君とお前と歩む為に。13
ダングレストに戻り、フレンを筆頭にエステル、リタ、おっさんが外にいる騎士団に向かい、残りの俺、カロル、パティ、ジュディの四人がユニオンに向かった。
ユニオンの入口にはラピードが待ってましたと言わん張りに座って待機していた。
「よっ、ラピード。中の様子はどうだ?」
「わぉん…」
「…芳しくなさそうだな」
「わんわんわんっ!!」
「あー、置いてったのは態とじゃねぇって」
ラピードも大分心配していてくれたらしい。
とにかく、ユニオン本部の中にラピードも共に入ると色んな話し声が飛び交っていた。
会話を聞いているとどうにも二派に割れているようだ。
騎士団と『全面戦争派』と『平和的解決派』の二つ。
この様子だと多分騎士団の方も一緒だろう。だが、騎士団の方は何だかんだでフレンが騎士団長になってから、団結力が妙にあるから大丈夫とは思うが…。
「…いい加減にしておけ」
ギルドの話し合いに、ハリーの声が響いた。
「元はと言えば、これはちゃんとギルドを管理出来なかった俺たちが悪い」
「ハリーっ!!そうは言うがっ!!あいつらは、騎士団は俺たちの街を潰そうとしたんだぞっ!!」
「そうだっ!!やっぱりあの団長も前の団長と同じだっ!!」
「……それは、ちょっと聞き捨てならねぇな」
元はと言えば、俺があんな情報を流したりしたから起きた事だ。それをフレンの責任にするつもりは無い。
「のじゃ。そんなに簡単に決断を下してしまうのは如何なものかの?」
「そうだよっ。ハリーも言ってたけど、ギルドの状況をちゃんと分かっていなかった僕らも悪いよ」
「とにかく、今は騎士団との戦いよりも協力し合って現況を叩くのがいいと思うのだけれど?」
前にも確かこんな事があったな。ギルドの頭達がぐうの音もでず黙り込んでしまった。
「これは『騎士団』と『ギルド』の問題だ。ならば、一緒に叩いてみるべきだと俺は思う。だから、これに加担していた『人物』を捕らえる」
ハリーの言葉に皆が驚いている。各言う俺も驚いた。まさかハリーがそう言う言い方をするとは思わなかったのだ。ようするに、『騎士団』の奴であろうとも、『ギルド』の奴だろうとも、今回の事件に加担していた人を捕らえると言っているのだ。
「だが、これに関しては一斉に動いて感づかれても困る。だから、カロル」
「えっ!?僕っ!?」
「君達『凛々の明星』が代表で行ってくれ」
「ハリー…、うんっ。分かったよっ」
「他のギルドはカロル達の支援、街の警護だ」
…言うようになったな…ハリー…。
若干父親のような気分になるのは何故だろう…?
多分皆そう思ってるんだろう。うんうん頷いている。
ハリーの命が発せられたなら後は作戦実行するだけ。
俺たちは未だあるであろう、『海凶の爪』の跡地へ向かった。何故なら、そこに人が出入りしているとの情報があったからだ。この場所は全て以前来た時と何も変わらない。それが、おかしい。
「…イエガーはいないのに、何で人の気配がするんだろうなぁ…」
「本当。不思議ねぇ」
「そんな、のんびり離す内容なのかい?ユーリ、ジュディス」
「焦ったって仕方ねぇだろ。…ちゃんと片ついたか?フレン」
気付けば横に立っているフレンに声をかけると、苦笑いしながら頷いた。
「おっさんが謝ろうとしてるフレンを押し退けて、演技だったって事にしちゃったのよ」
「えぇー、やっぱりおっさんの所為なのー?」
「でも、レイヴンとソディアのお陰で早くこちらに来れました」
後ろから三人の声がする。これで全員合流したな。
「で?どうなった?」
「皆騎士団長(フレン)を信じていますから。大丈夫ですよ」
「そうか…。なら、行くぞっ!」
俺たちは、武器を構え『海凶の爪』のアジトヘ突入した。
一階、二階はドンが生きていた頃行きつくしていたから、今そこには誰もいないことを知っている。だが、そこに『地下』がある事を俺たちは見逃していた。『時計の裏』それが、鍵らしい。言われた時計は直ぐにわかった。あの大きさ。確かに隠し通路があってもおかしくない。レイヴンが言うには構造上にもここにあるのが自然らしい。時計を寄せると明らかに色の違う壁が出てきた。
「ビンゴっ」
「だね」
壁を押すと、石壁がカチリと音を立て動き階段が現れた。ユーリを先頭に暗い階段を降りていくと小さな明かりが見えた。ゆっくりと気配を消して近づくと小さな話し声がする。
『……いつまでここに………』
『誰か…助けてくれ……』
ドアを勢い良くあけると、中には縛られて倒れている二人がいた。ギルドの人でも騎士団員でもない。これは、一般人か…?
