキス。先に進みたい。そう思った時フレンがオレの唇を舌で軽くつついてきた。
抵抗する必要はかけらもない。オレは待っていたフレンのその行為を受け入れるように口を薄く開き舌を自分のそれと絡めた。

欲するままに互いを求め続け、それは日付が変わり新たな日が登るまで終わることは無かった。