F side Z





明るい…。
うぅんと唸り光りが目に入らないように顔を背け目を開くと、光を反射する漆黒が目に入った。
いつみても綺麗なユーリもきっと眩しかったんだろう。
僕の腕を枕にして胸へと頬を擦り寄せる。
それが愛おしくて堪らない。
僕はユーリの体をだき寄せ、昨日散々泣かせてしまい赤くなった目尻へとキスをする。
幸せとはこういうことを言うんだろう。
目尻に、額に、頬に唇を寄せ、最後に唇へと軽く触れ合わせる。
…やばい。これ以上は止まれなくなる。
昨日あれだけしたのに、まだ足りないなんて…。
昨日のユーリは本当に可愛かった。
いや、今も勿論可愛いけれど。
でも泣いて、もう嫌だって言いながらも、僕を離さなかったあの…。
…だから、ダメだって…。
いい加減自重しろと自分を戒め、煩悩を振り払う為、意識をユーリから外す。
そう言えばあの明かりはどこから…?
ふと、光を辿ると何の事はない。
船室の窓から溢れる朝日の木漏れ日だった。

「…今、どの辺かな?」
「さぁな……そういや、これ誰が操縦してんだ?」
「え?」

零した独り言に返事が帰ってくるとは思わなくて気の抜けた返事を返してしまった。

「何だよ?」
「え?あ、いや。起きてるとは思わなくて」
「あんだけ人にキス降らせて置いてよく言うぜ」

成程。
あの時に起きたのか。
だったら…。

「おはよう。ユーリ」
「おう、はよ」

どちらからともなく、キスをする。
朝から流石に濃厚なのをするわけにもいかず、直ぐに離れユーリは改めて先程の質問を返した。

「んで?誰が操縦してんだ?」
「ユーリ、この船はフィエルティア号だよ?」
「あぁ、それは一目見て分かったけどよ」
「うん。だからさ。フィエルティア号の船長と言えば?」

―――バタンっ!!
「ウチなのじゃっ!!」
勢い良く開いた船室のドアにその場で仁王立ちする何時もの海賊帽。
金のお下げに首元から下がる双眼鏡。

「パ、ティ…?」
「そうだよ」

………。
暫くの間。
そして…。

「って、フレンっ!!」

ユーリは勢い良く上半身を起こした。
勿論僕もユーリも昨日ベットに雪崩込んだまま寝たから服など着ていない。
寧ろ床にばら蒔かれたままだ。
わたわたと焦っているユーリが可愛い。
口をパクパクさせて僕に何か訴えている。

「まぁ、言いたいことは分かるけれど、今更だよ。ユーリ」
「い、今更って何だっ!?」
「だって、昨日ずーっと聞き耳立ててたよね?パティ」
「のじゃ。イイものを聞かせて貰ったのじゃ」
「う、…ま、…?」
「うん。嘘じゃないし、マジだよ?」

ボンッ。
表すならそんな音だろうか。
一瞬にして真っ赤に染まったユーリの顔。
まるで、湯気でも出そうな位だ。

「んんー?ユーリが赤くなるなんて珍しい事もあるもんじゃのー」
「ははっ。ごめん、パティ。ユーリが憤死する前にちょっと外で待っててくれるかな?」
「分かったのじゃ」

最初の勢いと同じだけの勢いで外へとパティは出ていった。
さて、と。
自分も上半身を起こし、固まったままのユーリの頬へキスをする。

「生きてるかい?ユーリ」
「あ、」
「あ?」
「ありえねえええええっ!!」
「えっ?うわっ!?」

かけていたシーツを引っ張り中に潜り込む。
のは、いいんだけど、ユーリ。
それだと僕まで中に入ることになるんだけど。
横にいた僕も当然巻き込まれ二人でシーツにくるまる事になる。

「おま、知ってたなら言えよっ」
「それは、出来ないな。だって、君を抱けなくなるだろ」
「ち、因みにあいつ、何時から聞いてたんだ?」
「僕がヨーデル様を殺したって言った辺りからかな?」
「ほぼ最初からじゃねーかっ!!」
「…ユーリ、顔が真っ赤だよ」
「う、うるせぇっ!!」

