君とお前と歩む為に。10
甲板に出ると、レイヴンがカロルの金槌の餌食になっていた。
相変わらずカロルは体に合わない武器を抱えているなー、なんてどうでもいい事を考えていると、グラリと船が揺れた。
確実にバウルが動揺しているのがわかる。
それも、そのはず。
カロルの懇親の一撃が間髪おかず繰り広げられているのだから。
「全部っ、全部っ、レイヴンが悪いんだぁーっ!!」
「ちょ、少年っ!!落ち着いてっ!!」
ドガンッ、ドガンッ。
カロルの攻撃で船全体が揺れる。
レイヴンがチョロチョロと逃げ回る所為で船の揺れが止まらない。
「おーい、カロルー。その位にしないとバウルが落ちるぞー?」
「あら?この程度でバウルは落ちないわ。船は落ちるかもしれないけれど」
「それは、まずいのでは?」
隣にいたフレンが突っ込みをいれた。
その逆隣で二人を微笑ましげに見ているジュディスが少し怖いのは、やっぱり罪悪感がある証拠だろうか?
「あっ、ユーリっ!!」
カロルが俺に気付き、レイヴンそっちのけで走り寄ってきた。
「どうしたよ、カロル。おっさんが瀕死だぞ?」
「だって、レイヴンが『フレンに渡すはずだったユーリからの手紙』を失くしたって言うんだよっ!?」
失くした?
って事は、フレンは手紙を読んでいないんじゃなく…手紙を貰ってない?
…おっさん…?
大の字になってぶっ倒れて呼吸を整えているレイヴンに歩み寄り見下ろした。
「ふーん…ちょっと話を聞こうか、おっさん…?」
「せ、青年っ?おめめが仕事人モードよぉ?」
「ん?そうか?おっさんの気の所為だろ…?」
ジリジリと歩み寄る。
レイヴンが慌てて立ち上がると、近くに立っていたパティを盾に隠れてしまった。
「子供を盾にすんなっての」
「だったら、その握り拳を収めてくれたりしてくんない?」
「それは、話が別だな」
指をパキパキとならし、睨みつける。
そんな俺の肩に静止の手がかかった。
「フレン?」
「ねぇ、ユーリ?手紙ってなんの話?」
「あん?だから、お前にだけは俺が生きてるって事を伝えようと手紙を書いて出したんだよ」
「え?」
「それで俺からのだって証拠に俺の魔導器と一緒に箱に入れて」
「え?え?じゃあ…」
「おっさんがそれを失くしたんだとよっ」
きょとんとしたかと思うと、昔よく見たフレンの懐かしい憤怒顔が表れた。
相変わらずコイツの表情は分かりやすい。
…ってあれ?ちょっと、待てよ?
あの手紙を失くしたって事は…あれを誰かが拾う…可能性が…?
しかも中身を見られる可能性もあ、る…?
「ユーリ?顔がタコになって、イルカになったのじゃ?」
パティの言葉が耳に全く入らなかった。
おっさんの壁(?)になっていたパティをレイブンに問い質そうとしているフレンに投げ渡すと、おっさんの襟首を掴みガシガシと揺さぶった。
「やべぇって、おっさんっ!!マジであれ何処に落としたんだよっ!!あれ、誰かに見られたら俺マジで死ぬ、本気で死ねるっ!!」
「ちょ、ユーリちゃ、ぐるじぃ…」
「何処で落としたっ!?さっさと言えっ!!おい、おっさんっ!!」
「ユーリ、レイヴンさんが死んじゃうよ」
俺の方が暴れていたからか、冷静になったフレンが静止の声をかけてくるが、正直それ所じゃない。
「でも、確かにその手紙を敵が見たらやばいかも知れないね」
「敵じゃなくてもやばいってのっ!!あれは『恋人(フレン)』に書いた手紙なんだぞっ!?」
「え?あ、うん?」
「だからっ、俺が珍しく素直な気持ちをっ…って…」
フレンが喜びと驚きが入り混じったような複雑な表情をした。
―――しまった…。
「ユーリ?」
「あっ…あー…なんでもねぇ。フレン、お前は今のセリフを忘れろ」
バッと手を放すとレイヴンがそのまま大の字にぶっ倒れ、必死に酸素を吸っている。
「んで、おっさん。何処で失くした?」
「…多分、城に向かう時に襲われた盗賊だと思うのよねー?」
「盗賊?おっさん、そんなのに後れをとったのかよ?」
「レイヴンさん程の実力者が?」
フレンと二人疑問投げかけると、レイヴンは『買い被り過ぎだ』と言いながらも真面目な顔をして俺達に答えた。
「ただの盗賊だったら別に負けはしないわよ。ただ、あれは…」
「…?何かしたのか?」
「あいつらはきっと、『海凶の爪』だわね」
「『海凶の爪』っ!?ですが、彼らのボスはっ」
「イエガーだった。だけど、ボスが消えても性質は変わらねぇ、そうゆう事か?レイヴン」
神妙に頷くレイヴンに、俺は瞳を閉じた。
あくどい組織はあくどい組織のまま残る物なんだな。
何か妙に納得してしまい、変わらない世の中に嫌気が差す。
「ユーリ?」
不安げに顔を覗いてくるフレンを筆頭に、皆が心配そうに俺を見つめていた。
なんでこんな顔するんだ?と見返すと、フレンの呆れたような声が返ってきた。
「君が心配を誘うような顔をしているからだよ」
「はぁ?」
「顔。ユーリが自分を追い詰めるような事じゃないだろ?だから、そんなこっちが辛くなるような顔をしないで」
そんな顔してたか?
横にいたフレンの顔を見ると苦笑いしていた。
なんだよ。
なんでそんな顔してるんだ?
まるで、『相変わらず馬鹿だ』って言われてるようでムカつく。
知らずムッとしていると、フレンは俺のそんな態度を見て幸せそうに笑った。
…なんか、毒気が抜かれてしまった…。
「見詰め合ってる所悪いのだけれど、ちょっといいかしら?」
「ばっ、見詰め合ってなんかいねぇっ!!」
「あれ?僕はユーリの瞳をずっと見てたから、見詰め合ってるってのも間違いじゃないと思うけど?」
「お前も余計な事言うなっ!!…んで、何だよ。ジュディ」
とにかくジュディのからかいから逃れたい一心で話を促した。
「ちゃんと知りたいのよ。貴方が何をしていたのか」
「あぁ。うん。アタシも知りたいわ。だってこの前中途半端に終わっちゃったから」
リタが言った所で皆が集まってきた。
そして、旅をしていた頃と同じように甲板に円になって座り俺の知っている情報を皆に伝えた。



