Y side \
フィエルティア号に乗り、フレンと二人街を巡り始めて、一週間が経った。
……のは、別にいいんだけど…。
何で、オレ達はこんな恰好してるんだ…。
ありえねぇ…。
なぁんでオレがこんな…こんな…。
「女装しなきゃならねぇんだっ!!」
「ユーリ、往生際が悪いよ」
「悪くて悪いかっ!?何でお前が普通に男の一般市民的な恰好でオレがピンクのフリルたっぷりの、しかもどデカイリボンを背中に付けたフリフリドレス着なきゃならねぇんだっ!?」
「それは、ユーリの綺麗な黒髪と抜群のスタイルの良さの所為かな?」
けろりと言い放ちやがる。
それを言ったらお前の金髪だって十分目立つだろっ!!と怒鳴りつける前にフレンはあっさりと、
「さて、と。僕も髪を染めようかな…」
そう…。その一言で先手を打ちやがった。
大体考えれば分かるだろ。どう考えてもこっちのが普段より目立つって事がっ!!
こんな恰好で港街を歩く奴がいるかっ!?
どこのお貴族様だっ!?
フレンを睨みつけ視線だけで文句を送り続けるが、一切無視。
それ所か、何色がいいかな?なんて、パティが選んで買って来た染料を並べて首を捻っている。
全く、相変わらず良い根性してやがる…。
「あ、そうだ。ユーリとお揃いで黒にしようか…」
「っ、それは駄目だっ!」
しまったと思う。つい反射的に答えて後悔した。
嬉しげに選んでいたフレンの目がオレの声に見開かれた。
けど、どうしてもそれだけは譲れなかった。
黒は駄目だ。
だって、こいつには…フレンには似合わない。
他の誰が似合っていても、フレンだけは黒に…闇色に触れて欲しくない。
「ユーリ?」
「…お前に黒は似合わねぇよ。お前には…」
オレの表情で何かを読み取ったんだろう。フレンは優しい笑みを浮かべていた。
そんな気を遣わせてる事が居た堪れなくて、フレンの傍に転がっていた染料の瓶をガラガラと漁る。
そして、中から一つを選びとるとニヤリと笑みを浮かばせフレンに手渡した。
「これが似合ってるぜ」
「これって……ピンク……?」
「オレにこんだけピンク着せてんだ。お前だけ逃げるなんて許さねぇぜ?」
「…全く、君は…。分かった。これにするよ」
「へ?」
てっきり断る事を前提に言ったのにフレンはあっさり頷いて、瓶を開け髪へとその染料を垂らす。
すると、フレンの見事な金髪は天辺から徐々にピンクへと染められていく。
何か…嫌だな。フレンの金髪が隠れて行くの……。
しっかし、これまた見事なショッキングピンク。
エステルと言うよりは、ザギの髪色に近い…。
「んー……染め残しは……大丈夫みたいだね」
鏡を見ながらフレンが自分の髪を確かめる。
染料は液体と言うよりは、気体に近く髪に染み込んで直ぐに乾いてしまうようだ。
ちょっと気になってフレンの髪に触れてみるが、指に染料が付いたりはしなかった。むしろ、凄くサラサラで触り心地がいい。
……オレも染めてみようかな…?
ふと、足元にある染料の瓶を手にとって見ていると、駄目だよとフレンにあっさり没収されてしまった。
「何で?」
「僕のユーリの髪を汚そうなんて例えユーリでも許さないから」
「……………お前、馬鹿?」
「馬鹿でも何でもいいけど、髪染めるのは駄目」
何とも言えない脱力感が襲う。
でも、そんなに嫌でも無いってのがまた何とも言い難い。
「さ、買い出しに行こうよ。パティの分も込みでね」
「だな。何か美味いもん作ってやろうぜ」
そう言ってオレとフレンは、床に散らばっていた荷物を片づけ、船を降りた。
ここは調度ノードポリカの直ぐ近く。
ぶっちゃけた話、つい最近、オルニオン、マンタイクと新生ヨームゲンの武力を殺いで来たばかりで、変装もせず歩いて街に入るなど自殺行為もいいとこだ。
………そう。オレ達は街の武力を正しくは騎士団と戦闘ギルドを次から次へと潰して回っていた。
騎士団の支部もギルドの溜まり場も、全てだ。
…そもそも、魔物が大人しくなった世の中。何で、武器を持つ必要がある?
確かに食糧を手に入れる為とか、理由はあるかもしれない。
なら、何でその武器を更に強くする必要があるんだ?
結局、人は何かと争う為に作っているとしか思えない。
その何かとは所詮『人』なんだ。ならば、争えない程『力』を削げばいい。
そして、力を削がれた時、気づいて欲しい。その程度の武力でも今は生きて行ける事を。互いが互いの力を補って行く事が出来るって事を…。
オレ達が守りたいと思った大事な『凛々の明星(仲間)』が生きている『世界』がそれに気付いてくれるなら…オレ達は世界の敵にでもなってみせる。
……それに、オレは一人じゃないしな。
ゆっくりと横を歩くフレンを見つめる。
すると、その視線に気付いたフレンがオレを見て柔らかく微笑んだ。
「?、どうかしたの?ユーリ」
「いや…。オレは幸せもんだなぁって思ってな」
「いきなり、どうしたの?」
ちょっと驚きながらも、嬉しそうに聞き返してくるフレンが、当然のように答えてくれるフレンが側にいてくれる事が嬉しくてオレは静かに隣を歩くフレンの手をそっと握った。
「…お前が当然のように隣にいてくれる。オレはそれが何よりも幸せなんだ」
「ユーリ…」
「だから、世界中を敵に回そうとも、仲間を騙す事になろうとも、オレは幸せだって断言出来る」
「……うん。僕もだ。どうしてかな。これも最後には騎士団の…帝国の為なのに、それ以上に君と同じ道を並んで進めている事が何より幸福なんだ」
「フレン……」
オレ達は見つめ合い笑い合った。
これからの道は多分、今想像している以上に辛い道だろう。
だけど、フレンとならやれる。
騎士団にいた頃は想像もしなかったけど……、でも。
この生き方を選んだオレに後悔はない。
オレ達は小さな幸せを互いに噛み締めていた。