余りのユーリの可愛さについつい笑ってしまう。
けど、ここがやっぱりユーリがユーリたる所以だろうか?
見られちまったもんは仕方ないと開き直り、シーツを剥ぎ取り、背中の傷は痛くないのかと問いたくなる位、さっさとベットから飛び降りて服を着始めた。
ユーリを追うように僕も服を着る。
どこか覚悟を決めたのだろう。いつもの表情に戻ったユーリと僕はそのまま甲板にでた。
ふわりと潮の風が僕らを包む。
そのままパティの居るであろう船頭へと向かった。
パティは僕達を確認すると、嬉しげに走り寄ってきた。

「お待たせ、パティ」
「そんなに待っとらんぞ?」
「ってか、フレン。さっき聞き逃したんだけど何で、パティが?」
「君とほぼ同じさ。ヨーデル様を刺した後、僕は騎士団を追われた。多分君も同じことをしているだろうと思ってダングレストへ向かったんだ。だけど、そのためには海を渡る必要があって」
「そこでたまたまカプワ・ノールへ停泊していたウチがフレンと会ったのじゃ」
「そっか」
「…事情は全部聞いたのじゃ。お前達は本当に馬鹿じゃの」

何時もと変わらない筈なのに突然大人びた言い方に少し驚く。
パティの事情はユーリに聞いていた。
だから、知ってはいたものの実感は無かったが、パティの目を見て今の言い回しを聞けば納得できる。

「じゃが、そんな馬鹿どもをウチも知っているし、嫌いじゃないのじゃ」
「パティ…」
「そうゆう馬鹿を助けるのも昔からウチの仕事じゃ。手伝うぞ。でも…手伝うのは移動だけじゃ」
「あぁ」
「ウチが危険な目に逢いたくないからじゃないぞ?お前達が出来ない事をウチがしなければならないからじゃ」
「分かってるよ。ありがとな。パティ」
「うむ」

パティは満足気に頷いた。
そして、ユーリは真剣な顔をして僕を見た。

「さて、これからどうする?」
「…騎士団とギルド。今、双方とも僕とユーリの反逆によって混乱している」
「だろうな」
「となると、戦争をしている暇は無いはずだが」
「どうせ、しばらくするとまた元に戻る」
「んじゃ。人間は常に争っているからの。例え今ユーリとフレンが各々の勢力に反旗を翻したとしても、ユーリとフレンが繋がっていたと言って裏を取り騎士団はギルドの所為、ギルドは騎士団の所為と相手に責任を押し付けるに決まってるのじゃ」
「だと思う。だから、今から僕とユーリでそれぞれの街で事件を起こす。最大の敵は僕とユーリであるように」
「騎士団、ギルド関係なく。帝国、ユニオン関係なく争いに汲みするもの全てを倒すんだな?」
「あぁ。街を一つずつ民間人には手を出さずに全てを」
「そこで、ようやく一つの勢力が出来上がるようにするのじゃな?騎士団もギルドも関係なく。帝国とユニオンも関係なく。一つの『世界』を作るんじゃな?」

僕とユーリはパティを見た。
パティにだけは今の僕たちの決意を見届けて欲しかったから。

「…本来、組織ってのはそんなに力を持ったら駄目なんだ。僕は騎士団にいてそれを痛感した」
「オレもだ。重要なのはこの世界で生きる生き物全てがこの世界で生きているっていう自覚をする必要がある」
「何かに助けを求めてもいい。けれど、それに縋っちゃいけないんだ。そして、縋られてもいけない」
「…新しい世界を作る。フレン」
「うん。ユーリ。僕たちが約束した未来をこの手で作ろう」

僕はユーリは見つめ合い、約束の証として互いの拳を合わせた。
その時、パティが泣きそうな顔をしていたのを僕とユーリは敢えて気づかないふりをした。