君とお前と歩む為に。9
船室の中にあるベッドにフレンを寝かせ、ベッドを背にして床に座った。
いつものように自分の愛刀を抱き込む。
さっきまで、エステルとカロルに事の経緯を説明していた。
そして、がっつり怒られた。
まぁ、今思えば他の方法があったのかもしれないが…。
「…だけど、一応立派な作戦のつもりだったんだぜ?」
お前が…フレンが手紙さえ読んでいれば、こんな事態にはならなかったんだ。
「分かってんのかよ…」
ため息混じりに誰にも聞こえないように眠っているフレンに背を向けたまま呟く。
すると「…分からないよ」と返事が返ってきて、思わずビクリと体が動いた。
「君がどうゆうつもりだったのか…。全然分からない」
どうゆう顔をしているのか、想像できなくて振り向くことが出来ない。
そんな俺の後ろでベッドが軋む音がした。
多分起き上がったんだろう、フレンの腕が俺を包むように抱き締める。
「本当に…本当に、ユーリ…なんだね?」
「…あぁ」
「…幻じゃ、ないよね?」
「幻って、お前なぁ…」
ゆっくりと振り向くと、今にも泣き出しそうなフレンの顔があった。
「何だよ、その顔は…」
泣きたいけど、泣けない。
我慢をしてしまうフレンの泣き顔そのままだった。
昔から変わらない。
「仕方ないだろっ…君がっ、君が悪いんだっ…」
「…そうだな。俺が悪かった」
俺を離すまいとした腕にそっと手を重ね、フレンに素直に謝罪する。
「ユーリ」
「なんだよ」
「ユーリ…」
「だから、何だよ」
存在を確かめるように、ただ名を呼ぶフレンに俺は全てに応える。
フレンが俺の事を、俺の存在を信じる事に必要なら、何回でも応えてやる。
あのフレンを見たら、そう思えた。
こいつにとって俺がどれだけ必要として貰えているか。
それが『ユーリ』という俺の名そのものに、込められている気がして…。
「…ユーリっ」
肩にフレンの顔が沈んだ。
震えている…?
「怖かった、よ。…本当に、君を失ったと思った…」
腕に力がこもった。
フレンをここまで追い詰めたのは『俺』なんだな。
ってそう考えると『罪悪感』と共に少し『優越感』が混じって複雑だ。
「…俺はここにいるだろ?お前とちゃんと触れ合ってるだろ?…違うか?」
自分が思っていた事が伝わるように、フレンに届くように…。
俺の言葉に何度も何度も頷く。
そのフレンの瞳は揺らぎ潤んでいた。
「泣くなよ、フレン」
「…泣かせた君が言うのかい?」
からかう様に言うと、いつものように拗ねるような返事が返ってきた。
声が少し笑っている。
ようやく、少し気持ちが浮上したな。フレン。
なら、もっと上昇させてやろうかな。
愛刀を離しフレンの腕の中で態勢をかえて向い合うと、顔を両手で包み込み溢れ出す涙を親指で拭った。
「フレン、お前は前に俺に言ったな?『お前』は『俺のもの』だって」
「…うん」
「だったら、『俺』も『お前のもの』だ。そうだろ?だって俺とお前は、その…恋人なんだろ?」
「ユーリ…」
「だから、お前に黙って死んだりなんかしねぇよ」
「ユー、リ…」
フレンの涙に濡れた目が俺を捕らえて離さない。
ようやく見慣れた何時ものフレンの瞳に戻った。
この碧い瞳が、俺にはお気に入りだった。
俺の紫の闇色の瞳なんかより、青空のような澄んだ碧眼が…。
その瞳が自分の顔を映す位近づき、唇が触れ合う、と思った瞬間。
「入るわよっ!!」
シンミリした空気をぶち破るように扉が開いた。
………。
どうしたらいいものか…。
親友同士で抱き合って、キスする寸前を見られ…。
…思考が停止した。
どうやら、それはフレンも同じだったようで二人して突然入ってきたリタを呆然と見つめた。
「アンタ達、なにしてんの?」
何してんのって、どう答えろと…?
素直にキスする所と言えば、ってちょっと待てよ、俺。
とりあえず、落ち着け、俺。
固まってしまった俺のかわりにフレンが笑って口を開いた。
「僕の涙を拭いてくれていたんだよ」
って、ちょっと待てっ!!
フレン、それちっともフォローになってねぇっ!!
むしろそっちのが恥ずかしいぞっ!!
顔が熱い。
多分俺の顔は、今赤いだろう。
確実に。
なんかこうなると、この態勢も物凄く恥ずかしく感じてフレンの頭をポカッと叩いて立ち上がった。
「んで、何の用だ?リタ」
「フレンが起きたなら調度いいわ。ユーリ、フレンに手紙出したって言ってたわよね?」
「あ?あぁ。出したな。おっさんに頼んで」
「ユーリ?それは一体何の話」
「とにかく、甲板で話すわ。皆もそこにいるし」
なんで、微妙に怒ってるんだ?
いや、確かに俺がこの状況を作ったんだから怒られても仕方ないんだが…。
フレンと顔を見合わせ、首を捻った。