「大丈夫っ!?」
カロルがロープを外そうと走り寄るが、体に手が触れる瞬間何か嫌な気配がした。
「カロルっ。駄目だっ!!」
咄嗟にカロルを引っ張り自分の背に回し庇う。
―――油断した。こいつ等は一般人なんかじゃない。一般人が長い爪を持ち、助けに来た人間に突きつけるわけがないのだ。俺の腕に嫌な感触が触れる。だが、それも一瞬でただの軽い擦り傷のようだ。心配するカロルに笑って答えた。
「ユーリっ!!」
「…大丈夫だ。かすっただけだ」
「へっ。ちょっとずれたか?」
「何かあった時の為に、罠をはる。当然の事だろう?」
ロープは払うように落とし、改めて俺たちにむかい武器を構える。何時ものマスクと眼鏡をつけて…。
「自分から罠って言うあたり脳が足りてない証拠よね」
「だわね〜。本命は外にあるって言っているようなものだ」
その台詞を言うと同時に、リタの術とレイヴンの矢が目の前の敵に降り注ぐ。これを避けれる筈も無く、そこにいた二人は意識を失い倒れた。
「さ、外に行きましょ。多分一杯いるわよ」
「のじゃっ!!」
頷いて外へ向かう。…だが。一瞬目の前がくらむ…。何で…?
気のせいだと思い込み、降りてきた階段を駆け上る。先頭を上がったジュディスの戦っている声が聞こえる。俺も戦おうと思ったその時。建物が大きく揺れた。
「んなっ!?」
まだ、階段の途中にいた俺は態勢を崩し、しゃがみ込んでしまった。
「ユーリっ、上っ!!」
リタの叫びにバッと反射的に頭上を見ると、天井が崩れ始めている。
―――やばいっ。
咄嗟に立ち上がろうとするが、何故か足に力が入らない…。
「ユーリっ!!急いでっ!!」
先に行った皆は階段を駆け上って既に一階に辿り着いている。そこから出口は直ぐだ。…皆助かる…だったら。
「先に行けっ!!俺もすぐ行くからっ!!」
力が徐々に抜けている体から無理矢理声を張り上げる。一瞬、振り向いたフレンと目が合った。何か言いたそうな目だな…。俺の体の状況に気付いたのかもしれない。
「……皆行こう。ユーリが大丈夫って言ってるんだから大丈夫だ」
フレンが踵を返し、外へ走っていく。後ろ髪惹かれるように、皆が俺に向かって『約束』と言って後を追っていった。
「約束…ね。この体じゃ、無理だな…。ごめんな…フレン」
いっつも最後に面倒な事を頼んじまう…。
「隊長も…こんな気持ちだったのか…?」
俺達を生かす為に、死んでいった隊長を思い出し、自分の腕を見た。だが、いつもつけている筈の魔導器がない。そういえば、フレンに渡したまんまだ…。でも、正解だったかもしれない。あれは、隊長のものだから、騎士団を立て直すフレンが持っていた方が…。何でこんなにフレンの事ばかり考えているんだろう…。頭上から天井が壊れる音がする。体から力が抜け落ち、目が閉じる瞬間……金に輝く『光』が見えた気がした。



