君とお前と歩む為に。14
全員、『海凶の爪』のアジトから脱出した。誰も怪我もしていない。首謀者と思われし人物はジュディスとレイヴンさんが捕まえた。
だったら、いいかな?もう、『騎士団長』としての役割は果たしたよね?
―――僕は、ただの『フレン』として『ユーリ』の元に行きたい。
衝動のまま、今にも崩れそうな屋敷へ向かい走る。
「フレンっ!!」
エステリーゼ様の声が聞こえ、ふと足を止める。だけど…。
「僕は、…ユーリと一緒にいたいんです。彼がいないと、僕が僕でいる事が出来なくなるからっ」
「フレンっ!!」
今度こそ呼びかけに答えず、ユーリの側へ…。
屋敷の中へと飛び込んだ。階段はまだ崩れていない。急いで近づく。でも、ユーリがいないっ。さっきは確かに階段を一緒に上がって…。
焦るように階段を駆け下りる。しばらく降りた先にユーリがいた。ずり落ちてしまったんだと格好で直ぐに気付いた。
「ユーリっ!!」
叫び、駆け寄ってもユーリの反応は無い。やっぱり、あの時の攻撃で…。さっきのあの目は…。
「本当に君は嘘つきだね…。もう、君の嘘には騙されないから…」
倒れたユーリを抱き起こし、腕を肩に回し、腰に腕を回し、支えるように階段を上る。
「どうして、体が麻痺した、って言わない…?どうして、助けてって、言わない?……どうしてっ、僕を頼ってくれないっ!?」
つい声を荒げてしまう。…でも、心の底から思う。僕が声を荒げたからなのか、ユーリの体がビクリと動きギュッと掴んだ腕に力が入る。
「……お前は……俺、の光……だから……。だから…一緒にいたくても、いられない……なんで、俺なんかを………」
「ユーリ…」
うわ言のように、小さく呟き続けている…。これが、ユーリの本音なら…。
「君が、いるからだ。僕が君にとって光なら、君は影だ。光がなくては影は出来ない。影がなくては光の存在はない。君がいなければ、僕がいる意味が無い」
「…フレン……」
「愛しているよ。ユーリ。誰でもない。下町で一緒に育った『幼馴染』で、騎士団で一緒に戦って父の敵をとってくれた『最高の親友』で、一生共にあり続けたいと願う『最愛の人』はユーリ。君だけだ」
だから、君と一緒にいるよ…。
例え側にいられなくても、君が生きている限り僕は君を近くに感じられる。
……明かりが見える…。
階段の終わりに近づいてきたのだ。大丈夫…。助かる…。
そう思った―――その時。
天井が崩落を始めた。
ガラガラと音を立て、出口を塞いでいく。
しまったと思っても、もう遅かった。
だが、諦めるわけにはいかない。僕はユーリを今度こそ助けるのだから…。
しかし、天井は一気に落ちてくる。
ユーリの頭を抱き締めるように、胸に庇う。
体に瓦礫があたる。けれど…今、何故か落ち着いていた…。ユーリが側にいるからだろうか…?
現金な自分に笑えてくる。そして、一つの事実に気付いた。
確かに瓦礫があたっているが、こんなに小さい訳が無い。
―――――何故?
冷静になってみると分かる。自分が光っている事に…。
いや、正しくは僕の胸にいれた、ユーリの魔導器が光っているのだ。
「これは…なんで…?」
胸ポケットから魔導器を取り出し、手に乗せると更に光を発し、僕らの周りを包んでくれている。
魔導器の光が結界の様に瓦礫を弾き飛ばして行く。
館が完全に崩れたのか、上から落ちてくるものは無くなった。だが、どちらにしろ階段は塞がれ、結界の上には瓦礫が乗っている。この結界が解けると生き埋めになるのは変わらない。
『ったく、何時までも手のかかるガキ共だ。俺とおんなじ死に方したら承知しねぇぞっ、フレン、ユーリっ!』
…懐かしい声がした気がした…。
魔導器の光が収縮したかと思うと発散され、小さな爆発を起こし瓦礫の全てを吹き飛ばした。
『お前らは…お前等の道を全うしろ』
「ナイレン、隊長……。ありがとう、ございます…」
光が消えると、視界が開けてくる。
ユーリを支えたまま、階段を上りきり、地上に出ると皆が僕たちに向かい走ってきてくれた。
「ユーリ…。隊長も皆も君に生きる事を望んでいるよ」
勿論、僕が一番望んでいる…。だから…。
「一緒に生きよう。ユーリ…」
ユーリにだけ届くように…呟いた。



